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第30話 天才魔法少女の愛はいっぱい

「ガナーシャ! そっちいったわよ!」

「リア、こっちは大丈夫だからニナを!」

「……! わかったわよ! 馬鹿!」


 リアに向かって叫んだガナーシャは三匹の小鬼ゴブリンに囲まれる。



 ガナーシャたちが引き受けた今日の依頼は【セイメ山】での魔物討伐だった。

 セイメ山はタナゴロ付近のダンジョンでも多種多様な魔物が生息するダンジョンで、獣系は勿論、鳥型、霊、スライム、虫、蛇、そして、小鬼ゴブリンのような亜人系も生息している。

 ガナーシャたちは今、正にそのセイメ山の魔物のバラエティ豊かさを実感させられるくらい多くの魔物に囲まれていた。

 しかし、それはリア達が相手する予定の魔物ではなかった。魔力探知で単体や小さな集団を狙っていたリア達だったが、同じようにセイメ山での魔物討伐を引き受けたリア達よりも上位のパーティーが不用意に山の上へと向かって、魔物の大集団と出くわしてしまった。

 そして、そこから逃げだしたものの、どんどんと追いかける魔物の数が増えた。


 それは間違いなく上位パーティーがセイメ山を侮った証拠であり自業自得ともいえるのだが、


「助けるわよ」


 と、リアの一言で援護することが決まった。

 だが、誤算だったのは、そのパーティーがリア達と合流出来て油断し、五人中二人が負傷・気絶したこと。三人パーティーであることと五人パーティーで負傷者二人の残り三人では意味が全く異なる。負傷者をフォローしながら戦わねばならないし、通常のフォーメーションも作れない。

 そして、その半壊ともいえるパーティーをフォローしながらも戦闘となるガナーシャたちへの負担も大きい。

 最初にリアの長い詠唱による高位魔法と、ケンとガナーシャが協力して作った罠により半数の魔物を倒したが、それでもかなりの数。そして、何より以前の【黒犬の塒】での戦闘と違い全方位から襲われる危険性がある。

 圧倒的な不利な状態での戦闘。それでも、リア達は強かった。

 ガナーシャの提案で、考えていたいくつかのパーティーが分かれた場合を想定したフォーメーションとして、今回は、ニナを別パーティーに合流させ、リア・ケン・ガナーシャの三人のコンビネーションで戦った。

 ケンが近接、リアが遠距離でフォローし、ガナーシャはリアのカバーとアイテムによる回復係。ケンのバランスをうまくとったヒット&アウェイと、なによりリアとガナーシャの阿吽のコンビネーションにより一気に倒すことが出来た。


 だが、ニナが守るパーティーは、リーダーが気絶してしまったらしく戦線は崩れニナが一人気を吐いていた。

 残党をケンに任せ、ニナ達を助けに来たリア達に小鬼ゴブリンが襲い掛かったのだ。

そして、ガナーシャはリアに向かって叫び、《嫌悪》の黒魔法を駆使して、小鬼の意識をガナーシャに向ける。



「こっちだ! 来いよ!」


 ガナーシャの声に、弱い者を狙うのが習性である小鬼達が襲い掛かる。


「〈潤滑〉」(と、〈弱化〉〈弱化〉〈弱化〉)!)


 〈潤滑〉によって小鬼の足を滑らせ、無詠唱の〈弱化〉で立ち上がりを遅くさせ、時間を稼ぐ。しかも、一匹ずつ〈弱化〉の位置を変えて、ガナーシャにたどり着くタイミングをズラす。ずらされた小鬼達は一匹ずつ襲い掛かることになったのに気づかず雄たけびをあげながらガナーシャに襲い掛かる。

 ガナーシャは先頭の小鬼の体重移動を見極めながらこん棒の一撃をかすりながらも躱す。そして、すれ違いざまに〈暗黒〉で視界を奪い、前方の小鬼にも〈暗黒〉。

 視界を奪われた二体の小鬼は屈んだガナーシャに気づかず互いにこん棒で打ち合う。

 だが、ガナーシャは弱い。かすったダメージと一瞬で〈暗黒〉が解けた手負いの二匹と、無傷の一匹に囲まれ袋叩きにあう。

 よろよろと動きながらもガナーシャはじっと三匹の動きを見つめながら〈弱化〉を駆使し、出来るだけダメージを軽減させる。

 その限界が訪れかけた瞬間。


「何やってんのよ」


 怒りに燃える瞳で小鬼を見つめるリアの声が響き渡る。

 そして、


「〈大火球〉」


 僅かに黒みを帯びた巨大な火球が小鬼三匹を飲み込み燃やし尽くした。


「あ、ありがとう、リア」

「何やってんのよ! ガナーシャ!」


 ガナーシャが礼を言おうと近づくと、目を吊り上げたリアがガナーシャに詰め寄る。

 だが、ガナーシャの傷にそっと触ると瞳を潤ませガナーシャを見上げる。


「ばか……死んじゃったら、どうするのよ……せっかく、仲間になれたのに……」

「……大丈夫、死にはしないよ」

「そんなのわかんないでしょ! ばか!」


 ガナーシャの困り笑顔での一言に、リアは顔を真っ赤にして怒鳴りつけ、背を向ける。


「アタシがとっとと終わらせるから、ガナーシャはニナのところまでいって、治癒してもらうこと。リーダー命令よ」

「分かった、リーダー」


 残党を狩り終えたケンとリアは合流し、一気に敵を倒し始めたのを見ながら、ガナーシャはニナのところに向かう。


「ニナ、治癒してもらえるかな。リーダー命令で」

「うふふ、仲良くなって何よりです」


 リアによって焼かれた魔物達の死体に囲まれながらニナが笑う。

 ガナーシャは治癒を受けながら周りを見渡す。

 もう残ったのはリア達が相手にしている大型の魔物のみ。

 その魔物もリアに翻弄されている。


「すごいな……」

「リアですよね。昨日までとは別人のようです。特に動きが軽やかになりましたね」


 そう、ニナの言う通りリアの動きがとても軽快になっていた。まるで風に乗って舞うような妖精のように。


「ガナーシャさんのお陰ですかね」

「うーん、だったらいいけど」


 ガナーシャは右手の小指をちらりと眺め笑う。

 その時リアが宙に舞い上がり、大型の魔物の頭を焼き尽くし戦闘は終了した。

 リアはガナーシャたちの方を見て笑顔で手を振っていた。

 ガナーシャも笑顔でリアに応えた。



「ガナーシャさん! 大丈夫でした!? 怖くなかったですか? 私が慰めてあげましょうか」


 ガナーシャは困り笑顔でアキに応えた。

 討伐を終え冒険者ギルドでの報告をし始めたら事態の異常さを徐々に理解し始めた受付のアキがいきなりガナーシャの体中を触り始めたのだ。

 そして、隣にいたリア、更に、後ろでケンと一緒に待っているニナの圧でガナーシャの足はとてもいたくなった。


「あのー、アキさん……ウチのパーティーメンバーにあまりべたべたしないでもらえますか?」

「え……? でも、前からこんなでしたけど」

「ま、前からでもなんでもダメなものはダメなんです! ほら、行くわよ! ガナーシャ!」


 リアがガナーシャの肘を引っ張り無理やり立たせて去ろうとする。

 確かにほぼ説明も終わってるし報酬も貰ったのでここにとどまる必要はない。

 だが、ニナの圧が怖くてガナーシャは席を離れるのをためらっていた。


 ガナーシャの腹がじくじくと痛む。

 その上、


(分かってるよ)


 肘を掴んでいるリアの右手小指がガナーシャをつっついてくる。

 慌てて席を離れるガナーシャたちを見て、アキは手を振る。


「ガ、ガナーシャさん! お大事に! それじゃあ、次の依頼もお願いしますね! 【歩む者達(ウォーカーズ)】の皆さん!」




 リアはアキを一度睨みつけべーと舌を出して、ケンは呆れたような顔で、ニナは圧ある笑みをガナーシャに向けながら、そして、ガナーシャはいつものように苦笑いを浮かべながら揃って宿へ戻ろうと歩き始めた。

 ガナーシャの引きずる足に合わせてゆっくりと。


『アシナガ様へ パーティーの名を決めました』


『【歩む者達】にしました』


『アシナガ様の紋である足にまつわる何かがつけたかったのですが、未熟だけど頑張って進むアタシ達と、新しく加わったガナーシャが引きずる足、それでも、前に一緒に進んでいけるよう願いを込めました』


『おじさんに言われたんです。『好きなものを増やせば増やすほど好きな世界に変わる』と』


『そして、アタシは初めてケン達以外の人を好きになれた気がします。でも、アシナガ様が一番ですけど。アシナガ様。キミは愛されていいって言ってくれましたよね? うれしかった』


『でも、それでもアタシはどこかで怖がってた。外の世界に出るのが怖くて身体も足も重かった』


『でも、今日は違ったんです。一番は絶対アシナガ様の言葉です。でも、おじさんの、ガナーシャの言葉も背中を押してくれた気がします』


『あの、ちょっと誤解はしないでほしいのですが、アシナガ様以外で初めて自分から好きになって好きになってもらいたいと思ったかもしれません』


『おじさんですけど』


『アシナガ様、ありがとう』


『リアは今、生きててたのしいです』


『今、心からそう思っています。本当の意味で前に進めている気がします。新しいアタシを見守ってくださるとうれしいです。大好きです。いっぱいいっぱい大好きです』


『リアより』





愛に生きる少女編 完

お読みくださりありがとうございます。

リア編①完結です! 


明日からケン編となります。


だぶんぐるの人物の描き方嫌いじゃないぜって方はぜひこちらも!

『クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~』

https://ncode.syosetu.com/n6472hv/



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― 新着の感想 ―
[一言] 地味にケンお気に入りなので期待
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