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第8話 コイツ一体何者だ?

 ガサガサと、草木が激しく揺れる音がする。俺は耳を澄ませ、音の方向の特定に急ぐ。


「オイ、クーナ! 狐っぽいの! あっち!」


 どうやら俺より先に、ナオトとかいったエロ猫が先に特定に成功したらしい。頭のでかい耳は、飾りじゃないって事か。

 全員で、ナオトの見つめる方に目を向ける。音はだんだん大きくなり、やがて、見覚えのある巨体が姿を現した。


 体つきは人間と同じ。だがその身長は三メートル程もあり、青銅色の皮膚の下は厚い筋肉で覆われている。

 そしてその顔面では、巨大な一つきりの眼がギョロリとこっちを睨み付けている。――間違いねえ、サイクロプスだ!


「サーク、あれってもしかして、この世界に来る前に私達が戦ってた……!」


 クーナの言葉に、サイクロプスからは視線を外さず頷き返す。サイクロプスの体には真新しい切り傷や火傷の痕が残っていて、けして万全の状態ではない事が窺える。

 あれは他ならぬ、俺達が負わせた傷。俺達と共に崖から落ちたサイクロプス、その当人である事は疑いようがなかった。


「チッ……あいつまで来てやがったか! 手負いとは言え気を抜くなよ、あいつはとにかくタフで……」

「何だ、オレの知ってるのとはちょっと違うけどサイクロプス一匹きりかよ。構えて損した」

「は?」


 クーナに指示を飛ばそうとしたその刹那、聞こえてきた気の抜けた声に俺は耳を疑う。見れば、ナオトが明らかに拍子抜けといった様子で手を頭の後ろに組んでいた。


「え……えええ!? ナオト、何言ってるの!?」


 信じられないという風に、クーナの口から大声が上がる。正直、俺も同じ気持ちだ。

 サイクロプスは大柄な体躯に似合わぬ俊敏さ、何よりもそのタフさと頑丈さでベテランの冒険者でも苦戦する相手だ。それを雑魚扱いだと?


「何って。あんなの一匹くらいオレ一人でラクショーだって」

「おい……今はふざけてる場合じゃねえんだぞ!」


 あまりの緊張感の無さに俺は思わず声を荒げるが、ナオトはやはりどこ吹く風だ。それどころかニヤリと笑みを浮かべ、軽い調子で得物の剣を手に取る。


「ゆり、ここでジッとしててね。すぐに――アイツ片付けてくるから」


 そう言った瞬間――ナオトの纏う雰囲気が、変わった。


 ナオトが地を蹴り、サイクロプスへと向かっていく。まるで野生の獣が駆けるかのようなその速度に、サイクロプスの反応が一瞬遅れた。


「そらっ!!」


 それだけで、ナオトには十分な隙だった。相手が迎撃に移るその前に、軽やかに高く飛び上がると一刀の元に腕を切り飛ばしたのだ。


「グゥゥオオオオオオオオッ!!」

「なっ……サイクロプスの腕を一撃で!?」


 二の腕から先を失い、悲鳴を上げるサイクロプス。噴き出したドス黒い返り血が、ナオトに降り注ぎその身を黒く染めていく。

 返り血に濡れた横顔から見える、獰猛に輝く金色の瞳。それはさながら、獲物を目の前にした猛獣を思わせる。

 もしも、この血が紅かったならば――。俺はナオトの名乗った、『紅い勇者』の異名を思い返していた。

 立て続けに、今度はナオトがサイクロプスの片足を一閃する。腕を失った事に動揺していたサイクロプスに逃れる術はなく、ふくらはぎの辺りから切り離された足から血を噴き出しながら、その巨体がグラリと傾いだ。


「これで終わりっ!」


 最後に体の支えが不完全になり倒れ込んだサイクロプスの一つ目に、ナオトが剣を深々と突き立てた。新たな悲鳴を上げる間もなく事切れたサイクロプスは、そのままナオトを掠めるように倒れて二度と動かなかった。


「ほい、いっちょあがり」


 そう言ってこっちを振り返ったナオトは、もう初めに出会った時の、軽薄な表情に戻っていた。それを前にして、俺とクーナはただ呆気に取られる事しか出来ない。

 コイツは……何者なんだ? 今更のように、そんな疑問が俺の中に渦巻いた――。

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