淳:「お義父様!!」白父:「貴様に父と言われ筋合いはない!!」
※サブタイトルは物語とはほとんど関係がありません。
突然ですが、私、高橋淳也は、現在、女友達(片思い中)の父親と会うというイベントに遭遇しています。
事態の穏便な解決方法をご存知の方は、至急、ご連絡のほど、宜しくお願いいたします。
と、現実逃避は止め、正面に立つ、ダンディーなおじ様に視線を向ける。
どうやら、敵意はないようだ。
「そうか、君が……」
白川さんのお義父様は何か呟いたあと、こちらに視線を向ける。
なんか、品定めされてる気分だ……
「いつも、娘から話を聞いてるよ。世話になっているようだね、私からも礼を言わせてもらうよ」
お義父さんは、言うとペコリと頭を下げる。
「い、いえ。自分もいつも迷惑をかけてばかりで……」
俺は、慌てながら言葉を口にする。
迷惑をかけているだろうし、お世話になっているのも俺だ。
たぶん、俺は白川さんの力になれていないのだから。
「娘の友達になってくれてありがとう、高橋君」
彼は優しく微笑みながら告げる。
それは、いつも画面越しで見る俳優の顔ではなく、一人の娘のことを思う父親の表情だった。
だが、優しかった表情もほんの一瞬、直ぐに真剣な顔つきに戻る。
「ところで高橋君」
なんか、声も硬く……なった?
「娘とは、付き合ってるのかね?」
テンプレ来たーーー!!
事実、事実を答えればいいだけだ!!
「い、いえ、付き合ってません」
俺は、若干、いや、かなり怯えながら呟くように答える。
付き合ってはない。
「でも…………」
事実だけを口にすればいい。余計なことを喋る必要はない。
だけど、口は止まらない。
自分の気持ちを知ってしまったから。
「彼女のことを支えていきたい。支えていける男になりたい。そう、思ってます」
俺は、白川陽斗の目を見ながら、自分の素直な気持ちを口にした。
顔が熱くなるし、物凄く恥ずかしい。
けど、ちゃんと言葉にしないといけない。
この人には伝える必要がある、そう思えた。
「そうか」
暫くたったあと、彼は静かに呟いた。
先程までの怖い雰囲気も消えたのでそっとため息を吐く。
「私もそろそろ行かなくてはならないか……」
彼は、時計を一度見ると、小言で呟き、こちらに視線を戻す。
「これからも、娘のことを頼む」
静かだが、強い意志を込められたその言葉に、
「はい」
白川陽斗に負けない、精一杯の気持ちを込めて答えた。
ほんの数分の短いやり取り。
しかし、自分にとって大きなモノになった。
そんな感想を抱いていた。
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私は、スマホの画面を操作し、ある相手へと電話を繋ぐ。
数回のコール音の後、電話越しに彼女の声が聞こえてきた。
『どうしたのよ、急に電話なんてしてきて?貴方、この時間は撮影じゃなかったの?』
電話の相手は私の妻だ。
妻は、海外で活躍しているデザイナーだ。
彼女は日本人ではないのだが、日本語を流暢に使いこなす女性である。
現在、私は、テレビ局まで送ってもらっている最中である。
妻の言う撮影は、実は、プロデューサーとアシスタントに頼みこんで時間をずらしてもらったのだ。
スタジオでは他のシーンから撮影が始まっているだろう。
「時間が変わったんだよ」
アシスタントの笑いを堪える声が耳に届く。
『なら、いいわ。で、どうしたのよ?』
妻は、先を促す。
「高橋淳也君に会って来たよ」
『はぁ~~~~』
本題を告げると同時に妻のため息が聞こえてくる。
撮影を延期にしてまで家に向かった理由がこれである。
娘は、家に誰かを招く時は必ず一本連絡をいれてくる。
普段は、新田さんという友人を良く招いているようだが、今日は別の名前、しかも男の名前、しかも三人も名前がメールに書かれていたので延期を決めた後、超特急で家へと戻ったのだ。
『で、どうだったのよ?』
だが、彼女も先が気になるようで、急かしてくる。
「私に負けない良い男だったよ」
私は、冗談が三割、本気が七割の言葉を口にする。
『冗談はほどほどにしなさい。貴方はそこまで良い男ではないのだから』
そんな私の言葉に、彼女は割りと傷つくことを口にしてくる。
『でも、良い相手が見つかったみたいで良かったわ。それじゃあ、切るわね』
妻の、慈愛に満ちた声が耳に届いた。
「ああ。忙しい所悪かったな」
私は、通話を終了させてから、運転手へと視線を向ける。
「時間を変えてもらって助かった。感謝している」
私は、アシスタントに感謝の言葉を告げる。
すると、彼女は視線はそのままに口を開いた。
「本当ですよ。今度したら怒りますからね。ね、新藤佑真さん。いや、今は白川佑真だったね。あ、違うか、親バカさんだね」
高校からの付き合いである、マネージャー、宮内唯は芸目ではない、私の名前を口にする。
あと、親バカは止めてくれないかな?
「うるさいな~~、君だって独身の重~~い女じゃないか。いつまで澪のことを引きずってるんだか」
「う、うるさい!!良い人がいないだけよ。もう、一人で生きて行くって決めたんだから!!」
マネージャーはそれっきりぷく~~と口を膨らませる。
ま、親友のことを忘れられない女は彼女だけではないのだがね…………
「それに、娘の、遥の事情も知っているだろ?」
私は、目を伏せ、ある人物のことを思い出す。
「まあね。彼も気づいたんじゃないの?」
彼女は、冷静さを取り戻し訊ねてくる。
「ああ。だが、彼なら大丈夫だよ」
だが、私は、確信を持ちながら呟く。
「そう。どんな子だったの?」
「う~~ん、そうだな、アイツに似ていて、でも似ていない、そんなやつだったよ」
「ふ~~ん」
暫くすると、車がゆっくりと停車する。
「それじゃあ、仕事と行きますか」
今日、あの子と会えて良かった。
本当は、彼以外から話を聞こうと思っていたが、今は、彼と会えたことに感謝していた。
そして、私の本当の名前を彼に告げる時はきっと……………
「よし、行くか!!」
私は、気持ちを切り替え、撮影スタジオへと足を踏み入れた。
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「遅かったね、大丈夫だった?」
部屋に戻ると、白川さんが訊ねてきた。
出ていってからある程度時間が経っていたため心配をかけてしまったようだ。
「悪い、電話かかってきたから対応してたら遅くなった」
俺は、お義父様に会いました!!
などと言えず、咄嗟に嘘をついてしまう。
「そう。何もなかったなら良かったよ」
彼女は微笑んだ後、二本持っていたマイクの片方をこちらに手渡してくる。
「せっかくだし、一緒に歌おう!!」
彼女は、少し、顔を赤くしながら告げてくる。
「そうだな。たまにはデュエットも良いかもな」
俺は、笑顔で彼女の言葉に頷く。
「デュエットなんて初めてだろ?大丈夫か?緊張して噛むなよ?」
「うるせー。デュエットならしたことあるわ!!リョウと二人で、プリ〇ュアを!!」
「バカ、誤爆するんじゃない、ジュン!!」
俺ら三人のやり取りに女子達が笑い声をあげる。
その光景を見ながら、白川さんからマイクを受け取り、彼女へと視線を向ける。
「それじゃあ、頑張りますか!!」
こうして、カラオケ大会は再び開催されたのだった……。
「「「今日はお疲れ様でしたーー!!」」」
白川さんのお義父さんに会ってから数時間後、俺達のカラオケ大会は、解散となった。
「ジュン、盛r、ぐはっ!!何するんだ舞!!」
「 それじゃあ、お先に失礼します」
「僕たちも、帰らせてもらうよ。今日はありがとうね白川さん」
「じゃあね、ハルちゃん」
「うん。みんな、じゃあね!!また明日!!」
それぞれが挨拶を口にして帰っていく。
シュンは、何故か舞ちゃんを怒らせて殴られ、引き摺られて帰っていった。
「ごめんね、高橋君にだけ片付けお願いしちゃって」
俺が残ることとなった理由、それは彼女の言葉の通りだ。
時間が遅くなってしまったため、女子二人を帰らせようとした結果、それぞれ男に送って行ったもらったほうが良いだろうということに落ち着き、リョウが新田さんと、シュンが妹と帰ることとなった。
その結果、片付け役が俺一人に回ってきたと言うわけである。
「別にいいよ。早く片付けしちゃおう」
「うん。早く終わらせよう」
二人で、散らかったカラオケルームの掃除をしていく。
ゴミを捨て、食器を運ぶ。
普段ならつまらない作業だが、彼女と話をしながらやっていたお陰で、とても楽しい時間となった。
もっとこの時間が続けばいいなんてちょっぴり思ってしまった。
「なんか、こうしてると夫婦みたいだね(笑)」
彼女は、俺が洗った食器を吹いている最中にとんでもないことを口走る。
「あ、ちょ、ま、え、あ、うーー」
彼女は顔を赤く染め、口をパクパクしながら最後に唸る。
ヤバい、可愛い!!
「ごめん、今のはえーと、なんか、うん。忘れて、忘れてください、以上、おしまい!!」
彼女は一気にまくし立てる。
それっきり、静かにお皿を吹いていく。
「でも、白川さんと夫婦なら、幸せだろうな」
俺は、心の中で独り言を呟く。
…………口に出ているとも知らずに
「っ!!」
そして、隣で聞こえてしまっている彼女にも気づけない。
「よし、終わり!!」
俺は、最後の一枚を洗い終える。
白川さんは、全てのお皿を綺麗に拭き終え食器棚に戻すと、エプロンを外しこちらを見て、意を決したように告げてきた。
「話があるから、私の部屋に来て貰ってもいいかな?」
それは、俺の心を揺さぶるとんでもない言葉であった…………
さて、受験生の皆さん、センター試験お疲れ様でした(少し遅い)!!
前作を知らない方には一部分からない部分が混ざってしまっていること、お許しください。
次回予告
次回、高橋淳也死す!!
絶対に見てくれよな!!




