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第42話前編 傲慢少年はおじさんに勝てない

「これで、いい、んだよな」


 ケンは、縄をぐるぐる巻きにして捕縛したミレニアを見る。

 ボロボロではあるが、呼吸はしていた。死んではいない。

 だが、ミレニアはこれから裁かれるだろう。正義によって。

 ケンは再びじんわりと自分の目にうかぶものに気づき、顔を上げる。


 そして、何度も目をこすり、ケンは大きく一度深呼吸をすると、はっと気づいたようにガナーシャの方を向く。


 有り得ないほどの集中をしてた自分に驚く。

 トムと戦っていた時は、ガナーシャとの距離や位置を意識しながら戦っていたのに、ガナーシャに『大丈夫』と言われた時からミレニア一人に完全に集中できていた。

 それはガナーシャへの深いところでの信頼であり、そして、ガナーシャの〈嫌悪〉を応用した補助だったのが、ケンは気付くことはない。

 その上、ミレニアは腐っても騎士団の副団長、油断できる相手ではなかった。そのことで引きあげられた異常なほどの集中力の反動で疲れ果てていた。

 それでもケンは自分があまりにもガナーシャに対してケアできていなかったことを悔やみ、そして、ガナーシャの元へと急ぐ。


「おっさん! 生きてるか!?」


 ガナーシャの元へ急ぐと、ガナーシャは座り込み、その近くでトムが黒い縄で体を縛り付けられ、口には猿轡が噛まされていた。


「やあ、ケン。大丈夫だよ。生きてる生きてる。なんとか捕縛出来たよ」

「って、あんた! 左足、そのぐるぐる巻きの包帯どうした!?」


 ガナーシャの左脚には仰々しいほどに包帯が巻かれていた。

 それを見て叫ぶケン、そして、そのケンを見てガナーシャはほっとしたため息をつきながら苦笑いを浮かべる。


「いやあ、流石に犠牲なしでは僕では難しくてね。ちょっと足をやっちゃった」

「やっちゃったじゃねえよ! 動けんのか!?」

「あー大丈夫大丈夫。生きてるから」

「生きてるのは何よりだが、無理すんじゃねえよ、ぼけえ!」


 慌ててケンはガナーシャに近寄り、肩を貸し立ち上がらせる。


「あんたはおれらの仲間だろうが……って、何泣いてんだよ!?」


 ケンがぎょっとした顔で涙をうっすら浮かべるガナーシャを見る。

 ガナーシャは目頭を押さえながら小さくうんうんと頷く。


「いやあ、年取ると涙もろくなるって言うけど本当だね。なんか、ケンのやさしさが目に沁みたよ」

「いや、こんくらい普通だろ! ……いや、普通ですよ、うん」

「ぶはっ!」

「わ、笑うんじゃねえよ! くそ!」

「ああ、いやいや、若者は成長が早くてかっこいいねえ」


 ガナーシャがしみじみそう言う顔を見てケンは前を向きながらぼそりと呟く。


「おっさんだって、かっこいいよ」

「え?」

「なんでもねーわ!」

「いや、ケンがそう言うなんてまた涙が」

「聞こえてんじゃねーか!」


 ケンはガナーシャに肩をかしながら木陰を目指す。

 ガナーシャ自身足が痛いし重いが動けないわけではない。だけど、今はケンのやさしさを有難く頂こうと少しだけ体重をケンに預ける。

 二人が並んで歩く中、ケンがまたぼそりと呟く。


「おっさんも感情あるんだな」

「嬉しい時は嬉しいよ。あ、いいよ。ここで」


 木陰に座り込んだガナーシャは、ちらりと袋の中のニナとの伝言用魔導具を確認する。

 ニナ達の地点は圧勝、他も加勢に入り、鎮圧完了。そして、ミレニアはいなくなっているという連絡。


 リア達【歩む者達(ウォーカーズ)】と、マック・メラ、そして、オパールとはミレニアがあやしいのではないかという情報は共有していた。ミレニア以外の者達に怪しい動きはなかった。

 恐らく、ミレニアは自分ひとり泥をかぶってでも上に行き変えようとしたのだろうと、オパールは悲しそうに笑っていた。


「強くてやさしいだけじゃ、ダメなんだよな」


 捕縛されたミレニアを抱えて戻ってきたケンは、腕の中のミレニアを見つめながらそう言う。


「ケン、それは闇雲だよ。強くなれば守れるものはある。でも、守れないものもある。駄目ではないと思う。駄目と決めつけてしまうのは何も見てないのと同じだよ」

「なあ、おっさん。ミレニア、さんのことだけどよ」

「出来るだけのことはするよ。オパール様もそう言って下さっていたし。言ったでしょ、大人に任せてって。罪は償う必要がある。だけど、勘だけどさ、ミレニアさんは、腐りきっているわけじゃない。生きていれば、意志さえあれば、やり直せるさ」

「……そっか。おっさん、ありがとな」


 そう言ってケンは、すらりと剣を抜き、剣を掲げる。


「俺はもっともっと強くなる。大切なもんを守れるように。だから、これからも教えてくれ。色んなこと。俺はもっと知りたい。守る方法やいろんなこと。その為なら一生懸命頑張る。この剣に誓うよ」


 剣越しのケンの瞳はまっすぐこちらを見ていて鋭く強く美しく、ガナーシャは微笑む。

 そして、その美しい剣に映る自分の顔を見て、ガナーシャもまたケンの剣に誓う。


(君が真っ直ぐ生きられるよう、僕も頑張るよ。大人として。この世界の『黒』として)


「ガナーシャ!! ケン!! ぇ? ぁーもぅ! 順番は関係ないって!」


 遠くから手を振るリアの姿が、こちらを見てあらと頬に手を当てるニナ。

 どんどん強く大きくなっていく彼らを見ながらガナーシャは立ち上がり指をこきりと鳴らした。

 太陽は天高く上り、足元には小さな影。

 無事を喜び合う三人、ゆっくり近づいてくるマックとメラ、捕縛された二人、ガナーシャはそれらを見渡しながら赤茶のもじゃもじゃ髪をくしゃりと掻いた。

 これから日が沈み、夜が来る。





「やあ、こんばんは」

「こ、こんばんは」


 ガナーシャは夜のタナゴロで声を掛ける。

 幼い少年に。


「君は、オトさんの弟くんの、トスくん、だよね? 少し、話を聞いていいかなあ?」


 全てを見透かすようにじっと見つめるガナーシャの瞳。

 影は夜と同化し、真っ黒な街の中、怯える少年を一人のおじさんは見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気付かれないかー。 それもまた良き。 [一言] 深夜に少年に話しかけるおじさん……… キャー、フシンシャヨー。
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