第45話前半 口悪剣鬼少年も一人では勝てない
「おっさん! そっち任せた!」
「ああ、大丈夫だよ、ケン!」
「よしっ! あんま前出過ぎるなよ! お前ら!」
ケンがリア達を見渡しながら前へ進み剣を構える。
カセ平原。
ケン達は、冒険者ギルドの依頼でカセ平原での亀馬討伐にやってきていた。常時の依頼で急ぎではないし、そこまで割のいいものではなかったが、
『もう一回、あそこで亀馬と戦わせてほしい』
というケンの要望からだった。
頭を下げて頼みこむケンに、リアは驚き『雨が降るかも』と言ってケンと喧嘩になってしまったが、ニナの圧で二人とも黙り込み、冒険者ギルドでのガナーシャへのアキアタックでガナーシャは苦笑いを浮かべたが、ニナの圧で、ガナーシャも黙り込んだ。
カセ平原での戦闘は順調だった。
今までは、ケンが前衛でとにかく魔物を倒し、リアが遠距離攻撃で援護とニナのカバー、ニナが強化と回復、ガナーシャが更に全体的なフォローを行っていた。
だが、今日はケンが前に出すぎず、『守りながら戦い』、そして、チャンスと見れば一気呵成に攻め立てる。だが、早めに危険を察知し、すぐにパーティーの元へ戻るため、まず、リアの指示やフォローの負担が減り、しかも、ケンがカバーに入るのでリアは攻撃に専念できるようになった。ニナもまたケンが無理に攻めないので回復をほぼ使うことがないので攻撃魔法を使うことが出来る。ガナーシャもまたいつもよりフォローすることがなく、無理をすることもない。
前回ほどの圧倒的な火力はないが、格段に疲れやダメージが少ないことを誰もが感じていた。
「……! ケン! 三方向からくるわよ」
亀馬達も本能的に一番厄介な人物を感じ取ったのか、ケンに向かって三方向から襲い掛かる。
「おう!」
ケンは、姿勢をまっすぐ伸ばし、亀馬の突撃を迎え撃つ。
左右正面三方向から同時に襲ってくる亀馬たち。だが、ケンから見て右側の亀馬が突如前脚を高く上げ悲鳴をあげる。その魔物の脚には三角錐の金属が、カルドロップが突き刺さっている。
突然叫んだ一頭に対しびくりと跳ねながらも、他の二頭はケンへと迫る。
だが、カルドロップを仕掛けた張本人であるケンはそれよりも早く行動に移っている。
正面の亀馬の左に抜けながらゆっくり、にも見える横薙ぎの一撃は、するりと聞こえてきそうななめらかな動きで簡単に亀馬の首を斬り落とす。
そして、その場でふわりと立ち止まり、背中から回りながら左から来ていた亀馬の首を払い切る。見ているものがほうと息を吐きそうな舞のような動き。
断末魔をあげる二頭の間にいてケンはとても静かだった。そして、カルドロップによって前脚を傷つけられ出遅れた亀馬は、ケンを見て大声で吠える。必死に。恐怖を誤魔化すように。
ケンはじっと吠える亀馬を見つめ、剣を向ける。
刀身はよく磨かれているが柄に巻かれた布は血や泥で汚れ切っている剣を。
最後の亀馬も斬られた。静かに、そして、穏やかに。
「ね、ねえねえ、ケン、なんかすごくない? ガナーシャ?」
相変わらずおかしな距離感で近づいてくるリアにガナーシャは苦笑いを浮かべながら答える。
「そうですね。ちゃんと全体も先も見えていて神がかっている感じですね。とても、すごいです」
「……! ア、アタシだってすごいんだからね!」
と、対抗心をいきなりむき出しにしてリアが残った魔物を探し始める。
そんなリアに困った笑顔を浮かべ、再びガナーシャはケンを見る。
ケンの眉間には皺がなかった。
それは、憎しみや苛立ち、恐怖の証明でもあったが、疲労の表れとも言えた。
今日のケンには無駄がない。剣の振るい方も、剣の特性に合わせた丁寧な使い方だし、パーティーとの連携も素晴らしく、継戦能力が格段に上がっていた。
生きて戦い続ける力が、今のケンにはあった。
「これでもう終わりか……」
「え!? もう!? アタシの敵は!?」
「ふふふ、おつかれさま」
時間としては前回よりも掛かっていた。だが、誰もが無傷の完勝と言えた。
ケンはみんなの様子を見て笑い、ガナーシャの方を見る。
「どうよ、おっさん」
「素晴らしい動きだったよ、ケン」
ケンはガナーシャの言葉を聞くとくしゃっと笑い、手を上げる。
ガナーシャもまた手を上げる。
パアン!
という音が鳴り響き、男たちは手を叩き合う。
「ありがとな、おっさん……ししし」
ケンの眉間に皺はなく、ガナーシャも心から笑っていた。
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