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最終話前編 おじさんは、死ねない

「ガナーシャさん!」


リンは自分の名前を呼んでくれた男を呼ぶ。

そして、ただただその溢れる愛おしさを抱え飛び出す。

男を手に入れる為に。

手を伸ばす。


男の腹に手を突き刺す。

回復と攻撃を同時にしながら、ギリギリを見極め【巡り】を待つ。

【巡り】が現れれば本格的な戦闘の開始。

まだ【巡り】と戦うだけの力はある。

男は油断しなければ敵ではない。弱者と呼ばれるほどに弱い。

だからこそ、すごいのだが。


【魔王】はそう考えながら、【弱者】に向かって飛んでいく。

ふと自分の腕、筋、関節、様々な所に魔力を感じる。


【弱者】の得意な黒魔法だ。

だが、それは【魔王】にとって蒲公英の綿毛のようにふわりと撫でる程度のもの。


「あは! 〈弱化〉は駄目だよ! ただでさえあなたの〈弱化〉は効果が弱いのに私の身体の魔法抵抗力ならすぐに消えちゃうよ」

「なら」


【弱者】の目は死なない。むしろ、じっと【魔王】の目を見て離さない。


「消えた端から叩きこむ」


(〈弱化〉)


指をこきりと鳴らし放たれた無詠唱の黒魔法はほんの一瞬だけ力を奪って消える。


(〈暗闇〉〈弱化〉)


ほんの少し視界を黒くぼやけさせる。ほんの一瞬だけ力を奪い消される。


(〈弱化〉〈暗闇〉〈嫌悪〉〈弱化〉)


ほんの一瞬の脱力。黒い靄。相手の意識を僅かな間魔力に向ける。

そして、また、ほんの一瞬の力を奪う弱い魔法。


だが、【弱者】は止まらない。頭の中、そして、指は誰よりも早く動き続け、身体から噴き出る血も頭を襲う目眩も気にせず、【魔王】を見つめ魔法を掛け続ける。


(〈弱化〉〈弱化〉〈暗闇〉〈嫌悪〉〈弱化〉〈弱化〉〈弱化〉〈弱化〉〈暗闇〉〈嫌悪〉〈弱化〉〈弱化〉〈弱化〉〈弱化〉〈暗闇〉〈嫌悪〉〈弱化〉〈弱化〉〈弱化暗闇弱化暗闇弱化弱化嫌悪弱化弱化弱化弱化弱化弱化弱化暗闇弱化弱化弱化弱化弱化嫌悪弱化弱化弱化弱化暗闇弱化暗闇弱化弱化暗闇弱化弱化弱化嫌悪弱化弱化暗闇弱化暗闇弱化弱化弱化嫌悪弱化弱化弱化弱化弱化暗闇弱化暗闇弱化弱化弱化弱化弱化魔糸嫌悪弱化弱化弱化暗闇弱化暗闇弱化弱化弱化嫌悪弱化弱化弱化弱化弱化暗闇弱化暗闇弱化弱化弱化嫌悪弱化弱化弱化弱化弱化暗闇弱化暗闇弱化弱化弱化嫌悪弱化弱化弱化弱化弱化弱化暗闇暗闇弱化弱化弱化弱化弱化弱化嫌悪弱化弱化弱化〉!)


だが。

どんなに魔法を掛けても【魔王】は止まらない。

むしろ、羽虫を払うがごとく勢いは増していく。

弱者の精一杯の抵抗を抜け、【魔王】の手が【弱者】に届く。

その直前だった。



その時、【魔王】は気づく。




それは糸だった。




一本の黒く細い。


蜘蛛の糸のような魔力。


それが小指に繋がっていることに。


その糸は細い。だが、丁寧に丁寧に魔力を込められた糸。


【魔王】はそれまで気づかなかった。


〈暗闇〉が視界を奪う闇を『与える』のではなく、視線を奪おうとしていたことに。

〈嫌悪〉が『惑わせ』他に意識を向けさせるのではなく、【弱者】に向けさせようとしていることに。

〈弱化〉が力を『失わせる』事ではなく、抵抗することで強くなり弱くて細い糸に気付かさせないのが目的だった事に。

その糸が細いが故に、【弱者】の小指に繋がれ、そこに【魔王】の一撃が静かに導かれていることに。


「〈魔糸〉」


【魔王】や【魔女】の黒の鎖に比べればあまりに細く弱いその糸は、『縛り』付けることも『落とす』こともなく、ただ、ひっそりを彼女を『導く』蜘蛛の糸。


僅かなズレが、その積み重ねが、大きな結果を生むこともあると知っているから。

【弱者】は、吹けば崩れそうな弱者のいやがらせを、悪あがきを積み重ね続けた。


全ては、この時の為に。


【魔王】は笑う。やっぱりすごいと笑う。


【聖女】のように相手を何倍も強く出来る光ではないその黒い光は、『与える』こともなく、ただ、自分の意識しコントロールできる範囲を超えさせられる程の力を出すように『支える』吹けば消えるような灯火。


拳が僅かにずれたことで軌道が少し変わり、その『少し』は『それなりに』に変わり、『大きく』に変わり、【魔王】の狙いである胴に向かわない。

拳の先には【弱者】の傷だらけの小指。


(〈潤滑〉)


ぶつかる直前に少しのぬめりを魔力で作り出し【魔王】の拳を滑らせる。

それでも【弱者】の手は砕ける。

それでも【魔王】の拳は避けられる。大きな代償を払う事で。目的は達せられる。

吹き飛んだ腕、捻じれた上半身、そして、連れていかれないように耐えていた下半身、真っ黒な脚が漸く待ち構えていたように繋がり捻りながら【魔王】の身体にぶつかる。


【剣鬼】のように自ら生み出した強烈な一撃ではないその一撃は『斬る』ことはなく、ただ、【魔王】の勢いと溜め込まれた弱者の証、多くの傷や痛みを代償に借りる【悪魔】の力であり、それがなければ【弱者】の誰も殺せぬ一振り。

だが、全ての力を借り弱者は届かせる。

『かえる』一撃を。


「おじさんなのにまた新しい魔法(こと)覚えたの?」

「おじさんだって進化するんだ。さ、白の英雄候補には使わずに溜めておいたこの呪い。君に全部あげるよ」

「ふふ、うれしい」


【弱者】の黒い脚が黒い炎を噴き上げながら【魔王】を捉えた。


そして、


「う、あ、あ、ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」


【魔王】を吹き飛ばす。

【弱者】の脚が燃え上がり、ボロボロになり、激痛が走っても。

【魔王】の身体を壁に、轟音を立ててめり込み壁の瓦礫に埋もれさせることが出来たのは【弱者】で。


「僕は、弱いからね」


多くの代償を払いながら、得た勝利に【弱者】ガナーシャは困ったように笑った。

お読みくださりありがとうございます。最終話です!

絶対に今週末完結させます。よければ、感想や☆評価で良いラストスパート出来るよう応援していただけると嬉しいです。


また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


また、作者お気に入り登録も是非!

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