第42話中編 傲慢少年はおじさんに勝てない
「えーと、トス、君だよね」
夜のタナゴロで、ガナーシャは誰かを捜し歩いていたトスを見つけ声を掛けた。
トスはガナーシャの声にびくりと肩を震わせたが、振り返るとほっと息を吐き出し口を開く。
「あ! あの時のおっちゃんだ! あん時はありがとな! ぼく、ねーちゃん探してるんだけど知らねえ?」
「あー、そっか。ごめんねえ。知らないなあ」
「なんだよー、おっちゃん使えねえなー。じゃあ、いいや。さよなら」
「ちょっと待った」
ガナーシャの制止に小さく眉間に皺を寄せトスがまた振り返る。
「なんだよう?」
「君とオトは、本当の姉弟ではないんだってね」
「……そうだけど。でも、ねえちゃんはぼくにやさしいから好きだよ」
「そっかそっか……ところで」
ガナーシャは微笑みながらトスに問いかける。
「【悪魔】という存在を知ってるかな?」
「え? あ、あくま? な、なんだよ! おっさん、急に怖い話すん……」
「人は昔から、神に救いを求め、悪魔に力を求めた」
「むずかしい話すんなよ! こどもだか……」
「悪魔の力を借りる人物達。これを『黒』と呼ぶ」
『黒』
その言葉を聞いたとき、トスの瞳が揺れ、ガナーシャは目を細める。
黒という言葉は誰もが色として扱う、どこにでもありふれた言葉。
だが、少年はその言葉が唯一無二の何かのように瞳から光を消し去った。
夜は、太陽が昇っていた間の温かさを一気に奪い、どんどんと街を冷たくしていく。
トスが、小さく震えた。
「く、黒……?」
「黒の館」
「う、あ……」
「『家族』」
「あ、あ……」
「『子供』」
「ああああ……」
「『魔人計画』」
「な、んで……」
ガナーシャは、じいっと見つめる。
目の前の子供を。まるで対等な大人であるかのように話し続ける。
いつものガナーシャとは違い、饒舌に、いや、濁流のように言葉を垂れ流す。
「『黒』を知っているんですね」ガナーシャはじっと見ている「『黒の館』は広いお屋敷でしたね」ガナーシャはじっと見ている「なんせ7人の大人が暮らし、30人以上が育てられていたんですから」ガナーシャはトスから目を離さない「『魔人計画』。最高の人間を作り出す計画」ガナーシャは見ている「最初は二人の狂人から始まった」ガナーシャの目が「悪魔の契約」離さない「用意されたのは実験体と代償」見ている「七人の『家族』は『子供』を育てた」トスを「最初の頃の『子供』は魔力が弱すぎて失敗、と言っていましたね」見ている「貴族の『子供』はやはり質がいいし罪悪感が少ないと」ガナーシャはじいっと「孤児は罪悪感は少ないけど使えないからいらない、と」見て「『子供』たちで言ってました。孤児に生まれて来ればよかったと」いる「貴族の『子供』は良質で実験は成功したと言っていたけれどすべてではなかったですよね」トスを「なのに調子に乗った『家族』は次の段階に行き失敗し多くの『子供』を失敗作と呼んだ」見て「そして、代償として、消耗品として使うことを決めた」いた「そして、一人、『家族』もいなくなった」ガナーシャは続けた「『二番目の兄』は『子供』に手をかけたから」トスは「無許可で」震えた「二十人の『子供』と」トスは「共に」トスになった男は「捧げられた」震えた「そして、巡ったんですね」それは、ガナーシャを見た「ね?」目を見開いた。
口が開く。
「三十二番……?」
「……今、気付きましたか? 貴方が一度死んで二十七年程経ちましたからね」
笑う。
「お久しぶりです、ヴォルガスさん、『子供』たちの『二番目の兄』」
お読みくださりありがとうございました。
年度末、忙しく、毎日更新のために刻んでいます。
頑張って毎日少しでもあげたいと思います。
今回はちょっと挑戦回でした。
文字数少ないなという方、よければ、他のだぶんぐる作品も。
色々挑戦しているローファンタジー!
『【完結】俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。』
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