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第58話前半 おじさんは全てはなおせない

今日もう一回更新するつもりですが、過去編予想外に長くなり、明日まで続きます。

白銀の化け物をじっと睨むルナリエル。

そのルナリエルに白銀の化け物ががぱあと口を開こうとしたその時だった。


『る……』


ばたん!


慌ててルナリエルは扉をしめた。なんだか危険な気がして扉を閉めた。

化け物が暴れる様子は無い。だけど、心臓がばくばくと鳴り続けていた。

ルナリエルは真っ白な頭のまま、毛布に潜り込んだ。

ばたばたと何かが駆けまわる音が聞こえた気がしたがルナリエルはずっと一人ぼっちの部屋で震えていた。


翌朝。

ルナリエルはおいのりの時間に祈りの間に行かなかった。

もう一度、あの部屋に行かなければならない気がして、みんなが祈りを捧げに行く時間を利用してこっそりとあの部屋へと向かった。


その部屋は静かだった。

化け物はまだいる気がしたし、ニコラエルもいる気がした。

それにほっとしながらも不安な気持ちもあった。

扉を開けばニコラエルはあの化け物にころされているかもしれない。


それでも、あけないといけない気がしてルナリエルはドアノブに手を掛けた。


「ルナリエル……?」

「え……?」


ルナリエルを呼ぶ声は中からではなく、背後から聞こえた。

慌てて振り返るルナリエル。

そこには、おかあさんがいた。杖を持ち、仰々しい服を身に纏ったおかあさんが。

目には隈が浮かび疲れた顔のおかあさんがいた。


「おかあ、さん……?」


ルナリエルがそう呟くとおかあさんは顔を手で隠しぶつぶつと言葉を溢し続ける。


「ニコラエルの堕天の予兆、ルナリエルの目覚め、愚者共の襲撃……どうしてこうも重なるのかしら? ああ、そうか!」


おかあさんがぽんと手を叩くと、隠されていた表情が現れルナリエルは息をのむ。

それは、歓喜の、真っ白な歓喜の顔だった。


「これも神の試練なのですね! 私が乗り越えられるであろうという、神の試練なのですね!」


おかあさんの笑顔の意味が分からなかった。

だけど、とにかく、ルナリエルはその顔がきらいで、おかあさんに言いたいことがあった。


「おかあさん、ニコラエルを返してください」

「ニコラエルを?」


ルナリエルの声で、おかあさんは真っ白で冷たい微笑みに変わる。ぞくりと背筋をはしる悪寒に耐えながら、ルナリエルは必死で言葉を絞り出す。


「ニコラエルをかえして!」

「ルナリエル、ニコラエルは遠くへ行ってしまったの」

「そんなことない! ニコラエルはいる! わたしには分かる!」

「……【聖者の双子】は良くないのかしら? 悪魔も双子だと聞くし……いえ、もしかしたら、双子は……」


おかあさんはルナリエルと微笑のままじっと見つめながら何かをずっと呟き続けている。

さっきからどんどんとおかあさんが遠くなっている気がしてルナリエルの声がどんどん大きくなっていく。


「かえして! ねえ、おかあさん!」

「ルナリエル、大声を出すのはわるい子よ。あなたは」


おかあさんはずっとわらっている。なのに、遠い。


「よい子でしょ?」


ルナリエルはその言葉を聞いて、かちりと自分の中で何かが嵌まる音がした。

おかあさんは見ていた。理想のルナリエルを。

ここにいるルナリエルが、理想のルナリエルに遠ざかって行く度におかあさんの心はルナリエルから離れていったのだ。

おかあさんにとって欲しい子は、よい子であって、ルナリエルではなかったと。


溢れてくる何かを抑えきれなかった。

腹の底も顔も眼も背中も熱くて震えた。

かえしてほしかった。

何がかはわからない。ただただ、かえしてほしかった。

そして、ルナリエルは叫んだ。


「かえしてっ!」


おかあさんは、ルナリエルを見た。もののように。ルナリエルを。


「もういいわ。つかれたわ」


おかあさんは手を伸ばす。興味のない何かに向かって。


ルナリエルも疲れていた。もういいと思っていた。

ただ、もし、出来るなら。


(ガナーシャに、会いたかった)


その時だった。


大地が揺れた。


いえ全体がぐらりと揺れ、真っ白な壁には罅が入り、耳障りな破壊音が至る所で聞こえた。

子どもたちの悲鳴と、大人たちの足音。


ルナリエルはその揺れに自分を支えきれず倒れ込んだ拍子に壁の方まで転がっていた。

おかあさんは、体勢を大きく崩し床に手をついて驚愕の表情を浮かべていた。


「なんで……こんな時に……?」


おかあさんの呟きをかき消すように方々から泣き叫ぶ声と大人の怒声が響き渡る。

ここでは一度もきいたことのなかった怖い声が響き渡りルナリエルは身を竦めた。


そのうちに、ヤシアナおねえさんが顔を真っ青にしてやってくる。おかあさんと同じように手には杖を、そして、重そうな服を纏って疲れた様子で。


「イナギナ! こ、子どもたちが……『堕天』を!」


イナギナと呼ばれたおかあさんは頭を掻く。がしがしと髪が乱れるのも構わず掻き続ける。


「ああ、なぜ……何故、こうもうまくいかないの? 神よ、そこまで苦しめるのは、愛ですか? であれば、私は受け入れましょう! あなたの愛を! そして、乗り越えてみせる!」


それはもうルナリエルにとってはおかあさんではなかった。おかあさんだったものであるイナギナはぐるりと首を回しこわい笑顔でルナリエルを見る。


「ルナリエル……貴方は、堕天していないのね。やはり聖女だからかしら。それとも……まあいいわ。おつとめをしなさい。そうすれば許してあげるわ」


おつとめを。

ルナリエルはさっきの揺れからずっとグラグラし続ける頭でその言葉を飲み込もうとした。

おつとめを。だれかをころす。だれを?

ルナリエルは分かっていた。だけど、それは開きたくない答えの扉だった。

俯き続けるルナリエルに向かっておかあさんが近づいてきたその時、ルナリエルの背後の扉が破られ、白銀の化け物がおかあさんに襲い掛かった。


「え……」

「そんな! 扉の魔法は!?」


白銀の化け物はおかあさんに飛び掛かった。

ルナリエルには何がなんだか分からなかった。


『逃げろ』


混乱する頭の中でそんな声が聞こえた気がした。いや、もしかしたら自分の声だったのかもしれない。

その時、視界の端でちかちか光るものを捉えた。


ガナーシャがくれた伝言用魔導具だった。


ルナリエルはそれを見て飛びつき、そして、そのまま駆け出した。

このままではころされてしまう。

そう思ったルナリエルはとにかく遠くへ行こうと走り出していた。


「ルナリエル! どこに行くつもりなの! そとの世界は! あなたを受け入れないわ! 貴方は【白】だから! ここでしか貴女は生きられないのよ!」

「う、あ、ああああああ」


おかあさんの声が刺さる。

それでも、ルナリエルは逃げ出した。

とにかく逃げなければと駆け出した。

至る所で混乱が起きていた。

だけど、もうルナリエルに考える余裕などなかった。

ずっと背中が熱くて考えるのを邪魔していた。


ルナリエルは無我夢中で走って走って走った。


そこでは黒い人たちに罵声を浴びせかけられた。


「やはり神はいなかったじゃないか!」

「【白の庭】の為に私達は全てを捧げたのに!」

「わたしたちが何をした!?」


わけがわからなかった。

会った事もない人たちにルナリエルは酷い言葉を投げられた。

あの時出会った少年も見かけた。

悲しそうな目をしていた。

わけがわからなかった。

それでも、ルナリエルは走り続けた。

どこか声の聞こえない場所まで逃げたかった。


誰も居ない平原に辿り着いたルナリエルはそれでも歩き続けた。

その日は異常な熱さでルナリエルは汗を滝のように流しながらも歩き続けた。

足を止めれば自分が壊れそうな気がして歩き続けた。

頭の上を白銀の化け物たちが通り過ぎていった。

もしかしたら、いえから飛べない化け物たちもやってくるかもしれないと必死でその道から外れ森に逃げ込むと、とべない白銀の化け物たちが何処かに向かって走っていっていた。


ルナリエルはそれでも歩き続けた。

ガナーシャには言えなかった。

あんな風に、くろい人たちのように罵声を浴びせかけられたら、おかあさんのように冷たく見られたら、もう立っていられない気がして。

それでも、ガナーシャがくれた伝言用魔導具を抱きしめて、ルナリエルは歩き続ける。


遠くから木の倒れる音がした。

何かがこちらに向かって駆けていた。

だけど、疲れ果てたルナリエルにはもうそれから逃げる力は残っていなかった。

どんどんと近づく音。

そして、目の前の木が切り倒され、人影が見えた。


「ん? なんだ? お前?」


白髪の鎧姿の女性がこちらをじっと見ていた。

その瞳は、爛々と輝き、おかあさんともガナーシャとも違う目をしていた。


「ちょっと! フィア! やりすぎよ! 真っ直ぐが早いからってどれだけ木を切り倒せば気が済むの!?」


その白髪の女性の後ろから金髪のエルフが現れる。

そちらはなんだかとても白髪の女性に困っていそうなエルフだった。

お読みくださりありがとうございます。

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