その6 HENTAI魔王
子ネズミのボクは、妖虎たんの全力テクにヘロヘロだった。
部屋から出たら、黒エルフたんが笑ってる。
(先ほどは、お楽しみでしたね)
(見てたの!?)
(はい)
クロエたんは、満足そうにメガネを押し上げた。
(事前に、【衛星球】を入れてましたから)
(うわ~ん! 見せ物じゃな~い!)
(すみません。再び襲われる危険がありましたので)
あうぅ、そう言われると弱い……。
(気分を害されましたか? では、責任を取って辞職します)
(重いよ! ヤメないでイーって!)
(ありがとうございます)
クロエたん、ニッコリ。うぅ~、絶対この流れって狙ってたよね? 腹黒~い。
(んねえ、クロエたん? 他に誰か、アヤしい人っている?)
(今はとくに)
(んじゃあ、モーモーたんは今ドコ?)
(リアルで待機してもらってます。お店の子には、体調が悪いとだけ)
(そっか。動揺を防ぐためだネ)
(はい。また、ランク上位の子には、護衛を付けるようにしました)
ウワサをすれば影。まさに今、人気2位のオニャノコが通路を歩いてきた。
「クロエさん、何かありましたか?」
「これはどうも、千帆さん」
白いカラスの千帆たん。切れ長の目が印象的な美人さんでプ。後ろには、クマさんの護衛もいまチュね。
クロエたんは頭を下げた。
「実は、ランペルさまとお会いしたので、少々お話を」
「あらあら。クロエさんは、ショタっ子が大好きですものね」
「千帆さん!? あ、いえ……。決して、そんなコトは……」
急にしどろもどろ。え、えっ? あれ~っ? クロエたんの受付がヤケに多いのって、そーゆーコトだったの~?
――っと、攻めるネタは置いといて。
「んねえ、千帆たん」
トテテッと近寄った。
「モーモーたん、お休みなの? それじゃあ、忙しくって大変じゃない?」
「大丈夫よ、ネズちゃん」
頭をナデてくれた。
「それこそ、モモちゃんも忙しかったしね。しばらく休んでもらって、私達でカバーすればいいダケよ」
「さすがでプ」
「なーんて言いつつ、今日は私、これで上がりだけどね」
ウィンクした千帆たんは、クロエたんに一礼してから【終了】した。
護衛のクマさんは、奥へと去っていく。
「ふみゅ。他のオニャノコも、こんな態勢でチュか?」
「ええ、ご覧になりますか」
「はいでチュ」
オニャノコ側の待合室では、3位の悪役令嬢たんがピリピリしてた。
「あ~ら、クロエさん?」
扇子をパシッと閉じたお嬢タマ。赤いドレスがお似合いでプ。
「ムサい護衛が、目障りですわ。何とかなりませんコト?」
「すみません、お嬢様」
出た、クロエたんのスマイル。
「警備の仕方を、すこ~し変えたもので」
「はぁ、まったく……」
頭を振ると、金髪の縦ロールもフルフル。まさにお貴族さまでチュ。
んでもネ? 実はお嬢タマって、子ブタちゃんの種族なんでプよ? ぷくくっ。
「そこの子ネズミ」
ありゃ、ジロリと見られたでチュ。
「何をニヤついているの? アタクシは、誇り高きイノシシ。卑しいネズミなど、一緒にいるのも汚らわしくってよ!」
おおぅ……。蔑みの目でチュ。一部の紳士には、ゴホービみたいでチュよ?
と、電光掲示板にお嬢タマの名前が出たでチュ。
「フン。失礼するわ」
カツカツと音を立てて、お仕事へGO。護衛の虎さんは、廊下で立ちんぼでプ。
(んみゅ。これなら、子ブタちゃんが狼にガオーってされても、スグに乗り込めるネ)
(はい。他にも十数名は配備しております。身元もシッカリした精鋭ですよ?)
(それならダイジョビだネ)
ボクは外に出て【終了】した。
翌日。
「襲われた!?」
急いであわっこに行くと、クロエたんが案内してくれる。
(すみません。最下位の子が狙われました)
(どこで!?)
(原宿の裏通りで、投げナイフを食らったようです)
(生きてる!?)
(ええ、数本刺さっただけで、無事に【終了】しました)
ふひゅ~、ホッとした。
だけど、すぐに怒りがわく。
(んもう! リスクを甘く見すぎだよ! ぷんすこ!)
(マホロバの町並みは、日本にソックリですからね)
VR名、マホロバ。地球丸ごとを仮想現実にした世界でチュ。
エレベーター代わりの「門」に乗ると、紙を渡してくれた。
(このビラが、店頭にバラまかれてました)
すばやく目を通す。
“トップを休ませるだと? いずれ復帰させて、コキ使う気だろう。ならば、他の者が犠牲になるまでだ。手始めに、一番下からやってやった。これは店をたたむまで続くぞ”
(アチャ~。みんな知っちゃった?)
(おそらくは)
(襲われた子って、どうしてる?)
(店をやめると泣いておりましたが、ひとまず休み扱いにしております)
最上階でおりると、大きなドアの前にやってきた。
「支配人はこちらに」
「分かった」
どんな人だろ。頼れるマッチョマンかな。
ガチャリと開けると、そこには竜人の幼女がいた。
「お久しぶりナノジャ~!」
パタン。
「ボク、お部屋まちがえたみたい」
「合ってます、ランペルさま」
幼女がワメいてる。
「コラ~、ネズミ小僧! なんで閉めるノジャ~!」
「えー? だって……フザけてんの?」
「お前が言うなナノジャー!」
失礼な、カワイイ紳士に向かって。
「ランペルさま、お願いします」
「うぇー、開けるの?」
ガチャ。
「フハハ! よく来たのお、ランペル!」
身長145cmの竜幼女が、ない胸をそらしてフンゾリ返ってた。
「ワシが支配人、ナノジャー・ヨシワラじゃ! ナノジャーと呼ぶがよい!」
竜のオニャノコは、2本の角を生やしてた。
緑の翼に緑のシッポ、オマケに髪まで緑、と。
「よっし~」
「コラー! ワシを学生時代のあだ名で呼ぶなナノジャー!」
知らんでチュー。
「え~い! かくなる上は、クマさんで見たヒミツをバラしちゃるノジャ~!」
「クマさん?」
ぽくぽくぽく。
チーン。
「おパンツ?」
「違うノジャー! おヌシが妖虎をつかまえたとき、護衛がおったじゃろ! てゆーか、昨日の千帆のガード! あれがワシじゃー!」
「あー、あのときの」
そっかー、支配人さんが入ってたんでチュか~。
アダ名がたしか、スゴかったハズ。あ、そだそだ。
「HENTAI魔王」
「ウガー!」
魔王たん、ぷんすこ。カワイイ。
クロエたんがチョップした。
「支配人。ボケはいいので本題に」
「はうぅ……クロエはキツいノジャ」
よっしーたん、頭をさすさす。
「ランペル……いや、英雄よ」
よっしーたん、キリッ。
「ワシは今回の事件、イヤガラセじゃと思っておる。しかし、大きな陰謀があるやもしれん。おヌシに協力をお願いするノジャ」
「いいよー」
「お~、頼もしいノジャ! オニャノコのため、全力で頑張ってくれるかノォ?」
「もちろんでチュ」
紳士2人は、固く握手を交わした。
「では、ワシが早速、お店の子を安心させに行くノジャ!」
広間には、お店のオニャノコが集まってた。
ボクは、部屋でお留守番。【衛星球】で、様子を見てる。
ステージの前で、千帆たんがお嬢タマと話してた。
『モモちゃん、辞めちゃうかもしれないわね』
『フン! トップに立つ者が、軟弱ですわ!』
『そんなこと言わないの。いい? 彼女は狙われてたのよ?』
『そして、休んでやり過ごしていたのですわね』
『ええ。だけど、襲撃が起きちゃった。――復帰したら狙われるって考えたら、引退も十分あり得るわ』
あぅ~。他のオニャノコも心配してる。
ヤバいょ~、やめにゃいで~。
『ご静粛に』
クロエたんがステージに立った。舞台のソデにうなずくと、1人のオニャノコが現れる。
『皆さん。心配かけて、すみませんでした』
たぷたぷでミルキー肌の……え、モーモーたん!?
『私、今日から復帰します』
よ……良かったでチュ~!
あと、いつものホルスタイン柄じゃない、青いワンピースも、すんごくラブリ~でチュ~。
『ア~ラ、牛の聖女様』
お嬢タマが扇子で指した。
『アナタ、まだ休んでいても良くってよ?』
『ありがとう、イノシシのお嬢様。もう、平気ですよ』
よっしーたんも現れた。
『みな、落ち着くノジャ!』
ステージ上から、ぐるりと見渡す。
『すでに、チラシの件は知っておるな? モモは、ワシが休ませたノジャ! しかし、残念ながら被害を出してしまった。これは全て、ワシの見通しが甘かったせいジャ。すまぬ!』
深々と頭を下げるよっしーたん。こーゆートコロはオトナでプね。
『狙われた場所じゃが、店の外じゃ。つまり、アバターを変えずに出歩いたのが原因ナノジャ! よって、外出時は違うアバターに変えること。変えぬなら、店の中だけで行動すること。これを、徹底してほしいノジャ!』
『あの』
千帆たんが手を挙げた。
『この建物は、本当に大丈夫なんですか?』
『さらに護衛を増やしたノジャ! 中はゼッタイ安全ジャ!』
力強くうなずくケド、アチコチから不安の声が聞こえる。
『そうは言っても……』
『恐いわよねぇ、マホロバって』
『えぇ、襲われたら……』
うんうん、ボクみたいな冷静さって、難しいよネ。
――アレ? そしたらこの問題、長引いちゃうよ? あうぅ、それは困る~。
『みんな! 安心するノジャ!』
幼女は、ぺたんこの胸をトンと叩いた。
『事件の解決を、スゴい人に頼んだからノォ!』
ほえ、誰?
『何を隠そう! マホロバの英雄、葦原さんジャー!』
ブッフゥーッ!
なに言っちゃってんの、この幼女ー!?
『英雄様!?』
『それなら……』
『会ってみた~い!』
あわてるボクとはアベコベに、オニャノコの動揺は見るまにおさまった。
えぇっ!? ウソ、そんなコトで~!?
『むろん、アバターを変えての調査となるからノオ。英雄さまと、一戦交えたいなどという淑女、もしくは紳士の皆さまよ? 悪しからずナノジャ』
頭を下げるよっしーたんに、オニャノコたちは笑う余裕まで出てきたみたい。クスクス聞こえてくる。
だけどネ! ボクはパニックだよ!? うわ~ん!!