表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/20

その4 ナイショの2人

「あはは! ランペルちゃん、似合ってるよ~!」


 子ネズミのボクは、すっかり天使たんの着せ替え人形になってた。

 ここは、VRの銀座。ボクたちは、中央にある大きな「門」から出たあと、大通りのお店にやってきてた。

 現実だと手が出ない服とかも、VRの値段ならリーズナブルなんで、よく来るんだってサ。たしかに、金額が1/100ってのもフツーだもんネ。


「ランペルちゃんを見たときから、ゼ~ッタイ着せたかったんだよね~」


 パールたんが用意してくれたのは、本物の幼児が着るような数々の服だった。

 いま着たのも、水色のジャンプスーツね。


「どう、着ごこちは?」

「むにゅ~。尻尾が出ないし、動きづらいかな~って」

「あ、そっか。ネズミだもんね。ゴメンゴメン」


 パールたんは、新しいハンガーを取り出した。


「んじゃあ、こっちはどう?」

「中身はな~に?」

「ムフフ。着替えてからのお楽しみだよん!」


 ありゃりゃ、ま~たシュミ全開の服かにゃあ。

 ハンガーを握って、指を弾く。衣装はスグ変わって、セパレートのピンクドレスに。


「えぇっ! オニャノコの服?!」


 ホォッ……と、ため息にも似たドヨめきが起こる。店内には、いつのまにかオネーサンが増えてたみたい。


「子ネズミくん、カワイイ……」

「男の娘、尊い……」

「ハァ、ハァ……。おウチに飾ってスリスリ……」


 うわ~、さすがVR! 紳士だけじゃなくって、淑女も多い~!

 なんてゆーか、ボクを見る目がギラギラしてリュ~!


 だけど、この騒ぎのせいで、ひっそりとお店を後にする人もいた。あうあう、ゴメンネ~。


「お客様」

「あ、メーワクだったね。すぐ出ます」

「いいえ」


 ウサギのおねーさんは、サッとカメラを取り出した。


「その姿、撮影してもよろしいでしょうか? 店に飾りたいので」

「へ?」


 あれ、ここVRとはいえ、銀座のお店だよ?

 え、本気?


「いかがでしょうか」

「あ、はい」


 たぶん、パールたんの連れって効果も狙ってるんだろうけどサ。ホントにいーの?


「えへへ~、大人気になっちゃったね、ランペルちゃん」

「オニャノコが、ちょっとコワくなってきた」


 まさに、人が人を呼んでる状態。気付いたら、お店の奥の開けたスペースで、パシャパシャやられてる。うう~、ずーっと【閃光】を使われてるみたい。マブしぃ~!


「ランペルく~ん、こっち向いて~!」


 黄色い声のした方に、にっこりスマイル。猫のオネーサンが、【衛星球】を向けてパシャリ。

 はう~、オニャノコには優しくしちゃうの~。オノコノコの悲しいサガでチュ~。


 そんな紳士っぷりを、狙われた。


 ガシィッ!


「むぎゅ!?」


 反対側から迫ってた牛女たんに、勢いよく抱き付かれた。とっさに振り向いた分、おムネに埋もれて目を白黒。うわわ、そりゃゴーインなのも好きだけどサ! い、息が!


「ボス、捕まえました!」

「キェーッ! デカしたぞ!」


 えっ? ナニ、今の声?

 急に頭が冷えてきた。


「キキキ……、英雄チームの冒険者ったって、1人ならザコだぜ! これぞ、ザマァ! “ざまぁ団・第3支部”の真骨頂よ!」


 声こそオニャノコだけど、みょーな叫びと「ざまぁ団」の宣言。まちがいない、コイツは……!


「アンタ、ボス猿ね!」

「そうともさ! ざまぁ~!」


 写真を撮ってたオニャノコたちは、突然の騒動に大パニック。キャーキャー叫んで、お店から逃げてく。


「おい、ムカつく天使! このボウズを助けたかったら、手を頭の後ろで組みな!」

「くっ……!」


 マズい、1つの場所に留まりすぎた!

 ボス猿チームの誰かが、「パールたんがお店にいる」ってのを知って、集合をかけたんだ! そんでもって、お店じゃ【終了】できないのも狙われた!

 ボヤボヤしてたら……、殺される!


(パールたん!)


 抱き付かれながらも、なんとか念話を送る。


(ボクが絶対助けるから、キミはヤバい魔法をキャンセルして!)

(え? ラ、ランペル、ちゃん……?)

(頼んだよ!)


 すぐに【武具作成】で手元に槍を出すと、短く握って、牛女たんの手を切りつける!


「ぐあぁ!」


 牛女たんは、たまらずしめつけを解いた。ニヤリ! 体は押さえたけど、手まで押さえなかったのは失敗だったね!

 すかさず両足も切りつけ、地面に転がす。


「キエーッ!? な、なんだ、このガキーッ!?」


 敵はあと4人か……よし!

 まずは、動きのトロそうな人魚たんを、サクッとサバいて転がす。

 あと3人!


「チクショー! オイ、お前ら! 固まれ!!」


 おっとと、いったん引っ込もう。

 服がイッパイかかったハンガーラック。そのカゲから、コソッとのぞく。


「クソ! どこ行った、チビ!」


 探知魔法の準備を始めたみたい。んでも、パールたんが【中止呪文】で消してくれた。ありがとう、天使たん!

 だけど、ボス猿が、真っ赤な顔で大噴火!


「クソ天使! 青はウゼェんだよ!」


 ズカズカ近付いて、パールたんを切った! うにゅぅ~! 飛び出したいけど、今はガマン!


「おい、ガキ!」


 パールたんを何度も切りつけながら叫ぶ。


「さっさと出てこい! でなきゃ、コイツが死ぬぞ!!」

「ランペルちゃん! 出てきちゃダメー!」


 出るよ、絶対にネ!

 大きく回り込んで、ボス猿の近くまで忍びよった。コッソリと呪文を準備する。


「ヤイ、悪党!」


 マネキンの肩にピョンと飛び乗った。


「ボクはここだゾ!」

「なっ!?」


 見られた瞬間、バシッと発光!


「ぐぁあああっ!」


 敵全員が、目を押さえてもだえる。よっし、【閃光】が決まった!

 あとはもう、ボス猿たちの剣なんてヘッチャラ! 楽々とかわし、足を切りつけてった。1人ずつロープで縛り上げる。


「お店で襲ったのは失敗だったネ!」


 そっちだって、【終了】できないモンね。クスッ、ざまぁダヨ~だ。


「あっ、お店のオネーサン? 運営さんに連絡は?」

「え、えぇ。すでに済ませました」


 さっすが一流店。さっきはユルかったけど、やる時はやるゥ。


「ゴメンネ、メーワクかけちゃって。この服は買い取るよ」


 服の汚れは【修復】で直るんだけど、迷惑料ってことでネ。

 やってきた運営さんたちに、ボス猿一味を引き渡して一件落着。

 あとは……、うん。

 パールたんとの、お話だね。




 銀座の大通りは、ずーっと歩行者天国になってる。

 ボクは、天使たんとシッカリ向き合った。


(んーっと、パールたん)

(英雄様……ですか?)


 あっちゃ~、見抜かれちった。

 んでも、シッポをカワイく振ってみせる。


(にゅふっ! ボクって、そんなに似てた~? 英雄さんの甥っ子を名乗る、一般人でチュ~!)

(ウソよ……。だって、あの槍さばきは本人だもの。アタシが言うんだから、間違いないわ)

(え~っとね? ボクも、よく研究して……)

(ランペルちゃん)


 パールたんが、両肩を押さえてきた。うぅっ、目がマジでチュ。


(あなた、【閃光】を使ったわね? 葦原さんと同じように)

(あぅ……)

(――映像には、一回も映してないのに!)


 そーにゃのだ。

 【閃光】は、決まればスゴいけど、バレると対処もしやすい。だから、投稿する動画からはカットしてもらってたの。編集の手間は増えるんだけど、「英雄様のためなら喜んで!」と、パールたん達は気持ちよくOKしてくれた。

 まさか、こんなカタチで裏目に出るなんて、予想外だったケドさ。チョホホ。


(あっ、責めるわけじゃなかったの。ただ……ちょっとショックで)


 うにゅ~。天使たんは、一番のファンでいてくれたもんネ。

 キチンと謝ろう。


(こっちこそ、ゴメン。英雄さんのイメージ、コワしちゃったね)


 くるっと、フリルをヒラめかせた。うひゃ~、子ネズミの紳士が、オニャノコの服? あはは。もう、バッキバキに英雄ホーカイ。


(パールたん。ボクのこと、バラしちゃっていーよ? 英雄もランペルもオシマイ。「あわっこ」には、別アバターで行くからサ)

(えっ!?)

(サファイアたんには、もうゼッタイ近寄らない)

(それは……困るわ!)


 ほえ? 目をパチクリ。


(今までどおり、来てちょうだい! ア、アタシだって、その……困るし!)


 うにゅ、どういうこと?

 ――ああ、そっか。パールたんも、「あわっこ」での活動をバレたくないのか。


(大丈夫。パールたんのことは、モチロン黙っとくからサ)

(そうじゃなくって、えぇっと……、アタシのお金が困るの!)

(んゆ?)


 コテンと首をかしげた。


(どゆこと?)

(あ~ん、だからぁ! ランペルちゃんが消えるのも困るけど、葦原さんが消えたら、本当に冒険者とかムリなのよ~!)


 ほへ?


(今の、お店での戦いだってそう! すっごくコワかったんだもの!)


 両手をギュッと握られた。


(だから、消えるなんて絶対ダメ! むしろ、セキニン取るなら、続けて!)


 え、えぇ~っ!?


(あのさぁ。ボクって、コッチの方が地だよ?)

(よーく分かっちゃったわ)


 ははは、ダヨネー。


(それじゃあ、冒険者は続けるけど……えーっと、「あわっこ☆吉原」のカンケイも?)

(えっ……? えぇ、そうよ! も、ももも、モチロン!)


 うひゃ~、顔が真っ赤! でも、ボクも多分おんなじ。

 だってさあ、職場のオニャノコと、幼児プレイがバレたうえで、お店のヤクソクだよ? 気まずいってレベルじゃないでプ。


(ア、アタシ! ふ、ふつつか者だけど! これからも、ヨロシクお願いするわね……!)

(こ、こちらこそ、ヨロシュク……)


 ぎこちなく頭を下げ合う。


(ランペルちゃん? そんなわけで、明日もお願いね……)

(えぇっ? れ、連続でお呼ばれ?)

(ち、違うわよ!)


 ブンブン手を振るパールたん。


(ぼ、冒険者の仕事! あるでしょ!?)

(あっ! あ~、そっちね! にゃはは……だよね~!)

(えぇ、そ、そうよ! あははは……)




 悩みが消えたから、シゲキは求めたヨ? 求めたケドさぁ……。

 なんか、トンデモない爆弾をかかえた気がする……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ