ペットボトル
ぼくはここに生き埋めになっている。何十時間経っただろうか。外は明るいのか、暗いのかわからない。狭い場所は好きだから大丈夫だけどこれからどうなるのか。何故こんなにも冷静にいられるのかと言うと普段から誰とも話さないからである。狭い場所は精神的に落ち着く。自分を邪魔してくる人間もいないし・・・と思ったらいるはずのない声がする。暗いけどわずかな隙間からの光で少し見えた。それは少し白くていい匂いがする。ああ、隣の席の女の子か。
「おい、お前水とか持ってる?」
死にそうな顔なのに随分と上から目線である。そうだ、いつもこうだ。いつも通りで安心した。はい、どうぞと98円の緑茶を渡した。中身は小便だけど。
差し出したペットボトルを奪うようにラッパ飲みをすると、彼女はこちらを蔑むような目線でこっちを睨め付けた。殴られたり、蹴れたりするのかと思って内心期待していたのだが、もう思うように身体が動かないようだ。
すると彼女は飲み干したペットボトルを残ってる左手でなんとか身体の下の方へ持って行った。そして、「借りたものはちゃんと返さないとな。」といって小便を詰めてこちらに渡してきた。
彼女に借りたものを返す脳みそがあったのだな、いやもうないか。そんな馬鹿なことを思いながら返却された液体を飲み干した時、人生で初めて友情を感じて初々しい気分になってきた。
そして初めての友達はいなくなったけど今もぼくの身体の中に分子レベルで存在する。孫の顔を見るたびにあの日の青春の日々を思い出す。