第58話後半 おじさんは全てはなおせない
57話名前を『おじさんは全てはなおせない』を変更しました。第53話に似てます。
「おい、プルメリア。コイツを連れていくぞ」
「この子って、白銀の……【白の庭】の子?」
「かもしれん」
「いいの?」
ルナリエルは、フィアと呼ばれた白髪の女騎士とプルメリアと呼ばれた金髪のエルフのやりとりをじっと見つめていた。
「こんな所で見捨てるなんて詰まらんだろう。そんなことをしたらあの男に死ぬまで人参を喰わされそうだ」
「あー……そうね。分かったわ。ねえ、貴女。私達と一緒に」
「で、でも……」
「あー、つまらん! この時間がつまらん! もういい! 行くぞ!」
そう言うと白髪のフィアはルナリエルを抱えて走り出した。
子ども一人を抱えながら、木を切り倒して、風のように駆けるフィアにルナリエルは目を丸くする。
(このひと、すごいひと……)
そして、あっという間にフィアの目的地にたどり着いた。
「フィ、フィア……今の、状況はっ……!?」
プルメリアがフィアから少し遅れて追いつきその先を見ると、壁に囲まれたそこは白銀の化け物に襲われていた。
「王都が……! そんな!」
身体を震わすプルメリアを見てルナリエルは大量の汗を噴き出す。
あれが何かは分からない。だけど、自分たちのいえから来たものに違いなかった。
それが、プルメリアの顔を真っ青にしてしまっている。
何と言えばいいのか悩むルナリエルをフィアは下ろし、そして、真っ直ぐに王都の方を見た。
「つまらん……王都は、弟が必死に守っている場所だぞっ……! それを……つまらんことをっ! つまらんことをするなあああああああ!」
フィアはそう叫ぶと身体中から魔力を噴き出し駆け出した。
「あのばか! 行くわよ! つかまって!」
そう言ってプルメリアはルナリエルの手を掴み、跳び上がる。
その身体を風が包み込み王都の方へと運んでくれる。
「す、すごい……」
「えーと、あなた。……これから入るあの中はたいへんな事になっていると思う。だけどね、中には味方もいっぱいいる。いっぱいいるから、つらいことがあるかもしれない。それでもがんばるの。あたしはそうして救われたから。あなたもがんばるの」
プルメリアはそう言って笑った。
ルナリエルにはなんとなくその意味が分かり頷く。
それを見てプルメリアも頷き、ルナリエルと手を繋いでない方の手の魔力を集める。
「炎よ、道となり精霊をおくり給え! いきなさい! 〈火蜥蜴〉!」
プルメリアが手をかざすと炎の魔物が先に生まれた赤い線を辿るように駆け抜け、入り口をふさぐ白銀の巨人の化け物たちを焼いていく。
そして、その炎が消えるかと思われた瞬間、火は嵐にのまれ大きな炎の渦を作り出す。
その中心には怒りに笑う女騎士がいた。
「炎の刃よっ! このつまらん奴らを全部切り裂いてしまえっ! 〈炎刃嵐〉!」
フィアの繰り出した無数の炎の斬撃が白銀の巨人を切り裂き倒していく。
「開いたわ! いくわよ!」
プルメリアはルナリエルに声を掛けると再び風を巻き起こし、壊れた扉の先に飛び込んでいく。
「あなたは!? プルメリア様!」
「話は後よ! スライタスは!?」
「昨夜【白の庭】に……それで判断力が落ちているかもしれないと、ヴァルシュ様が王城の防衛に回しており……」
「それで……わかったわ! じゃあ、ここは、あたしとフィアで引き受けるわ! この子を安全な場所に」
「サファイア様が!? わ、分かりました! ……! この子は、もしかして【白の庭】の!?」
「子どもよ! 関係あるの!?」
「で、ですが……」
プルメリアが話しかけた男が戸惑いの表情でルナリエルを見る。
それは、ぐちゃぐちゃな眼だった。
くろい人たちに似た目を向けられルナリエルは駆け出す。
「あ! ちょっと! 追いかけなさい! 貴方達はあの男達から何を教わったの!? ちゃんと思い出して!」
「……はい!」
プルメリアと男の声を背中で受けながらルナリエルは駆け出した。
誰にも捕まらないように。
見えないように。
見られないように。
ぐちゃぐちゃな目をさせないように。
むちゃくちゃに街の中を曲がって走ったルナリエルは物陰に身を隠し息をひそめた。
ルナリエルは、思っていた。
自分はいらない子だと。
理由は分からないが、あの真っ白ないえはみんなに嫌われていた。
真っ白ないえにいたルナリエルも嫌われている。
何故かは分からない。
何故ルナリエルが嫌われないといけないのかはルナリエルには分からない。
でも、嫌われていた。
でも、理由は分かる気がした。
けたたましい鐘の音と共に、悲鳴や怒声が響き渡っていた。
あの真っ白ないえでは大地が揺れるまで一度も聞いたことのないようなこわいこえが溢れているのは、きっと自分たちのせいなのだ。
だから、自分は嫌われている。
もう、真っ白のいえでもここでもいらない子なのだ。
そうおもった。
ぎゅっと伝言用魔導具を抱きしめる。だけど、ガナーシャには伝えられない。
いらない自分が助けを求めていいわけがない。
もし、ガナーシャに拒否されたら。
それは死よりも恐ろしい絶望だ。
だったら、
「ぎしゃああああ!」
ルナリエルは白銀の化け物に襲われる女の子を突き飛ばし、前に出る。
(しのう)
ルナリエルは、死を選び、白銀の化け物と向かい合う。
自分たちが生み出したであろう化け物と。
ちりと白い炎のようなものを浮かべて白銀の化け物は大きな口を開いた。
ルナリエルは目を閉じ、全てを諦めた。
その時。
「駄目だよ」
あの人の声が耳元でして抱きしめられる。
そして、身体が右へと流れていく。
あたたかかった。
手はザラザラでちょっと痛かった。
それさえも心地よくて、ルナリエルは泣いた。
それでも、ルナリエルは目を開く。
溢れる涙の先にいるその人をどうしても見たくて。
そこにガナーシャがいた。少し悲しそうな目でこちらを見ている。
「助けて欲しい時は、助けてって言ったはずなんだけど?」
ガナーシャの言葉はやさしい。だけど、やさしければやさしいほど痛くて。
「で、でも……わたしは……【白の庭】とかいうところの子で、みんなに嫌われていて、そして、そして……!」
どんどん涙が溢れてくる。
何故、自分は嫌われている理由を言わなければならないのか。
何故、あのいえに生まれただけで嫌われないといけないのか。
どんどん怒りと悲しみが湧いてきて止まらなくなる。
だけど、どんどん汚れている気がして、いろんなものが溢れてきて言葉に出来なくなる。
そんなルナリエルを見てガナーシャは真剣な目で言った。
「君は君だろ」
そう、言った。
「あそこで生まれた。誰から生まれた。そんなことは本当は関係ないはずなんだ」
ガナーシャは言ってくれた。
「僕には生まれた場所や親を変えてあげることは出来ない。でも!」
ガナーシャは。
「『君』を助けることだけは出来るんだよ」
言った。
だから、ルナリエルも言った。
「ガナーシャ、たすけて……」
ガナーシャは、
「もちろん。僕は、君を助けたいから。君を助けるよ」
そう言って笑った。
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