表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/109

第39話 おじさんは、勝てない

「……しっ!」

「ああああ! めんどくせえなあ!」


盗賊団の男、トムは叫びながらケンの低い斬撃を躱す。


「くそ……! そんでまた、引くってか」


トムが追撃を掛けようとすると、ケンは後ろに飛び退き再び低く構えじっとタイミングをうかがう。

トムの見る先には、低い体勢のケン越しのガナーシャが見える。


先ほどから同じことの繰り返しでトムは目に見えて苛立っていた。

ケンは左右どちらかに飛び込んで低い体勢でトムの足元に滑り込み、足元への斬撃を狙う。

短剣を振るトムだが身体が大きくリーチもある為、剣を振るうケンとも前回は余裕でやりあっていたが、足元を狙われると深く腰を落とさねばならずそれを嫌がり避ける。

避けてそのまま攻撃に移ろうとするが、ケンはその場にとどまらず、駆け抜けていく為に捉えることが出来ない。その上、攻撃を外せばすぐにガナーシャの前に陣取る為に、どちらの隙も狙う事が出来ない。


(それにしても、あの小僧のあの滑るような動きは……おっさんの仕業だろうな。まさか、いやがらせ魔法の〈潤滑〉をこんな風に使うとは)


ガナーシャは、トムの動きを〈暗闇〉や〈嫌悪〉、そして、〈潤滑〉でいやがらせしながら、ケンの滑り込むタイミングに合わせ、ケンの足元に〈潤滑〉を掛けていた。


それによって、ケンは滑り込むように相手の足元に侵入しそのまま流れていくことが出来ていた。

元々『ゴミ捨て場』は山にあった為に、ケンは斜面を滑りながら移動することはよくあった。

その上、メラが調整してくれた剣は、どんな体勢でもケンの手に馴染みケンに応えてくれた。


『僕では一撃じゃあ倒せないよ。でも、僕と一緒ならもっともっと戦えるしいろんなことが出来るよ!』


剣の声が、ケンを笑顔にさせる。眉間に皺はない。

足元を狙う事も、連撃を狙わない事も、すぐ引くことも、恥ずかしくない。

それが、今の自分と剣のやれることだから。


ケンは、あの夜よりもトムの動きが良く見えている自分に驚いていた。


(そうか、あの時は『相手のどこに攻撃できるか』しか考えてなかった。そりゃダメだ)


相手が飛び掛かってこれないガナーシャと作るセーフティーゾーンで気を練り直し、息を整える。以前の戦いであれば、これだけ動けば肩で息をし、握力も少しずつ弱っていたはずだった。自分の身体が回復していく感覚が分かる。そして、自分の出来ることがいくつも思い浮かぶ。

だが、それでも、ケンは『今は』変えない。一つのことを貫き続ける。


「しっかしよお」


遠くにいるトムがゆったりした口調で話しかけてくるが、ケンは構えを崩さない。


「オメエらが来て、向こうは大丈夫かぁ? おれが単独で来たとはいえ、あっちの連中だって必死だ。しかも、女に飢えてる。あの可愛い姉ちゃんらは捕まって、ひぃひぃ言わされてるかもなあ」


下卑た笑みを浮かべトムがそう言ってくる。

それでも、ケンは構えを崩さない。


「今更、オレにどうこう出来ねえよ。信じると決めたんだ。なら、オレはテメエをぶっとばすだけだ」

「ち。小賢しいクソガキになりやがって」


トムは大きな舌打ちを鳴らし、忌々しそうにケンを睨む。


「それに。あっちは心配ねえよ。十分な代わりがいるからな」

「代わり?」





「へっくちょん!」

「うわ! ししょお! 風邪ですかっ!?」

「いやー、多分かわいい子が噂してる、と信じたい」

「多分違いますっ」

「な、なんなんだよ、こいつ等!」


リア達に拠点を襲われた盗賊の一人が呆然とした様子で、無精ひげの男と赤髪の女を見つめる。拠点にはいきなり炎の球が撃ち込まれ、盗賊達が慌てて洞窟を飛び出すと冒険者達に囲まれた。そして、ここの頭であるトムがおらず、混乱を極めた盗賊達だったが、命に危機に慌てて武器を抜いて応戦し始めた。

だが、二人の登場によって一気に戦線は崩された。


「静かに震え啼け、霊震槌」


マックの振るう青白い光を放つ槌が地面を叩くと、ほとんどの者が小刻みに震え始め動けなくなる。


「メラ、行きな」

「はいっ! 鉄砕!」


その動けなくなる瞬間を突いて、メラが細長いこん棒を振り回し、盗賊達の武器を叩き落とし、折り、砕いていく。一人一撃で盗賊の持っていた武器たちがメラに従うように、砕け、離れていく。


「上出来だぁ。心も折れたかな。ほんじゃあ、眠っておいてもらおうかぁ。……存分に吸え。そして、啼き喚け、霊震槌」


マックが槌を振り上げると、槌はすすり泣きのような風切り音を鳴らし地面に振り下ろされる。

静かに腹の底に沁みついていくような音が響き渡り、武器を落とされた盗賊達は白目をむいて倒れ込む。

マックはそれを見て微笑むと、ふらりと身体を揺らし、慌ててやってきたメラに支えられる。


「ししょおっ! 大丈夫ですかっ」

「大丈夫大丈夫ぅ、いやあ、短期決戦に持ち込みたすぎて焦っちゃったかな。でもまあ、結果良ければすべてよしかな」


マックは、メラに支えながら、倒れ痙攣している盗賊達と耳をふさぎこちらを呆然と見ている冒険者達を見て弱弱しく笑う。


「だ、大丈夫ですか!?」


その冒険者の上をふわりと飛び越えてやってきたリアが心配そうに声を掛ける。


「あー、大丈夫大丈夫。それより、リーダーの役割を。さっきのは攻撃魔法じゃないし、効果薄い奴もいるかもしれないから」

「!! 全員警戒! そして、盗賊達の捕縛を。やられた振りしている奴がいるかもしれません! ……効果は人によって違うんですか?」


リアが周りの冒険者に声を掛けると盗賊団を縛り始める。時折、暴れる盗賊もいたが、冒険者達は即座に対応し、複数人で取り囲む。

周囲に魔力探知を掛けながらリアはマックに問いかける。


「そうだねぇ……ま、いいか。この武器は霊震槌と言ってね。いわば神の力を借りる武器で、耳をふさいでいないと純粋な人族にはかなり効果があって、ああいう風に震えて動けなくなる。けど悪魔や神、呪い、祝福そういった力を持つ、もしくは、その残滓があるものには効きづらいんだ」


マックの言葉にリアは目を見開き、思わず振り返る。


「え……じゃあ、何人かは」

「そうだねぇ、影響があったみたいだから、おそらく……」


影響があった。盗賊団の数人には。であれば、そういった理外の力を持つ者がいたということ。そして、いたということであれば一番可能性があるのは……リアは、一人の大男を思い浮かべ、遠くイチカの村を見る。


「そんな! ガナーシャ、ケン……!」

「うふふ、ガナーシャさんが先に出てくるんですね」


リアに追いついたニナがいつの間にかいて、悪戯っ子ぽくリアに問いかけると、リアは顔を真っ赤にしてしまう。


「!!! い、言いやすかっただけでしょ!」

「そうですね、今のは意地悪でした。でも、リア、今、わたしたちはわたしたちに出来ることをしましょう」


ニナの視線が盗賊団に向いていることに気づき、リアはほてった頬をぱんと叩く。そして、顔を引き締める。


「そうね。ニナ、マックさんの治療できる?」

「ええ、なので、メラさんは任せていただいて、リアと一緒に盗賊を」

「わ、わかったっ! お願いっ!」


そう言ってメラとリアは盗賊団の捕縛に加わっていき、ニナは座り込んだマックに魔力回復の魔法をかけていく。


「ずいぶん無茶をされましたね」

「はは、私も少し焦りすぎたかもしれません。すみませんニナ様」


ニナはマックの言葉に表情一つ変えず微笑んだまま、ゆっくりと魔力の光で身体を撫でていく。


「わたしはもうそう呼ばれる資格はないですし、呼ばれたくもありません」

「そう、ですね……私も、同罪です」

「いえ、知らなかっただけでしょう。それに、大切なのは前を向くことですから」


ニナがそう呟くと、マックは目じりに涙を浮かべながら微笑む。


「……本当に、ガナーシャと出会えて良かった」

「ええ、わたしも心からそう思います。ガナーシャさんと、ケンは大丈夫でしょうか?」

「くくく、ニナ……もガナーシャが先に出てくるんですね」


マックに言われニナの白い肌がリアと同じくらい赤く染まる。

そして、ぽかりとマックの腹を殴る。


「!!! ぐ、偶然です! リアのがうつっただけです」

「大丈夫ですよ。アイツは……アイツは弱いから誰よりも死に近い男なのに、誰より危険な場所に飛び込み続け生き続けた男ですから」

「ニナ! マックさん! 動けますか?! 第三騎士団から応援要請です! ミレニア副騎士団長の所が奇襲を受け、苦戦しているそうです! こちらは任せてアタシたちだけでも先行しましょう!」


マックはニナと顔を合わせ頷き立ち上がり、動き出す。

ニナもまた立ち上がる。そして、一瞬全てを賭けて返したい恩人が戦っているだろう方角を見て、再び前を見た。





「くそがああああああ!」


イチカの村で、ケンの咆哮が響き渡る中、ガナーシャは男を冷たく見下ろしていた。

トムは、地面に座り込み、黒い炎を足から放ちながらこちらを見つめるガナーシャを震えながらじっと見つめていた。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。

今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!


また、作者お気に入り登録も是非!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回面白すぎる ニナ様一体何者なんだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ