その8 2人よりも3人
千帆たんが、一身上の都合でお店をやめたあと、ちょびっとランキングに動きがあった。
『オーッホホホ! モモ・エンデさ~ん? あなたは月間3位! ワタクシの下でしてよ~?』
『ですね』
モーモーたんは、お休みの分、順位が下がっちゃったの。
『だけど、アークヤさんも2位だとか。惜しかったですね』
『クキィー! 余裕たっぷりに!』
お嬢タマは、人魚姫たんをニラんだ。
『ちょっと、鮎さん? どういうコトですの!』
『あ、あわわ……』
なんと、今月の1位は、それまで4位の鮎たんだった。
『まさか鮎さん!? アナタ、組織票やチートを用いたのではなくって!?』
『いいえ! む、むしろトップなんて、お嬢様に譲っても……』
『ハァ!? 無礼者!』
『ひぃっ!』
小柄な鮎たんは、色々とおっきいモーモーたんの後ろに隠れた。
お嬢タマは、ビシッと扇子で指す。
『誇り高きワタクシが、お情けなど! 次の更新まで1ヶ月! 首を洗ってお待ちなさい!』
イノシシの悪役令嬢たんは、嵐のように去っていった。
『ど、どうしましょ~、モモさ~ん! 怒らせちゃいました~!』
『大丈夫よ。彼女はああいう人だから』
モーモーたんは、青い髪をヨシヨシした。
『根は優しいのよ』
『えぇ~? そ、それに私、4位でも恐かったんですよ? 1位だなんて……』
『平気よ、鮎ちゃん。英雄様が、ぜ~んぶ解決してくれたから』
『え?』
『だからね? 素直に喜んでいいの』
『じゃ、じゃあ……』
鮎たんは、両手を広げた。
『た、多分コレっきりだけど! わあい!』
鮎たんって、応援したくなる子でプね。
今回の「あわっこ」動画、大満足でチュた。
ちなみに、理子ピンはまた6位だとか。あれれ~、どーなってんの?
「この順位が心地いいのよ」
お店だと、トップ5までが大々的で、6位からは次のページなんだって。吸血鬼たんは、コッソリが好きみたい。
――んみゅ? 1人が去っても、その位置をキープ? しかも、日間や週間まで、ほとんど6位……?
考えるのをやめるでチュ。うみゅ。
そうそう、事件を解決したゴホービとして、「あわっこ無料券」を1ヶ月分もらいまチュた。
紳士としては、使わざるを得ない! フンス!
「クロエたん、来たよ~」
「はい、どうぞ」
もはや、黒エルフたんの受付は宿命でプね。ショタ好きってのもバレたでチュし。
「ランペルさま、本日はご提案が」
「んゆ?」
「コチラの子はいかがでしょう」
「おっけ~」
受付たんのオススメなら、全員カモンでチュ。
お部屋で待ってると、茶色のワンコたんが入ってきた。あ、「人間に犬耳」じゃなくって、全身モフモフのメスワンコたんね。
「お客さま~! ご指名ありがとうだワ~ン!」
ほえ、イキナリ土下座?
「ダメ犬のあちきに、お慈悲だワン! 神様仏様ネズミ様だワン!」
「あ、そーゆーのはいーんで」
「キャウ!? あ、あちきを変えないでだワン!」
んゆ? 変える?
あ~、対戦相手の交替って制度、あったね。
紳士はしないでチュけど。
「んじゃ、やろっか」
とくに今回は、受付たんのオススメでチュもんね。
どんなに強いか、楽しみでチュ!
◇
◇
◇
「ラ、ランペルさま。強すぎだワン……」
「――う~みゅ」
えぇ……、ワンコたん、弱すぎ……?
いくらシロートさんでも、少しは「あわっこ」の基本、教えるべきじゃなーい?
お部屋を出ると、クロエたんが待ってた。
(ランペルさま。ワンコさんの毛並みはどうでしたか)
(尻尾はモフモフだけど、肝心のあわっこがダメダメでチュ)
(なるほど)
(まあ、これからでプね)
クロエたんは、ホッとしてた。
(ほえ、どったの?)
(今のワンコさんが、最初に襲われた子でして)
(あぁ~、お店をやめるって、泣いてた子ね)
(自信をなくしてるようで、面倒を見ていただけないかと)
(いいよ~)
と、安易にOKしたのがイケなかった。
「2日連続、ありがとうだワン!」
次の日もワンコたん。
「3連続! ワンワ~ン!」
その次の日もワンコたん。
「4連だワ~ン!」
――むにゅ~。
さすがの紳士も、モノ申すでチュ。
「ちぇんじ」
「ワンッ!?」
無料券とか言って、実はシツケの押しつけとは、ヤラレタでチュ。汚いな、流石よっしー、汚い。
「ヒドいだワン! ネズミちゃんは、あちきの面倒を見てくれるって聞いてたワン! あわっこの紳士に二言はないって信じてたのにワン! うワ~ン!」
「あぅ……」
そこをツッコまれると、弱いでチュ。
引き受けたからには、世話をする。たしかに、それが紳士でプよね?
ただし、あわっこの魔王、てめーはダメでチュ。ぷんすこ!
「葦原さん、日に日に怖さを増してるわね」
「ああ。マジでアイツ1人でいいな」
今日の冒険者チームは、誘拐組織のアジトに踏み込んでいた。次々と制圧し、残るは数部屋だ。
「ヒャッハー! 英雄め、これで終わりだぁ!」
召喚士が、【エメラルドドラゴン】を準備した。パールが【中止呪文】を飛ばすも、別の敵から更に【中止呪文】が放たれる。
「ヤバッ!」
妨害が阻止された。魔法が完了するや、体長10mを超える竜が出現する。
「ハッハー! これで英雄もオダブツだぜ!」
見下ろしてくる竜と目が合った。
エメラルドの、ドラゴン……?
緑の、竜……?
よっしーのことかー!!
猛然と突っこんだ。巨大な尻尾アタックは、槍でブロック。逆に、連続突きですぐさま竜を倒す。
「はぁ!?」
そのままの勢いで、後ろの召喚士を一刺し!
「ぐはっ!」
「失敗だったな、竜を出したのは」
ふむ、少しは気が晴れたでチュ。
(英雄様……、鬼気迫ってますね)
(パールさんか。今日は余裕がなかったね。すまない)
(えっと、それじゃ和やかな話題を)
あぃがと、パールたん。
(最近、ワンコちゃんがお気に入りみたいですね)
あぃがたくないよ、パールたん。
(え、あれ、英雄様?)
(人質を助けよう)
アジトの奥へ向かうと、目的の人質以外に、もう1人捕まってた。
「あ~、英雄様~!」
なんでかな。ワンコたんの姿が見える。
「ありがとうございます~! この部屋って、念話も使えないし、あわっこ相手の人質だとかで、死んじゃうのかなって思ってました~!」
えぇ……本人? ウソォ。
「あ、私! あわっこで底辺やってます~! 今はまだ、幼児プレイの人だけ相手してますけど、英雄様も来て下さい~! しっかり頑張ります~!」
んーっと……。アバターの変更、言われてたよね? なんでそのままなの?
吹き出しをチェックすると、「ワンチャン・スー」って文字が。
あ~、あわっこだと「ワンコ・イン」だったね。別アバターか。うん、ゴメン。
――でもさあ。
見た目がソックリだと、意味ないってヴァ!
パールたんが、こそ~っとコッチを見た。
「ピリピリの、原因ですか?」
しばらく、息を止める。
――ガマンの、限界でチュ。
「よっしーたん!」
「おお、ランペル。最近ワンコとラブラブじゃな」
「ブッブー!」
支配人室のパッパラパーな幼女に、ズンズン詰め寄る。
「いくら無料だからって、オニャノコ固定はズルいと思うナ! それも、超ヘタッピな子ってサ! ぷんすこ!」
よっしーたんは、大きな目をパチクリさせた。
「なんじゃ、おヌシ? 知らんかったのか」
「何をさ!」
「あわっこは、ダブルスOKじゃぞ」
「ほえ?」
首、こてん。
「どゆこと?」
「つまり、おヌシがシングルスで、こっちがダブルスでも構わんってことジャ」
ぽくぽくぽく。
ちーん。
「え~と、それって、1対2が出来るってこと?」
「ナノジャ」
幼女の甘~いささやきは、ネズ耳からシッポの先まで染み渡った。
え、えぇ~……。勝負の世界は1対1だよ。ダメダメ、それが至高だモン。
んでもネ? 変則マッチのお知らせは、なんだかヤケに魅力的で。
「よっしーたん……」
怒りにとらわれたボク、サヨナラ。
喜びに満ちた幼女たん、あぃがと。
右手を前に出した。
「ボク、誤解してたよ」
「分かってもらえてウレシイのジャ」
紳士2人は、カタい握手を交わした。
「ラ、ランペルさま~! あちきには強すぎだワ~ン!」
「ニャ、ニャンコも! お慈悲がほしいニャ~!」
何度もカワイがった2人を前に、ペロリと舌なめずり。
「え~? ボク、半分の力だよ~?」
「わひっ!? う、うそ! あれで、半分……!?」
「バ、バケモノだニャ……」
ありゃ、言っちゃったネ?
「んじゃあ、バケモノらしく、本気でいくヨ?」
「ワヒィー!」
「ニャー!」
2人の悲鳴は、時間いっぱいまで続いたのでチュた。てへっ♪
「ねえねえ、もみじ。最近の英雄様って、一段とキレが良くなってない?」
「そうね。怖さは消えたけど、伸びやかに動いてるわ」
葦原が最初の部屋を制圧したあと、もみじが【治癒】をかけてくれた。
「お悩みが、解消されました?」
「ああ、もう大丈夫だ」
敵は残り2人だが、スゴ腕だという。万全の態勢にしてから、奥の部屋へと突っ込む。
「食らえ!」
敵が、葦原に【クロノス】を唱えてきた。パールが【中止呪文】を使うが、もう1人の敵も使ってくる。
カチカチ、カチーン!
「よしっ! これで英雄もカカシだぜ!」
たしかに強烈だ。【クロノス】の準備時間は5秒だが、発動したらターゲットも5秒止まる。VRの体感では3倍になるため、実質15秒。決まれば勝負アリだが。
「対策は、バッチリです」
もみじがスマートに【魔法霧散】をした。
その後、パールの【中止呪文】が相手の【のろま】をツブした。仮に通っても、もみじの【魔法霧散】は3回残っている。
そして葦原は、多対1でも常に勝ってきた英雄だ。
ざまぁ団・第92支部のスゴ腕は、たった2人。彼らを縛り上げる時間は、わずか数秒であった。
「葦原さん、やりましたね」
「ああ」
「はにゃ~ん。英雄様は強いです~」
「ありがとう」
葦原は、もみじとパールにほほえんだ。
「やっぱり、2人よりも3人だよね」