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降ってきたスィーツ・ガール(後編)


「後で文句言うなよ!」


再び通信が切り替わりモニターには心配そうな顔のアカリに戻された。


「ハイ、わかりました。63秒後に……ヒビキくん!すぐ新型をそっちに送ってくれるって!」


「新型?まぁいいや早く頼む」


新型と言う単語は引っ掛かるがヒビキもパイロット科に入ってもう五年。シミュレーターで軍の現行機体はほぼ操縦訓練を受けている。サポートAIのアシストがあれば大体のマシンは動かせる筈だった。


広域レーダーのディスプレイには順調に接近してくる三つの赤い光点。ヒビキは採掘科の生徒のリーダーに早く離れるよう指示を出して“降りて”来るであろう新型を待った。


(アレか!?)


キラリ、と群青の空に光を弾く物体を見た。雲を裂きながら落下してきた大気圏突入シェルが弾け、その中から人型のシルエットを持つマシンが姿を表す。


「確かに……知らない機体だな」


ホワイトパールとブルーの装甲を持つそのマシンは減速もせずに墜落するように着地をした。ヒビキもガタガタ言う《ジークダガー》で新型の所へ急ぐ。


地表に着陸していたそれは飛行用とおぼしきウィングや推進器のついた華奢なイメージのあるマシンだった。《ジークダガー》から飛び降りその新型のコクピットハッチに取り付く。


プシュ、と気密ハッチが開き中に入り込もうとしたヒビキは、そこでまったく想定外のものを見て硬直した。


「はわ……わわわわわ」


「……は?」


コクピットシートには既にパイロット(?)が座っていたのだ。


若い……アカリよりも幼い、小さな少女。軍の正規パイロットスーツ(身体のラインがピッタリ出る為に女性陣から酷く評判の悪い)を着ているからパイロットだと思ったのだが涙目で眼を回している様は、とても訓練を受けた人間には見えない。


ついでにコクピット内にお菓子やらぬいぐるみやらが散らかっているのも謎だった。あちこちの収納パネルが開いているのでそこに入れておいた物が落下のショックでコクピット内に散乱したのだろうが……(本来は非常食や応急救急キットを入れておく場所である)。


とにかくヒビキはその少女に声を掛けた。


「おい、大丈夫か!?」


「は、初めまして……」


「お、おう。初めまして……じゃなくてだな」


「あ、あんまり大丈夫じゃ無いですぅ……」


謙遜でも何でもなく素直な今の心境を答える少女。ヒビキはコクピットの通信ボタンを勝手に押しアカリを呼び出した。


「おいアカリ、何か乗ってるぞ!」


「良かった、合流できたの?……そう、その人ね新型の、《ゼルヴィード》っていう機体なんだけど、それのパイロットの人なんだって」


「はぁ?」


ヒビキは怪訝そうにもう一度少女を見た。少女と言うより仔犬という印象だ。未だに頭をふらふらさせているピンク色の髪の少女が専属パイロットというのは百歩譲って納得するとして、こんな状態ではとても戦えるとは思えない。新型がいくら高性能でもあっという間にやられてしまうだろう。


と、通信回線がもう一つ割り込んできた。おやっさんだ。


「ヒビキ!その子は今日配属されたばかりなんだ!面倒見てやってくれ!」


「面倒ったってよ……それなら機体だけ送ってくれりゃ良かったんじゃねぇか!」


噛みつくヒビキにおやっさんもツバを飛ばして怒鳴り返す。


「《ゼルヴィード》はその子の生体アカウントでロックがかかってるんだ!お前だけじゃ動かせん!」


「カーボニックだぜ……」


「ヒビキくん!敵が来るよ!」


アカリの悲鳴にコクピットの外を見る。もう肉眼でも黒い機影が三つ見えてきた。


「ああ、クソ!おいケツ上げろ!俺が下になる!」


「は、はいいい!」


ふらふらしている少女を持ち上げてヒビキはシートに座り、その太股の上に少女を置いた。柔らかい少女の体躯の感触が彼女と自分の二枚のパイロットスーツ越しに伝わって来る。


普段ならだらしない笑みの一つもこぼれる所だが今はそんな状況ではない。ハッチを閉めて中を見回す。


コクピットの内装はさすが新型、ピカピカの最新式だ。それでもレイアウトや機能は《ジークダガー》とは大差無く、何とか操縦出来そうだった。コントロールレバーを握り感触を確かめる。


「操縦はこっちで引き受けるからな?お前は管制をやれよ」


「わ、わかりましたぁ……」


返事すらも頼りないその声にヒビキは諦めの溜め息をつく。


「俺はヒビキ。名前は?」


「へ?」


「名前だよ、お前の名前」


ピンク髪の少女は細い指で涙を拭いながら答えた。


「プ、プリムラです。プリムラ・アルフェンタ……」


「わかった。プリムラ、こうなったら一蓮托生だ。多少乱暴な動きになるかもだけど、辛抱してくれよな」


「あ、あんまり乱暴なのはちょっと……」


「余裕がねぇって言ってンだよ!」


警告音。ヒビキは弾かれるようにペダルを踏み込んだ。二人の乗るマシン、《ゼルヴィード》が全速で上昇した直後、入れ替わるように敵の小型ミサイルが地表で爆発する。


「はわわわわ……」


「あっぶねー、っていうかすげえパワーだなこの機体」


再び眼を回すプリムラを放置してヒビキはスペックデータを開いた。パッと流し見えしただけでも《ジークダガー》とは格段の差がある。出力も推進力も装甲も連合軍の最新式を軽く上回る数値だ。


「これなら!」


ゼルヴィードの右手に装備された大型の銃器を構える。純エネルギー兵器のレイ・ライフル。照準が難しくパイロットから人気の無い武器だがヒビキ的にはそのクセさえ飲み込めば頼りになると思っている。


「捕まえた……!」


接近してくるのは先程と同じ装甲の厚い飛行マシン、《ナーブ・B》が三機。その一機の推進ユニット目掛けライフルを発射。


ビューィイイン!


エレキギターを激しく掻き鳴らしたような高い残響音。アクアブルーの光がプラズマの尾を引いて飛ぶ光弾が《ナーブ・B》の背部を焼き、その飛行能力を奪った。煙を噴きながら地表に落ちていく敵を見て二人が息を飲む。


「す、すごい」


「武器の性能も良いみたいだな……っと!」


側面から体当たりを仕掛けてきた《ナーブ・B》をかわしながらカウンターでメーザーソードを抜き突き立てる。光る刃が装甲をまとったそのネシオン兵器を易々と分断した。


「何て出力だ……《ジークダガー》とはまるで違う」


「ヒビキさん!もう一機が!」


プリムラの声にモニターを見ると、不利を悟ったのか残る一機が反転した。その先には避難している採掘科の生徒達がいる。


「クソっ、無人兵器のクセに嫌らしい奴だ!」


「レイ・ライフルにオーバーシュートがあります!それなら……」


「やってくれ!」


プリムラが頷いてコンソールを叩く。レイ・ライフルの砲身が上下に開きながら延伸した。凶悪な竜が口を開けたようなその砲身の間にバリ、バリッと電光が弾け始め、ライフルの耐久限界までエネルギーが高められる。


その間にもヒビキは逃げる《ナーブ・B》に照準を合わせ続ける。ライフルに集中するエネルギーが激しく発光してモニターがほとんど見えない。


「エネルギー臨界です!」


「よし!」


ヒビキは半分以上、経験と勘を頼りにトリガーを引いた。


ギュォォォォォオオオオン!!


限界まで圧縮されたエネルギー弾が解放され一機に敵に襲いかかる。極太の光の束は《ナーブ・B》を飲み込み、全てを消し去っていった。


「おいおい、とんでもねぇ火力だな……」


バシュ……とライフルの排熱ダクトが露出して白い水蒸気が噴き出す。《ゼルヴィード》の機体もその水蒸気に包まれて露だらけになった。


「オーバーシュートモードは一回使うと排熱の為に三分以上のクールダウンが必要になります」


「このサイズの武器であの破壊力なら仕方ないわな……アカリ、こっちは終わった」


「良かった、お疲れ様!プリムラさんも大丈夫ですか?」


「いや……ちょっともう、いっぱいいっぱいです……」


心底疲れたという感じで天を仰ぎながらプリムラは言葉を洩らした。ヒビキはその時、膝の上のその少女から微かに香る匂いに違和感を覚えたが疲れもありプリムラにそれを聞く事はしなかった。


かわりに一言ツッコミを入れておく。


「……マシンごと落ちてきてからほとんど仕事してないだろ」


「そ、そう言われるとその通りなんですが……」


「ま、いいけどな。採掘科の連中も無事みたいだ。帰るぞ」


「わ、わかりました」


わー!と歓声を上げる採掘科の生徒達に手を振ってから、ヒビキは《ゼルヴィード》をジャンプポイントに向かわせた。


これが、ヒビキとプリムラの二人の出会いであった。





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