第47話後半 おじさんは可憐毒舌聖女の口の悪さをなおせない
ガナーシャは、妹シーファのことが大好きだし、誇りに思っている。
彼女の美しく艶やかな黒髪、少し垂れ目気味のかわいらしい目、己を律しているのが分かる引き締まった身体、一本筋の通った立ち方、振る舞いも全て貴族として人を惹きつける魅力にあふれた女性だ。
そして、年は離れているが、ガナーシャが驚くほどに知識を持っており、その為の努力も惜しまない。自慢の妹。
だが、好きでも誇りに思っていても会いたいかどうかとなると複雑な気持ちになってしまう。
「お兄様、聞いていらっしゃるのですか? 大体、お兄様は、何故毎回わたくしの伝言を一度寝かせようとするのです? お兄様ほどの方なら隙間の時間を使って返す事なども造作もない事でしょう。そういえば、この前の……」
出会って早々から『お小言』が続いている。
しかも、どれもしっかりとした指摘の為ガナーシャは何も言えなくなる。
「グリーシャ兄様が継ぐ気がない以上、ガナーシャ兄様が継ぐのが最も良い形というのは分かっていらっしゃるのでしょう? そ、それに……お兄様が継ぐのであれば、わたくしも全力でお兄様の隣でお手伝いを」
「シーファ」
「は、はい! なんでしょうか!? お兄様!?」
ガナーシャに強く肩を掴まれ、シーファは目を輝かせてガナーシャの方を見る。
「王都の入り口だとお邪魔だからどこかに移動しよう、ね?」
「そ、そうですわねっ! しましょう! 移動!」
「な、何か怒ってる?」
「いいえっ! 全然! ぜぇんぇん! 怒っていませんわ!」
顔を真っ赤にして歩き出すシーファを苦笑いで見ながら、ガナーシャは周りで様子を見ているエイドリオン家の人間に出来るだけ労いの気持ちを込めて目線を送る。
小さく会釈し、シーファの後を追う彼らを見送ると、リア達の方を振り返り、
「えーと、妹に見つかっちゃったから、僕は話をしてこようと思うけど、みんなはどうする? オパール様との約束の時間まではまだだいぶあるけど」
オパール王女とは王都の入り口で別れた。そして、別れ際に。
『サファイア様と一緒にこの労をねぎらいたいと思っていますので、また、夜に使いの者を寄越します。服などもこちらで用意しますので、では、また夜に』
と、拒否権なしの『ほぼ命令』をされた。
元々王族の命令である以上英雄候補とはいえ緊急事態でもない限りは断ることなどできない。その上、ガナーシャからすれば、良く知る人物の名前が出され完全に退路が断たれていることを悟る。
女傑サファイア。
現王の姉であり、王族の血を引く者の自由奔放で、若い頃は城を飛び出し冒険者をしていたが、十年以上前に起きた魔王軍による王都襲撃の際に戻り獅子奮迅の活躍。
その時に、右腕を失い冒険者を引退、弟である現王を支えている。
彼女と会う事を思い出し、足の痛みに顔を歪ませながら、リア達三人の時間の潰し方を尋ねる。王都は比較的安全な場所ではあるが、それでも用心に越したことはない。ガナーシャの親バカが漏れた結果の心配に、リアは少し俯き上目遣いで問いかける。
「あ、の……今の、ガナーシャの妹、さん、なのよね? ちょっと、ついていってもいい? ほ、ほら! ガナーシャが小さい頃どんなだったかとか! じゃなくて! あの、別に王都あんまり興味ないし! 誰かと一緒の方が安心だから!」
リアがそう言って、手をぶんぶんさせる。ガナーシャとしてはそっちの方が安心ではある。が、それはそれで心配な事もあり複雑な表情で頷く。
「わ、かった。じゃあ、王都名物でも食べようか。王都は食事も素晴らしいし」
「……! うん! うん! たべる!」
目を輝かせ何度も頷くリア。その隣に視線を移すとニナが頬に手を当て微笑んでいる。
「王都名物楽しみですね。辛いものもあるでしょうか」
「ニナも、来るの?」
「……いけませんか?」
確定事項のように参加する気満々のニナにガナーシャが問いかけるとニナは一切微笑みを崩さず首をくりんと動かしこちらを向くその動きにガナーシャはびくりと肩を揺らす。
「いや、いけないことは全くないけど」
「では、行きます」
「はい」
ガナーシャがゆっくりと深く頷くとニナは微笑みを崩さないままガナーシャをじっと見ながら同じようにゆっくりと深く頷く。
それを見ながらさらにガナーシャは二度ほど頷くとゆっくりとケンの方を向く。もうこうなればケンにも来てもらいたい。そう考えてガナーシャは救いの手をケンに求める。
「えーと、ケンは」
「俺は、ちょっと騎士団の宿舎に行ってくる。多分、そのまま城に向かうだろうから。気にしないでくれ」
あっさり弾かれた。ケンに悪気はないし、恐らく命の恩人に会うのだろう。とてもよいことだ。ガナーシャはそう思いながらゆっくり深く頷く。
「じゃあ、先行くな。お前ら、おっさんあんま困らせるなよ」
であれば付いてきて欲しい。
そうは思うがいい大人がこんなことで子供に頼るのはいかがなものかとガナーシャはその言葉を飲み込み、ケンに手を振る。
ケンはにやりと笑い、去って行く。後姿がどんどん小さくなっていき、ガナーシャは先程の不安な気持ちとは別の思いが自分の中にじわりと広がるのを感じた。
「がんばれ、ケン」
ケンがどんどん自立していくのが嬉しい一方、自分の手から離れていくような気がしてガナーシャは少し寂しそうにケンを見送る。
哀愁漂うガナーシャの背中を見て、ニナがガナーシャの方をぽんと叩く。
「最近、ケンに入れ込みすぎじゃないですか? ちゃんと平等に愛してくださいね。アシナ……ガナーシャさん」
ニナの圧がすごい。
ガナーシャが小刻みに頷くと、ニナは少し目をとろんとさせて妖しく笑い舌でぺろりと上唇を舐める。
「ふふ、いけませんね。いけませんいけません……なんだか、最近ガナーシャさんを困らせるのが楽しくなってきて……」
「ニナ……えーと、困らせるのを楽しむのは感心しないなあ」
「ふふ、貴方だけですよ」
息遣いが荒くなるニナを見て汗をかき始めるガナーシャ。
「……ねえ、二人で楽しそうなのズルい。なんの話してたの? アタシも混ぜて」
それに対して何を勘違いしたのか、寂しそうに二人の服の裾をつまんで話しかけてくるリア。ガナーシャはそのリアの表情を見てホッとし、ニナはくすりと笑い口元に人差し指を当てる。
「ふふ、リアにはちょっと早いかもしれません。大人の話ですから」
ニナの言葉に、一瞬で顔を赤くしたリアが湯気を出しながら怒り始める。
あまりにもぶんぶんされてガナーシャの服の裾はよれよれだし、ガナーシャ自身ももうヨロヨロだ。
「おと、なっ……! ガナーシャ! なんの話してたの!? ニナだって、子どもなのに駄目よ! そんなの!」
「ちょっとぉおお!」
王都に入ってまだ一時間も経たないにも関わらずガナーシャの足とおなかはずっと痛い。
遠い目をしながらガナーシャが王都のどこで食事をしようかと考えていると、先に進んでいたシーファが物凄い勢いで駆けてきた。
「おおおおおとなの話と言いましたか!? その話くわしく! ……ではなくて! 早く行きますわよ! お兄様!」
「う、うん分かってるよ。シーファ。それで、彼女達も連れて行っていいかな。王都の美味しいものでも食べながら話をしようよ」
肩で息をしながら話しかけてくるシーファの勢いに圧倒されながらガナーシャは苦笑いで応える。シーファの後ろを見ると慌てて戻ってくるエイドリオン家の者たちが。
気付いているのか気付いていないのか、シーファは大きく深呼吸をすると再びピンと背筋を伸ばし貴族らしい振る舞いに戻る。
「ええ、勿論構いませんわ。お兄様の冒険者の話も聞きたいですし。あら、そう言えばご挨拶がまだでしたわね。大変失礼を……。シーファ=エイドリオンですわ。こちらのガナーシャ=エイドリオンの妹です。お兄様共々宜しくお願い致します」
丁寧なシーファの挨拶にリアはぎこちない動きながらも何とか挨拶を返す。
「あ、リ、リアです。よ、ヨロシクオネガイシマス。ガナーシャの妹様」
「ふふふ、かしこまらなくて結構ですわ。英雄候補様相手に不敬と責めるつもりもありませんので。お兄様のような人の面倒を見て下さって本当に感謝しておりますのよ」
「あ、はい。えへ、ありがとう、ございます」
リアは曖昧に笑いながら頷く。ガナーシャがどこかで見たことあるような表情だなあなどと考えながらも、自慢の支援孤児と妹が仲良くなれそうで頬を緩ませる。
すると、今度はニナが進み出て両手を組み、膝を曲げ微笑みながら挨拶を贈る。
美しい所作にシーファは息をのみ、ガナーシャは自慢気に頷く。
「ニナと申します。宜しくお願いしますね……おばさま」
「おばっ……!」
頬を引くつかせるガナーシャの足がとってもいたくなった。
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供養第三弾です。
コンテスト落ちの作品ですがよければ読んでやってください……ほら、凄く良い笑顔で眠っているんですよ…笑 奴隷溺愛ハイファンタジーなんですよ。完結一応してるんですよ。
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