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夢を見るのにすらお金は必要

更新しました。

楽しんでいただければ幸いです。


「話があるから、私の部屋に来て貰ってもいいかな?」


 彼女の言葉の意味を理解した瞬間、心臓が加速し始める。


「へ、部屋?」


 俺の口から上擦った声がこぼれる。


「う、うん。私の部屋だと、パソコンとか色々あるから話しやすいと思ったんだけど……」


「そ、そうだな。じゃ、じゃあ、えっと~~」


 俺が言葉を選んでいると、彼女はふふっと静かに笑う。

 こういう場での経験値の少なさに恥ずかしさがこみあげてくる。


「私の部屋は上の階だから着いてきて」


 白川さんは、エプロンを脱ぎ、エプロン置き場(?)にかけ、階段を上がり始める。

 俺は、緊張に耐えながら、彼女の後を追う。

 二階の一番端の部屋の扉の前で彼女は止まった。

 どうやらここが彼女の部屋らしい。

 というか廊下長過ぎ……

 扉には、「はるかの部屋」と書かれた、クマの形をしたドアプレートが掛かっていた。

 これから、学校のアイドルである白川さんの部屋に入る。

 そう考えると、おさまりかけていた緊張が再び強まっていく。

 彼女が扉を開き中に入る。

 一歩、足を踏み出す。


「お、おじゃまします」


 中に入ると同時に、ほんのりと甘い、良い匂いが漂ってくる。

 どうやら、女子の部屋からは良い匂いがするのは二次元だけの話では無いらしい。

 部屋に意識を移すと、可愛らしいクマのぬいぐるみやく、クマのぬいぐるみが目に入る。

 本棚には、少女マンガや恋愛モノの小説がずっしりと並び、壁には、栗色の髪の少女が、祈るようなポーズをしているポスターが飾られていた。

 全体的によく整理された部屋というのが正直な感想だった。


「(クマ、好きなのか……。あのポスターは、あ、彼女の作品のやつだ!!)」


「あ、あの、そんなに見られると緊張するんだけど……」


 彼女は、耳を赤くしながら呟く。

 その声で、現実に意識を戻された俺は、慌てて口を開く。


「わ、悪い。女子の部屋に入ったの初めてだったから」


 俺は、動揺のあまり、口にしなくていいであろうことまで喋ってしまう。


「へ~~、私が初めてなんだ~~」


 白川さんは、無邪気な子供のようにニコリと笑う。

 そんな中、俺は、

 今のセリフはだめでしょーー!!

 心の中で叫んでいた。 

 他意がないのはわかってる。わかってるんだけど……


「で、話ってなに?」


 俺は話題を変えようと試みる。


「あ、うん。だけど、その前に……」


 彼女は瞳を覗き込んでくる。


「高橋君、私に話したいことあるんじゃない?」


「え?」


「なんとなく、そう感じたんだ。間違ってたらごめんね」


 彼女は気恥ずかしそうにこちらを見つめている。


「バレてたのか。実は、これなんだけど」 


 俺は、バッグの中から一通の封筒を取り出す。


「それって体育祭の時の?」


 そう。これは、体育祭の際、景品としてもらったものだ。

 なかには、


「これ、貰ったんだけど、……一緒に行きませんか?」


 封筒から、一枚の紙を取り出す。

 ‘最高にハイになれるぜ’という謳い文句で有名なハイテンションランドのペアチケットだ。

 あくまでこれは、俺個人の意見だが、夢を見るのにすらお金が必要だということを思い知らされた場所だ。

 金を払って中に入っても見えたのは現実(リア充)だったけど……

 

 因みにこちらの商品は2dayチケット。

 しかも、ホテルの部屋もついているらしい。

 つまり泊まりだ。


「わ、私と?本当にいいの?」


 しばらくの間、口をあんぐりと開けていた彼女だったが、途端に顔を真っ赤にした後、深呼吸をしてから尋ねてきた。

 だが、若干興奮気味だ。

 女子は、こういうテーマパーク好きだもんな……(※あくまで個人の意見です)


「白川さんの取材にもなるかな~~って思ってさ」


 空いた間を誤魔化すように思わず言い訳を口にしてしまう。


(はぁ~~)


「ど、どうかな?」


 俺は、恐る恐る確認を取る。

 手ごたえとしては好感触だったが、部屋は別々とはいえ、男子と泊まりで出かけることとなる。

 おそらく……


「行く!!」


 即答でしたね。


「いいの?」


 思わず再度確認してしまう。


「そっちから誘ってきたんでしょ?行くったら行くから。分かった?」


 彼女は、謎の気迫を振りかざしてくる。

 顔、顔近い!!


「わ、わかった。わかりました」


 俺は、コクコクと首を縦に振る。


「よし」


 白川さんは頷くと、居住まいを正す。


「あ、ごめん。なんか良いの思いついちゃった。小説書きたいんだけど少し時間貰っていい?」


 だが、突然、そんなことを言い始めた。


「別にいいけど。見ててもいい?」


 今、話題となっている作家が書くところを生で見れる貴重な機会だ。

 正直、こちらからお願いしたかったぐらいだ。


「見てるの全然大丈夫だよ。折角高橋君の時間貰ってるのにごめん、ありがとうね」


 彼女は、準備を終えたパソコンに向き合い、文字を打ち始める。



 次の瞬間、俺は言葉を失い、画面に見入っていた。

 

 ゾーン。

 

 この言葉が今の彼女の状態を表すのに一番適しているだろう。

 スポーツなどでよく聞く言葉だ。

 簡単に言うと深く集中していること、でいいと思う。

 天才と呼ばれる者のみが入れる領域。

 白川さんは、一瞬で気持ちを切り替え、物語を生み出していた。


 才能の差を思い知らされた。


 天と地ほどの差。

 圧倒的なまでに高い壁を幻視してしまった。

 自分と彼女は住む世界の違う人間なのだと、改めて実感させられる。

 天は二物を与えない。

 それは嘘だ。

 俺が何度も悩み、書き直し、数時間をかけ完成させていたモノが、彼女には、ほんの一つの閃きで、瞬くまに書けてしまう。

 彼女が書き上げていく物語には、読む者を惹きつけ、魅了する力まで備わっていた。


 これが、プロの作家の、白川さんの力。

 こんなの、


「越えられる訳が、勝てる訳がないじゃないか……」


 自分の中にあった少しばかりの自信が、今までの努力が、音を立て崩れ落ちた。



「ふぅ~~、ごめん、お待たせ」


 時間にして三十分。

 僅か三十分。だが、永遠にも感じられるほど濃密な時間が終わりを告げた。


「ど、どうしたの?」


 彼女が焦った様子で訊ねてくる。


「何でもない。目にゴミが入っただけだから」

 

 自然と涙が溢れていた。

 涙を拭うのと同時にスマホが音を立て振動する。


 画面を見ると、ただのゲームアプリの通知だった。


「ごめん。親が心配してるから帰るわ。今日はありがとう」


 俺は、一方的に告げる。


「あ、うん」


 彼女に案内されるままに出口へと向かう。


「ごめんね、長く引き留めて。じゃあ、また明日」


「……」


 俺は、挨拶もせず、無言で家を出る。

 最後まで、彼女の姿を見ることはできなかった。

 

 

 

更新が一週間を超えてしまい申し訳ないです!!

因みに、今回初めてPCから投稿しました。

PCは慣れてないのでミスがあったらごめんなさい!!

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