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第51話 可憐毒舌聖女は歪みをなおせない

「ふふ、悪い子はきらいですか?」


口元に手を当ててニナが微笑むと、店で会った時の爽やかな笑みではなく多少の獰猛さを含んだにやりとした笑顔でブレイドが応える。


「いいや、そんなことはないぜ。オレだって、こんな夜中に出歩いてるんだ。十分悪い子だろ?」

「あら、急に口調が変わりましたね?」

「まあ、体裁というヤツだよ。お前はこっちの口調の方が好きそうだったから」

「そうでしたか? まあ、昼間の口調よりマシだとは思います」

「素直じゃねえなあ、ま、そこがかわいいんだけどな」

「……そうですか」


そう言って俯くニナに対して、揶揄うようにブレイドがまた笑い、ニナの隣に並ぶ。


「改めて、さ。オレ達の仲間にならないか」


真剣な瞳でこちらを見つめるブレイドに気づいたニナは見つめ返し口を開く。


「ルママーナさんと、貴方の?」

「いや、オレ達の、だ」


首でくいと前を指し示すブレイド。

ニナがそちらを向くと6人の女性が控えていた。

獣人、エルフ、種族はバラバラのようだ。

皆ブレイドに対し好意的な目を向けているように見える。だが、数人はそのせいかニナへの冷たさも同時に感じられニナはぴくりと眉をひそめる。


「彼女達は?」

「みんな、ちょっとオレが助けてやっただけなのに、ついていくって言ってくれたいいヤツらばっかりなんだ。きっと、ニナの事も受け入れてくれるはずだぜ」


その冷たさとニナの意味ありげな視線に気づく事無く、ブレイドは楽しそうに両手を広げ、少年のように目を輝かせ、話を続ける。


「コイツ等だけじゃない。他にもいっぱい仲間がいるんだぜ! オレが一声かければみんな来てくれる。この前も盗賊団をぶっ潰してやったぜ。一瞬で」


再びぴくりとニナの眉が動く。

こともなげに言うブレイドに対し、女たちはみな誇らしげに頷いている。


「いやあ、あの時はやりすぎちまったけどね。シルビア……ああ、あそこの青髪の子がな捕まってついかっとなって使った魔法で山一つ吹き飛ばしちまってな……いやあ、あの時は自分でも驚き通り越して笑っちゃったよ」


ブレイドは頭を掻きながらはははと笑う。

女達は、愛情、尊敬、呆れ、小さな怒り、苦笑い、各々違った感情を表しながらもブレイブに対する好意だけは共通しているようで目は愛おしそうにブレイブを見つめている。


「山一つ……ですか」

「いやあ、久しぶりにあんなことやっちゃったよ。昔は、全然自分の力の凄さが分かってなくてさ。え? なんかやっちゃった? みたいな感じだったんだけど。みんなの様子がなんだかおかしいからさ、気付いたんだ。みんなって弱いんだって。いや、オレが強すぎるんだ。だから、守ってあげなきゃって。それで、いや、別に意識してるつもりはなかったんだけどさ、なんかいつの間にか仲間が増えて来ちゃってね。でも、みんなを見過ごせないだろ? だから、一緒に旅をしてる。そして、君も見過ごせないんだ」


心配そうに切なげに笑うブレイド。

きりりとした二重の美しい瞳に銀髪の少女が映る。


「白の庭、で育ったんだろ? 君も……。オレもさ、育ったんだ、あそこで。オレは君を知らないから多分違う棟だったんだろ」


ブレイドが自身の右袖を捲るとそこには包帯が巻かれていた。

それをしゅるしゅると解きながらブレイドは話を続ける。


「ひどい話だよな。かあさん達はオレ達を愛情いっぱいに育ててくれただけなのに、偉い人間共はその強さに恐怖してぶっ潰したんだ。オレはそいつらを許せない……! 絶対に見つけて復讐するんだ。だけど、よかった。一人でも、生き残りが見つかって……ニナ、一緒にこの下らない世界をぶっ潰そうぜ」


包帯が全て地面に落ち、ブレイドの右腕が露になる。

そこには白銀に輝く紋様が刻まれていた。


「オレにかあさん達が与えてくれた最強の力、これさえあれば……」


ブレイブが人差し指を立てそこに白い魔力を凝縮させていく。


「聖なる力よ、小さき槍となり穿て〈光槍〉」


略式詠唱を終え、放たれた光の線は、教会前の店に飾られていた王国の旗の真ん中を貫く。

焦げ付くこともなく、綺麗な円の空白を作り出す。


「オレが世界を変えることが出来るんだぜ。オレは、オレやかあさん達を苦しめた奴らに復讐を果たし、みんなが笑って暮らせる世界を作る。その為にニナ、お前が必要なんだ」

「わたし、は……」

「この白い紋様で苦しんだろう? 隠して生きなきゃいけないの辛かったよな。これはオレ達への愛の証なのに」


ブレイドは右腕を愛おしそうに見つめた後、ぎりと奥歯を噛み右拳を固める。


「だが、もう大丈夫だぜ。お前を否定するヤツがいるのなら、オレがそれを否定してやる! だから、来い! ニナ。オレはお前の全てを受け入れるぜ」

「……ブレイド」


ニナがブレイドに向かって微笑みながら駆けていく。

ブレイドも嬉しそうに手を伸ばしす。そして、


「『お止めなさい』」


その一言に二人が止まる。

声の主は教会の中から現れたルママーナだった。微笑みながら現れた彼女はじいっとニナを見つめる。


「ルママーナ!? なんで、止めるんだ?」

「落ち着いてください、ブレイド様。そして、ニナ様? その懐から取り出した小さな針で何をしようとしたのですか? まさか、ブレイド様を暗殺しようだなんて思ったわけではありませんよね」


ニナがゆっくりと手を下ろしていく。表情は変わらず微笑んだまま。

だが、それをブレイドは許さない。ニナの手を強く掴み広げさせる。


「いたっ……!」

「ほ、本当に、針を……? ニナ、どうして、どうしてだよ……?」


心の底から分からないとわなわなと震えるブレイド。

顔を抑え、膝をつくブレイドにルママーナはそっと近づき優しく諭すように話しかける。


「ブレイド様、もしかしたら、ニナには……」

「そうか、洗脳の呪いか……くそ! ニナ、ごめん。オレにはまだそれをなおす力はない。だけど、必ずお前を元に戻して見せるからな」


ブレイドはニナに同情の目を向けると、再び白銀の紋様が輝く右手を拳で固め強く宣言する。それを見たニナは微笑み、


「この、くそ気持ち悪い茶番はなんですか」


そう言った。


女達もブレイドも目を見開き、その毒に塗れた言葉をぶつけてきた聖女を見る。


「ニ、ニナ……!」

「物語に酔うごっこ遊びをしたいならよそでやってください」


ブレイドとその女達を見渡しながら、微笑みを携えながら毒を吐き続けるニナ。

だが、一人だけ。

ニナと同じく微笑んだまま、ニナを見つめ返す女、ルママーナが口を開く。


「……ふふふ、やっぱり呪われているのね。白の庭で育った子ならそんな事言うはずないもの。みんな、立派でいい子なのに……かわいそうに」

「は?」

「貴方も、『いい子』よね」


ルママーナがじいっとこちらを見てくる。

眼が、ニナを見ていた。

その目に捉えられたニナは身体中から汗が吹き出し始め、小さな震えが止まらない。


いい子でいなければと誰かが囁く。

だが同時に、


『君は君だろ』


どこかのくたびれた男の声が聞こえた気がした。

その弱弱しくて、それでも思いが心の底に沁み込んでくるような声にニナはくすりと笑い、全身のこわばりがとけていく。

それと同時にルママーナの表情が硬くなっていき、ニナを憐みの目で見つめる。


「駄目よ、その男はいけません」

「……貴方に何が分かるのです」

「15人の子供と6人の大人を手に掛けた悪魔。悪魔と契りを交わしたとも聞きます。あの忌まわしき場所と共に死んでしまえばよかったのよ。……いえ、違うわね。これも神がお与えくださった運命なのでしょう」


ルママーナの言葉が一枚一枚丁寧に薄皮を剥がすようにニナに迫ってくる。

剥がされたくないものを剝がされていく感覚。

そして、ルママーナは核に張り付いた一枚をぺりりと、剥がす。


「あの男を殺せ、と」


次の瞬間だった。


「危ない!」


ブレイドがニナを突き飛ばした。そして、そのニナがいたはずの場所には黒服の男が降り立ち地面に短剣を突き刺していた。

すぐさま態勢を立て直し、ブレイドは黒服の男に向き直り睨みつける。


「……誰だ? ニナを狙っているのか?」


ブレイブの問いかけには答えず黒服の男はブレイドに向かって飛びかかって行く。


「ブレイド!」

「大丈夫だぜ。オレがこんな雑魚に負けるかよ」


ブレイドは剣を抜き刀身に白い光を纏わせる。

そして、


「雑魚が。オレのニナに触るな」


真っ直ぐブレイドに向かってきた黒服は一刀両断に切り裂かれる。

いつの間にか両断された黒服の後ろに立っていたブレイドは、なんでもなかったかのように欠伸を噛み殺す。


「ふわ~あ、ウソだろ。弱すぎて驚いたぜ。と、それよりニナ、大丈夫か。怖くなかっ……」


死体となった黒服を一瞥し、ニナの方に振り返ろうとするブレイドを通り過ぎ、ニナは黒服だったものに跪き祈りを捧げる。


「……ごめんなさい。わたしは何も出来なかった」

「ふ、ニナは優しいな。だが、ソイツはニナを狙ったんだ。許すことは出来ねえよ」

「……!」

「ニナさん」


必死の形相で振り返り口を開こうとするニナをルママーナが制す。


「私達はもう止まらないと決めたのです。誰がなんと言おうと。その邪魔になるものは全て潰します。白の英雄の元に、ここにいる女性達は勿論の事、多くの信者が集まっています。貴方が神に逆らうような真似をしないことを今は祈っております」


ルママーナが、ブレイドが、女たちがじっとニナを見つめる。

ニナの表情は変わることがない。

微笑み続けている。ずっと。

そして、小さく震える唇で言葉を紡ぐ。


「……せめて、あの人たちが何も知らないままお別れをさせて。明日の早朝、祈りに出るふりをして、教会に行くわ。それで、わたしは、あなたたちに、ついていきます」

「よろしい、『いい子』ね。では、明日早朝お待ちしておりますわ」

「ニナ、分かってくれて嬉しいぜ。じゃあ、明日待ってる」


ブレイドがほっとしたように笑いちいさく手を振って、ルママーナと一緒に教会の中へと戻ろうと歩いていく。


「あの頑固そうな聖女様も認めさせるなんてブレイド様、すごいわ」

「やっぱブレイドはすごい! さっきの戦いもアタシを助けてくれた時みたいでかっこよかった」

「ブレイドは……わたしのことも好きだよね? わたしはすごいブレイド好きだからね」

「ええ、ブレイドちゃんは最高よ」

「ブレイドが最高なのは当然ですとも。私を救えるほどの天才ですよ」

「ブレイド、だーいすき!」


女達に褒め称えられながらブレイドは去って行く。

ニナは微笑みながらそれを見送り、宿へと帰って行った。

表情は、変わらなかった。






早朝。


「やあ、おはよう。ニナ」

「……なんでいる、んですか?」


微笑みを崩さないニナの目の前に、苦笑いを浮かべるおっさんがやっぱりいた。


「ははは……いやあ、おっさんは朝が早いんだよ。まいったね」

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