オートマティック・スィート
《ゼルヴィード》のセンサーとプリムラの高性能予測プログラムで、ヒビキ達は思ったよりスムーズに制御ユニット部とおぼしき地点まで到達できた。
「この先みたいです」
「よし」
ガガガガガッ!
電磁ライフルとメーザーソードで隔壁を破り踏み込んだその先には、何本ものパイプに繋がれた巨大な球体があった。パイプに邪魔をされて接近は出来ないがライフルでの狙撃は出来そうだ。
それを制御ユニットと踏んだヒビキがライフルを構えた時、《ゼルヴィード》の内部スピーカーから合成音声らしい無機質な声が響いてきた。
「忌むべき有機生命体よ……」
「!?」
「あのユニットから電波が《ゼルヴィード》に放射されています」
「アイツが喋ってるって言うのか?」
にわかには信じられず硬直したヒビキに、《ステンバンブー》の制御ユニットは“通話”を続けた。
「忌むべき有機生命体よ、何故我々に対抗するのか……」
「何だと?」
ネシオンは問いかけを続ける。
「完成された機械こそが永続を保てるのだ。有機生命体は文明を保存するにはあまりにも不安定過ぎる。古き生命よ、我々機械に世界を委ねよ……」
「んだと……」
「進化し過ぎた有機生命は最終的に星々を破壊する。我々はそれを何度も見てきた。汝らもそうであろう……」
身勝手な言い分だ。そしてそれこそがネシオン全体の目的に違いない。
確かに世界を平穏に永続管理するならば、完成された機械の方が人間より向いているかもしれない。人間には食料や寿命、生殖、社会構成など不安定な要素が多すぎる。対して機械である彼らネシオンにはそれが無い。
永続管理する“だけ”ならばの話だが。
「……なるほど、しかしお前達には新しいモノは創造できまい?」
ヒビキは逆に制御ユニットに問いかける。
「マスター……」
「創造などは最早必要ないのだ。機械文明は既に完成されている。これ以上の創造は混乱と破壊しか産まない」
「ふざけんな!」
一歩も譲らないネシオンを大声で怒鳴り付ける。
「ここまで踏み込まれて偉そうな事言ってんじゃねぇ!だいたいここにいるのは未完成のポンコツアンドロイドだぞ!そんなのに負けて何が完成されているだ!恥ってもんを知らねぇのか!」
「マスター酷い!」
半泣きで苦情を言おうとするプリムラを押さえつけてヒビキは続ける。
「誰かに作られた癖にその能力を自分のもののように誇りやがって!お前らなんかより未完成でもまだ先を目指して頑張るコイツの方がまだマシだ!」
「未完成のモノには意味は無いのだ」
「黙りやがれ!」
遂にヒビキの怒りが限界を越えた。ライフルを乱射。制御ユニットの外殻を次々と穴だらけにするが、しかしその活動はまだ止まらない。
「進路修正確認……目標に向け再加速開始……」
ゴゴゴゴゴ……と《ステンバンブー》全体が激しく揺れ出した。《アンカレッジ》への突撃が再開されたようだ。このままでは《アンカレッジ》もヒビキ達もタダではすまない。
「やらせるかよ!」
再びトリガー。しかし電磁ライフルの銃口は沈黙している。
「弾切れです、マスター!」
「こんな時に!!」
「その武器の残弾は把握していた。お前達はこの機体を破壊できない。無力な有機生命体よ、ここで朽ち果てよ」
嘲笑するように言う制御ユニットを歯軋りし睨み付けるヒビキ。その外殻は穴だらけで、あと一発内部にダメージを与えれば破壊できそうな状態なのに……。
「クソ、ここまで来て……プリムラ!お前ロケットパンチとか無いのかよ!」
「ありますよ」
あっさりと答えるプリムラに盛大に傾くヒビキ。
「あるのかよ!」
「最新鋭アンドロイドをナメないでください!」
「無駄に胸張って無いでさっさとアイツにぶちかませ!」
コクピットハッチを開き上半身を乗り出すプリムラ。正面に突きだした右腕を左手で支え、しっかりと狙いをつける。
「ターゲット、ロックです!」
「撃て!」
(ごめんなさい!)
胸中で一言だけ、“同族”に詫びながらプリムラは右腕を“発射”した。反動で倒れそうになるプリムラをヒビキは優しく受け止めてコクピットの中に引き入れる。
「やったか!?」
白煙を引きながら飛翔するプリムラの右腕が、制御ユニットの内部へ飲み込まれるように入っていった。
僅かな沈黙の後、ユニット全体にスパークが走り始める。
「バカな……こんな事が……!」
想定外の状況を認められないのか、機械らしからぬ言葉を吐くネシオン。と、辺りに設置された非常灯のようなランプが真っ赤に点滅し始めた。
「何だ?」
「何となくですけど、自爆プログラムっぽい感じしますね」
「呑気に言ってる場合か!脱出するぞ!」
慌ててコントロールグリップを引き、《ゼルヴィード》を転回させる。全速力で入ってきたポイントまで戻り脱出する直前、《ステンバンブー》の内部から爆発が起こり、ヒビキ達は爆炎に巻き込まれながら宇宙空間に放り出された。
「うぉわあああああああ!」
「きゃぁああああああ!?」
ぐるぐる回転する黒焦げの《ゼルヴィード》の中で、僅かに生き残っているモニターで外を確認すると、《ステンバンブー》は原型を留めない程見事に四散していた。《アンカレッジ》は砲撃を受けてかなり損傷しているが、無事のようだ。
「やった……やったな!」
「やりましたね、マスター!」
片腕の無いプリムラがシートから立ち上がりヒビキに抱きついてきた。多少堅さのあるその少女の体を優しく受け止めて頭を撫でてやる。
「マスター……」
と、ヒビキを見つめるプリムラの大きな瞳が潤み始めた。
「な、何だよ?」
「マスター、決めました!私、マスターのお嫁さんになります!」
「……は?」
いきなり想像もしなかった事を言われてフリーズするヒビキ。
「私、マスターの事が好きです!でもアンドロイドだから……そういうの我慢しなきゃって思ってたんです。でもでも、やっぱり我満できません!他の人に譲るのも!だからマスター、私と結婚してください!」
「いやちょっと待て」
いきなり過ぎる告白に頭の中が混乱し目眩がする。
「結婚ったってお前、人間とアンドロイドじゃいろいろと……」
「大丈夫です!お父様にお願いして大人のボディに改造してもらいます!人口子宮もつけますから赤ちゃんも産めますよ。卵子は……アカリさんあたりにちょっと協力してもらって」
「さらっと倫理に触れるような事を言うな!」
重大任務を終え疲れている所に滅茶苦茶なプロポーズをされてヒビキは泣きたくなってきた。それには構わずギュッと抱きついて愛をアピールするプリムラ。
「今日はっきりわかりました。私にはマスターが必要なんです。大好きですマスター、これからもずっと一緒にいてください!」
「カーボニックだぜ……」
宇宙を漂流するヒビキ達が回収されるのは、それから十分後の事であった。
一週間後。
惑星ルモイの資源採掘が本格的に始まった。地上には七つの大規模な採掘基地が建設され、どんどんと資源が地球圏に向けて送られ始めている。
一方、大損害を受けてしまった119陸戦隊はアームドキャリバーなどの装備を補充する為に地球圏に戻る事となった。
「もう少しゆっくりしたかったが……軍人は命令に逆らえないからな」
ヒビキ達と握手を交わしながらベテラン隊長は寂しそうに笑う。
「海賊じゃないが、縁があればまた会おう」
「ありがとうございました。六十谷隊長たちもお元気で」
「立派な戦いぶりだった。《アンカレッジ》に有望な新人がいると本部に報告しておくからな」
悪戯っぽくニカッと笑い、《DD4》(ディーディーフォー)睨み付ける乗り込んでいく隊長以下陸戦隊の面々。その様子を見て頭をかくのは船長のヨコザワだ。
「全く、軍から秘密兵器を積まされて特急で飛んできたかと思えば今度は軍人さんの送り迎えとはな」
「個人事業主も辛いねぇ」
「うるせぇや。……じゃあなヒビキ。元気でやれよ」
「ヨコザワさんも、安全第一でね」
くたびれた中年とも握手を交わす。その船長と同じようにくたびれた中古輸送船が《アンカレッジ》を離れ、《ハーベルティア》に護衛されてワープゲートに航路を取った。
「これで、一段落って訳だな」
ケンがノンアルコールのドリンクを飲みながら漆黒の宇宙に灯る二隻のバーニア炎を見送った。待機中のパイロットとしては職務違反行動だが肝心の愛機がオーバーホール中では出撃しようがない。横にいる杜若教官も黙認している。
「《アンカレッジ》も大規模修理か。俺達は卒業して正規軍人になるから関係無いけど」
「何言ってるんだい」
他人事のように言うリュウジに杜若教官がツッコミを入れた。嫌な予感がしてツカサ以下三名が中年オバサン、もとい教官の方を向く。
「ええと、どういう事ですか」
「惑星ルモイの採掘任務は正規軍に移行。《アンカレッジ》は修理しながら別惑星での教練任務に入る。アンタ達卒業生は軍の命令で《アンカレッジ》修理まで護衛として正式に配属されるんだよ」
「何だよソレ!」
全員が信じられないと天を(宇宙ではどこが天かはわからないが)仰ぐ。どうせ当のリン子が裏で手を回したに違いない。それぞれ他の部隊で華々しく軍人デビューを飾ろうと目論んでいた四人は夢破れガックリ項垂れた。
「いいじゃないか、みんなで仲良く頑張ろう。特にヒビキは“嫁”の教育も終わってないんだから」
「嫁って言わないで下さい!」
プリムラの大胆なプロポーズはすっかり《アンカレッジ》中の話題になっていた。本人はその関係を頑強に否定しているが、アンドロイドと人間の熱烈な恋愛関係というネタは退屈しがちな《アンカレッジ》の人間には格好の噂話だ。
主に広めているのはアカリらしいが。
「あれで中身は年頃の女の子なんだ。泣かしたりするんじゃないよ」
「ンな事言われてもですね……だいたい俺はまだ結婚なんか」
「あんな可愛いコに告られて文句言ってンじゃねぇよ」
「うるせぇよ!」
周囲からイジられている所にその噂の当人がやって来た。
「マスター!《ゼルヴィード》の修理、終わったみたいです!」
ピンク色の髪を元気になびかせながらプリムラがヒビキ達の所に走って来た。
「?どうかしましたか?」
「プリムラちゃんが可愛くてヒビキが羨ましいって話をしてたところさ」
「いやー、オハズカシイです」
「素直に受け取ってんじゃない!訓練行くぞ!」
プリムラの手を取って、やって来た方向へ走り出すヒビキ。後ろからはヒューヒューと無責任な口笛が飛んでくる。
「マスター、速いですー!」
「うるさい!お前が一人前のパイロットになるまで、嫁には貰ってやらないからな!」
「一人前になったら貰ってくれるんですか?」
「なってから言えっての!」
「はーい!」




