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第47話前半 おじさんは可憐毒舌聖女の口の悪さをなおせない

『王都にはいつ来られるのですか?』

『王都に来るように』

「王都に帰るからついてきて」


「あ、あはは……」


 今朝見た伝言用魔導具に送られてきた【可愛い妹】と【女傑】からのメッセージを思い出しながら、目の前にいるオパール王女からの『依頼』に対しガナーシャは苦笑いを浮かべた。


『王都で仲良くなったお兄様のご友人だという美しく凛々しい女性のフィア様という方から聞いたのですが、お兄様がもしかしたらもしかしたら来るつもりがないのでは、と。そんなわけありませんよねえ』

『いやあ、偶然偶然貴方の妹さんに会ってね。いや、失敗したわ。まさか妹さんと偶然会ってしまうなんて。ああ、うっかり。とても妹さんが寂しがっていたので来なさい。妹さんも可哀そうでしょ。あと、私も』


 メッセージの中のフィアなる女性は間違いなく【女傑】の事で、二人は繋がってしまっている。そして、手ぐすね引いて待ち構えていると知り、ガナーシャは……無視することを決めた、つもりだった。


 だが、


「王家から冒険者ギルドへの指名依頼です。【歩む者達(ウォーカーズ)】に是非。お願いしたいの」


 にっこりと笑いながらそう告げてくるオパールを見てガナーシャは確信する。


 もう完全に全てを仕組まれていて逃げられないようにされている。


 何故なら、昨日冒険者ギルドに帰ってきて報告を終えると、アキに涙目で、明日の朝はオパール様が滞在する屋敷に行って欲しいと言われ、奥にいたサーラが小さく謝罪のポーズをとっていたのだ。

 【女傑】は本当に優れた人物である。だが、暴走し始めると絶対に止まらない。自分のやりたいことを貫く、そういう人物だ。

 ガナーシャは、頭を掻きたい手を必死に抑え、胸に手を当て、頭を下げる。


「かしこまりました。その依頼謹んでお受けします」

「まあ! ありがとう、貴方ならそう言ってくれると信じておりました」


 オパールが嬉しそうに手をぽんと叩く。だが、周りのものも頷くだけでまるで予定通りと言わんばかりに落ち着いている。


(だ、大丈夫大丈夫、死にはしない……死ぬほど色々言われそうだけど)


 こうして、【歩む者達(ウォーカーズ)】はオパール王女を王都まで第三騎士団と共に送り届ける依頼を受けることとなった。




「……ということなんだ」


 冒険者ギルドで待っていた三人にガナーシャが苦笑いを浮かべながら伝える。


「分かったわ! 王家からの依頼だなんて……アシナガ様に報告するわ! 喜んでくれるかな」


 そう言ってリアは伝言用魔導具でメッセージを送り始める。


(うん、君達が王家に評価されるのは嬉しいんだけどね、僕はいやだ)


 ガナーシャはそんな事を思いながら苦笑い。


「……俺は、ミレニ……知り合いからちょっと聞いてた。俺も会いたい人に会えそうだから異論はねえ」


 ケンは、喜びで上がりそうな口角を押さえながら答える。


(今、ミレニアって言いそうだったから気を付けてね。そうか、それはよかった、けど。僕が行きたくないって言ったら絶対このカード切るつもりだったんだろうなあ)


 ガナーシャはそんな事を思いながら苦笑い。


「うふふ……王都ですか。あそこには大聖堂がありますからね、楽しみです」


 ニナは、穏やかに微笑みながら頬に手を当てている。


(…………大丈夫、だよな)


 ガナーシャはそんな事を思いながら苦笑い。


「ガ、ガナーシャさん、ごめんなさぁああい!」

「わぶっ!」


 突然後ろから柔らかいものに抱きしめられる。アキだ。いや、正確に言えばアキの胸だ。

 テーブルを囲み椅子に座っていた為、ガナーシャの頭の高さに胸があり、前半分を腕、後ろ半分を胸に抱えられ、ガナーシャは動けなくなってしまう。


「あ、アキさん!?」

「いっつもいっつもガナーシャさん達には難しい依頼ばかりしてしまって、でも、ガナーシャさん達がすごいから、ガナーシャさん達にしかお願いできないからなんです~! 許してください~!」

「アキさん、分かったから……その、離して……」


 ガナーシャが顔を赤くしているせいか、アキが暴れているせいかどんどん腕と胸と頭が接している所が熱くなっていき、それのせいかガナーシャは大量の汗を噴き出し始めている。

 と、そこに、


「アキさん、ガナーシャさんが苦しそうなので放していただけますか?」


 ニナが不動の微笑でアキに穏やかに話しかけると、アキは今の状態にようやく気付いたのか慌てて離れる。


「あわわわ! す、すみませんすみません!」

「い、いえ、あの、大丈夫ですから。あ、あははは、いやあ、まいったね」


 ガナーシャが周りを見渡すと……ニナはまるで彫像のように微動だにせず微笑んでいるし、リアはじとーっとこちらを見ながら自分の胸を抑えているし、ケンに至ってはこっちを見ていない。耳は赤いので照れているのだろう。ともあれ、自分の完全な味方はいそうもなくガナーシャは痛む足をさすり続ける。アキは照れた様子を見てかなり離れたところから頭を何度も下げて謝っているのだが、それもそれで揺れていて直視できない。


「脂肪の塊が」

「ぶっ……!」


 その声にガナーシャは背筋をぞくりとなる感じを覚え、身体を震わせる。

 声の方向を見ると、ニナが全く同じ表情で微笑んでいる。


 ニナも決して小さい方ではない。同年代と比べれば圧倒的に大きいし、女性の中でも大きい方だ。だが、アキが規格外に大きすぎた。

 それを見てニナは悪態をついた。

 ガナーシャはその声で吹き出し慌ててニナを見るが、ニナは毒を吐いたと思えないほどに神々しい笑顔で微笑んでいた。


「は!? なんですか!? 今、一瞬魔女の呪いのような声が」


 ニナから出たとは思えない声の上に、ニナも聞こえるか聞こえないか程度の声の大きさにして呟くため、誰もニナだとは思っていない。ここ最近では『悪魔の声』とされて、冒険者ギルド内では恐怖話として噂になっている。

 ガナーシャはゆっくりと自然にニナを隠すようにして冒険者ギルドを出ようとする。


「き、気のせいじゃないかな? うん、じゃあ、アキさん、行って来ますから! 大丈夫、安心してください」

「ガ、ガナーシャさ~ん! わたしいつまでも待ってますから~!」


 と、アキが不吉なことを言ってくるが、ガナーシャは止まらない。正確に言えば、ガナーシャは止まれない。いつの間にか、両脇をリアとニナに抱えられずるずると連れ去られていた。

 ケンは耳を真赤に、顔を俯かせたままついて来ていた。


 王都までの道のりに問題はなかった。

 王女を連れていることで、万全のルートと予定が準備されており、道中の襲撃に関しては、実力主義で有名な第三騎士団がいる上に、


「ケン、右はまかせたわよ! アタシは左からくるのを迎撃するから! ガナーシャはニナのフォローを」

「おう! 右は大丈夫だ。左が危なくなったら声掛けてくれ。おっさん、頼むぜ」


 リアは、自分の身体の軽さになれてきたのか、より早く軽快に動き回り、相手を翻弄しながら、火球を放ち続ける。

 一方向からではない攻撃に魔物たちも対応できず混乱しリアまでたどり着ける者さえいない。

 ケンは、冷静に無駄なく魔物を切り裂いていく。最近は、オパールの従者に騎士団の剣術を教えてもらい取り入れたことで、選択の幅が広がり、より洗練された戦いになり、危うさが消えた。


「ふふふ、どうしましょう。出番がありませんね」

「まあ、出番がないのはいいことだよ」


 ニナがニコニコと笑いながら、戦況を見つめて呟き、ガナーシャもそれに応える。


「そうですね、みんなどんどん強くなって……ただ、ちょっと正面の方たちが頼りないですね」


 正面は騎士団の数名が当たっている。正面からの魔物が一番多い上に多くは王女の馬車の護衛に回っているため苦戦しているようにも見える。指揮をとっている騎士も声を荒げて鼓舞するのだが、リアやケンの活躍に焦っているのか、


「お前ら何やってんだ! ぽっと出のガキなんかに負けていいのかよ!」


 口が悪くなっており、その言葉にニナがぴくりと眉をひそめる。


「実力にぽっと出も何も関係ないでしょうに、愚者が」


 毒を吐いた。


「こら、ニナ。ダメだよ。」

「……! はい! 気をつけます」


 その吐いた毒にガナーシャが注意するとニナは一瞬目を見開き、反省の様子を見せる。

 そして、ガナーシャの前に出て、魔力を高め始め、ニナの周りを白い光が包み込む。


「援護しますね。ガナーシャさん、しっかり見ててくださいね。……光よ、愛すべき子らを救い給え、〈光衣〉」


 ニナが祈りを捧げながら略式詠唱を行うと、ニナの身体から光の粒が舞い、前方で戦う騎士団の身体を包み始める。

 騎士団の砕けた鎧の隙間から見えていた傷は塞がり、その上から光の膜が彼らを守るように張り付いた。


「回復と守りを同時に展開させる魔法。さすがだね、ニナ」

「ふふふ、なんといってもわたしたちはアシナガの子、ですからね」


 その後ニナの援護により勢いづいた騎士団によって魔物たちは全滅した。そして、指揮をとっていた人間からは頭を下げられ、ニナは変わらずニコニコしていたが、ガナーシャにはいつもよりも少し嬉しそうに見えた。


(うん、大丈夫。あの子なら大丈夫)


 ニナを見つめながらそんなことを考えていると、その視線に気づいたのかニナがこちらを見て小さく手をふりながら頬をうっすら桃色に染め笑った。

 心からの笑顔に見えてガナーシャは手を振り返し、王都へ向かう覚悟を決めた。


「お兄様! お待ちしておりましたわよ、ずっと、ずっと、ずううううううううっと」


 そうして、たどり着いた王都に入ったところで、シーファが腕を組んで待ち構えており、ガナーシャは足が痛くて帰りたくなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませていただいております。 [気になる点] 49話まで読んだ上でどうしても気になりました。 前話で章題の「剣に誓う少年編」は終わりではないでしょうか。 認識の誤りであれば無視してく…
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