第74話「これが、ダンジョン……(後編)」
「見張りがいるな……?」
「そーね。装備からして、この前の魔物の群れを起こした連中と同じみたいね」
リズとグエンは上下に別れるようにして、潜伏場所から顔を出す。
「で、どーすんの?」
リズが再度聞く。
ダンジョンに突入する気はあるのか? と───。
「さぁな。……何回かダンジョンは入ったことがあるけど、未探索のダンジョンは初めてだしな」
元SSランクパーティ『光の戦士』は、いろいろ黒い噂もあるパーティではあったが、一応それなりに活動はしていた。
その中には当然ダンジョンの探索も含まれている。
なぜなら、ダンジョンには貴重な鉱物や、レアモンスターの素材、さらには魔力を帯びたアイテムや金銀財宝が見つかることもある。
それゆえに、一攫千金を狙う冒険者なら一度はトライしたい望郷の地なのだ。
「ふーん。ならやめとく? アタシは一応偵察がてら入るけど──無理にとは、」
「いや。行くさ。リズにだけ無理をさせる気はないよ。もちろん、コイツもいくけどな」
コイツ、と言ってシェイラを前に引っ張りだす。
「うぇ?! ぼ、僕も?!」
「当たり前だろうが……」
グイ。っとシェイラの頭を押さえるグエン。
三角帽子が潰されてシェイラがちょっと困った顔をしているが、おかまいなし。
「そ? まぁ、その方が助かるけど。知っての通り、未探索ダンジョンだからね、半端な人員は連れていけないわ──よって、」
じっと、グエンたちの顔を見ると、
それ以外のここにいる追撃隊の面々から、フイっと目をそらすリズ。
「──グエン、シェイラ。アンタたちが連れて行ける限界よ?」
SSランクでギリギリだというリズ。
つまり、この潜伏場所を確保してくれたギルドの追撃隊は探索に加われないということだ。
彼らはせいぜいB~Aランク。
局所的な特性をみてもSランクがいいところ。
大半の優秀な冒険者は、先日リズとグエンによって壊滅させられてしまったし……。
「それでいい。さっさと終わらせよう。そろそろコイツの顔を見るのもうんざりだし──……」
「あ、痛ッ」
グエンはシェイラの鼻をピィン! と、軽く弾きつつ、思い出す。
それも、ほんの少し前のことを──。
「──それに他にやることがあるんだよ。こんなとこで時間を使っていられないんだ」
「んん? やることって何よ──?」
それは、ギルドに帰還したときに発覚した事実。
そう。
元パーティの『光の戦士』が脱走したというその事実について……。
───だから、決まってるだろ?
やることなんて、さ。
「あいつ等をもう一度豚箱に入れることに決まってるだろ! だから、さっさと魔王軍とやらを埋め戻してやるさ」
「あー……。そうね。まさか脱走するとはね、アタシも予想外だったわ──」
さすがにバツが悪そうにリズも頭を掻く。
とはいえ、リズの責任というわけではない。
そもそもリズの任務は『光の戦士』の潜入調査だ。
連中の悪事が明るみに出た以上、彼女の任務は終了していると言っていいだろう。
「いいさ。落とし前は自らつける──。……むしろ、マナックには俺が直接、顔面パンチをおみまいしてやらないとな」
「アンタ物騒になったわよねー」
リズが呆れ交じりに言うと、
「リズだって、もっと無口かと思ったぞ?」
「アタシはアタシよ──」
ま、
「人間変わるってこった」
そうだろ?
「う、うん……」
グエンの視線を受けてシェイラは力強く頷く。
この子はこの子で変わった。
生意気な態度は身をひそめ、随分大人しくなった。
グエンの言うこともよく聞くし、言い訳もしなくなったし、
なにより強くなった────。
以前の出来事さえなければ、パーティを組んでもいいかと考えるくらいには。
───ま、考えられないけどね。
「じゃ、決まりってことでいい? グエン。シェイラ」
「おう」
「うん!」
グエン達は力強く頷く。
そしてニヤリと笑ったリズが差し出す拳に、グエンもニィと笑ってお返しに突き出す。
そこに、シェイラがおずおずと小さな手に拳を作ると、全員がコツンと拳を突き立て合った。
そのまま三人でグリグリと拳を合わせ合う。
やや体育会系のノリにシェイラはついていきづらそうだったが、鼻の穴を大きくして「むふー」とやる気を見せている。
(ふん…………。まぁ、背中を預けるくらいには信頼してやるかな)
どこか偉そうな態度でグエンは思考を巡らせると、拳を開いてハイタッチで締めくくった。




