ハーレム主人公の破滅
人生努力すれば何でも願いが叶う。俺を僻む奴らは最低限の努力すらしていない、負け犬だと思っていた。
しかしそれは方向性、価値観の違いであって、決して彼らは何もしていない訳ではなかった。
それは単に他人に理解されるか、理解されないかの差でしかない。
俺は思い上がっていた。容姿が優れていること――それが社会的な評価、頑張った証だと勘違いをしていた。
学生時代、俺は女に困らなかった。いつも何もしなくても女の方から寄ってきてくれた。
だから俺は誰か1人を恋人とはせず、寄ってきた女達全員と関係を持った。
男1人と女複数人、意味合いは異なるが一夫多妻のような関係――所謂ハーレムと呼ばれるものを俺は形成していた。
勉強もスポーツも俺は大したことはしていない。でも彼女達は、普段よりほんの少し頑張っただけで俺のことを全肯定してくれた。
しかしそれが、俺を増長させる要因となった。万能感に酔いしれるクズ野郎を生み出したのだ。
俺は彼女達と体を重ねる際、男としてやるべきことをしていなかった。目先の欲望だけを優先した。
それが、どれだけ愚かであることを知らずに――。
「蓮司くん……あのね……」
ハーレムメンバーの1人が妊娠したことを知った時、高校を辞めて働けば何とか子供を育てていけるだろうと思っていた。
たとえ収入が足りなくとも、親に泣きつけばいい。それが無理なら、ネットで募金を募ろう。
されど、そんな甘い考えはあっさりと打ち砕かれた。
「私もできちゃったみたい……」
妊娠していたのは1人ではなかった。そういう行為をしていたのだから、当然そうなる可能性も予測できたはずなのに、俺はそこまで考えが至らなかった
イージーモードな人生を歩んでいた俺は、自分がいかに奇跡に近い幸運に恵まれていたのかを思い知った。
学校に呼び出され、ハーレムのことを根掘り葉掘り聞かれた。それこそ、話すと悶絶するレベルで恥ずかしい、いかがわしい行為のことも。
妊娠したのが1人だけなら、まだ親の協力を得られたのかもしれない。学生が誰かを妊娠させるなんて、それほど珍しいことじゃない。
だが俺の場合そうではない。倫理的にも金銭的にも非常に苦しい状況だった。
「この馬鹿野郎!!」
親父から頭の形が変わるくらい殴られた。
結局俺は自分では何も対処できず、親父から転校を命じられ、妊娠させた子達への連絡も禁じられた。
それから数年が経ち、俺は今、刑務所の中にいる。
あれから常に子供のことが頭をよぎるようになり、何をするにしても全く集中できなくなってしまった。
逃亡先の高校では留年し、結局通わなくなった。その後、親のツテでなんとか就職できたが、それも長続きしなかった。
容姿を生かしてホストを始めたが、大量の飲酒で肝臓がやられた。酒を飲めなくなったので、当然ホストはクビになった。
日雇いのアルバイトで食いつなぐ日々が続いた。1、2年は辛うじて生活はできていたが、とうとう限界に達した。
身体が鉛のように重くなり、もはやまともに働くことができなくなった。稼ぎも少なくなって、生活を維持するのが困難な状況に陥った。
経済的に困窮した俺は、犯罪に手を染めた。空き巣を繰り返した結果、ブタ箱行きとなった。
俺をハーレム屑野郎と罵った男達は今、社会に出て立派に働いている。中には社長になって、大金を稼いでいるやつもいる。
それに比べて俺はどうか。差は一目瞭然だ
欲望に身を任せてはいけなかった。複数の女性と同時に関係を持つべきではなかった。
当たり前のことなのに、それができなかった。自分はイケメンだから許されると驕りがあったから。
陽の差し込まない独房の中で1人思う。
――俺は何もかも間違っていたと。
最後まで読んで頂きありがとうございました。