その4 ナイショの2人
「あはは! ランペルちゃん、似合ってるよ~!」
子ネズミのボクは、すっかり天使たんの着せ替え人形になってた。
ここは、VRの銀座。ボクたちは、中央にある大きな「門」から出たあと、大通りのお店にやってきてた。
現実だと手が出ない服とかも、VRの値段ならリーズナブルなんで、よく来るんだってサ。たしかに、金額が1/100ってのもフツーだもんネ。
「ランペルちゃんを見たときから、ゼ~ッタイ着せたかったんだよね~」
パールたんが用意してくれたのは、本物の幼児が着るような数々の服だった。
いま着たのも、水色のジャンプスーツね。
「どう、着ごこちは?」
「むにゅ~。尻尾が出ないし、動きづらいかな~って」
「あ、そっか。ネズミだもんね。ゴメンゴメン」
パールたんは、新しいハンガーを取り出した。
「んじゃあ、こっちはどう?」
「中身はな~に?」
「ムフフ。着替えてからのお楽しみだよん!」
ありゃりゃ、ま~たシュミ全開の服かにゃあ。
ハンガーを握って、指を弾く。衣装はスグ変わって、セパレートのピンクドレスに。
「えぇっ! オニャノコの服?!」
ホォッ……と、ため息にも似たドヨめきが起こる。店内には、いつのまにかオネーサンが増えてたみたい。
「子ネズミくん、カワイイ……」
「男の娘、尊い……」
「ハァ、ハァ……。おウチに飾ってスリスリ……」
うわ~、さすがVR! 紳士だけじゃなくって、淑女も多い~!
なんてゆーか、ボクを見る目がギラギラしてリュ~!
だけど、この騒ぎのせいで、ひっそりとお店を後にする人もいた。あうあう、ゴメンネ~。
「お客様」
「あ、メーワクだったね。すぐ出ます」
「いいえ」
ウサギのおねーさんは、サッとカメラを取り出した。
「その姿、撮影してもよろしいでしょうか? 店に飾りたいので」
「へ?」
あれ、ここVRとはいえ、銀座のお店だよ?
え、本気?
「いかがでしょうか」
「あ、はい」
たぶん、パールたんの連れって効果も狙ってるんだろうけどサ。ホントにいーの?
「えへへ~、大人気になっちゃったね、ランペルちゃん」
「オニャノコが、ちょっとコワくなってきた」
まさに、人が人を呼んでる状態。気付いたら、お店の奥の開けたスペースで、パシャパシャやられてる。うう~、ずーっと【閃光】を使われてるみたい。マブしぃ~!
「ランペルく~ん、こっち向いて~!」
黄色い声のした方に、にっこりスマイル。猫のオネーサンが、【衛星球】を向けてパシャリ。
はう~、オニャノコには優しくしちゃうの~。オノコノコの悲しいサガでチュ~。
そんな紳士っぷりを、狙われた。
ガシィッ!
「むぎゅ!?」
反対側から迫ってた牛女たんに、勢いよく抱き付かれた。とっさに振り向いた分、おムネに埋もれて目を白黒。うわわ、そりゃゴーインなのも好きだけどサ! い、息が!
「ボス、捕まえました!」
「キェーッ! デカしたぞ!」
えっ? ナニ、今の声?
急に頭が冷えてきた。
「キキキ……、英雄チームの冒険者ったって、1人ならザコだぜ! これぞ、ザマァ! “ざまぁ団・第3支部”の真骨頂よ!」
声こそオニャノコだけど、みょーな叫びと「ざまぁ団」の宣言。まちがいない、コイツは……!
「アンタ、ボス猿ね!」
「そうともさ! ざまぁ~!」
写真を撮ってたオニャノコたちは、突然の騒動に大パニック。キャーキャー叫んで、お店から逃げてく。
「おい、ムカつく天使! このボウズを助けたかったら、手を頭の後ろで組みな!」
「くっ……!」
マズい、1つの場所に留まりすぎた!
ボス猿チームの誰かが、「パールたんがお店にいる」ってのを知って、集合をかけたんだ! そんでもって、お店じゃ【終了】できないのも狙われた!
ボヤボヤしてたら……、殺される!
(パールたん!)
抱き付かれながらも、なんとか念話を送る。
(ボクが絶対助けるから、キミはヤバい魔法をキャンセルして!)
(え? ラ、ランペル、ちゃん……?)
(頼んだよ!)
すぐに【武具作成】で手元に槍を出すと、短く握って、牛女たんの手を切りつける!
「ぐあぁ!」
牛女たんは、たまらずしめつけを解いた。ニヤリ! 体は押さえたけど、手まで押さえなかったのは失敗だったね!
すかさず両足も切りつけ、地面に転がす。
「キエーッ!? な、なんだ、このガキーッ!?」
敵はあと4人か……よし!
まずは、動きのトロそうな人魚たんを、サクッとサバいて転がす。
あと3人!
「チクショー! オイ、お前ら! 固まれ!!」
おっとと、いったん引っ込もう。
服がイッパイかかったハンガーラック。そのカゲから、コソッとのぞく。
「クソ! どこ行った、チビ!」
探知魔法の準備を始めたみたい。んでも、パールたんが【中止呪文】で消してくれた。ありがとう、天使たん!
だけど、ボス猿が、真っ赤な顔で大噴火!
「クソ天使! 青はウゼェんだよ!」
ズカズカ近付いて、パールたんを切った! うにゅぅ~! 飛び出したいけど、今はガマン!
「おい、ガキ!」
パールたんを何度も切りつけながら叫ぶ。
「さっさと出てこい! でなきゃ、コイツが死ぬぞ!!」
「ランペルちゃん! 出てきちゃダメー!」
出るよ、絶対にネ!
大きく回り込んで、ボス猿の近くまで忍びよった。コッソリと呪文を準備する。
「ヤイ、悪党!」
マネキンの肩にピョンと飛び乗った。
「ボクはここだゾ!」
「なっ!?」
見られた瞬間、バシッと発光!
「ぐぁあああっ!」
敵全員が、目を押さえてもだえる。よっし、【閃光】が決まった!
あとはもう、ボス猿たちの剣なんてヘッチャラ! 楽々とかわし、足を切りつけてった。1人ずつロープで縛り上げる。
「お店で襲ったのは失敗だったネ!」
そっちだって、【終了】できないモンね。クスッ、ざまぁダヨ~だ。
「あっ、お店のオネーサン? 運営さんに連絡は?」
「え、えぇ。すでに済ませました」
さっすが一流店。さっきはユルかったけど、やる時はやるゥ。
「ゴメンネ、メーワクかけちゃって。この服は買い取るよ」
服の汚れは【修復】で直るんだけど、迷惑料ってことでネ。
やってきた運営さんたちに、ボス猿一味を引き渡して一件落着。
あとは……、うん。
パールたんとの、お話だね。
銀座の大通りは、ずーっと歩行者天国になってる。
ボクは、天使たんとシッカリ向き合った。
(んーっと、パールたん)
(英雄様……ですか?)
あっちゃ~、見抜かれちった。
んでも、シッポをカワイく振ってみせる。
(にゅふっ! ボクって、そんなに似てた~? 英雄さんの甥っ子を名乗る、一般人でチュ~!)
(ウソよ……。だって、あの槍さばきは本人だもの。アタシが言うんだから、間違いないわ)
(え~っとね? ボクも、よく研究して……)
(ランペルちゃん)
パールたんが、両肩を押さえてきた。うぅっ、目がマジでチュ。
(あなた、【閃光】を使ったわね? 葦原さんと同じように)
(あぅ……)
(――映像には、一回も映してないのに!)
そーにゃのだ。
【閃光】は、決まればスゴいけど、バレると対処もしやすい。だから、投稿する動画からはカットしてもらってたの。編集の手間は増えるんだけど、「英雄様のためなら喜んで!」と、パールたん達は気持ちよくOKしてくれた。
まさか、こんなカタチで裏目に出るなんて、予想外だったケドさ。チョホホ。
(あっ、責めるわけじゃなかったの。ただ……ちょっとショックで)
うにゅ~。天使たんは、一番のファンでいてくれたもんネ。
キチンと謝ろう。
(こっちこそ、ゴメン。英雄さんのイメージ、コワしちゃったね)
くるっと、フリルをヒラめかせた。うひゃ~、子ネズミの紳士が、オニャノコの服? あはは。もう、バッキバキに英雄ホーカイ。
(パールたん。ボクのこと、バラしちゃっていーよ? 英雄もランペルもオシマイ。「あわっこ」には、別アバターで行くからサ)
(えっ!?)
(サファイアたんには、もうゼッタイ近寄らない)
(それは……困るわ!)
ほえ? 目をパチクリ。
(今までどおり、来てちょうだい! ア、アタシだって、その……困るし!)
うにゅ、どういうこと?
――ああ、そっか。パールたんも、「あわっこ」での活動をバレたくないのか。
(大丈夫。パールたんのことは、モチロン黙っとくからサ)
(そうじゃなくって、えぇっと……、アタシのお金が困るの!)
(んゆ?)
コテンと首をかしげた。
(どゆこと?)
(あ~ん、だからぁ! ランペルちゃんが消えるのも困るけど、葦原さんが消えたら、本当に冒険者とかムリなのよ~!)
ほへ?
(今の、お店での戦いだってそう! すっごくコワかったんだもの!)
両手をギュッと握られた。
(だから、消えるなんて絶対ダメ! むしろ、セキニン取るなら、続けて!)
え、えぇ~っ!?
(あのさぁ。ボクって、コッチの方が地だよ?)
(よーく分かっちゃったわ)
ははは、ダヨネー。
(それじゃあ、冒険者は続けるけど……えーっと、「あわっこ☆吉原」のカンケイも?)
(えっ……? えぇ、そうよ! も、ももも、モチロン!)
うひゃ~、顔が真っ赤! でも、ボクも多分おんなじ。
だってさあ、職場のオニャノコと、幼児プレイがバレたうえで、お店のヤクソクだよ? 気まずいってレベルじゃないでプ。
(ア、アタシ! ふ、ふつつか者だけど! これからも、ヨロシクお願いするわね……!)
(こ、こちらこそ、ヨロシュク……)
ぎこちなく頭を下げ合う。
(ランペルちゃん? そんなわけで、明日もお願いね……)
(えぇっ? れ、連続でお呼ばれ?)
(ち、違うわよ!)
ブンブン手を振るパールたん。
(ぼ、冒険者の仕事! あるでしょ!?)
(あっ! あ~、そっちね! にゃはは……だよね~!)
(えぇ、そ、そうよ! あははは……)
悩みが消えたから、シゲキは求めたヨ? 求めたケドさぁ……。
なんか、トンデモない爆弾をかかえた気がする……!