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チームリレー・・・・・・胃が痛いです

更新しました。

宜しくお願いします。


「あの~、俺、なんで、連れてこられたの?」


 場所は体育館裏。

 俺を取り囲むのは騎士団の男達。

 目の前には団長浅井。

 無理矢理連れてこられ、気づいたらこうなっていた。


「高橋、お前に話がある」


 俺の問いには答えず浅井が口を開く。

 あ、分かった。

 これ、ラノベあるあるだろ?

 ○×さんをかけて勝負しろ!!みたいな熱い展開。

 でもね、いくつか気になる点があるんだよ。

 

 一つ目、今回の場合、○×さんは白川さんということになる。

 だけどね、俺は白川さんの相談相手という役職に落ち着いた為、勝負を仕掛けられるような筈がないということ。

 

 二つ目、こういうイベントは大抵、主人公が受けるということ。

 俺は、つい最近、クラスメイトAから友人Aにランクアップしたばかりのモブなのだ。


 三つ目、そもそも、俺と浅井が直接対決する種目は一つもないということ。


 ここまで考えた時、アナウンスが鳴り響いた。


『チームリレーに出る選手は、集合場所に集まってください』


「俺、呼ばれたんだけど・・・・・・」


「まぁ、待て。話は直ぐ終わる」


 ヒヤー、怖い~(棒)


「次のチームリレー・・・・・・」


 く、来る!?

 俺は浅井の言葉に身構える。


「絶対に勝て」


「は?」


 真顔で普通なことを言った浅井に間の抜けた声を溢してしまう。


「は?ではない」


 言った直後、拳銃を向けられる。

 目にも見えない早業。いったいどこから出てきたのだろう。


「それ、偽物ですよね。黒光りしてるんだけど」


 なかなかにリアルな玩具だ。

 俺の本能が今すぐ逃げろと警鐘を鳴らしているが取り敢えず、理性でこの場に留まる。


「白川様と同じチームになったのだ。負けることは許されない。必ず優勝しろ。出来なければ・・・・・・」


「出来なければ・・・・・・」


 ゴクリ。


「お前を殺す」


 ガ〇ダムW のタンクトップ少年並みのクールさで告げられた。


 一瞬、ナイフで刺される光景を幻視するほど、浅井の纏う空気は冷たかった。


「分かったな」


「はい」


 濃密な死の気配が辺りを支配する中、俺は只、頷くことしか出来なかった。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「ねぇ、高橋君、ねぇ、大丈夫?顔、真っ青だよ」


 白川さんが心配そうな表情で俺を覗き見てくる。

 体育館裏での出来事を思いだしていたのではなく、・・・・・・・・・走っている最中に転んでしまったことに頭を抱えていた。

 

 チームリレーは各チーム2チームずつ出場し、二回に分け予選が行われるのだが、一回戦に出場した俺達は、何とか、一位で予選を通過していた。

 現在は、二回戦が行われている。


 先程、俺は、走っている最中に転んでしまったのだ。

 一走者目の白川さんが差をつけてくれていたこと、アンカーのシュンが頑張ってくれたことにより何とか一位で突破出来たのだが、二人がいなければ俺は戦犯者として処刑されていただろう。


 転んだ時の騎士団達の視線は、本当に怖かった。


「だ、大丈夫」


 気を取り直して答える。

 だが、声は震えてしまっていた。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私が他の人達と差をつけて帰ってくるから、高橋君はのんびり走ればいいよ」


 白川さんは、さらっと凄いことを言うと俺の頭をナデナデしてくる。

 彼女に頭を撫でられると何故か物凄く落ち着いた。

 安心感(?)が半端ない。

 彼女の言葉と行動は男をダメにする。

 ヤバい、最終的にヒモにまでなりそう・・・・・・


「は、恥ずかしいから止めてください。殺されます。お願いします」


 俺は、自分の顔が火照っているのを自覚して、彼女から距離を取る。


「あ、あんまり、正直に言わないで。こっちも恥ずかしくなってきたじゃん」


 彼女も自分の行動を自覚して、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にする。

 なんとも言えない気まずさが場を包みかけたその時、


『今、白組がゴールしました!!二位は青組です、三位は・・・・・・』


 アナウンスが会場に響く。

 どうやら、今年は各チーム1グループずつチームリレーの決勝戦に出るようだ。

 去年なんかは赤2グループ(リョウ)vs白2グループ(浅井)という訳の分からない決勝戦が行われた為、まぁ、良かったのだろう。


「は、早く行くよ」


 白川さんは俺の手を引き、決勝戦へ出場するチームの集合場所へと向かう。

 俺は、手を振り払うことが出来なかった。

 繋いだ手が震えていたのだ。

 俺の前で明るく振る舞っていた彼女も緊張していたのだ。

 彼女の優しさに胸が熱くなる。


「大丈夫。白川さんは負けませんよ!!」


 俺は、繋ぐ手に力を込める。


「うん。ありがとう」


 俺達は、手を繋いだまま集合場所へと向かう。

 繋いだ手が互いに支えあっていた。



 その光景を、チームリレーの仲間達は暖かい視線を送り見守っていた。


「はぁ~、アイツらの為にも頑張るぞ」


「「「お~~~~」」」


 この時、チームのモチベーションは二人を除き、最低レベルにまで落ちていたのだった。

 

 


『位置について、よーい、「パン!!」』


 銃声と共に戦いは幕を開けた。

 俺達のチームの第一走者は白川さんだ。

 

 彼女は、地面を力強く蹴る。

 彼女の走る姿は、美しさと格好良さが両立していた。

 

「ハルちゃん、頑張れ!!」


 観客席から新田さんの声援が響く。

 それに続くように多くの生徒が声援を送り始める。


「白川さん、ファイトーー!!」


 俺も、続くように声をあげる。


 レースは白川さんと白組の生徒のがデッドヒートしていた。

 互いに抜かし、抜かされつつ、バトンの受け渡し地点までの距離だけが縮んでいく。

 二人の戦いに会場全体が興奮に包まれる。


「「「きゃーーーー!!」」」


「は、ハルちゃん!?」


 だが、最後のカーブで白川さんの姿が消えた。

 転んでしまったのだ。いや、転ばされたというべきだろう。

 

 白川さんと並んで走っていた白組の生徒が転んでしまったのだが、その時に、足を掴まれてしまったのだ。


「白川!!」


 俺も思わず声をあげてしまう。


 彼女は、俺の声に反応するように、こちらに一度だけ視線を向ける。

 彼女は、悔しそうな表情をチラリと見せるが直ぐに気持ちを切り替え立ち上がろうとする。

 転んでいる二人を避け、青と黒の選手が走り抜けていく。

 

 会場は静寂に包まれていた。


 体を起こした白川さんだったが、バランスを崩して再び転倒してしまう。

 白組の生徒も立ち上がり走り始めた。


「頑張れ、ハル!!」


 新田さんの声が会場に響く。

 彼女の声と共に、会場の静寂が消える。

 だが、それは良くない流れであった。


「おい、白組の奴、失格じゃねぇのかよ!!」


「酷いだろ、今のは・・・・・・」


「白組の生徒、貴様、後で覚えていろ!!」


 最後のは騎士団の過激発言だが、会場は険悪なムードに包まれかけている。

 騎士団に関しては暴徒と化そうとしていた。


「黙れ!!静かに見れんのか貴様らは!!」


 不満が爆発しそうになったその時、赤組の観客席の中から男の声が響いた。

 その声の主を俺は知っていた。

 浅井だ。

 彼の声により、会場は再び静まる。


「彼女の姿を見ろ。そうすれば分かる」


 彼はそれだけ言うと姿を消した。


 全員の視線が白川さんに集まる。

 彼女は、再び立ち上がり、走っていた。

 

 彼女以外は既に次の選手にバトンを繋いでいた。

 だが、彼女は諦めていなかった。

 走ることを止めていなかった。


 誰もが見守る中で、バトンを繋いだ。

 

「ごめん。私のせいでビリになっちゃった。本当にごめん」


 俺達の元に来た彼女はひたすら謝罪を繰り返していた。


「気にするなよ。あれは白組の奴が悪いんだから」


 シュンの言葉に周りの生徒もうんうんと頷く。

 だが、


「ううん。彼女は悪くないよ。転んだのも、ビリになったのも私の責任だから」


 彼女は、自分で責任を背負った。

 白川さんは、言い終えると待機場所へと向かっていった。


「お疲れ、白川さん」


 俺は、彼女の背中に一言、声をかけると仲間に視線を向けた。


「皆、お願いがある」


「言わなくていいだろ?皆、わかってるさ」


「白川さんの為にも勝ちましょう!!」


「俺らなら逆転優勝も余裕だぜ!!」


 各々が、彼女の言葉を聞いて決意していた。

 彼女の強い姿に、誰もが心を動かされていた。




「シュン、お願いがある・・・・・・」


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「行け!!抜け!!」


 現在、5周目の走者が走っている。

 アンカーは1.5周の為、残りは二周半。

 残るは俺とシュンだった。

 皆の活躍により、3位を走っていた白組の生徒を抜きかけていた。


「行け、行け、よっしゃぁーーーー!!」


 遂に、一人抜くことが出来た。

 半周近く離されていたのに追い付くことができた。

 だが、白川さんが帰ってきた時点で1周近く離されていた青と黒の2チームとは、まだ差があった。


「頼む!!」


 走っていた生徒がシュンにバトンを渡す。

 シュンは、瞬く間に加速していく。


「え?何で蒼井が走ってるんだよ!!あいつ、アンカーだろ?」


 観客席は驚きに包まれていた。

 それもその筈だ。

 本来、アンカーだったシュンは俺と順番を変えたのだから。


「え?何で・・・・・・」


 チームメイトとリレーを見守る中、白川さんも驚いていた。


「ジュン、行け!!」


 あっという間に走り終えたシュンは俺にバトンを託す。

 彼のおかげで、青と黒の両者までの差は4分の1程までに縮まっていた。


 俺は、開始から全力で駆け始める。

 ペース配分なんて考えない。

 地面を蹴る足に力を入れる。


 黒と青チームのアンカー二名は予選でも他の人よりも長く走っていた為、若干スピードが落ちていた。

 少しずつ、だが、確かに距離が縮まっていく。

 普段よりも速く走れているという確信があった。

 胸の中の熱い何かが自分を動かしていた。


 だが、長くは続かなかった。

 あと少しで追い付ける所まで来た直後、体が急激に重くなった。踏み出す足が鉛のように重く感じた。 

 既に一周は終えている。残り半周しかない。それまでに二人を抜かさないといけない。

 しかし、意志とは反対に少し遅くなっただけで、先頭を走る二人との距離が離れる。

 その事に焦り無理矢理加速しようとした直後、足が絡まる。


 倒れかけた直前、白川さんの姿が目に入った。

 視線が交わる。

 それだけで、体から力が沸き上がってきた。

 左足を前に出し、体のバランスを無理矢理元に戻す。

 その際、足を捻った感覚があったが無視をする。

 右足を前に出す。

 先程まで重かった足は、再び、軽さを取り戻した。

 

 一歩、一歩と距離を積めていき、二位を走っていた青組の選手を抜く。

 そして、黒組の選手を抜きかけた直前、・・・・・・・・・・・・ゴールをくぐっていた。


「く、クソ!!」


 ゴールした直後、俺は、堪らず、地面を殴っていた。

 打ち付けた拳よりも心が痛かった。

 白川さんの、皆の努力を無駄にしてしまったことが悔しかった。


「高橋君、ありがとう」


 そんな俺に、白川さんは感謝の言葉を告げ、後ろから俺のことを優しく抱きしめてきた。

 体を、彼女の暖かさが包む。

 

「ごめん、白川さん。勝てなかった」


「ううん。高橋君は誰よりも速くて、カッコ良かったよ。頑張ってくれてありがとうね」


 彼女はその言葉と共に離れると俺の背中に拳をコツンと当てる。


「胸を張って!!皆、待ってるよ」


 振り返ると、同じクラスの生徒達が詰めよって来ていた。


「高橋!!何でタイム測った時に本気で走んなかったんだよ。速いの知ってたらクラスリレーに出したのに」


「最後、良く青組の奴を抜いたよ。本当に良くやった!!」


 全員が俺を笑顔で迎えてくれた。

 白川さんの時とは違った暖かさが心を包む。


「ジュン!!」


 名前を呼ばれた俺は、言葉の代わりに、ハイタッチを交わす。



「お疲れさん。さすがジュンだね。友達として誇りに思うよ」


「うるせー、イケメン。俺の方がお前と友達のことを誇りに思ってるよ」


「何、二人で友情を確かめあってるんだよ!!俺も混ぜろよ!!」


 シュンのヤキモチにクラス全員が笑い声をあげる。

 



『え~と、報告があります。現在のチームリレー、黒チームは、

コースインをしていた為、繰り下がりで三位に、赤、青がそれぞれ一つずつ繰り上がる為、優勝は赤チームとなりました!!』


「「「え?」」」


「「「よっしゃぁーーーー!!」」」


 

 こうして、チームリレーは優勝で幕を閉じた。

 この時、白川さんが姿を消していたことに誰も気づいていなかった。

 一人を除いて。



「あれ?ジュンの奴どこいった?」


 シュンの呟きは、騒がしい周囲の声に打ち消され誰にも届くことはなかった。


 

 体育祭編、もう少し続きます。

 プロローグから十話まで、改稿したいと考えてます。大きな変更はない予定ですが一部設定は変更するつもりです。

 

 次話も宜しくお願いいたします。


 

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