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ネシオン工場見学(後編)






「ツカサ、聞こえるかい?」


「こちら迅矢。健在です」


《アンカレッジ》のリンコからの通信にややぶっきらぼうに返事を返す間にも、《ナーブ・B》を一機撃墜する辺りは、流石パイロット科のトップエースというところだろう。


「状況は?」


「私以下二名とも問題ありませんが、予想より攻撃が激しいです。《ナーブ》系マシンを21機撃破。残弾は全員半分を切りました。三時間の制圧継続は補給無しでは難しそうです」


「わかった、増援と補給をすぐ用意する。ヒビキ達は?」


「中で残存戦力と交戦したようです。電波阻害が強く、状況はこちらではあまり把握出来てません」


「定期的に呼び掛けな。危ないと思ったら突入して回収してもいい」


「ラジャ」


リンコからの通信が切れた。戦闘に集中しろという配慮だろう。


「補給が貰えるなら、もう少し頑張れそうだな」


「ヒビキはともかく、プリムラちゃんは絶対無傷で帰すぜ」


口調は普段通りにしているつもりでも、リュウジもケンも少し疲れが出てきているのがわかる。長時間の戦闘を続ければ、誰かしら被弾も出てくるだろう。


「しかしコイツら、何で波状攻撃を続けてくるんだ?」


「俺達をここに足止めして時間を稼いでいるうちに大部隊が来るんじゃないスか?」


ケンの予想はあながち当たっているような気がする。先程からネシオンは定期的に二機や三機でこの空域に近づいて攻撃を仕掛けてきていた。


「うざったい!」


ギィィィン!電磁ライフルから発射した貫通弾が《ナーブ》のセンサーから尾部までを貫き爆発させる。その向こうからまた増援が接近するのを見てカートリッジを入れ替えるツカサ。


「《ゼルヴィード》の回収、すぐにできるようにね!」


「了解」


「わかってるよ姐さん」









落下はそれほど長くは無かったように思える。背中から落下した《ゼルヴィード》の各部を確認ながらヒビキは慎重に機体を起こした。


「メインバーニアが片方潰れちまったか。くそったれ」


さすがに高性能を誇る《ゼルヴィード》でも推力が半分では飛行する事ができない。脱出はツカサ達の手を借りる必要がありそうだ。


ともかく、周囲の状況を確認する。


「マスター、ここって……」


「廃棄場か?」


投光器で照らすと、床面にはネシオンの物とおぼしきパーツが無数に散らばっていた。どれもねじ切れたり焼かれたりしている。戦闘で破損した物を回収して置いておく場所だろうか。


「ネシオンにもリサイクル精神って物があんのかな。プリムラ、とりあえずツカサを呼び出して……」


ヒビキの指示をプリムラの緊張した声が遮る。


「マスター、センサーに感。すぐそばにいます!」


「!」


ビュッ!と横から突き出されたのは、長大な刃物だった。刃先が左肩のアーマーを貫通して、そのまま頭部を突き刺そうという寸前でヒビキが《ゼルヴィード》を前のめりに回避させる。


「機械仕掛けの癖に不意討ちかよ」


相手を睨む。部屋の中にいたのは、やはりサソリ型のメカだった。それが人間のように直立した脚を持ち、半身ほどの長さの凶悪なハサミを両腕に備え、真っ黒な装甲と赤くセンサーアイを光らせているという違いはあるが。


(ここまでくりゃもう別機体だな)


有無を言わせず左のハサミを降り下ろすネシオン。床面に散らばる破片に脚を取られないよう注意しながら体さばきでかわし、レイ・ライフルを一射。ブラズマ光が暗い空間を真っ白に染めながらサソリマシンの肩口を灼くが、当たりが浅かった。


お返しとばかりに右側のハサミが続けざまに振られ、レイ・ライフルの砲身が切り払われる。


「マスター!」


「舐めんなよ!」


負けずにメーザーソードを抜き、ライフルを切ったハサミの根本をぶった斬る。お互いに一刀を構え、間合いを取り対峙する形になった。


「な、なんなんですかコレ」


「さぁな。迷宮の奥に潜む処刑人ってとこじゃないか」


「そんなホラー映画みたいなのいらないですよー!」


プリムラの涙声に混じってツカサからの通信が入る。


「……ビキ!状況……」


「良くない!バーニアをやられた上に交戦中だ!悪いが回収頼む!」


「……った!」


正確に伝わったかどうかは再確認する暇が無かった。


ビュッ!!再び突き出されるハサミをシールドで受ける。が、超硬合金で形成されたシールドは紙のように破られた。そのまま左腕も持っていかれてしまう。


「ヤロウ!」


右脚でサソリマシンの胴体を蹴り飛ばす。すかさず後を追い、メーザーソードを突きだすがネシオン機は床面を転がりヒビキの攻撃を避けた。


「戦い馴れている、コイツ!」


敵の胴体部からマシンガンが飛び出して弾丸を連射してきた。シールドの無い《ゼルヴィード》は回避するしかない。その間に敵は体勢を建て直し、再び襲いかかって来た。


「マスター!」


「いい加減に……ッ!」


突き出された鋭いハサミを“正面”からまっぷたつに叩き割る。ヒビキの必殺技の一つ、インファイトカウンター。全神経を集中させて一点に武器を当て、相手のパワーをも活かし敵に致命傷を与える技だが失敗すればこちらが大ダメージを受けるのは免れない。


「……めっちゃバクチ技じゃないですか」


「お前、もう少し俺の腕を信用しろよ。六割以上は成功するぞ」


「成功率90%以下の選択肢なんか怖くて取れませんよ!これだから人間は……」


「他に手がなけりゃ使うしか無いだろ」


とにかく敵のメインの武器を奪って余裕が出た。ヒビキが続けて先程弾丸を発射していたマシンガンも潰すと、相手は不利を悟ったかゆっくりと後ずさっていく。


「後はツカサ達が助けに来てくれるのを待つか」


「そうですね」


二人が溜めていた吐息を吐き出して、肩の力を抜いた時。


ガガガガガ……。


天井の一部が軋みをたてながら開いた。


「何だ?」


開いたのはサソリマシンのちょうど上。そこから何か長い物体が二本、チェーンに吊り下げられて降りてくる。


「マスター、コレ……」


降りてきたのは肘から下が大型チェーンソーになっている機械の腕だった。立っているサソリマシンから破損した両肩パーツが外れて、替わりにそのチェーンソー腕がガシン、と装着される。


「テメェコラ汚ねぇぞ!」


「そんな事言ってる場合じゃ無いですよぉ!」


怒鳴るヒビキをいさめるプリムラ。その二人の前でサソリマシンのチェーンソーが火花を発しながらチュィィィィン!と始動する。見るからに先ほどのハサミ以上の破壊力がありそうだ。


ゆっくりと迫りくるネシオン機にプリムラが半泣きでヒビキにしがみついた。


「ま、マスター!」


「なんか武器は!?」


「こ、腰部にスパークル(閃光弾頭ミサイル)が!」


ままよ!と発射スイッチを押す。《ゼルヴィード》の腰から発射された二つのミサイルはすぐに爆発し区画内に激しい白光を溢れさせた。


「ぐぉぉぉぉ、眩しい!」


サソリマシンの動きは止まったが、こちらもモニターが死んで上手く動けない。閃光がおさまり、漆黒のネシオン機はチェーンソーを振り上げた。多少の時間を稼いだだけかと覚悟した、その時。


「スマッシュゥゥゥ……ビィィィィィィィム!!」


無線を通して響く戦友の声、そして天井を突き破って降り注ぐ碧色の光弾の豪雨。


ドガガガガガガ!垂直に叩きつけるビームの嵐はサソリマシンを丸ごと飲み込んだ。やがてビーム攻撃が止まり……その後には溶解しクレーターのように窪んだ床面だけが残されていた。


「二人とも、大丈夫か?」


天井の穴からひょっこりと顔を出したのはツカサの《ハイフェリオン》だった。その後ろにはリュウジの《ハイフェリオン》も見える。二人で工場の外壁を破って助けに来てくれたようだ。



「大丈夫だ……っていうかめっちゃあぶねぇじゃねぇか!」


「いや、俺も止めろって言ったんだが……」


申し訳なさそうに言うリュウジのセリフにツカサが割り込む。


「今アタシが助けなかったらやられてただろ!」


「それはそれ!」


「うっせえなー!リュウジ、さっさとコイツ引き上げてくれ。アタシの《ハイフェリオン》パワーの回復にもう少しかかっちまう」


「高荷電粒子解放装置なんか使うから……」


「スマッシュビームって呼べ!」


今しがたツカサが使ったのは《ハイフェリオン》の大型バーニアに内蔵された粒子圧縮装置から推進用の荷電プラズマ粒子をリバース放射する機能だ。


本来はオーバーブーストの緊急停止時等に内圧を下げて事故を防ぐ等に使われるものだが、

最大まで圧縮した状態で前方に絞り放射すれば近距離攻撃にも転用できる。


当然本来の使用方法では無いため自機にもダメージを受けたり推進機能に異常が発生する危険があり、さらに全パワーの七割以上を一気に使うためにその後の機動力がガタ落ちになってしまう為、今では使用しないよう通達がまで出ているのだが、ツカサのような過激なパイロットには逆に切り札として好まれていた。


「とにかく外はケン一人なんだ。さっさと脱出するよ!」


「了解。リュウジ、頼む」


「おう。飛ばすから気をつけてくれ」


リュウジの《ハイフェリオン》に残った右腕を捕まれ一気に引き上げられる。三機が連れ立って工場の外に出た時にはケンが一人でネシオンに向けてライフルを乱射していた。


「やっと出てきたか!」


「すまない、状況は?」


「レーダー見ろよ。連中、パーティーと勘違いしてんじゃねぇか?」


コクピットのレーダーには南西方向から編隊を組んで迫ってくるネシオン機の光点が表示されていた。その数ざっと40以上。


「こりゃたまらんな」


「急いでジャンプポイントまで後退するぞ!プリムラ、《アンカレッジ》に通信だ。ジャンプポイントに援護要請!」


「わ、わかりました!」


ツカサの指示で《アンカレッジ》のパイロット科に連絡するプリムラ。その後ろでヒビキは胸元の圧着ジッパーを開けて汗を拭う。


「ネシオンは……俺達が思っていたより巨大な勢力なのかもな」










後輩パイロット達の援護を受け、ヒビキ達は無事に《アンカレッジ》まで帰還できた。ヒビキとプリムラが撮影した工場内の映像や新型機のデータはすぐに解析班に回され分析にかけられる。今まで見つからなかったような文字や工場内の設備から、ネシオンの正体に大きく近づけるのではないかと《アンカレッジ》の全スタッフの期待が高まっていた。


「ま、あれだけで全部がわかるって訳でも無いだろうけどさ」


リンコから報酬代わりに貰った高濃縮ビタミン配合エナジードリンク(貴重な物で一般士官にもめったに配給されない)を飲みながらヒビキはボヤくように言う。


アームドキャリバーの整備デッキ。眼下では《ゼルヴィード》の修復作業が進められている。予備部品の少ない《ゼルヴィード》の修理にはメカニック科の生徒達も苦労しているようで、そこは少しだけ悪いなとヒビキも思った。


「仕方ないさ、敵さえ出なきゃもう少し調査できたんだろうけど」


隣で同じようにドリンクを飲みながらツカサ。彼女達の《ハイフェリオン》は大きく損傷はしていないので補給さえ済めばすぐに出撃状態に戻せる。


「連合軍の本隊が来てくれればネシオンを全滅させてルモイの開発も進むと思ってたけど、あんな感じの地下工場が大量にあると厄介だな」


「シラミ潰しで壊していけばいいのさ」


「ケンは単純で良いねぇ」


ツカサの呆れ声に笑いが漏れる。


「ンだよぉ!それが一番シンプルだろ!」


「あくまでこっちの戦力が上回っていれば、の話だがな」


リュウジのツッコミにケンも押し黙る。


「この星の潤沢な鉱石資源とガスエネルギー。これが全部敵に回るとなれば……アタシ達の戦いは楽にはならないだろうな」


ツカサの言葉にヒビキ達はしばらく無言でハンガーに並ぶ愛機を見つめていた。

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