番外編「若造は痛い目を見る」
その日、ゾワカは調子に乗っていた。
リア達、英雄候補に『冒険者』というものを分からせてやろうと同じダンジョンに潜り、『いやがらせ』を行った。
(冒険者ってのは蹴落とし合いだからなあ)
そう心で笑いながら、後ろをついて回っていたゾワカだったが、リア達の動きの遅さにあきれていた。
「おいおい、見ろよ、あれ、あんなにビビってとろとろとろとろ亀かよ」
「まったくアレで英雄候補だなんて笑っちまうな」
「おい! 見ろよ、とうとう本道の厳しさに耐えられなくなって脇道に入ったぞ」
そう言って、ガナーシャたちの動きを笑いながら追い抜いていく。
ゾワカはリア達が来るまでは、タナゴロ冒険者ギルドで期待のホープだった。
誰もがゾワカ達と組みたがり、ゾワカ達は自分たちに相応しいメンバーをと言いながら、冒険者たちを誘っては追放を繰り返していた。
「お前はオレ達についてこれない」
「お前は使えない」
「お前は……オレ達との差を分かっているのか?」
自分たちの仲間になりたがりすり寄ってくる奴らを、散々使った挙句に追放する。
自分たちが冒険者の生殺与奪の権利を握っていると感じゾワカは満たされていた。
その中でも一番だったのが、倍ほど年が違うガナーシャが声を掛けてきた時だった。
(ただただ後ろを付いてきて、指をこきこき鳴らしているだけ。惨めだな)
その日はいつになくダンジョンの深部まで進めて、自分たちの実力にガナーシャが圧倒されていると思い、快感に震えた。
それを何度か繰り返すうちに、ゾワカは、ガナーシャに飽きてきた。
ガナーシャは弱いだけで、ずっと同じように苦笑いをしていた。
それがなんだか馬鹿にされているようで、ゾワカの癇に障った。
そして、追放を告げると、
「ああ~……そっかあ……うん、今までありがとうね。じゃあ」
そう言って去っていくガナーシャを見てゾワカは自分が満たされていく感覚に感動さえ覚えていた。
(オレは選ばれた存在なんだ!)
ゾワカはそう思っていた。
だが、リア達、英雄候補が来たことで状況は一変する。
リア達は、ゾワカよりも大分若かったにも関わらず、圧倒的な実力でタナゴロでの依頼をこなしていった。
ゾワカは、まだ下級だからだと言いながらも内心は焦っていた。
なにより、周りの冒険者たちはゾワカ達をあざけり始めたのだ。
その理由はゾワカ達の冒険者の扱いが大きな原因だったのだが彼らはそれに気づかない。
また、類は友を呼び、素行も悪い冒険者たちがゾワカの元に集まったせいでゾワカはどんどんと増長していった。
極めつけは、リア達がガナーシャを仲間に入れた事だった。
自分が最も雑魚だと思っていた男が、自分たちを蹴落とした英雄候補の仲間になったために、ゾワカのプライドはズタズタにされた。
そんなリア達を追い抜いて進んでいく。
その喜びに酔いしれながらゾワカ達は【黒犬のあなぐら】を進んでいく。
(最近調子が悪かったのも気のせいだ。今日ここでオレ達の真価を見せつけてやるんだ)
ゾワカはそう意気込んでいたが、彼らは別の形で自分たちの本当の価値を知ることになる。
「な、なんで……こんなに苦戦してんだよ!」
本道を進むゾワカ達は、ようやく倒せた二匹の黒犬の前で悪態を吐いた。
ゾワカの予想では、あんなに簡単にリア達が倒せる黒犬なんて自分たちでもなんとかなると考えていた。
モンスターの情報をギルドから受け取りもせずに楽観的に考えていた結果だった。
その上、何度も罠にかかり足止めをくらったせいで、リア達の進行速度よりもはるかに遅いということは自覚しており、そのことがよりゾワカを焦らせる。
「くそ! あいつら絶対オレ達追い抜いたら笑いやがる! おい! 行くぞ! 急げ!」
ゾワカは慌てて、ダンジョンを進む。だが、罠にかかり、モンスターに苦戦し、どんどんとスピードは落ち、ダメージは増え、ボロボロになった。
そして、漸くたどり着いたダンジョン核前で、ほぼ無傷でけろりとした顔のリア達と出会う。
圧倒的な実力差にぎりと歯ぎしりをするが、それ以上に、ガナーシャが無傷でいることに腹が立った。自分たちより弱いおっさんが強者に張り付いて無傷でいるなんて間違っていると。
理不尽だと神を呪った。
そんな時だった。
聖女と呼ばれるニナがにこにこと微笑みながらこちらに歩いてきているのが見えた。
(は、はは……やはりオレ達の力が必要なんだろう。そうだ、オレ達が必要なんだろ)
「あ、ありがてえ……いやあ、今日はついてない日だったんだ。まさかあんな目に遭うなんて……実は」
「結構です。なるほど、こういうことですね」
ニナが何もせずに一人で納得したように頷くと、ゾワカはその行動に苛立ち思わず叫ぶ。
「お、おい、治療してくれないのかよ! 聖女なんだろ!?」
「聖女は人が勝手に呼んでいるだけです。私が治癒すべきと考えているのは、最善を尽くし傷ついた人、理不尽に傷つけられた人です。無意味に人を傷つけたり、傲慢さ故に傷ついたりした人には……ああ、そうそう、『馬鹿につける薬はない』ということです」
ニナはにこりと微笑みながら、ゾワカ達に言い放ちガナーシャの方を見る。
「ね? ガナーシャさん?」
(何故、その男に聞く! そんな役立たずに! くそ!)
そして、そのままゾワカ達を放置し話し合うリア達にどんどん怒りが募っていく。
「ふ、ふざけんなよ! くそが!」
ゾワカの言葉を無視し話し合うリア達はそのままダンジョン核へ向かおうとしたので、慌てて声を掛ける。
「おい! 待てよ! こら!」
動き出そうとしたリア達にゾワカはしつこく食い下がった。
「……なにか?」
「お、お前らな! オレの話を聞いてなかったのか? 今日は死ぬほどモンスターが多いんだよ! そういう時はパーティー同士で連携を組むのがセオリーだろうが!」
リアの冷たい視線にたじろぎながらもゾワカは叫んだが、リアは、分かりやすくため息を吐き視線を動かし、それがまた癪に障った。
「おい! どこ見てんだよ! ちゃんと人の話を聞け! 大人なめんな!」
「ああ、大人なんですね。さっき理屈の通らない子供の癇癪みたいな事を言ってたので勘違いしてました。でも、じゃあ、大人なら後片付けくらいちゃんとして欲しいわね」
「はあ? って言うかさっきから何を見、て……」
ゾワカが振り返るとそこには黒犬の群れ。
「な……!」
「ずいぶん、考えなしに暴れたみたいですね。本来縄張り意識の強い黒犬がここまで追ってくるなんて……」
「た、たす……」
「それ以上、喋らないで。〈火球〉」
再びリアの方を振り返ろうとしたゾワカの鼻先を火球がかすめて飛んでいき、ゾワカはひっと息をのむ。
そして、黒犬の群れに命中し3,4匹まとめて炭に変わる。
その様を見てあんぐりと口を開けたままのゾワカがゆっくりとリアの方を向く。
「あんたに求められるとやる気なくすから。アタシたちはアタシ達の為に、せん滅する。行くわよ!」
「おう!」「はい」「了解」
その戦いは圧倒的で、そして、一瞬だった。
英雄候補たちのその力に驚いたのか、黒犬たちの群れはあっという間に陣形を崩しなす術も無くやられていった。
自分たちが逃げるしか選択できなかった相手を。
しかも、傷一つない完勝だった。
「じゃあ、センパイ。お先に行きますので」
リアは足元でへたりこんでいるゾワカにそう告げ、先へと向かう。
そして、それをケン達が追う。
ゾワカはぼーっと見ていたが、ガナーシャが視界に入った瞬間、鼻を鳴らす。
(確かにすげえ。だが、結局あのおっさんは何をしてた? 俺達とこれだけの差があるんだ。アイツは本当にお荷物でしかない)
自分より弱い人間を見てゾワカは安心したように嗤い、ただ才能の差を与えた神を呪った。
そして、こんな理不尽に付き合っていられないとダンジョンを出ようとしたゾワカ達だったが、最後の最後で黒犬に襲われる。
それは一瞬の油断。
入り口が見え、力を抜いたその瞬間、横から黒犬がゾワカに向かって飛び込んできた。
「ひ、ひぃいいいいい!」
慌てて身体を丸くして身を固めると、黒犬はそれに構わずゾワカの肩に噛みついた。
不運にも最も引きはがしにくい部分に食いつかれゾワカは痛みに悲鳴をあげながら助けを求める。
だが、肩に噛みついていることもあり、仲間たちの攻撃も全力でぶつけることが出来ず、時間がどうしてもかかってしまう。
そして、漸く黒犬を殺した頃には、ゾワカは泡を吹いて倒れていた。
その後、【紫炎の刃】は、ガナーシャ大好きな冒険者ギルドによって、中級へと降格させられる。ゾワカは、すっかり心を折られ、冒険者の道を諦めることになる。
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