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第15話 それはきっと「特別」だから

「……頭イテ……」

「んだよあれっくらいで。酒弱いなぁ」

「お前が強すぎんだよ! あ、イテ……」


 出発の朝。いつまで経っても下に降りてこない男性陣をゆりとクーナが迎えに行くと、サークが何やら頭を押さえていた。

 二人の様子と会話からすると、どうやらゆうべは二人で飲んでいたらしい。二人が仲良くなったようで良かったと、ゆりは小さく胸を撫で下ろした。


「おはよう、ナオト、サークさん」

「あ! ゆり! 会いたかったー!」


 ゆりが声をかけると、瞬時にナオトが尻尾をピンと立てて振り向く。そして一直線にゆりに駆け寄ると、熱い抱擁を交わした。


「あぁー、一晩ぶりのゆりの匂い。たまんねぇー……」

「フフッ、もう、ナオトったら大袈裟なんだから」

「大袈裟なんかじゃねーって! ホントは毎日こうしてたいぐらいなんだぜ!」


 子供染みた事を力説しながらゆりの肩口に顔を埋めるナオトに、ゆりの頬が緩む。よしよしとゆりがナオトの頭を撫でると、抱擁はより一層力強くなった。


「もー! 皆に体調気を付けろって言った本人が何やってるの!」


 その声にナオトの肩越しにゆりが向こう側を見れば、クーナが頬を膨らませてサークに怒っているところだった。本人は本当に怒っているのだろうが、その仕草はどこか小動物めいていて、ゆりには微笑ましく見えてしまう。


「ワリィ……ナオトのペースに合わせてたらつい……」

「ホントにもう! 男同士仲を深めるのはいいけど、加減は考えてよね!」

「だぁら悪かったって……そう言うそっちはゆうべ何してたんだ?」

「え? ゆうべはゆりさんに魔法教えたり、怪我を治して貰って……あ」


 逆に問われた質問に答えている最中に、クーナがしまった、という風に慌てて口を押さえる。直後、今度はサークの目の方が徐々につり上がっていった。


「怪我? ……おい、聞いてねえんだが?」

「ア、アハハ……」

「こんの馬鹿娘! 怪我したらすぐに俺に言えっつっただろうが!」


 頭痛も忘れたように、勢い良くクーナに詰め寄るサーク。完全に逆転した立場に、クーナはしどろもどろになって弁解を始める。


「そ、そんな大した怪我じゃなかったし? サークと合流した時には血も止まってたし?」

「しかも血が出る怪我かよ! お前は女なんだぞ! 痕が残ったらどうすんだ! ああもう、知ってりゃお前じゃなくて俺がゆりを背負ったのに!」

「だってあれは、何が起きてもいいようにより強い人の手を空けるべきだって思ったから!」


 次第に加熱していく、クーナとサークの言い争い。それを見ながら、ゆりは、ゆうべのクーナの言葉を思い出していた。


『私ね、サークにはそういう対象としては全然相手にされてないの』


 そう言って、クーナは寂しげに笑っていた。それは恋愛に対して臆病な、恋する少女のもので。


『だからね、いつかサークに振り向いて貰えるような素敵なレディになって、旅のパートナーとしても、人生のパートナーとしても認めて貰う。それが、私の夢なの』

(……って、クーナちゃんは言ってたけど)


 しかし、今目の前の二人を見てゆりは思う。クーナの想いは、一方通行などではないのではないかと。


 出会ったばかりの時、あんなに懸命にクーナを探していたのも。

 クーナを見つけた時、あんなに安心した顔をしたのも。

 そして今、怪我をした事を隠していたクーナを本気で叱っているのだって。


 ――きっと、全部、サークにとってクーナが既に「特別」だからで。


「……二人とも、とっても幸せそうだね、ナオト」


 気付けば、ゆりはそう口にしていた。しかし複雑な男女の情など理解出来ないナオトは、その言葉に不思議そうに目を瞬かせる。


「幸せそう? ……アレが?」

「うん、すっごく」

「……よく解んね」


 眉根を寄せて呟くナオトが可笑しくて、ゆりはまた、笑った。

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