第34話 おじさんは女の涙に勝てない
お読み下さりありがとうございます。
第31話で妹の名前をサーラと間違えておりました。失礼しました。
正しくは、妹がシーファ、タナゴロ冒険者ギルドの長がサーラです。
「あのー、ミレニア副騎士団長に呼ばれやってきた、【歩む者達】、なんですが……」
ガナーシャはいつもの苦笑いを浮かべながら、豪邸の前で守りを固めている兵に声を掛ける。
「話は聞いている。通れ」
平坦で威圧的な物言いをする兵に頭を下げガナーシャはリア達を中に入るよう促す。
覆面の男たちの戦闘から三日経った。
その後、騎士団達に事情を話したところ、やはり盗賊が盗みに入ったらしい。
しかも、タナゴロでも有数の貴族の邸宅に入り、見張りや使用人数人を殺し、かなりの額の財宝を獲ったのだが、不幸中の幸いというべきか、リア達が撃退した大男を除く覆面男たちから半分以上を取り返していた。
なので、それを含めた感謝を伝えたいという事で、ガナーシャ達はここに呼ばれていたのだった。
「ね、ねえ……ガナーシャ、アタシ、変じゃない?」
「ええ、大丈夫ですよ。とっても素敵です」
「すてっ……! ば、馬鹿じゃないの!?」
「ええ……?」
顔を真っ赤にして怒るリアにガナーシャは戸惑い、ニナの方を見る。
「うふふ、ガナーシャさん、わたしはどうですか? 素敵ですか? とっても素敵ですか?」
「と、とっても素敵だよ、ニナ」
「……ちょっと、ニナはとっても素敵で、アタシは普通なの?」
「ええ……?」
ガナーシャはリアの行動にただただ戸惑い痛む足を擦り続ける。
貴族に会うということで着飾った二人は顔立ちの美しさやスタイルの良さもあって、すれ違う使用人たちは皆、感心するようにため息を吐いていた。
リアは赤い豪華なドレスで彼女の勝気な顔に良く似合った派手で誰もの目を惹きつけているし、ニナは薄い青と白のシンプルなドレスで見た者は皆微笑みを浮かべている。
そんな二人に挟まれたガナーシャは、唯一の貴族のはずなのに一番自分が似合っていないような気がして色んな意味で汗が止まらなかった。
そして、話題を逸らそうと一番後ろの黒の軍服のようなデザインのスラリとしたデザインの服を着こなすケンに助けを求める。
「ケンは、どう思う?」
「知らねえ」
「そ、そっか……」
ケンはこの三日間ずっとこの調子で、ガナーシャだけでなく、リアやニナも心配そうに見ていた。
アシナガ宛の伝言もガナーシャに送られてくることがなかった。
本来のケンであれば、こういった格好のいい服を着るとそわそわしながらも嬉しそうな気配が漂っている。
「ねえ、よっぽどこの前の戦闘が堪えたのかしらね……?」
リアが悲しそうな瞳でガナーシャに耳打ちをしてくる。
「そう、ですね……これ以上長引くようであれば、ちょっと相談しましょう」
「おお! リア殿、ニナ殿、ケン殿、ガナーシャ殿! よく来られました!」
その時、リア達に向かって声が掛けられる。
声の主は、少し遠い所からゆっくりと近づいてくる。
緩やかなウェーブのかかった金髪をまとめた軽鎧姿の女性。
「ミレニア副騎士団長」
リアがそう声を掛けると、女性は柔らかく微笑み手を差し出す。
「お待ちしておりました。今日はお越しくださりありがとうございます」
そう言いながら、ミレニアはリアと握手を交わす。
「また、先日はご協力いただきありがとうございました。第三騎士団を代表し、お礼申し上げます」
「いや、そんな……力になれていたのなら何よりです」
第三騎士団。
ウワンデラ王国では、五つの騎士団が中心となり、国の守護を担っていた。
ミレニアはその中でも第三騎士団の副団長であり、王国の中でもそれなりの地位。
そんな人物に頭を下げられ、リア達も困惑する。
その様子に構うことなく、ミレニアはにこりと微笑み、奥にいるケンへと声を掛ける。
「ケン殿、傷の具合はどうだ?」
「別に。どうってことは、ない、です」
「そうか、それならばよかった」
ケンは目を伏せながらも、出来るだけ丁寧な口調でミレニアに応える。
ケンにとって騎士は憧れだ。だが、先日の戦いで荒れているケンが何か暴言を吐かないかと心配で足を擦っていたガナーシャはほっと溜息をつく。
「では、こちらへどうぞ。姫がお待ちです」
ガナーシャは再び足を擦り始める。
ミレニア達第三騎士団がタナゴロにやってきたのは盗賊討伐の為ではなかった。
偶然であり、その偶然のお陰で、実はもう一つ襲われていた領主の館が守られたので、これもまた不幸中の幸いでしたとミレニアは苦笑していた。
彼女たちは、ある人物の護衛でやってきたのだった。
その人物が今から向かう先にいるということで、ガナーシャは足を擦り、リアは目に見えて緊張していた。
「オパール王女、ミレニアです。よろしいでしょうか」
「入りなさい」
その声を合図に扉が開かれるとそこには、美しく長い白髪の美女が微笑んで待っていた。
「来てくれてありがとう。ウワンデラ王国、第三王女、オパール=ウワンデラよ」
「お、お目にかかることが出来、光栄です。【歩む者達】リーダー、リアでございます」
「ふふ、美しい英雄候補ね。……お前たち、お前たちがいては英雄候補の皆も緊張してしまうわ。下がりなさい。ミレニアがいれば大丈夫だから」
オパールがそう言うと、侍女やミレニアに付いてきていた兵たちは、しぶしぶながら部屋を出ていく。そして、扉が閉じられると……。
「あああー! 窮屈だったわ! ねえ、そう思いません? 皆さん!」
そう大声で言ったのはオパールで、リア達は目を白黒させる。
「オパール様、気を抜きすぎです。皆さんが戸惑っているではありませんか」
「あら、ごめんなさいね。私、こっちが素なの。あの人たちがいないところでは、こうさせて、王女命令でよろしくね」
オパールが片目をパチリと閉じて悪戯っぽく笑うと、ミレニアは額に手を当て大きなため息を吐く。
「と、いうわけで、オパール様にはあまり構えないでいてくれますか? オパール様はそういう対応を望まれる方なのです」
「は、はあ……まあ、そういうことなら」
「ありがとー! それにしても、びっくりね。こんなに若くてかわいい子達が、ミレニアも手こずった盗賊を追い払っただなんて」
オパールは、戸惑うリアに抱き着いてそのまま至近距離でまじまじとリアの顔を眺めうんうんと頷いている。
「あ、あはは……正確には逃げられたんですけど」
「何言ってるの? ミレニアの年知ってる? 彼女ね」
「おほん、オパール様、それは今関係ある話ですか?」
ミレニアの咳払いでオパールはちろりと舌を小さく出すとリアから離れる。
「いいじゃない、別に。私と変わらないくらいなんだから。ま、いいわ。改めて、盗賊の撃退及び捕縛の協力ありがとう」
「いえ、本当にアタシ達は何も……あの大男は逃がしちゃったし」
覆面の大男には手も足も出ず、リア達はやられた。
その時の事を思い出したのかリアは悔しそうに顔を歪ませる。
「何もなんてことは絶対にないわ。だって、貴方達のお陰で大男以外の賊は捕らえられたんですもの。ねえ、ミレニア」
「はい、その通りです」
「そして、今日ここに呼んだのは他でもないの。貴方達に依頼をしたくて」
「依頼、ですか?」
俯き唇をかみしめていたリアに代わり、ニナがオパールに向かって問いかける。
と、その時、扉からノックの音が。
「オパール王女、冒険者ギルドより客人がお越しです」
「丁度来たみたいね。入りなさい」
オパールの合図で扉が開かれると、そこにいたは兵と冒険者ギルドのギルド長サーラ、そして、アキだった。
「サーラギルド長に、アキさん?」
「やあ、英雄候補殿、と、ガナーシャ殿」
相変わらず美しい姿勢できりっと立ったサーラが眼鏡をくいと上げながらガナーシャ達に話しかける。一方で、その後ろでしがみついているアキは、ジャイアントベアの檻に入れられたスライムのようにプルプルしていた。
「よく来てくれたわね、入りなさい。貴方は、ご苦労様。下がって構いません……いやー、ごめんなさいね。来てもらって。私が行くわけにはいかないからさ!」
「オパール王女、ご無沙汰しております。相変わらずのご様子で」
オパールがばしばしとサーラの肩を叩くと、その手を抑えてサーラは話しかける。
その様子を見て、ニナはあらと頬に手を添え、リアはきょろきょろと二人の間で視線をせわしなく動かす。
「え? え? ギルド長、王女様とお知り合いなんですか?」
「そうなのよ、サーラと、ミレニアと、私は昔からの付き合いでね。仲いいのよ」
「それで。オパール様。ご用件は? 英雄候補達の担当も連れて来いということでしたが」
サーラのその言葉にびくりと肩を震わせるリア達担当のアキ。
助けを求めるようにガナーシャを見つめてくるが、ガナーシャには困り笑顔を見せることしか出来ない。
そして、そんな二人の目での会話を打ち破る様にオパールが手を叩く。
「そう! 英雄候補達に指名依頼をお願いしたいのです。先日彼女たちが捕えてくれた賊たちに吐かせたところ、奴らのアジトが発覚したのです。ただし、拠点を3つ持っているらしくミレニアと相談したところ、逃がさないためにも同時撃破が望ましいと。そこで、そのアジトの一つを潰すのに貴方達【歩む者達】の力を借りたいの!」
「はあ、王族の命令であれば、ことわ……まあ、手順を踏んでくださる方が良いのは間違いありませんな」
サーラは言いかけた言葉の途中でガナーシャが視界に入り、にやりと微笑み眼鏡を上げながら言い直す。そして、オパールも意味ありげにガナーシャの方を見るのでガナーシャはずっと足が痛い。
「でしょお~。ねえ、担当の人、この依頼受けてほしいのだけど。貴方からも言ってくれないかしら」
「は、はい! そうですよね! 盗賊なんて、ゆ、許せませんもんね! ね、ねえ、ガガガナーシャさん! まさか、ここ断らないですよねえ!」
アキが涙目でガナーシャに迫る。王族に逆らえば大変なことになる。だから、普通どんなパーティーも断らないのだが、混乱しているアキにはそんな事は思いついておらず、ただただなんとかガナーシャ達に依頼を引き受けさせようと必死にしがみつく。
「ちょ……アキさん、その、む、ね、が……」
アキの大きな胸がガナーシャの腕を挟み、だが、動けばまたいらぬ刺激を与えるとガナーシャはただただ青い顔をしてアキに目で訴えかけるが、逆効果。アキにはガナーシャのその表情が断りたい様子に見えて、より強くガナーシャの腕を抱きしめる。
「ふふふ、ねえ、冒険者のおじさま、お願いだから引き受けてくださらないかしら」
王族に逆らえば大変なことになる。なので、普通どんな冒険者パーティーも断らないのだが、何故かオパールは楽しそうな顔でガナーシャに抱き着く。
「お、オパール様! 何を!」
王族なので抵抗も出来ずただ悲鳴のような声を漏らすガナーシャの耳にオパールは顔を寄せ囁く。
「叔母様からの伝言です。『貸しの何分の一かは返したことにしてあげるからお願いね』だそうです」
そう囁いたオパールが顔を離すと、ガナーシャはギギギとオパールの方を向き涙目で小さくうなずく。
「わ、かりました……というより、拒否権なんてないでしょ」
「普通の冒険者ならね……ほら、英雄候補だし?」
オパールがそう言った英雄候補の美少女二人は、
「ガナーシャの、ばか……」
一人は涙目でガナーシャを。
「うふふ……詳しいお話を伺わないとですね」
一人は細めた目でガナーシャを見つめ、ガナーシャの足をとっても痛くさせていた。
そして、もう一人の英雄候補の少年は、拳を握り、決意の目でその拳を見つめていた。
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