正規軍到着
連合宇宙軍第119陸戦隊、および第7採掘大隊は無事アンカレッジに合流した。それぞれパイロット科と採掘科が懇親会を兼ねたブリーフィングを行う。
「君が仙崎ヒビキか」
ヒビキに握手を求めたのは40手前の髭もじゃの山男といった印象の大尉だった。
「俺は六十谷クロード、119陸戦隊隊長だ。お前さんの活躍は聞いている。海賊も討伐するつもりだったがまさか学生に仕事を取られるとはな」
「学生と言っても、もうすぐ正規軍入りですから」
「軍に入って5年生き残るまではみんなヒヨッコよ。ま、期待してるぞ」
バンバン、と乱暴に背中を叩き笑いながら六十谷隊長はブリーフィングルームのど真ん中に向かっていった。ケンですらその豪胆さにやや緊張している。
「おっかねえオッサンだな」
「口に気をつけな。下士官からの叩き上げだよ」
「頼り甲斐があるってこったな」
陸戦隊の隊員達もみな大柄で筋肉質男ばかりだ。パイロットではなくレスラー団体と言われたら信じてしまうだろう。
ブリーフィングは淡々と行われた。パラナ=ナ達から聴取した情報からネシオンの生産拠点とおぼしきポイントが判明し無人偵察機を送った所、赤道面にある火山付近(有毒ガスが酷く採掘科が調査していなかった)に大規模な建造物が確認できた。
偵察機はネシオンの迎撃に遭い破壊されてしまったが、逆にそれは彼らにとって重要な設備がそこにあるという事だろうという推測が成り立つ。
「119陸戦隊の強行偵察班を前衛に第一攻撃班、第二攻撃班が縦列隊形で進軍。第三攻撃班は右翼、《アンカレッジ》のパイロット科は左翼で横及び後方防衛を頼みたいが……どうかな主任」
六十谷隊長の提案に杜若リンコは軽く頷いた。
「問題ないよ。突入前に陽動をやらせてもいい」
リンコの返事に陸戦隊から小さいどよめきが沸く。
「それはありがたいが……大丈夫なのか?」
「今年の上級生はとびきり優秀だからね。な?」
教師からのフリに肩をすくめて苦笑いするしかないヒビキ達。
「先生がやれって言うなら」
「決まりだ。ウチの若造達に火山地帯から離れた所で陽動をさせる。ある程度釣れたら強行偵察後本隊突入。ネシオン工場を殲滅……と言うのは簡単だが、アームドキャリバーだけで生産拠点破壊まで追い込めるのか?」
「抜かりはない」
六十谷隊長がモニターに黒い巨大な物体を表示した。
「おおぅ」
野太い樽を斜めに据え付けた台車……というのが分かりやすい比喩になるだろうか。誰が見ても無骨というか不格好な自走砲。その下に並ぶキャタピラの群れを見ればその樽がどれだけデカいか容易に推測できる。
「バウレリス要塞砲じゃないか。またレアなものを持ってきたねぇ」
「古いが破壊力は一級ですよ主任。問題は……」
「射程がね」
「射程?」
ケンの呟きに今度は六十谷が肩をすくめて見せた。
「そうだ。コイツの砲弾は連装爆式型で旧西暦の核爆弾並にある。一発ぶちこめばどんな建造物も木っ端微塵。問題は本体の移動速度と射程でな……移動はともかく最大射程は7㎞。ほぼ前線まで引っ張って来ないと確実な攻撃は出来ない」
「つまりそのバウレリス砲を射程内まで護衛しつつ押し込むのが今回の重要項目ですか」
「そうだ。敵戦力にもよるが、相当の激戦になる可能性は十分にある。《アンカレッジ》のパイロット一同の働きにも期待する」
「ハッ!」
ヒビキ以下14人の目の覚めるような敬礼(プリムラだけがやや遅れたが)に六十谷隊長は満足そうに頷いて見せた。
夢を見ている、とわかるのは目の前にいるのがもう遠くに離れてしまった人物だからだ。
「ずいぶんと立派になったものね」
「……何にも変わらないだろ、俺は」
からかうような彼女のセリフに憮然としてしまうのも、昔のままだ。
(何も成長していない、俺は)
「大丈夫よ」
「何が」
サラ……と美しい長い髪が光の中に流れる。
「アームドキャリバーの操縦だって上手くなったし、今じゃ可愛い女の子に手取り足取り……やーらしぃーんだー」
「やめろよ!そんなんじゃないって……!」
彼女の口を止めようとその細い手首を捕まえる。背は高いが華奢な彼女は仰向けに転がって、ヒビキはその上に覆い被さるように四つん這いになってしまった。
二人とも派手に地面に転がったはずだが痛みは感じない。
それが、夢だからだ。
「あ、ご……ごめん」
「いいよ」
優しく、弟を見るように微笑む。それはヒビキの好きな顔であり、そして少しだけ不満足な顔だ。彼女はそんなヒビキの気持ちも知らず……いや、知っているのか薄いピンク色の唇を開いてゆっくりと囁いた。
「死んだら、ダメだからね」
「……スター、マスター」
脳の中で聞いている言葉に、鼓膜を震わせて届く言葉が被さりそれをかき消した。ヒビキはその事に多少苛立ちを覚えながら仕方なく目を開く。
視界に映るのは自分で作ったテントの天井、小さい常夜灯、そして横にちょこんと正座して微妙な表情でこちらを見ている少女。
「プリムラか?」
「もうすぐ作戦開始です。そろそろ……」
「わかったよ」
(もう三年も会ってないじゃないか……いい加減)
自分自身に情けないと言いながら起き上がると、プリムラが正座のままこちらをじっと見ていた。
「どうした?」
「いえ、その、マスターのそんな顔……初めて見たので」
反射的に視線を反らす。
「大したことはねぇよ」
寝言で何かを言っていたか確かめたい欲求を抑え込み、パイロットスーツを着込む。
「いい匂いだな」
「え、あ!ハイ!教わった通りにやったので多分大丈夫だと思いますけど」
自前のテントから出ると、そこには鉄鍋が火にかけられていた。トマトスープの中で大きめの焼き色のついた肉団子が煮込まれている。響が寝る前に教えておいた簡単な料理だ。酸味とスパイス、そして肉汁の混じりあった匂いがヒビキの胃を急速に活動状態に仕上げる。
「よしよし、プリムラもまともに料理ができるようになってきたみたいだな」
「そんな難しくは無かったですので……ええと、アルボンディガス?でしたっけ」
「ああ、地球に昔あったスペインって国の料理らしいな」
肉団子にフォークを刺し、ふーふーと冷まし口に入れる。良く混ぜられた肉団子の中にトマトスープとオリーブオイル、白ワインが良く染み込んでいてとても美味い。
「うむ、90点やろう」
「ありがとうございます!」
それにならってプリムラも横に座り肉団子をふーふー冷ました。ヒビキは持ってきたパンをスープに浸して味わっている。
「今日は、厳しい戦いになるな」
ヒビキがボソリと呟いた。二人の視線の先には赤黒い大地と白い噴煙が広がっている。惑星ルモイの赤道付近、広範囲に広がる火山地帯だ。この火山活動やマントルの生成がルモイの潤沢な鉱物資源を産み出しているのだろう。
活発に噴火している地点からはかなり離れているのでそんなに暑くもないし健康の被害も無いのだが、その光景は精神を落ち着かせるには程遠い。端的に例えるならそれは“地獄”という表現が相応しかった。
「あそこにネシオンの本拠地があるんですか?」
「火山活動が活発だったからあそこだけは調査隊も踏み込んでいなかった。ネシオンも機械だから高温の火山地帯は近寄らないだろうとかみんな思っていたが、あの頑丈な連中からしたらそんなもん関係ないのかも知れないな」
双眼鏡を手に取り火山の方を見る。狭いゴーグルの中に、山の中腹に半分埋もれるようにしている黒い建造物が並んでいるポイントがあった。以前調査に入った廃工場に似ている。
「あれか」
「見せて下さい……おおー凄いとこに工場作ってるんですね」
プリムラが場違いなほど素直な感想を口にした。
「もしかしたら地熱エネルギーを利用しているかもな。他の地形よりは敵が寄り付かないだろうし」
「なるほど……悪の組織っぽさを狙ってる訳じゃ無いんですね」
「アイツラがそんな連中に見えるか?」
二人で肉団子を食べながらくだらない話をしていると、ピピッと呼び出し音が鳴った。ツカサからだ
「二人とも無事かい」
「ああ」
無線の向こうからでも伝わる呆れ声でツカサは続けた。
「まったくそんな所でよくのんびり野営なんかできるね」
「何事も馴れだよ。なぁ」
「そうですね」
「プリムラはそろそろ教師を変えた方が良さそうだな……状況は?」
ヒビキは改めて火山地帯の工場に双眼鏡を向ける。
「特に変わりは無いな。警戒機も見当たらない」
「よし、すぐに合流する」
「頼む」
通信を切ってから二人はいそいそと野営道具をテントにしまい始めた。5分もしないうちに迅矢小隊の三機が《ゼルヴィード》を持って合流する。
「おう、持ってきてやったぞエース」
「サンキューな、ケン」
ケンの《ハイフェリオン》の手に乗ってコクピットまで運んでもらう。シートに身を預けた二人は慣れた手つきで《ゼルヴィード》を起動させた。
FESがオンになったところでプリムラがため息を吐きながら一回、ヒビキを振り返った。
「……何だよ」
「マスター、あの宇宙海賊の夢でも見てたんじゃないかなって」
「ハア?」
予想外のセリフにヒビキも間抜けな顔になってしまう。
「あの海賊さんとこ、こ、こづくりできなくて残念でしたね!」
「バカそんな夢見てねぇよ!だいたい……」
「じゃあ、ミユキさんならよかったんですか?」
何だかわからないがご機嫌ナナメなプリムラに困惑しながら眉根を掻く。
「子供が欲しいなんて一言も言ってないだろ」
「いらないんですか?」
「いやいつかはって思うけど」
「おい何ごちゃごちゃ揉めてるんだ」
開きっぱなしになっていた通信回線で聞きかねたツカサが割り込んできた。見ればレーダーには工場から発進したネシオンの飛行部隊が表示されている。
「プリムラ、ここは戦場だよ。そのだらしない男を問い詰めるのは帰ってからにしな」
「はい、すみません……」
流石に反省したのか素直に小声で謝るプリムラ。ヒビキも拗らせたくは無いのでとりあえずは黙っておく事にした。
(何にせよ、女のこういう感情は手に負えん)
リュウジは気をつかってくれているのか、いつものフランクな感じで会話に入ってきた。
「流石にアームドキャリバーが四機も接近してボンヤリしてるほどポンコツではないか」
出てきたのは《ナーヴ》系の強化型機体だった。数は6。ヒビキ達もすぐに空中へ機体を舞い上がらせて戦闘体勢を取る。
「出来るだけ引き付ける。フォーメーションに注意しな」
「わかってるよ姐さん」
四人はネシオンの迎撃機を上からパスし、一気に工場上空へ迫った。対空砲やミサイルの類は無く、替わりに《ナーヴ》が8機程追加で発進してくる。
「機動兵器の戦力しか無さそうだな」
「こんだけ釣れば良いだろう。引っ張り出すぞ」
「了解!」
《ゼルヴィード》を先頭に四機が北側へ転回する。迎撃に出たネシオン編隊はその意図も知らずヒビキ達の後を追い始めた。




