保健室・・・響きが素晴らしい。
更新!!宜しくお願いします。
「白川さん」
俺は、彼女の背中に声をかける。
「え?何でこっちに来てるの?」
彼女は、一度、肩をビクンとさせた後、こちらに視線を向けてから訊ねてくる。
ごめん、驚かせたね・・・
「白川さんが居なくなったからですよ。足、痛めたんでしょ?おんぶしますよ」
「い、イヤだよ。恥ずかしいじゃん。一人で歩けるよ」
彼女は抗議してくるが、・・・さっきまで、足首抑えて踞ってたじゃん。痛いでしょ?
「お姫様抱っことおんぶ、どっちがいいですか?」
俺だって恥ずかしいのだが、さっきまでの、痛みに耐える彼女の姿を見てしまうと、ね・・・
「高橋君って、変な所で強引だよね。じゃあ、・・・お姫、けほん、けほん、おんぶでお願い」
彼女は顔を真っ赤にしながら呟く。
「はい」
俺は、彼女の前で屈む。
「変なところ触ったら殺すから」
彼女は言うと、俺の背中に体重を預けてくる。
とても軽い体重が、背中に触れる柔らかい双丘が、支える腕に触れる柔らかいフトモモが、彼女が女子であることを強く意識させられる。
「よっこいしょ。じゃあ、行きますか」
俺は、彼女を抱え、保健室への移動を始めた。
と、言っても、保健室までの距離はそんなに遠くないため、|彼女を運ぶ《彼女の柔らかさを堪能する》のは、二分ちょっとで終わってしまった。
「はい」
「ありがとう」
保健室の前に到着したので、彼女を下ろし、保健室に入る。
「こっちに来てもらって悪いわね。テントの方だと捻挫の処置に向かないから。あれ、そちらの彼はどうしたの?」
室内には、氷バケツを用意している先生がいた。
因みにこの方、教師の中で最も美しい先生である。
白衣からスラリと伸びる細い足が、ああ、もう堪らない。
保健室という響きも素晴らしい。
何か、他とは違う素晴らしさがある。
え?俺だけ?
気持ちを切り替え、
「自分は連れ添いで来ただけです。それでは自分は・・・・・・」
失礼させて頂きます。
そう言おうとした直前、白川さんに服の裾を掴まれた為、言葉に詰まってしまった。
「すいません。このあとは競技ないんでここで休ませてもらいます」
「そう。じゃあ、彼女のことを宜しくね。私はテントの方に戻らないといけないから。20分程冷やしてから、湿布を張ればいいわ。湿布は冷蔵庫の中よ」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
先生は、俺の隣で一度立ち止まると、肩にポンと手を置き、顔を近づけてきて呟く。
「ベッドは空いてるわ。でも、誰もいないからってハメを外しちゃだめよ。ヤるならバレないようにね」
彼女はパチリと可愛らしくウインクして去っていく。
「何もしませんよ!!」
俺は、先生の背中に叫んでいた。
「へぇ~、何もしてくれないんだ」
白川さんは何かボソリと呟くが、何を言っているか聞き取ることは出来ない。
あ、難聴ではないよ。本当に聞こえなかったの。
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「なぁ、ジュンが何処に行ったか分かるか?」
二人が保健室に向かっていた時、シュンはリョウに訊ねていた。
「ジュンなら、白川さんと一緒に保健室に行ってると思うよ」
「へぇ~。え、一緒に?というか保健室?どうかしたのか?」
「足首捻挫してるからな、二人共」
リョウはいつも通りの様子で言葉を返す。
「マジで?そんな気配なかったのに」
シュンは目を点にして驚いている。
リアクションが面白いな~と思いながらリョウは言葉を口にする。
「二人共、小学校の頃から、自分のことを隠すからね。ま、保健室に向かったから大丈夫だと思うよ」
リョウの言葉に、シュンは一つ、重大な情報を得ていた。
その言葉の意味を理解するのに暫く時間をかけた後、口を開いていた。
「小学校、一緒なの?三人」
「うん。一緒だったよ。言わなかったっけ?」
「言ってねぇーよ!!マジかよ、jsの白川さん、マジで天使だったんだろうな~~」
小学校が一緒だったことを知ったのに関わらず、思い至る点がズレているシュン。
そして、シュンがロリコンだったことを知り、軽く引いていたリョウであった。
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「高橋君、足、冷やしなよ」
保健室で氷バケツに足を突っ込みながらこちらに向かって言ってくる白川さん。
少し捲られた体操着のズボンから見える、細く白い、綺麗な足に見惚れていた俺は、慌てて視線を反らす。
「き、気づいてたんですか?」
俺は、誤魔化すように口にする。
「分かるよ。体勢が崩れた時に左足痛めてたでしょ?高橋君こそ、私が足を捻ったのに気づいてたのに驚いたよ。上手く隠せてたと思ってたから」
「立ち上がりかけて再度転倒したときに右足を庇っているのが見えちゃいましたからね」
「そうだったんだ。同じレースで二人揃って足首捻挫するなんて変な感じだね」
「そうですね」
視線が重なった直後、どちらともなく笑い始めてしまう。
「俺の方は痛み、酷くないんで家に帰ってから湿布でも貼っときますよ」
俺は、白川さんを心配させないように言葉を返すと、彼女の隣に腰掛ける。
「高橋君、ありがとうね」
白川さんは、うつむきながらポツリと呟く。
「今日のは、俺ではなく皆のお陰ですよ」
俺は恥ずかしさを誤魔化すようにアハハと笑いながら答える。
だが、彼女は首をふるふると横に振る。
「ううん。今日のことだけじゃない。取材のことだってそう。小学校の頃だって・・・・・・」
彼女の言葉に、俺は言いかけていた言葉を呑み込む。
俺は、小学校の時に、クラスで一人でいることの多かった彼女に声をかけた。
だが、それは、
「小学校の時のことは違うだろ」
俺は、天井を見上げながら言葉を音にする。
少し、感情的になってしまっていた。
口調は強く、敬語ではなくなっていた。
両手は、拳を作り、強く握りしめていた。
「あれは、白川さんが努力したからだよ」
俺は思っていたことを素直に口にする。
きっと、俺が声をかけていなくても、彼女は変われた。
彼女は努力が出来る人間なのだから。
「違う。あの時、私に声をかけてくれなかったら、私は変わることなんて出来なかった。だから、ありがとう。でも、私は謝らないといけない。私に声をかけたせいで、高橋君は、クラスから・・・・・・」
実は、小学生の時、俺は、クラスの中心的人物だった。
白川さんに声をかけたのは丁度、四年生の時だ。
その昨年に、とある出来事があり、それを誤魔化すように友達を多く作ろうとした結果、スクールカースト上位まで登り詰めていた。正直、今でもスクールカースト上位になれたことが信じられなかったりする。
だが、白川さんに声をかけたあの日、全てが変わり始めた。
白川さんに声をかける以前に、これまたクラスで浮いていた(イケメン&頭が良くて話かけづらかったのが理由)リョウに声をかけ、一緒に遊ぶようになった頃から、少し、崩れかけていたのだが、白川さんに声をかけてから友人として同じグループで過ごすようになったことによって、グループ内の他の男子やグループ外の同級生から嫉妬に近い感情を向けられるようになった。
当時、白川さんは子役として大活躍していた時期なので仕方がないのだろう。
しかし、その結果、白川さんがクラスカーストの階段を駆け上がるのと正反対に、俺は他の子供たちからハブられるようになり友達なんていらないと思うようになっていった。
寂しさを誤魔化すようにアニメやライトノベルといったサブカルに嵌まり、気づいたらオタクと化していた。
あ、オタクになったことに後悔はない。
寧ろ誇れる。
五年生になる頃にはボッチ(仮)へとクラスチェンジしていた。
が、変わらずに接してくれていたリョウと仲が深まり、一緒にいるようになった為、ボッチ(仮)からはすぐに脱出できた。
「別に、白川さんが気にすることではないですよ。今の俺は、現状に満足してるから・・・」
冷静になった俺は、丁寧な言葉を意識しながら、言葉を紡ぐ。
「うん。ありがとう」
俺は、彼女に視線を戻す。
彼女と目が合うが、すぐに反らしてしまう。
「高橋君は、凄いよね。他の誰かの為に一生懸命になれるんだから」
白川遥から見た高橋淳也は、他人の為に努力出来る人物だった。
普段から、他人に対して、時に、損をしてしまうのではないかと思ってしまうほどの優しさを持つ人物。
彼女は、憧れに近い感情を高橋淳也という男に向けていた。
「違う・・・。全部、自分の為。今回も、取材も白川さんじゃなかったら、頑張れていなかったし断ってた」
「ううん。私じゃなくても、絶対に頑張ってたよ」
彼女は、俺の言葉を否定しながらも俺を包み込むような慈愛に満ちた笑顔を見せていた。
「そんなこと・・・・・・ないですよ」
俺は立ち上がり、冷蔵庫から湿布を取り出す。
「先に失礼しますね。これ、湿布です」
俺は逃げるように立ち去ろうとする。
扉を開いた俺に、白川さんが声をかけてくる。
「高橋君、タメ語でいいよ。ううん。タメにして」
「分かった。じゃあ、また後で」
今までは、タメ語で話すのに躊躇いがあった。
だが、今は自然と口にすることが出来た。
「うん。また、後で」
俺は、扉を閉め、廊下を進む。
その足取りはとても軽かった。
おっと、前作から読んでくださっているそこの貴方、前作と展開が似ているとお思いですね?
私自身、そう思っております。
なんかごめんなさい。
一応ご報告を。
プロローグから10話までの改稿が終了しました。
変更点はリョウがラノベ主人公からエロゲ主人公にジョブチェンジしたぐらいです。また、それに伴う変更を行いました。
リョウを作者の好き勝手に書いてたら収拾が着かなくなると考えた結果変更させて頂きました。
次話も近いうちに投稿したいと思います。
宜しくお願い致します。




