第37話前半 口悪剣鬼少年は鍛冶師にも勝てない
もしかしたら、今日も間に合わないかもしれないので、ひとまず、あげられる部分だけですが……キリの良い所までは書いてます汗
オトに支えられたケンと、ガナーシャに抱きついたままの赤髪の女メラが睨みあって、
「は、はは……」
「へ、へへ」
オトは漏らすように笑い、ガナーシャは相変わらず困ったように笑う。
「静かに震え啼け、霊振」
カイィイイイン
無精ひげの男がぼそりと呟いた声の後に、美しく澄んだ音が響き渡る。
男は青白く光る槌で地面を叩いたようだったが、土からあんな音が出るのかとぼーっとケンはその様子を見つめる。
そうしている内にぶるりと隣のオトが身を震わせ、ケンの身体がオトのそれよりも小刻みにカタカタと震え始める。
「ケ、ケンさん?」
「な、なんだよ、これ……」
小さく震え続ける手を見つめながらケンは自分を支えられず、オトに寄りかかる。
ケンがメラの方を見遣ると、メラもまた小さく震えガナーシャの身体に、しなだれかかっていた。
「ちょっと、ししょお! 霊震槌使うなんてっ! ナイスですっ!」
「怒ってんのか、喜んでのかどっちかにしろや!」
「ケンさん、む、無茶しないで」
「メラはもう大丈夫でしょ。さ、ちゃんと立って」
「はい、せんせえっ!」
無理矢理メラに喰ってかかろうとするケンをオトが慌てて押さえつけ、ガナーシャにやんわりと肩を掴みながら起こされたメラはすくっと立ち上がる。
「まぁまぁ、落ち着きなさいな。二人とも、ガナーシャんを困らせるもんじゃないよ。んで、改めての自己紹介といこうかぃ。おれの名前は、マック。しがない鍛冶師さんだ。よろしくなぁ、おぼっちゃん」
そう言ってマックと名乗った無精ひげの男が手を差し出すと、ケンは小刻みに震える手で握手をかわす。握った瞬間、ケンはマックの顔を見つめる。
「ほぉほぉ、そういうのは分かるのか。がむしゃらぼっちゃんだなぁ」
ボロボロになるほどにケンは剣を振り続けてきた。
そして、その手の皮は破れ治りを繰り返しどんどんと硬くなっていった。
だが、マックの掌はそれ以上に硬く分厚かった。
年はガナーシャに近いマックなので、ケンからすれば倍近い開きは間違いなくあるが、それでも、ケンの中では誰よりも剣を振ってきた自信があった。
そのケンの手よりも積み重ねてきた手にケンは唇を噛む。
「まぁまぁ、このまま頑張り続ければ少なくとも手の硬さだけはおれに勝てるよ」
「手の硬さだけじゃねーわ! 絶対強くなってやる!」
「その意気その意気。まあ、その為におれたちも来たわけだからなぁ。ほんじゃあ、メラ、よろしくな」
ケンの頭を楽しそうに撫で終えると、マックはひらひらと手を振りながらガナーシャと共にどこかへ行こうとする。
そして、不満げな様子のメラは、マックの背中に向かって叫ぶ。
「この試験に合格したら絶対絶対約束守って下さいよっ!」
「約束?」
「あんたには関係ない話。ほいじゃあ、やるよっ!」
メラはケンの質問を一蹴し、向き合う。
「あ、あのー、へへ」
と、そこにオトが申し訳なさそうに割り込んでくる。
「あ、あの、わたし、そろそろ帰らなきゃなので……」
「おう、飯ありがとな」
「う、うん……へへ、あの、ケンくん」
「んだよ?」
「浮気しちゃ、だめだよ……」
「しねーわ!」
ぼそりと呟きオトは逃げるように走り去っていく。
ケンは真っ赤な顔で思い切り叫び、呼吸を整えようとしたところで思い出したように再びオトの去って行った方を見て口を開く。
「っていうか、恋人同士でも、その、ないだろっ……」
ケンの尻すぼみになるその言葉にメラはにやにやと笑う。
「いいねいいね、若いね若いねっ! 恋は大事だぜ!」
「うっせーわ! い、色恋なんかにかまけてられるかよ、くそが」
「……ふ~ん」
目を細めながら探るように見てくるメラに対し、ケンは深く大きな皺を眉間に刻む。
「それより、何やるんだよ! 今から! ! も、もしかして、俺の剣を打ってくれるのか!?」
「んなわけねーだろっ!」
メラの手刀がとんとケンの脳天に叩きこまれ顔を顰めたケンが見上げる。
「はあ!?」
「あたしらのがそんな簡単に作れるわけねーだろ! なんだ、あんたは、もしかして、剣とかは魔法でびかびかーってしたら凄いのが出てきて店で売られてると思ってるお貴族ぼっちゃんかっ!」
再びびしりと脳天手刀。
「思ってねーわ! いや、思ってねーけど……そんな大変なのか?」
ケンの脳天に当てた手をメラは自分の眉間に当てて溜息を吐く。
「……はあ、いいかい。剣を作るにも色んな工程があるの。そして、重心・長さ・重さ、剣ならどの程度鋭くするかとかいろーんなもんがあるのっ! それらを理解して操ることが出来るのが一流の鍛冶師なのよっ」
「わかったから手刀、やめ、ろ……」
メラが三度叩き込んできた手刀を掴んだケンは再び驚く。
赤髪の女の子の手もまたガチガチで、その『本気』がケンに伝わってくる。
「すまん」
「お、なんか急にしおらしくなったねえっ! ……うんうんっ! いいでしょ! 許す! じゃあ、始めようか」
「な……!」
そう言ってメラは背負っていた袋から大量の剣を取り出し、並べる。
「ししょおにあたしが出された試験。それが、『あんたを強くする事』……さあ、あたしが全身全霊込めて作った武器だよ」
「これを、くれるのか?」
「あげる。だけど、一振りだけ。しかも、条件があるわ」
「条件?」
メラの纏う空気が変わり、ケンも身体中に緊張を走らせる。
「……一番いいヤツを選ぶこと。でなきゃ、あたしはあんたを認めないし、剣もあげない」
「な! そしたら、お前の試験は」
「あたしが心を込めて作った武器は、あたしの子供。理解できない馬鹿に預ける位なら死んだ方がマシだ。さあ、選びな」
メラは真っ赤な瞳でまっすぐケンを見てそう告げる。
ケンは彼女の手の感覚を思い出しながら、地面に並べられた剣たちを見つめる。
どれもがキラキラと輝いているように見えると同時に、ケンは自分がじいっと見つめられているような気がしてごくりと唾を飲み込んだ。
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