第52話前半 可憐毒舌聖女は汚れた世界をなおせない
ルナリエルとニコラエルは仲良しだった。
【白の庭】でもずっと一緒だった。
銀色の髪は二人とも毎日丁寧に洗われて同じようにキラキラしていた。
起きる時間もお祈りの時間も食べる時間もお勉強の時間もお昼寝の時間も寝る時間も一緒だった。
「二人は仲良しで素敵ね。二人は本当に素晴らしいわ」とおかあさんはわらってくれた。
「ねえ、ニコラエル。お勉強ってたのしいわね」
「ええ、ルナリエル。お勉強をするってたのしいわね」
ルナリエルとニコラエルは賢かった。
【白の庭】でもずっと勉強をしていた。
小さな頃から二人一緒に勉強していた。言葉も数字も魔法もそとのせかいのことも同じように勉強し覚えたことも一緒だった。
「二人は幼いのに勉強熱心で立派だわ。二人は本当に素晴らしいわ」とおかあさんはわらってくれた。
「ねえ、ニコラエル。魔法ってたのしいわね」
「ええ、ルナリエル。魔法ってたのしいわね」
ルナリエルとニコラエルは魔法が上手だった。
【白の庭】でも魔法を沢山覚えていた。
二人で色んな魔法を覚えた。覚える順番も覚える速さも二人は一緒で、おかあさんよりも大きい白い魔法が出せたのも二人一緒だった。
「二人とも魔法が上手で感動したわ。二人は本当に素晴らしいわ」とおかあさんはわらってくれた。
「ねえ、ニコラエル。おいのりの時間はすてきね」
「ええ、ルナリエル。おいのりの時間はすてきだわ」
ルナリエルとニコラエルはお祈りがすきだった。
【白の庭】で朝早くから一生懸命に祈っていた。
二人は祝福の儀式でいっぱいの愛を与えられた。同じ量の愛を同じだけ与えられた。
背中に当てられたおかあさんの掌から送られてくる白い魔力、それは愛だと教えてくれた。
「二人ともいっぱい愛を受け入れてくれて素晴らしいわ。二人は本当に素晴らしいわ」とおかあさんは笑ってくれた。
「ねえ、ニコラエル。そとのせかいはたいへんだそうね」
「ええ、ルナリエル。早く立派になっておつとめをはたしたいものね」
ルナリエルとニコラエルはそとのせかいのことを知っていた。
【白の庭】でいっぱい教えてもらった。
そとのせかいは、わるいものたち、つみぶかきものたち、おろかなものたちがいっぱいいて、世界をまっくろにしてしまっていると二人とも知っていた。
そとのせかいのわるいものを自分たちがだんざいし、そとのせかいをよくするためにかみさまに選ばれたのが自分たちなんだと二人は知っていた。
そとのせかいのふかんぜんなわるいものたちは、よくない。
なかのせかいのかんぜんなるよきものたちである二人はすばらしいと二人は知っていた。
二人はすばらしいと知っていた。
そとのせかいはおかしいと知っていた。
おかあさんはすばらしいと知っていた。
おかあさんのきらいなそとのせかいのものはよくないと知っていた。
なかよしな子はすばらしいと知っていた。
おかあさんがそう褒めてくれたから。
お勉強する子はすばらしいと知っていた。
おかあさんがそう褒めてくれたから。
魔法が上手な子は素晴らしいと知っていた。
おかあさんがそう褒めてくれたから。
あれもこれもそれもどれもなにもかももおかあさんが教えてくれたから。
二人は知っている。あれもこれもそれもどれもなにもかも知っている。
わるい子はけすべきだと。
おかあさんがそう教えてくれたから。
つみぶかき子はだんざいすべきだと。
おかあさんがそう教えてくれたから。
おろかな子はころすべきだと。
おかあさんがそう教えてくれたから。
「二人は、とてもよい子ね。おかあさん大好きよ」
おかあさんがそう教えてくれたから。
二人は、よい子だった。
よい子、だった。
「ねえ、ルナリエル」
ある日の事、ニコラエルからルナリエルに話しかけた。
「……なにかしら、ニコラエル」
「わたし、そとのせかいでおつとめをはたしてこようと思うの」
「……それは、おかあさんが決めることよ。ミシャラエル」
「でも、わたしははやくもっともっとよい子になりたいの」
「おかあさんのきめたことにさからってはいけないわ」
「わたしは、なりたいの。もっともっとよい子に」
「いけないわ」
「なりたいの!」
ニコラエルが大きな声を出したのでルナリエルは驚いた。
「ニコラエル、声を荒げるのはわるい子よ」
「ご、ごめんなさい。ゆ、ゆるして。おねがい、もうしません。もうしませんから」
ニコラエルがわるい子になってしまった。
ルナリエルはそう思った。
だって、声を荒げるのはわるい子だっておかあさんに教えられたから。
わるい子はおかあさんに教えないといけない。
でも、ルナリエルにはそれができなかった。
何故かは分からない。
でも、できなかった。
二人はその日、そのまま何も言わずに眠りについた。
そして、ニコラエルは【白の庭】を抜け出した。
朝日が昇ればお祈りの時間が始まる。
それまでに戻れば大丈夫だとニコラエルは考えていた。
それまでに少しだけおつとめを果たせば大丈夫だと。
そとのせかいにはくろいものがいっぱいいた。
「ねえ、ルナリエル。わたし、いっぱいいい子になるわ」
となりにいないルナリエルにそう言ってニコラエルは、おかあさんが教えてくれた白い魔力を両手に溢れさせた。
ルナリエルは【白の庭】を抜け出した。
このままではニコラエルがわるい子になってしまうと。
わるい子になってさよならするのはふつうのことだけど、ルナリエルはニコラエルになにかしなければならないとおもっていた。
何かは分からない。
おかあさんは教えてくれなかったから。
そとのせかいにはくろいものがいっぱいいた。
ルナリエルとおなじくらいの大きさのものもいた。
耳障りな声で楽しそうに笑って、目障りに走り回っていた。
どれもわるい子のやることだった。
ルナリエルはそれをじっと見ていた。
なぜ、あの子たちはわるいことをするのだろう。
あの子たちはおかあさんにすてられないのだろうか。
どん。
夢中になって走り回る子がルナリエルにぶつかった。
ルナリエルの真っ白な服がくろい子がぶつかったから汚れた。
汚された。
汚すのはわるい子だ。
決してゆるしてはいけない。
『ゆるしてはいけない』
『ゆるしてはいけないの』
『ゆるしてはいけないのよ』
わるい子は、
「けさなきゃ。……おつとめをするのはいい子だから。ね、ニコラエル?」
となりにいないニコラエルにそう言ってルナリエルは、おかあさんが教えてくれた白い魔力を両手に溢れさせた。
そして、指先に集めた光で矢を作り、くろい子の頭に向ける。
魔法を放ち、ころす。
それだけだ。
おつとめなんて、簡単だ。
「駄目だよ」
声が聞こえた。
少しくたびれたような声。
その声が聞こえると、何故かルナリエルは膝から崩れ落ちた。
急に左ひざに力が入らなくなったからだ。
その拍子に指は天を向き光の矢は神様がいるはずの空に飛んで行ってしまった。
ルナリエルは教えられたことのないことが起きて頭が真っ白になった。
いや、ひとつだけ思った。
「あ、服が汚れてわたし、すてられちゃうな」
ずきりと服の奥にある何かが痛んだ。
そして、ふわりと抱き留められた。
おかあさんみたいにぎゅうううっとではなく、遠慮がちなふわりとした抱き方。
「大丈夫?」
何かをどろりと溶かすようなあたたかい声だった。
ルナリエルが顔を上げるとそこには年は二十代くらいの赤茶のもじゃもじゃ髪がいた。
「あなたはだれ?」
「……僕は、ガナーシャっていうんだ。よろしくね」
男は申し訳なさそうな笑顔でルナリエルを見ていた。
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