ちょっと早めな林間学校
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宜しくお願いします。
5月中旬に開始されたちょっと早めな林間学校。
現在、俺達は調理をしていた。
着いてからは、各コテージに移動後、荷物整理、その後、山の散策、そして現在と至る。
部屋?男女別だよ。部屋だけは2班合同になる。
1、2班の男子はA棟、1、2班女子はB棟というふうに分かれた。
現在だが、晩御飯は自炊の為、各班ごとに分かれて調理しているところだ。
と言っても、現在、火を着けているところである。
「くそ!!また消えた!!」
俺は吐き捨てるように呟く。
これで5回目だ。
火は大きくならずに消えてしまう。
周りを見回すと他の班の人も苦労しているようであった。
「貸してみな」
リョウが言って来たので大人しく場所を譲る。
約一分後、
「うん。これで大丈夫だね」
火は高らかに燃えていた。
調理がしやすい見事な火加減。
「さすがだな。少し妬けっちまうよ」
人が苦労していたことを一回で成功させてしまう。
これが才能の差なのだろう。
「そんなことないよ。僕も初めの頃は苦労したよ。家族の影響でこういうことには慣れているんだよ」
いや、貴方、プロレベルよ。
「凄~~い。良く燃えてるね。流石だね、良平くん」
調理道具を持ってきた白川さんは完成したばかりのかまどの上に材料が入った鍋等を置く。
「誰でも慣れれば出来るよ。で、白川さん、何を作るの?」
リョウは今回買い出し係だったのだが、何を作るかは聞いてないらしい。
「出来るまで内緒♥️」
白川さんは可愛らしくウインクする。
バタバタと様々な方向から音が聞こえてくる。
良くみると、男子達が倒れていた。
おい、そこの君達、角度的に白川さんのウインクは見えてないのに何故倒れた?
「(♥️にやられました)」
目はそう訴えていた。
アホだ・・・
「じゃ、大人しく待ってますか。ジュン、行こう」
俺はリョウに連れられ他班の火起こしを手伝いに向かう。
まぁ、リョウが全部やって、ちやほやされたのもリョウだけだ。俺は荷物を運ぶだけ。
理不尽だよね・・・
「うぉ~~、旨そう!!」
俺は目の前に並べられた料理を見て感想を口にしていた。
机に並ぶのはマカロニグラタン。
チーズには丁度良い焦げ目がつき、ほんのり香るチーズの匂いは食欲を刺激していた。
「でしょ!!得意料理なんだよね!!」
若干ドヤ顔の白川さん。
ドヤ顔が可愛い。
「冷める前に食べちゃて」
出来た班から食べ始めていいという先生のお達しに従い、俺らは席に座る。
「「「「いただきます!!」」」」
周りの男子生徒に羨望の眼差しを 向けられる中で、グラタンをスプーンで掬い、口に運ぶ。
「うん~~~~!!」
口の中に入れた途端、チーズはとろけ、ホワイトソースと絡み合う。
口に入れたグラタンはあっという間に消えていた。
俺は沸き上がる食欲に堪えられず、一口、また一口とスプーンと口を動かす。
美味しすぎて、これ以上言葉にならない。
語彙無くてごめん!!
隣ではシュンが無言で涙を流しながら食べていた。
涙はちょっと・・・
俺とリョウの食べる姿を見て、リョウと新田さんは恐る恐る口に運ぶ。
そして、
「「美味しい!!」」
二人揃って驚愕の表情を見せていた。
あれ?二人とも白川さんの料理を食べたことあったのかな?
というか白川さん、料理苦手なの?
「どう・・・かな?」
白川さんは恐る恐る訊ねてきた。
たぶん、感想を述べずに食べる俺とシュンに言っているのだろう。
「「美味!!」」
俺とシュンは顔を見合せ答える。
「良かった」
彼女は俺達の言葉に笑顔を見せる。
ホッとしたような、そんな表情。
「これ、毎日でも食べたいです」
俺は素直な感想を口にする。
あれ?今、俺、何言った?毎日?ちょ、まて。
気づいた時には既に遅し。
時間よ戻れ!!という俺の願い虚しく、彼女は顔を真っ赤にさせる。
同じ席に座る班員だけでなく、他の班の人達まで口をあんぐりと開けていた。
「ま、毎日は無理かな。ごめんね」
彼女は何とか気を持ち直して告げてくる。
ちょっといたずらっ子ぽさが漂う言い方。
こんなので謝られたら誰でも許してしまう。そんな愛嬌があった。
流石は元子役、演技力が高い。
「残念!!振られた!!」
俺は大きめの声で告げる。
直後、大きな笑いが起きる。
「・・・・・・バカ」
彼女の小さな抗議の声が聞こえる。恐らく、俺の行動への言葉だろう。
何かと聡い彼女だ、俺が笑いに持っていくことで誤魔化そうと試みたことぐらいバレている。
「じゃあ、片付けをしたら今後の確認な」
教師の気の抜けた声はちゃんと生徒に届いていた。
まだ、林間学校は始まったばかりだ。
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「よっしゃあーーーーーー!!」
部屋内に野郎の野太い叫び声が響く。
お風呂に入り終えた俺達は、他の班のメンバーが風呂を終えるのを待っていた。
折角の暇時間、当然、遊んでいた。
「何でだ!!何で俺は勝てないんだ!!負け組なのか?人生負け組なのか?」
シュンは拳を床に打ち付け、床を睨みながら叫んでいた。
シュンよ、彼女がいない時点で俺らは青春敗者だよ・・・
「まあまあ。結構良い勝負してたじゃん」
勿論、最後の1VS1の最終決戦のことである。
「うるさい!!勝ち組男!!俺はビリだ!!人生全てにおいてビリなんだよ!!」
完全に情緒不安定&ネガティブ精神である。
行きのバス内でも新田さんに負けビリ、今回もビリと続いていた。
少し負けが続いただけで大袈裟だな・・・
「少し負けが続いただけでなんて考えちゃだめだよ、ジュン」
おっと、俺はさっきのモノローグを口にしてないぞ。
心を読まれたな・・・
「悪い悪い」
俺は顔の前で両手を合わせ謝る。
「そこ!!聞こえてるわ!!負けが続く?俺は、今まで一度もカードゲームで勝ったことがないんだ!!」
その言葉が響いた刹那、その場にいた全員がシュンに憐れみの視線を向けた。
暫く静寂が続く。何か言いたいけど言えない。
そんな雰囲気が場を支配しかけた直後、俺のスマホがブーブーと音を立て震える。
「悪い」
俺は一言入れ、画面を確認する。
そこには、新田さんから『私達が使っているコテージに来てもらえませんか?』とのメッセージが来ていた。
何だ?罠か?
冗談。理由の検討はついている。
『今から行きます』
俺はメッセージを送り立ち上がる。
「悪い、ちょっと外出てくる」
俺は靴を履き、玄関を出ようとする。
「おい、逃げるな!!」
「断る!!」
俺は気まずい雰囲気が流れる男子達を放置して新田さんが待つコテージに向かった。
「ありがとうございます。で、お話なんですけど外じゃあれなんで中でもいいですか?」
「女子部屋とか入る機会ないから、入っていいなら入りたいです!!」
「ちょっとイヤかも・・・」
「え~~」
そんな会話をしながらも、俺は人生初の女子部屋(旅行先)に入ることとなった。
いつの間にか、お互いに敬語は抜けていた。
「で、話って?」
諸君、気づいているだろう。
これは確定イベントだ。
「あの、村上君に、好きな人っているんですか?」
彼女は顔を真っ赤にして、告げる。
アニメとかなら『あわわわわ』とか顔から湯気が出る程の赤さだ。
そう。
俺に週一回ぐらいで訪れる確定イベント、主人公の親友への質問イベントだ。
「いないと思う。今まで聞いたことはないかな」
このあとに来るのは大体・・・
「村上君の好きなモノとか教えてもらっていいかな?」
あれ?
「え、え~と高橋君?」
予想と違う台詞に少しラグった俺に心配そうな声をかけてくる。
「わ、悪い。好きなものだな?えーとな・・・・・・」
その後、リョウの好きなモノ、嫌いなモノ、好みや趣味といった本当に様々な事を聞かれた。
俺は、答えられることは全て答えた。
最後までいっても、俺が予想していた台詞は来なかった。
「ありがとう。色々教えてくれて助かったよ」
「大丈夫。一つ聞きたいだけど、やっぱりリョウのこと好き?」
ここまで聞かれたらほとんど確定だが、それでも確認しておく。
「っ!!・・・・・・はい」
彼女は顔を真っ赤にした後、強い意思を秘めた眼差しでこちらを見ながら答えを呟いた。
「じゃあ、なんで俺にリョウと会話する機会を作って欲しいとか間を持つ的な感じのことを言わなかったの?相談とか質問を受けている側からはそういうことって言われそうに感じるんだけど」
俺は少しカマをかけにいった。
今までリョウの恋愛関係について聞いてきた女子は決まって言ってきた台詞だ。
正直、これが来るとずっと思っていた。
「村上君と会話をする機会を作って貰わなくていいって言ったらたぶん嘘になってしまいます。作って欲しいって思ってる私は自分の中にいるんで。でも、私は、自分の力で村上君と距離を縮めていきたいです。まずは友達から。そこからやっていきたいんです。少しずつでも、ゆっくりでも、例え、友達のままでも・・・」
彼女の瞳は震えていた。
だが、彼女の姿はとても眩しいものに見えた。
「試すようなこと聞いて悪かったな。相談とかあったらいつでものるから」
俺は素直に謝罪する。
今まで、リョウのことについて話しかけて来た女子達は、揃って紹介、話す場を設けろと言ってきた。
その為、彼女もそんな奴らと同じなのだと決めつけていた。
「いえ、そう思われて当然ですから。困った時は力を貸してくれたら嬉しいです」
彼女は笑顔で告げる。
「あれ、そういえば、他の女子は?」
今さら気づいた俺は一応理由を問う。
彼女はリョウのことが好きなのだ。勘違いされたら困る。
「私だけ入浴時間が早かったんです。他の皆は今、お風呂です」
なるほど。長時間いないのも納得出来る。
「じゃ、帰ってくる前に帰りますか」
俺はよっこいしょと腰をあげる。
「高橋君、一つだけ教えて貰えませんか?」
彼女は、表情を正してこちらを見つめてくる。
「何?」
俺は先を促す。
どういう質問が来ても大丈夫なように一応身構える。
「ハルちゃんのこと、どう思ってるの?」
彼女は、俺を探るような視線を向けてくる。
ハルちゃんは白川さんのアダ名だろう。
「白川さんのこと、か・・・」
自分も最近、そのことを考えることがあった。
関係をあげるだけでも、協力者、友達、相談相手、彼女との関わりが特殊の為にこれだ!!と思える答えは出ない。
俺は彼女のことをどう思っているのか?
たぶん、俺は彼女に憧れている。
クラスメイトとして、作家志望として。
彼女は俺には太陽に見えた。
だけど・・・
「ごめん。分からないや」
答えは出ない。
誤魔化すことは彼女に失礼だと考え、思ったことを口にする。
「俺は、彼女に憧れていると思う。だけど、他の、もっと違った感情がある・・・とも思う。だから、どう思っているのか分からないや」
俺の言葉を新田さんは静かに聞いていた。
「分かった。教えてくれてありがとう」
彼女は柔らかく微笑みながら言葉を告げた。
満足な答えを返せたのか分からない。
「それじゃあ、俺は戻るわ。また後で」
「うん。ありがとう。また後で」
こうして、俺はコテージを去った。
「ハルちゃんのこと、どう思ってるの?」
新田さんの言葉が何度も頭に浮かんでは答えが出ないまま消えていった。
次話は一週間以内に投稿します。
宜しくお願いいたします。




