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第38話 おじさんは口悪剣鬼少年のお願いに勝てない

『アシナガ師匠、今日この前負けた盗賊と戦います。もし負けたらどうしようかと不安です』

『ケンへ 相手は強いのかな?』

『強いです。僕よりもずっと』

『ずっとというのはどれくらいだろう? そして、その差を埋めるには何が出来るだろうか? ケン、相手を闇雲に強くしてはいけないよ』

『はい、わかりました』

『何にどれだけ差があって、どうすれば埋められる、もしくは超えられるか。時には逃げることも必要かもしれない大切なのは一つだけにするんだ。その一つの為にどうすればいいかを考える。考えて考えて考えて分からなければ、誰かを頼ればいい。それも強さだ』

『アシナガ師匠、ひとつ聞いてもいいですか?』


「おっさん」


 ガナーシャがケンと繋がる伝言の魔導具のやりとりを見返していると、その本人から声を掛けられる。遠くから声を掛けるケンにガナーシャは困り笑顔で応える。


「なに、かな? ケン」

「おっさんは、さ。……いや、なんでもない」


 ケンが何かを言いよどんで、またどこかを見つめながらサンドイッチを頬張り、飲み込む。

 そして、メラから貰った剣を抜いてはゆっくりと振る。


「ケン、緊張してるのかい?」

「ああ……」

「大丈夫、死にはしないさ」

「おう」

「そろそろ時間だね、準備しようか」

「おお……おっさん」

「ん?」

「やろうぜ」

「うん」


 ガナーシャは笑いながら立ち上がり、指をこきこきと鳴らした。

 そして、作戦の開始を待つ。


 タナゴロを襲った盗賊達の拠点の三地点同時攻撃。


 二つは第三騎士団が、そして、残り一つは【歩む者達(ウォーカーズ)】を中心とした冒険者チームが担っていた。


 その拠点らしき洞窟をリアは睨みながら、合図を待って騎士団から配布された伝言用魔導具を見つめる。


「ふふ、リア。そんなに険しい顔してると、皺がとれなくなるわよ」


 ニナがそう言いながら現れると、リアはジトっとした目でニナを見る。


「だって……相手はあの男なのよ」

「まあ、気持ちは分かるわよ。でも、大丈夫よ。信じましょう。すべてうまくいくって……それより、昨日はアシナガさんとはお話しできたの?」

「勿論、昨日もいっぱいお話してくださったわ! 今日の事を話したら怪我のないようにって心配のメッセージをくれて……あああああ! アシナガ様、大好きぃいいい!」

「うふふ、ところで、リア」

「なに!? アシナガ様の好きなところ!? 一先ず百個言おうか」

「ううん、いい。それより、魔導具が光ってるわよ」


 ニナに言われリアがはっと魔導具を見ると、ちかちかと光り、『作戦開始』の文字が映し出される。それを見てリアはニナと頷き合い、二人の元へと向かう。


「さあ、行きましょう! 先陣はアタシたちが、アタシの上級魔法で道を開いたら、他の冒険者が一気に流れ込む。その後アタシはニナと一緒に後方から指揮・援護に集中。……元の作戦で言えば、お二人は前線になんですが、大丈夫、ですか?」


 リアがそう言いながらちらりと『おじさん』の方を見ると、


「あーあー、大丈夫ぅ。おじさんに任せておきなさい。頑張って、あの剣術少年とガナーシャんの代わりは果たすからさぁ。なぁ、メラ?」

「はいっ! まだまだ未熟者ではありますが、精いっぱいせんせえの代わりにがんばりますっ!」


 マックは無精ひげを触りながら自信ありげに微笑みメラを見る。

 メラも赤髪を振り乱しながら気合いを身体で表現していた。






「なんで、なんで、テメエらが此処にいやがる!?」


 覆面の大男が今は覆面を外し、もっさりと口髭が生えた顔を驚愕の色に染めている。

 その視線の先に居たのは、ガナーシャとケン。


「テメエをぶっ倒すためにだよ」

「来た理由じゃねえよ! 来れた理由だよ!」


 剣を抜いて低い体勢で構えたケンに向かって大男は吠える。

 すると、代わりにガナーシャが右手でぽりぽりと頭を掻きながら口を開く。


「えーと、勘、かな」

「は?」

「ああ、ごめんね。えーと、この村に来た時に色々話を聞いておいたんだ。僕は知らないことが怖いから。その時に、新しい人やってきて、この村で畑を始めたって聞いてね。それがこの村の近くにある盗賊団の拠点が壊される直前だったんだ。その人は、大荷物を抱えてここにやってきた。その人は、とても人が良くすぐに村になじんだ。その人は、子供たちがこっそり家に忍び込もうとすると烈火のごとく怒った。その人は、ほとんど家から離れることがなかった。その人のところに月に一度友人らしき人物が訪れていた。全部村の子達が教えてくれた話だったんだけど。僕は、心配性だからもしこの人物が、盗賊団の関係者で、そのアジトから運び出した財宝を保管する役割の人間だとしたらと思っていた。……万が一を考えて、念のためにと調べてみたら、どんどんとあやしく見えてきた。そして、万が一の万が一、この盗賊団のアジト襲撃も作戦で、仲間を見捨てることの出来るような人物が盗賊団にいて、一人で財宝を回収しようとしていたらどうしようかと」


 そこまで一気に話すと、ガナーシャは疲れたようにふうと息を漏らす。

 大男は、周りを見渡す。温泉場があり、賑やかな村だと聞いていたのだが、今日はとても静かで村人を見なかったことを思い出し舌打ちする。


「それで、このイチカの村に来たってのかよ」


 リア達が向かった洞窟から離れた、ふわりと湯気が浮かぶイチカの村にケンとガナーシャは居た。男を待っていた。


「万が一の万が一なんて考えて頭痛くなんねえのか」

「あはは、頭は大丈夫かな。腹と足が痛いよ」


 男は、観念したような表情で短剣を抜き、前に突き出しながら逆の手で懐から伝言用魔導具を取り出し、見つめ魔力を込める。


「大したもんだ。名前、教えてくれよ」

「テメエから名乗れよ」

「ち。可愛くねえ小僧だな。あの姉ちゃん達がよかったぜ。トムだ」


 ケンはトムと名乗った大男の言葉を聞き眉間に皺を寄せる。


「トム……」

「やあ、トム。僕はガナーシャだ、よろしくね」

「ケン」

「ガナーシャのおっさんにケンの小僧、覚えたぜ、すぐ忘れるだろうが。ところで、二人しかいねえのか?」

「残念ながら、騎士団にも内緒の独断専行でね」

「道理で。じゃあ、オメエら消せば解決だな」

「させねえわ、くそが」


 低く構えたままのケンがそう言うと、ガナーシャはゆっくりと下がっていく。

 それを見た男はにやりと笑い、懐に伝言用魔導具を納める。


「おいおい、おっさん。この前ぼろ負けしたの忘れたのか、この小僧殺す気か?」

「大丈夫、死なせないよ。僕が」

「だってよ。残念だったな、盗賊野郎」

「やれやれ、力の差が前回で分からなかったのかよ」


 ケンは態勢を変えず、男を睨み続ける。そして、呼吸を合わせ続ける。


「分かったんだよ。だからよ、今回は、二人『で』テメエをぶっ倒す」


 ガナーシャと合わせ続ける。


「そういうことで」


 ガナーシャはそう言いながら苦笑いで軽く膝を曲げ、指を何度も鳴らす。


「ち。めんどくせえなあ」


 一跳びでガナーシャに行くにはケンが邪魔で、ケンの体勢が低い為にガナーシャの姿が男にははっきり見える。そして、それはまた逆もしかり。ガナーシャからも男がよく見えるという事。


「あああああああっ! ……あー、やるかあ」


 男は怒りのままに短剣を素早く振るい、ケン達を睨む。


「行くぜ、おっさん! 力ぁ貸してくれ!」

「全力を尽くすよ。行こう、ケン」


 ケンは背中を押されるように、迷いも何もなくただ真っ直ぐに倒すべき相手へと駆け出した。

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