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あたたかいのが当たり前。
ぬくぬくあたたかい場所で
お父さんとお母さんに育ててもらった。
けど、それが当たり前なんかじゃないって
知ったのは君が私と同じだったから。
当たり前な常識とルールが
私たちを縛りつけてるって教えてくれたから。
あたたかいって意味も
少し疑問に持つようになったんだ。
ありがとう
大嫌いな君へ、唯一の感謝を伝えたい。
「なんでそんなすぐに失くすんだよ。」
それはあんたのせいだよ。
そう言いたいけど、こいつに言ったとしてもこのいじめは終わらない。
だから今もみんなが大好き“渡辺 琥太郎くん”にあの冊子のコピーを渡してもらう。
渡辺「これで5回目。これ、コンビニで10分掛かって作ったんだから大切にしろよ。てか、監督の一部なんだから手放すなよ。」
…私だって大切にしてるよ。
けど、いつも持ち歩いているスクールバッグからいつのまにか消えるんだもん。
これ以上どうすればいいの?
渡辺「裏にちゃんとでっかく、“日向 天”って書いとけよ。」
天「…分かってるよ。」
渡辺「今書けって。このペン貸すから。」
と言って、渡辺は冊子と一緒に持ってきていたペンケースからネームペンを出した。
渡辺「冬休みだけしか時間ねぇんだからちゃんと予定通り動けるように頭に入れとけよ。」
天「うるさいな。衣装作るだけで終わりだと思ってたのに。」
私は渡辺の手からネームペンをぶん取り、これで3回目の名前入れをする。
渡辺「だ、だって、瑠愛さんが…」
天「分かってるよ。私も勉強しに行くだけだもん。」
私の夢は自分が考えた可愛い服をこの世にたくさん残したいという夢。
有名になったり、お金を稼いだり、どこかの有名アトリエで働きたいとかはなくて、自分の頭の中にあった服を現実の物にするのが嬉しいからそれをもっとしたいだけ。
それじゃあ仕事にならないんだろうけど、そんな暮らしをしたいから趣味で映画を撮っている最上 瑠愛さんという私の兄の友達とこの渡辺の最小人数で短編映画を通して芸術の仕事を体験して勉強させてもらうことした。
それはとても楽しみなんだけど、渡辺と一緒というのだけがどうも気に食わない。
渡辺「宿題は?」
天「先生から聞いてもう範囲大半終わらせといた。」
渡辺「…さすがだな。」
私は自分をいじめているリーダー格だった渡辺にネームペンを返し、貰った冊子の表紙を渡辺に見せる。
天「ここにサイン書いてよ。」
渡辺「は?なんで?」
天「サイン入りだったら“消える”こともないだろうし。」
渡辺「サインなんか考えたことねぇって。」
天「じゃあ普通に“渡辺 琥太郎”で。」
私がそう言うと渡辺は渋々名前を書いてくれて、私に冬休みのしおりを渡した。
渡辺「僕、次は体育だから。」
そう言ってあと3分で終わる休み時間に慌てて教室に走って行った渡辺は私を旧校舎の2階手前の階段踊り場に残して行ってしまった。
私は唯一人目がつかないこの階段の踊り場でしか、渡辺と話さないようにしてるのにあいつは所構わず話しかけてくるからああなるんだ。
だから今、旧校舎から新校舎に繋がっている渡り廊下を歩いていると睨みを効かせた新垣 夏來と取り巻き4人が私の行く道に立ちふさがる。
夏來「さっき、渡辺くんと何話してたの?」
もう、いつもこんな感じ。
好きなら勝手にやっててほしいよ。
天「なにも。」
私は少し遠回りして玄関から教室に戻ろうかなと思っていると、取り巻きの1人が私の肩を強めに小突いた。
「何もないのに使われてない旧校舎から出てくるのおかしくない?」
夏來「警察使って怖気つかせたとでも思ってんの?」
「渡辺くんは今県大会に向けて忙しいだけなんだから勘違いしないでよね。」
夏來「あんたに構ってる暇ないはずなんだけど。」
…やいのやいのうるさいな。
私はしっかりカバンを抱えて明け方の雨でぬかるんだ中庭を走り、急いでスリッパと上履きを手に持って自分の教室に戻った。
あと、5日。
あと5日で2学期が終わってくれる。
それまであと少し、頑張ろう。
そう自分に言い聞かせて、2組合同の保健の授業で私は冬休みの宿題を内職した。
環流 虹向/天使とおこた






