第32話 おっさんは無邪気な子供には勝てない
ガナーシャ達がイチカの村からタナゴロに戻ってこれたのは夜遅くだった。
イチカの村で午後には元の状態に戻っていたリアとケンだったが、ケンは不甲斐ない自分に喝を入れる為にと村の外へ修行に出て、リアはガナーシャをチラチラと見てニナを連れてどこかに出かけてしまった。
なので、ガナーシャは手持無沙汰になり、村をぷらぷらと見て回ることになった。
「あ、おっさん!」
ガナーシャが声に振り返ると昨日、女湯を覗こうとしていた子供たちがこっちを見ていた。
「やあ、君達、おじさんちょっと今時間潰しててさ。よかったらなんか話聞かせてくれない? お菓子あげるから」
そういってガナーシャは袋にいれていた菓子を子供たちに見せる。一瞬、戸惑いを見せたが菓子の誘惑には勝てなかったのか一気に群がりだす。
だが、一人だけその中に加わらない子供がいた。
昨日、リアに突っかかっていた子供だ。
「君は、いらないの?」
「敵のほどこしなんていらねーよ」
「あはは」
ガナーシャが大きな声で笑うと男の子は拳を振り上げて怒ってくる。
「な、なにがおかしいんだよ!?」
「いや、ほどこしじゃないよ。情報交換の為の報酬って奴さ」
「なに!? ……なるほど、そうか。じゃ、じゃあ、しょうがねえなあ。ほうしゅうをもらうのは冒険者の嗜みだからな」
そう言ってその男の子もガナーシャから菓子を受け取る。
そして、わいわいがやがやとおっさんと子供たちがお菓子をほおばり始める。
「君の名前は?」
「コガン。なあ、おっさんさ。冒険者なんだろ? 強い?」
「んー、強くはないな」
「なんだ、弱いのかよ」
残念そうな声で口をとがらせるコガンを見てガナーシャは困ったように笑う。
「コガンは強い冒険者が好きなの」
「そりゃ強い方がいいだろ。英雄になりたいからな」
「そっか、じゃあ、昨日のお姉ちゃんたちには失礼なこと言わない方がいいよ」
「なんで?」
「三人とも英雄候補だから」
ガナーシャがそう言うと、コガンは目を見開きガナーシャの方を向く。
口をパクパクさせながら必死に言葉を探してやっと絞りだす。
「そ、そうなの!? ……おっさんは?」
「おっさんは、違う」
「なんだ、違うのか」
「なんで、コガンは英雄になりたいの?」
「英雄になったら金持ちになれるから……」
ガナーシャは、いつもの苦笑いを浮かべながらコガンを見る。だが、コガンの目は薄暗くじいっと何かを見つめていた。
その眼を見てガナーシャはいつかの全てを奪われた少年の目と重ねる。
「コガン、君は……」
ガナーシャが声を掛けようとすると、どこかを見ていたコガンが何かに気が付いたように再び目を見開く。その視線をガナーシャが追うと、村の入り口に人だかりができていた。そして、その人だかりの中心には、何かを文字通り山ほど引きずっているケンがいた。
「あれは……」
「亀馬だ! すっげーあの兄ちゃん。あんなに亀馬ぶっころしたのかよ。すげー!」
そう言ってコガンはケンのいる入口の方へと駆け出す。そして、わああっと歓声をあげながら他の子供たちも駆け出していく。
ガナーシャが少し遅れて足を引きずりながら近づくとケンが気づいて小さく手を挙げる。
「ケン、これは……?」
「亀馬の死体だよ。昨日、温泉に来てたじいさんに聞いたんだが。この村、例の潰された賊にボロボロにされて、まだ大分苦しいらしくてよ。亀馬なら甲羅なりなんなり金にすればいいと思って、昨日狩った分で使えそうなのと、今日も何匹か状態良いようにぶった切って持ってきた」
「すげーな! あんちゃん! ありがとう! 俺たちみんなに伝えてくる! あ、おっさんももっとがんばれよ」
そう言ってコガン達は村の大人を呼びに行く。
ケンはガナーシャの視線に気づき。そっぽを向きながら、だけど、しっかりした声で。
「騎士ってのは、困ってる奴らを助けるもんだろう?」
ケンは少し顔を赤くしながらガナーシャにそう言った。
ガナーシャは優しい目でケンを見ながら同意する。
「そうだね。今のケンは騎士みたいだよ」
「……おう、そっか」
その後、村の人々にとても感謝されて、ニナとリアが帰ってきたところで、お礼の宴がささやかに開かれた。リアはまだガナーシャをちらちら見てはニナの陰に隠れていた。
そうしてタナゴロにたどり着いたのは夜遅くだった。
「ひとまず、宿に戻ろうか。冒険者ギルドは明日にしましょ」
「し。三人とも魔力探知を広げてもらえますか」
口元に指を当てながら囁くガナーシャの声に一瞬で反応した三人は魔力探知を広げる。
「……凄い速さで移動しているのが3人、いや、4人?」
「魔法使いはいなさそうですね。コソ泥ではなさそうですね。かなりの強さです」
「真ん中から来るのが一番強そうだな。っていうか、なんでおっさんはそれに気づけるんだよ?」
「あはは、勘です。それより、どうしますか? リアさん」
ケンに呆れたように言われ、ガナーシャは頭を掻く。
そして、リーダーであるリアの判断を仰ぐ。
恐らく賊の類。だが、今は夜中。出会わなかった、気づかなかったで隠れておけば誰も咎める者はいないし、危険は確実だった。
それでも、リアは、迷いのない声で3人を見て口を開く。
「どう考えても盗賊とかそういうのでしょ。アタシは捕まえたい」
ガナーシャはリアの言葉にゆっくりと微笑みながら頷く。
ケンは当然とばかりに剣を抜いて、ニナは口元に手を当て笑っている。
「おそらく相手は状態異常にさせる何かを持っているはず。少なくともそれを治癒できる僕かニナは一緒じゃないと駄目だ、動けるのは二組まで」
「分かった。もし相手が散らばったら……じゃ、じゃあ、ニナはアタシに付いて、ガ、ガナーシャはケンに。接敵まであまり時間ないわ。集中して」
「お前がな」「うふふ、はい」「わかった」
それぞれが戦いやすい位置取りに動いている時ガナーシャがリアに声を掛ける。
「あ、リア」
「な、なに? ガナーシャ?」
暗くてはっきりは見えないが焦った様子のリアがガナーシャの声にびくりと反応する。
「念のため、相手が見えたら〈火球〉をうってくれる?」
ガナーシャのその言葉に、さっきまでの浮足立っていた様子が嘘のように静かに冷静な声が返される。
「……わかったわ。一番強そうなのにでいい?」
「いや、僕の投げたものに」
その時、覆面を付けた4人が現れる。
「今!」
「……! 〈火球〉!」
リアがガナーシャの合図で略式詠唱の火球をガナーシャが投げた何かに向かって放つ。
すると、火の球がそれに触れた瞬間破裂音が響き渡る。
「ち。厄介な真似を……」
くぐもった声を出しながら大柄の男が剣を抜く。
「というわけで、相手は後ろ暗い連中です。そして、今ので、色んな人たちが動き出すはずで、相手は焦っているかもしれません。それらを踏まえたうえで、気を付けて戦いましょう」
「おっさん……やっぱあんた怖いわ」
ケンはそう言って笑った。
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変態だらけのローファンタジー!
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