第26話前半 おじさんは微笑聖女に怒られることがいっぱい
「おら、行くぞ。歩け」
その後、ウーゴ達をあっという間に倒したケンは、捕縛し冒険者ギルドへ向かうよう促した。三人は、指、手首、二の腕から胴体、そして、足同士もなんとか歩ける幅しか広げられないように結ばれて、さらに、口にも咬まされ、三人が繋がれ、一切の隙の無い状態だったため諦めたような表情で歩き出す。
「あらあら、ケンお疲れ様でした」
その時、短い銀髪の少女が現れ、ケンをねぎらう。ニナだ。ニナは微笑みを浮かべたまま、ケンをねぎらうが、ケンは表情を変えずニナを睨みつけている。
「はん、途中から見てたくせに良く言うぜ」
「ええ、とても素晴らしい戦いっぷりでした。だけど、どうしたんですか、ケン。その割に浮かない表情ですね」
「別に……」
ケンは理解していた。自分がそんな顔をしている理由を。
今日とった戦い方はアシナガに教えてもらったやり方だった。相手を確実に倒すためにウィークポイントを見定めどんどんと枷を増やしていく戦い方。
だが、イメージしたのは、
『僕が囮になります。僕の魔力は弱いので敵も勝てると思い込んで深追いしてくるはずです。目の前の敵が弱いことで相手が油断しているうちに徐々に削り取って、弱り切ったら一気にせん滅しましょう』
冴えないおっさんだった。それがケンの中では許せなかった。
自分よりガナーシャの方が強いと認めているようで悔しかった。
「だあああ! くそ! これは! 俺が弱いからだ! まだまだ!」
「うふふ」
ニナはその全てを理解していた。そして、ケン自身は気づいていないが、ガナーシャが自分より上の考えを持っている人物だと認めていることを、それがまた嬉しくて笑っていた。
だが、ケンはそんなニナの微笑みを見つめたままいぶかし気に口を開く。
「だけどよ、ニナ。お前もなんかイラついてないか?」
「え?」
その一言がニナにちくりと刺さり、気づく。その理由に。
「うふふ、ちょっとね、約束を途中ですっぽかされましてね……うふふ」
そう、ニナは怒っていた。自身の怒りに気づき震えながら笑うニナを見てケンもまた震えながら先を急ごうと三人組をせかし始める。
「そ、そうか……それは大変だったな。じゃ、じゃあ、俺は行くぞ」
三人組もニナの圧に気づいてか出来るだけ急いでこの場を離れようとするが、慌てたせいでつんのめりよたよたともつれ合う。そのもたつきにケンは舌打ちをするが、早くなるわけではない、ニナの視線に気づき話を探す。
「あー、リアは無事なんだよな?」
ケンにこの話をしに来たのはニナだった。
【大樹の導き】のリーダーであるレクサスがリアを攫おうとし失敗したこと、そして、他のメンバーも捕縛するようギルドから依頼があったこと、それをケンに頼みたい事、そして、それを了承してくれれば指定された場所で捕まえられるようおぜん立てするという事。
ケンは、二つ返事で引き受け、すぐさま準備を整えた。
だから、状況を今一番把握しているのはニナだった。
「ええ、大丈夫だそうです。魔力を使いすぎて今は疲れて部屋で眠っているそうですよ」
「そうか、ならいい」
「あら? ガナーシャさんは心配じゃないんですか?」
ぼそりと呟き歩き始めるケンをニナは呼び止める。ガナーシャがリアを迎えに行ったことはケンにも伝わっている。ケンは、ニナの言葉に足を止めると不機嫌そうに振り返り口を開く。
「おっさんはほっとけばいいだろ。あのおっさんは死なない死なせない事に関しちゃ最強だろ」
「うふふ、そうですね。じゃあ、ケンその人たちをお願いしますね。これで一件落着です」
そう告げるとニナは一人で歩き出す。
「どこ行くんだ?」
「ちょっと男性とイチャイチャしてきます」
「イチャッ……! ば、ばかが! そういうのは黙ってしてこいよ!」
ケンが顔を真っ赤にして三人組の尻を蹴って慌てて冒険者ギルドの方へ。
ニナはそれを笑顔で見送り、宿へと向かった。
「ああ、ニナちゃん。リアちゃんは部屋に戻ってきて寝てるよ。大分疲れた様子みたいだったけど」
「うふふ、らしいですね。無事で何よりです」
宿のおかみに声を掛けられて丁寧にお辞儀をしながら答えるニナに食堂で早めの夕食を済ませていた冒険者たちが見惚れる。
「あの、ガナーシャさんは?」
「ああ、ガナーシャさんかい? あの人は相変わらず足痛そうに引きずって部屋に戻っていったきり出てきてないよ。大丈夫かね、あの人」
「そうですか……ええ、大丈夫ですよ、あの人は。私が、守りますから」
「あらら、こりゃまあ。じゃあ、ついでに夕食持って行ってくれるかい? あの様子だと今日来ないんじゃないかと思うからさあ」
そう言って女将さんは、宿の夕食を大皿にまとめたものをニナに渡す。
飾らない豪快な性格の女将にニナも笑みをこぼす。
「ありがとうございます。持っていきますね」
ニナは自分の顔よりも大きな大皿を抱えてガナーシャの部屋に向かう。
すると、ニナの耳に冒険者たちのぼやきが聞こえてくる。
「あーあー、いいなあ、あのおっさんは、俺と代わったくれねえかな」
「本当にな、黒魔法使いだってことで選ばれたんだもんな」
ニナはその言葉を聞きながらぼそりとつぶやく。
「……節穴だらけのクソ虫が」
ニナは微笑みを絶やさぬまま毒づくとそのままガナーシャの部屋へと。
その後、そんなことを言っていた冒険者たちが不幸な事故にあったらしいが、ニナの呪詛のせいかは定かではない。
部屋の前にたどり着いたニナは手櫛で前髪を直すと、ドアをノックする。
「失礼しますね」
「ああ、ニナ。今日はごめんね」
ニナが部屋に入ってくると、ガナーシャは慌てて、右手を後ろに隠し下半身に毛布を掛けたまま口をひくつかせながら謝る。
その謝罪に、微動だにしない微笑みのままニナは口を開く。
「……それはどれに対してのごめんでしょうか? 私との食事の途中で抜け出したことのごめんですか? 私の知らないところで戦ったことに対するごめんですか? それとも、あのゴミ共を片付ける『雑用』をお願いしたことのごめんですか? それともそれとも、そんなに大けがをしたことのごめんですか?」
「あー……全部?」
正解だが正解だからこそ分かっているはずなのに実行したおじさんにニナは出来るだけの怒りを込めてほほ笑んだ。
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