第54話前半 おじさんは価値観のズレをなおせない
白の英雄候補ブレイドを、ずっとブレイブと誤字表記していました。自分でびっくりしています。失礼しました。
正しくは、ブレイドです。
今日はスケジュールがイレギュラーな為早め更新です。
「怒ってごめんね」
「おこる?」
泣き止んだルナリエルが首を傾げると、ガナーシャはそれに驚き、困ったように笑う。
「……そっか。うん、怒ったんだ。君がよくないことをしたから」
「よくないことをしたらおこられるの? ふふ、おこられた」
ルナリエルは、笑い声を零すとくすぐったそうに身体を揺らす。そして、何度も『おこられた、おこられた』と繰り返す。
「……うれしそうだね」
「? よくわからないわ」
ルナリエル自身も何がうれしいのかは分からない。ただ、自分の中でむずがゆい何かがずっと動き回っていてなんだか可笑しくなってきて口元がもにゅもにゅと歪む。
さきほどの男の子が帰って二人きりになったくらいから、なんだかルナリエルは自分の中でのむずがゆさが増していっていることに気付いていた。
「そっか。君はこれからどうするの?」
ガナーシャの言葉にはっとしたルナリエルは思い出したと手を叩く。
「ニコラエルを探すの。あの子、勝手に出て、わるい子っていわれてすてられてしまうから」
「……ニコラエルはもしかして、君によく似ている子かな?」
「そうなの。知っているの?」
「いや……そんな気がしたんだ。ちょっと待ってね」
そう言ってガナーシャは持っていた袋から魔導具を取り出す。
ちかちか光るそれをルナリエルは興味深そうに見つめる。
「それはなに?」
「遠くの人に言葉を届けられる不思議な道具だよ」
「すごいわ。そんなものがあるのね。それがあればニコラエルもすぐに見つけられたのに。おかあさん買ってくれないかしら」
キラキラとした瞳で伝言用魔導具を見つめたかと思うと、自分が持っていないことに唇をとがらせる。その様子をガナーシャは眩しそうに眺めていたが、伝言用魔導具が再びちかちかと輝くとそちらに視線をうつす。
「……ああ、大丈夫。どうやら、君達のおうちに帰ったみたいだ」
「そう、よかったわ。その……かえるわ」
「そっか……かえりたいの?」
先程迄と打って変わって、探るようにぽつりぽつりと互いに言葉を溢し合う。
ガナーシャの言葉にルナリエルはスッキリしない表情で答える。
「かえりたい? よくわからないわ。帰るのは普通じゃないの?」
「そう、だね。帰りたいのは普通だね」
「でも、なにか、へんなの。かえりたくない気持ちもあるの。でも、かえらないと。わるい子になったらすてられるから。だから……それちょうだい」
ルナリエルはガナーシャの持つ伝言用魔導具を指さす。
「これ?」
「あなたのおはなしもっと聞きたいわ。言葉をとどけてほしい」
「大丈夫?」
「だいじょうぶ? ああ、そとの世界のものはくろいからもってきたらダメなのかしら。でも、うん、ほしいの? だめ?」
ガナーシャに言われ、一瞬不安そうな顔をしたルナリエルだったが首を振って強い意志を感じさせる瞳でガナーシャを見る。すると、ガナーシャは穏やかに微笑み口を開く。
「だめじゃないよ。じゃあ、これをあげる」
ガナーシャは、手に持っていた伝言用魔導具を渡す。
「……もし、困ったことがあって、助けて欲しい事があったら、ぎゅっとそれを握って『助けて』って頭の中で考えるんだ。君なら、多分それで僕に伝わるはずだから」
「わかったわ」
「ただ、それは対になるものにしか言葉を届けられなくて。そっちは、今は、友達がもっているんだ。それを僕が受け取るから、もし、言葉を君が送っても、少し時間がかかるかもしれない」
ルナリエルはガナーシャの言葉を噛みしめ、忘れないように反芻するとぎゅっと伝言用魔導具を胸元で抱きしめる。
「わかったわ。じゃあ、帰ったら一度送るわね」
「そうだね。多分、そのくらいには見られると思うから」
じっと伝言用魔導具を見つめていたルナリエルだったが、モジモジとし始めガナーシャを上目遣いで見る。
「ねえ、ガナーシャ」
「ん?」
「最後にもう一度おこってくれない?」
「ぶふっ!」
ルナリエルの発言にガナーシャは噴き出してしまい、目を見開き彼女を見る。だが、彼女はそれを拒否と受け取ったのか不安そうに瞳を揺らしている。
「だめ?」
「いや、だめ、じゃないけど……はあ、分かったよ。ルナリエル」
ガナーシャは大きく溜息を吐き、息を吸い込む。
すると、ニコラエルも息を吸い込み姿勢を正し、目をキラキラさせて待ち構える。
「はい」
「人を無闇に傷つけちゃいけないよ」
「ふふ、はい」
「それと」
ガナーシャは、一瞬視線を拳に落とし、再びルナリエルを見つめ、ゆっくりとゆっくりと言葉を贈る。
「君は君だ。自分を大切にして君の人生を歩むんだ」
ガナーシャのその丁寧な言葉に、ルナリエルは何かあたたかいものを感じるが、それが何か、そして、ガナーシャの言いたいことが分からず首を傾げ、美しい銀色の髪を垂らす。
「? よくわからないわ」
その様子を見てガナーシャは困ったように笑う。
「わからなくていいよ。覚えておいてくれれば」
「わかったわ」
覚えておけばいいのならとルナリエルは頷き伝言用魔導具を懐に隠し駆け出す。
ガナーシャは、その背中を見えなくなるまで見つめた。ずっと見つめていた。
「ガナーシャさん」
早朝。教会の扉の前に立つニナが後ろにいるガナーシャに声を掛ける。
「ん?」
「怒って下さい」
突然の発言にガナーシャは噴き出してしまう。その噴き出すガナーシャにニナは笑みを溢す。
「ぶふっ! 今!? えーと、はあ、分かったよ」
ガナーシャが息を吸う声がニナに届き、ニナもまた大きく息を吸い姿勢を正す。
「自分を大切にしなさい」
「……はい」
怒ってくれたおじさんの視線を背中に感じながらニナは、教会の扉を開いた。
そこには、ブレイドとルママーナが。こちらを睨みつけていたが、ニナはちっとも怖くなかった。
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