寸説《笑い僕》
頼まれれば笑い続ける。
それが僕のお仕事。
僕が笑えばつられて皆笑ってくれる。
だから僕は笑い続ける。
皆が幸せだと僕も嬉しい。
笑うことしか出来ないけれど、とても楽しい仕事。
「わははははは」
僕を見つけてくれた女の子。
今日から彼女のために僕は笑う。
「わははははは」
「…………」
僕に触れて笑ってと頼んでくるのに彼女は笑わない。
「わははははは」
「…………」
僕が笑い続けても、何かに堪えるように口を結んだまま笑ってくれない。
「わははははは」
「…………」
彼女の瞳から滴がひとつ。
「わははははは」
「…………」
滴がどんどん増えていく。
「わははははは」
「……どうして」
彼女は俯いてしまう。
「わははははは」
「どうして、あなたは笑えるの?」
うわーん! と彼女は泣き出してしまった。
僕は笑顔で困った。
僕が笑っても笑っても彼女の涙は止まない。
「わははははは」
「ふぇえええん」
彼女を慰めたいけど僕は笑うことしか出来ない。
どうしたの? 大丈夫?
かけてあげたい言葉はたくさんあるのに僕は笑うことしか出来ない。
「わははははは」
「わああああん」
だったら彼女が笑ってくれるまで僕は笑い続けよう。
僕が笑えばつられて笑いたくなるように。
「わははははは」
「うええええん」
「わははははは」
「ひっく」
「わははははは」
「すん」
彼女の涙が消えていく。
「どうして笑ってくれるの?」
「わははははは」
それが僕の仕事だから。
「居た! 探したのよ!」
大人の女性が彼女に駆け寄る。
「わあ! お母さん!」
彼女も僕の手を引いて駆け出す。
「心配したんだからね。それどうしたの?」
彼女のお母さんが僕を不思議そうに見る。
「私のお友だち!」
彼女は僕を見てにっこりと笑った。