番外編① 解くものは解けない・前編
完結し、感想や☆評価本当にありがとうございます。
朝時点でハイファン日間39位。うれしいです。
その感謝の意味も込めて伏線やキャラを多く残した作品となったので、今週末までに感想欄で頂いたものについては時間をかけてご紹介しようかと思います。
―やあ、巡りの輪にようこそ―
―これは可能性のひとつ―
―あれとあれの周りの光の可能性のひとつ―
その少年は、呪われていた。
ウワンデラから南西にある島。
セア島の王の子。
ゲアルゲルガ第四王子は呪われていた。
少年は人の感覚を『減らす』力を持ってしまっていた。
だから、少年は箱の中で育てられた。
呪いの力を恐れた人々は丁重に、だが、腫れ物に触るように育てた。
王は見向きもしなかった。
セア島では土人形を使う魔術が広く使われていた為、少年の元にやってくるのはいつだって土人形だった。
いつしか少年は諦めた。
外に出ることを諦め、箱の中で生きることを決めた。
箱の中は楽だった。何も聞こえないし、何も見る必要はない。
呪いのせいで誰も近寄らないし、近寄れない。
外の知識は土人形が誰かから受け取って持って来てくれた。
それで十分だった。
ある日のこと、箱の外が騒がしかった。
何が起きたかは分からない。そんな音を聞いたことなかったから。
ただ、見たくなかった。聴きたくなかった。
だから、少年は箱の外から出なかった。
どんな声でもどんな様子でも少年は箱から出なかった。
静かになったあとも箱から出ることはなかった。
箱を出れば見なければならないものを見てしまうことになりそうだから。
食べ物は土人形が持って来てくれるもので十分だし、世話も出来る。
会話だけは出来ない。それだけだ。
会話も少年の心の中では、出来た。
頭の中で会話をすればいいだけだ。
『彼』は自分と同じくらい賢くて、自分と同じ考え方で心地よかった。
それでよかった。
そして、時間がどのくらい経ったのか。
箱の遠慮がちに叩く音が聞こえた。
その音に怯え少年は土人形を使い排除するよう命じた。
暫くして静かになった。
そして、遠慮がちに叩く音が聞こえた。
「あのー、話をしない?」
男の声だった。疲れているような、そして、うめくような、でも、優しい声だった。
だが、少年は声が出せなかった。
声の出し方も、他人との話し方も忘れてしまった。
暫くすると音と気配が消えた。
声の主は去ってしまったようだ。
その時、土人形が少年に手を伸ばした。
土人形の手は僅かに濡れていた。
どうやら、少年は泣いていたらしい。
泣いていた。
その事実に気づき、少年はわんわんと声をあげて泣いた。
そして、
一体の土人形が帰ってくる。
何かあったのか少し動きのおかしな土人形が。
手にはちかちかと輝くものをもっていた。
そのちかちか輝いているものを少年がのぞき込むと、そこには、文字があった。
文字だ。
読める。
少年は文字は読める。
たくさんの文を土人形は持って来てくれたから。
必死で読む。その文字を。
『僕は、ガナーシャ。これは伝言用魔導具。文字を思い浮かべて魔力を送れば文字が送れます』
少年は震える手で土人形から受け取り魔力を込める。
『ゲアルゲルガ』
すると、またちかちか輝く。なんと書かれているのか心臓が高鳴る。
覗くと、文字が必死で読む。
『ゲアルゲルガ』
名前が呼ばれた。そして、
『土人形を一体借りちゃった。ごめんね』
思ってもみない気の抜けた文に、ゲアルゲルガは笑う。
笑った。
ゲアルゲルガは笑った自分に驚いた。
そして、泣いた。
これが【解くもの】ゲゲと【弱者】ガナーシャの出会いだった。




