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第33話後半 おじさんは圧倒的な能力差に勝てない

「だあ! らあっ! くそがぁああ!」


 ケンが覆面の大男に向かって、嵐のような連撃を仕掛けるが、すべてがいなされていく。


「はっはっはあ! 短剣相手にスピード勝負すんのが小僧だな。おい、アンタ! 手を出さなくていいのか!?」


 男はケンの攻撃を流しながら、ガナーシャに向かって話しかける。

 その様子がよりケンの怒りを増幅させ、攻撃はより激しさを増すのだが、それでも男には届かない。


「おいおい! 息切れてるぞ! 小僧! 己の分を知らねえからそうなるんだ、よっ……!」


 男がケンの振り下ろした渾身の一撃を受け止め乱れた呼吸の隙を突いて大きく跳ね上げる。

 そして、思い切り振って溜めた右脚の蹴り、ではなく、左肩から体当たりを喰らわせケンを吹き飛ばす。


「ぐっ、あっ!」

「なるほどなるほど、本当にもったいねえなあ」


 男は首をコキコキと鳴らしながらガナーシャを見る。


「お、い……お前の相手は、俺だろうが……!」


 そんな男に向かってケンが、荒い呼吸で話しかける。口からは涎を垂らし苦しそうな表情を浮かべそれでもなお立とうと剣を地面に突き立てる。


「ったく、さっきも言ったろう。己の分を知れって。ん? 言ったか? まあいいや。自分がどれくれえ弱いのかも分からねえ小僧がしゃしゃり出てくるな。ここまでので分かっただろう? 上には上がいる。お前より俺が上だ」


 そう言うと男は、足音も立てずにケンに近づく。

 そして、先ほどのケンと同じように左右から連撃を打ち込んでいくが早さが段違いでケンは防戦一方となる。


「くっ、そっ……!」

「圧倒的に速さが違うだろうが! 力も俺の方が上だ! これでもまだ分からねえか。小僧!」


(剣が、重たい……! くそ! 早さも体力も剣に奪われちまう!)


「これで……決まりだ」


 男はそう呟くと、力任せに短剣を振るい、ケンの剣にわずかな罅を入れ、弾き飛ばす。そして、そのまま短剣を逆手に持ち替えケンに突き刺そうと迫る。

 ケンは弾かれ浮かび上がった態勢のままなんとか男の短剣を防ごうと罅の入った剣を構える。が、


「ケン! 背中だ!」


 ガナーシャの声が響いてすぐに破裂したような音。

 男は、短剣を構えたまま下半身を逆に捻じり引き戻す力でケンの背中に蹴りが入っていた。


「かはっ! く、そ……背中か」


 ケンが呻くようにそう言い、身体をまわそうとすると、


「いちいち反応するなよ、小僧」


 蹴り上げた足で地面を踏みしめた男が腰をしっかり落としながら笑ったような声を覆面の奥から零す。

 そして、逆手で持っていた短剣をケンに向かって斜めに振り下ろす。


「なっ……?」


 それは、ケンの声か、男の声か。

 男の振った短剣は空を切っていた。

 痛みをこらえながら動こうとしたケンが足を滑らせ、そのまま地面に寝ころぶ形となり、男の視界から消えたのだった。

 だが、男はすぐに今度は順手に持ち替え、腰近くで引き絞り、寝ころぶケンの脇腹を狙う。


「じゃあな、小僧……!」

「いや、それはまだちょっとやめてほしいんだけど」


 ぱし。

 と、軽い音が男の手首あたりから聞こえ、カチカチのおっさんの手が抑えている。

 いや、正確にはわずかに軌道を変えただけだが、ケンの腹の上数センチ上を通り過ぎる。

 ガナーシャは地面すれすれまで低く構えながら男に背を向ける形。

 背中越しに見えるおっさんの顔に男は小さくため息を漏らす。


「くそ……気配消すのうますぎるだろ」

「ははは、そうしないと死んじゃうくらい弱いからね」


 ガナーシャが困ったように笑いながら、そのまま右手を添えて、流そうと押し出すが男の腕はびくともしない。


「うーん……ここまで力の差があるなんてね」

「ここまで力の差があって、ここまで出来るヤツが言うな。しかも、オレが動き出した瞬間にもう動いてやがった。読んでたのか?」

「勘です。勘」

「ふん、そっちのほうがこええ、よっ!」

「がは!」


 くぐもった男の笑い声。そして、その後、男の膝蹴りがガナーシャの左わき腹を打つ。

 そして、そのままガナーシャは派手に吹っ飛んで地面を滑る。


「「「ガナーシャ(さん)!」」」

「はは、あの状況で、力を抜けるのか。もっと力があれば強くなれたかもしれねえのに残念だったな」


 ガナーシャは男の右手を押そうと体重をかけていたが男の腕力は強すぎてびくともせず、そのままの体勢で膝蹴りを見舞う。

 飛んでくる男の膝にガナーシャは反応し、押すためにかけていた体重も抜いて、ふわりと跳んだ、というより浮かんだ。本来であれば、誰もが痛みに耐える為に身体を固くさせる。

 だが、ガナーシャは思い切り膝に蹴られにいった。力の抜いた身体は簡単に吹っ飛んだが簡単に飛んだ分、逆に痛みが軽減される。それを理解していた男は感心の声と同時に残念そうな声を漏らす。


 もし、ガナーシャに男と同等の腕力や速さがあれば、いい勝負ができたであろうと。


「まあ、それも運命ってやつだな。弱者に生まれた運命を恨んでくれやって、うお!」


 突然、背後から飛んできた炎の球を慌てて男は躱す。

 そして、態勢を整え顔を上げると、そこには黒みを帯びた火球を構えたリアの姿。


「アタシの仲間によくも……!」

「おいおい、全員やられたのかよ……ま、流石英雄候補様ってところか。だが、まだ」


 男は、懐から取り出した投擲武器をニナとリアに投げつける。

 すかさず躱す二人。


「あぶな! ……! アイツは?」

「リア、後ろ!」

「え?」

「まだ候補だなあ……ははは、い~い匂いがするなあ、孤児とは思えねえ」


 男は、いつの間にかリアの背後に回り込み首元に短剣を当てている。


「ふっふっふ、ついでだ。一人くらい貰っていく、か……!」


 男が言い終える前に、自身の身体の変化に、リアに回した腕がおかしいことに気づき、慌てて飛びのく。


「アンタが、触んジャないわヨ……!」

「なんだあ、結界魔法かなんかか。ち、本当に面倒な連中だ。だが、ますます欲しく……」

「きゃああああああ!」


 男がリアに再び飛び掛かろうとしたその時、女の叫び声が響き渡る。


「ね、ねえちゃん!」

「トス! こっちにおいで!」


 路地裏から飛び出してきた姉弟らしき二人組が身体を固くして抱き合っていた。


「くそ! 最悪な時に……おい、テメエら! 盗賊だ! やられたくなかったら」

「やれやれ、もうそんな時間たったか。騎士団もこっちに来てるみたいだし。仕方ねえ、ずらかるか。……そのガキ共を人質になあ!」


 男が、隙を突いて抱き合う二人へと駆け出す。

 しかし、


「やらせるかあ、くそがぁあああ!」


 ガキィイン!


 肩で息をしながら、必死に追いついたケンが振るった剣が男を襲い、男は短剣で何とかその攻撃を防ぎ、着地する。


「ほおお、まだ動けるか。……いや、オレの腕が……は、はははは! 盗賊相手に毒使うとはなあ! やるなあ! あーあ! 本当にもう少し若いか、弱くなけりゃあなあ!」


 男は自身の少しだけ赤く腫れた右手首を見て、じいっとこっちを観察しているガナーシャを見た。


「どこ、見てんだよ。まだだ、まだ」

「まだじゃねえよ、もうだ。もうオメエは負けてるんだよ、理解しろ。小僧。しかし、オメエみたいなただの小僧はいらねえが、あの女どもは欲しいなあ」

「やらねえよ、ぼけぇ」

「小僧がのたまうな。いいか、弱肉強食ってやつだ。弱けりゃ喰われるだけだ。オメエは弱い。オレは強い。だた、それだけの話だ。騎士団も来た。じゃあな、負け犬小僧」


 男はそう言うと、夜の闇へと消えていく。

 そして、それを追うように軽鎧を身にまとった騎士団が現れ、男を追う。


「追え! 奴を逃がすな!」


 嵐のように現れ、そのまま通り過ぎていく騎士団。


「貴方達は? やつらと戦ったのですか!? お話をお伺いしても?」


 残ったリア達に話しかける騎士の青年。

 それをぼーっと眺めながらケンは近づいてきたガナーシャに呟く。


「おっさん、俺は、負けたのか?」

「……そうですね、今回は完全に僕らの負けです」

「そっか、そっか……うあ、うあああああああああああああああ!」


 ケンの叫びが夜のタナゴロに響き渡る。

 その姿をガナーシャはそっと見守り続けた。

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