表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/20

その5 スキを生じぬ、放置プレイ

 葦原は、仲間の冒険者と分断されていた。


「英雄をツブせ!」


 VR内の新宿御苑に、隕石の雨が降り注ぐ。軽やかによけるが、相手は業火の魔法を準備中だ。


(パールちゃん! 葦原さんが危ない!)

(大丈夫よ、もみじ)


 ――ん。正解。

 敵の【インフェルノ】が発動した。葦原を中心に、ハデな炎が巻き起こる。


「ヒャッハー、ザマァみろ! ――え!?」


 葦原は【飛燕】を連発し、さらに敵陣のほうへと突っ込んだ。


「バケモンかよ、クソッ!? なら、【闇】を張って……!」

「それはダメ!」


 パールが【中止呪文】で敵の魔法をかき消した。

 同じ名前の呪文は、デッキに4枚までだ。そのため、キャンセルを乱発すると、すぐに打ち止めとなってしまう。

 青き天使は、状況を見て取ると、視界の確保を優先してくれたのだった。

 槍をふるうたびに、敵が倒れていく。“ざまぁ団・第14支部”の制圧は、すぐに完了した。




「パールちゃん。葦原さんなら回避できるって、よく分かったわね?」

「そりゃ~もう! 【飛燕】は1mの瞬間移動だもん! ヨユーで知ってるわ!」


 パールはVサインをした。


「モチロン、弱点もね!」

「おいおい」


 葦原は苦笑した。

 ここは、新宿西口にある、冒険者ギルドの1階。

 葦原たち3人は、暴れた連中を引き渡したあと、テーブル席で勉強会を開いていた。


「ともあれ、僕も安心して槍を振るえたよ。ありがとう」

「いえいえ~、どういたしまして」

「アラま」


 もみじは、向かいの葦原と、となりのパールとを見比べた。


「いつの間に、仲良くなられたんです?」

「え」


 ドキリ。

 あちゃ、「英雄」モードの集中が切れちった。


「もう秋ですけど、葦原さんとパールちゃんの空気だけ、どこか春めいてるような……」

「ヤ、ヤダァ~! もみじったら!」


 パールたんが、もみじたんの肩を叩いた。


「そりゃ~、命がけで呪文のお勉強をしてるもの! 仲良くもなるわよ!」

「初耳ね」

「ええ、ヒミツの特訓だし!」

「ふ~ん」


 もみじたんは、席を立って近寄ってきた。


「葦原さん」

「うん?」

「今度は、私も交えてお願いしますね」

「うんっ!?」


 むせた。ゴホゴホ。

 アヤしく笑ったもみじたんは、撮影班の話し合いへと向かっていった。

 天使たんが、ジト目でニラんでくる。


(交えちゃうんですか、英雄様?)

(普通の勉強会にはね)

(ふ~~~ん)


 横の席に移ってきた。


 って、近い近い!


(アタシたち、春の空気ですって)

(僕にはコワい空気なんだけど)

(はて、誰のせいでしょう? カワイイ天使ちゃん? それとも、「あわっこ」の悪魔ちゃん?)


 両方キミだよ。

 言葉とお茶を、ゴクンと飲み込む。ヨケーなお口はチャックでチュ。


(ねぇ、英雄様? このあと、お時間は取れます?)

(少しならね)

(VR御殿が見たいんですけど)

(ただの家だよ)

(見たいんですけどー)


 はわわ! ホッペがプク~ッ。


(女の子の頼みには、応じようか)

(あら、そこは「オニャノコ」じゃないんですか?)

(カンベン願いたい)


 2人っきりだと、すっかりランペル扱いにゃの。

 もみじたんも、カンが良さそうだしね~。コワいよ~。




 【門】を使って、隠れ家へと連れてきた。


「着いたよ、天使さん」

「アラ~、根津ですか。やっぱり、ネズミだから?」

「君ね……悪魔の尻尾が見えるよ?」

「ヤダ~!」


 パールたんは、すっかりゴキゲンに戻った。


「うわ~、ゲームがい~っぱい! やっぱり英雄様も、『オノコノコ』なんですね♪」


 あ~、やめてやめて。

 角のベッドに腰かける。


「興味があるなら、遊ぶかい?」

「お、やりましょう!」

「そう。なら、どれでも好きなのを選んでいいよ」

「ハ~イ! じゃあ『あわっこ』で!」

「え?」


 飛びついてきた天使を、【飛燕】でギリギリかわす。


「あっ! ちょっと英雄様!? なんで避けるんです!?」

「イキナリすぎる!」

「ブ~。なんでもって言いましたー」


 うわ~! 「あわっこ」プレイヤーはみんなコレか~!


「英雄様ってば、スッカリ別人じゃないですか~。ランペルちゃんだと積極的なクセに~」

「このアバターでは、一線を越えないよ!?」

「えー、なんです、ソレ!? 中身はとっくに越えてます!」


 白ローブの上から、胸に手を当てた。


「アタシたち、何度も『あわっこ』しましたよね!? 内面を見るって、あれはウソだったんですか!?」

「ソレとコレとは別!」


 葦原は【終了】の準備をした。


「あ、ズルい!」


 【終了】だけは、【中止呪文】でも止められない。VRのルールに助けられた無敵の英雄は、なんとか天使の姿をした悪魔っ子から逃げおおせた。






 ハァ、ハァ……。オニャノコって、コワい……。


 英雄のアバターを脱いだボクは、ヘッドギアを外した。

 運営さんに呼ばれたときを思い出す。


『ガハハ! よお、葦原。英雄の気分はどうだ?』

『じきにタダの人ですよ』

『冷静だなぁ。まあ、会社としても助かるぜ。浮かれきって、ドツボにハマると終わりだからな』

『と、いうと?』

『オンナだ』

『あー』


 影アバターの運営さんは、灰色の頭をかいた。


『1人でも気を許すと、ズルズルいくぞ? そしたら、ハニトラでジ・エンドだ』

『女性問題は致命傷ですか』

『ああ。冒険者が良いイメージなのは、お前のオカゲだからな。絶対にさけてくれ』

『僕は、ハマりたいんですが』

『だよなー、若いもんなー』


 影の人は笑った。


『リアルで相手を探してほしいトコだが、やむをえん。新しいキャラを作ってくれ』

『サブアバターで発散ですか?』

『ああ。みんながハッピーってやつだ』


 ならばと、ボクは子ネズミ紳士を生み出した。

 当初は、「あわっこ」で大いにハッスルしたのだが。


「あうぅ~。何がイケナイの?」


 日頃の行い? この性格? チョホホ。

 気付けば、30分ほど経っていた。VRでは3倍の体感だから、そろそろ天使たんも落ち着いてるよね?

 ボクはヘッドギアを被ると、ランペルの姿で【開始】した。


「ず~っと待ってたわよ!」

「わぷ!?」


 マントに突然おおわれた。あわてて逃げようとするけど、すっぽり包まれちゃう。


 マズい、【飛燕】できない!


「ランペルちゃ~ん? 弱点は、お見通しよ~?」

「あ、あわわ……」


 パールたんの呼吸が、スッゴく荒い。こ、これってマサカ……?


「アタシねぇ……放置プレイで、コーフンしちゃった……」


 逆効果だった~!?


  ◇


  ◇


 大激戦の「あわっこ」でチュた。


「ラ、ランペルちゃん……。きょ、今日は、このぐらいで、カンベンしたげる……」

「あぃがと……」


 パールたんを見送って、家を出る。

 実は今日って、出かける用事があったの。

 用事も大事、おにゃのこも大事。

 紳士には、カクゴと体力がいるでチュね。チョホホ。






「ランペルさま、ようこそ」


 今日の黒エルフたんは、バッチリ仕事モードだった。

 あ、別にお呼ばれじゃないよ? それならパスだったかな。


「ウサちゃん、受付は頼んだわ」

「はい、クロエさん」


 クロエたんは、ボクを連れて奥へと向かった。


(実は、モモさんに脅迫の手紙が)


 念話を描画モードにして、中身を送ってくれる。


“あわっこ☆吉原は、女性をバカにしている。速やかな閉鎖を望む。それが叶わぬ場合、人気トップの者から順に殺害する。

 女性の人権を守る会”


(うわぉ。なーに、この文?)

(常連さんが届けてくれました。外で、牛男に頼まれたそうで)

(なんて言ってたの、ソイツ?)

(「黒エルフの受付さんに渡してほしい」と。ラブレターかと思ったそうです)

(――あわっこ紳士って、本当におバカさんでプね)

(コメントは控えます)


 う~みゅ。相手はとっくに消してるよね、そのアバター。


(ボクを呼んだのは、調査のため?)

(はい。先日お店に入ったヨウコさんを調べていただきたいのです)

(あの子ね。ビックリだったよ)

(ランペルさまなら、脅迫の件を抜きにしても聞き取りが可能かと。なにとぞお願いします)

(ん。わかった)


 あのコのオイタなら、ボクにも責任あるしね。


 お部屋に入ると、虎女の「ヨウコたん」こと、妖虎たんがいた。


「ラ、ランペル師匠!?」

「やっほ。指名したヨン」


 演技スタートでチュ。


「キミさあ、ま~だモーモーたんに未練あるの?」

「ち、違うッス!」


 妖虎たんは慌てて手を振った。


「モモさんは、師匠みたいな真の紳士がお相手すべきだと、よーく分かったッス!」

「ホントかにゃ~? おんなじお店で働くとか、フツーは遠慮しない?」

「VRだと、まだ『あわっこ』だけッスから!」

「ふ~ん。そんなコト言って、モーモーたんが自分に振り向かないから、いっそザックリ、とか?」

「えぇ~!?」

「そんなプンスコなら、ボク、最後まで戦うヨ?」

「イヤイヤ! も~っと違うッス! あ、いえ。『あわっこ』で師匠と戦うって意味なら、その通りッスけど……」

「ほえ?」


 妖虎たんは、指をモジモジさせた。


「じ、実は……。師匠に愛を教わってから、その……め、目覚めちゃったんスよね」

「ほえほえ?」


 どうも、ミョーな方向に雲行きがアヤしい。

 妖虎たんが近づいてきた。


「実はオレ、今日は客を入れるなって言われてて。放置プレイだったんス」

「え」


 なんでかな。妖虎たんの息が、スッゴく荒い。


「オレ、もっとウデを磨いてから戦うツモリだったッスけど……。恩返しのチャンスは、逃さないッス!」

「はにゃ!?」


 ガシッと組み付かれる。しまった、超グラマー! じゃない、【飛燕】で逃げられない!


「オレって、寝技には定評あるんスよ?」

「あ、あわっことは関係な~い!」

「まあまあ。運動神経に自信アリってことッス!」


 ヤバい! 手も押さえられたから、【武具作成】も使えない!

 弱点多いよ、このカラダ!?


「師匠に教わった、愛のカタチ! 今ここで、全てをブツけるッス!」

「あ゛ーっ!」


  ◇


  ◇


  ◇


  ◇


「どうだったッス、師匠?」

「――良かった」


 ONGAESHI、お見事でプ……ぐふっ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ