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その16 オニャノコ、オノコノコ

 違法あわっこ店の摘発は、依然として続いていた。

 用心棒には、ざまぁ団がいることも多い。そんなときは、冒険者として葦原チームが対処する。


「シュ~、でも葦原しゃん? やっぱり鬼六は、お客しゃんとして潜入捜査したほうが効率いいと思うっシュ」


 鬼六先生がアフロをかいた。


「あわっこの実態があるって分かった時点でツブせるっシュから」

「なるほど。バレないよう気を付けてね」

「大丈夫っシュ。悪目立ちしないよう、たとえオニャノコでも、オノコノコの姿で行ってもらってるっシュ」


 ほむ。腹黒エルフたんやサッきゅんみたいな、オノコノコ(中はオニャノコ)のスタイルでプね。


 そこでゲハラーヅがツッコミを入れた。


「鬼六先生よぉ。最近は女子もケッコー利用してるぜ? 逆に今度は、『ヤローだけのときが調査だ』とかバレたりしないか?」

「心配ご無用っシュ。たまに鬼六が、オニャノコになったりしてるっシュよ」

「ほぉ~」


 先生、器用すぎるでチュ。


 馬面のゲハラーヅは、褐色のアゴをなでた。


「いやはや……女の中身が男だったり、その逆だったり、マホロバはスゲーな」

「シュゴいっシュ」


 18才以上ならどっちも選べるでチュもんね。


 先生がボクを見上げた。


「葦原しゃんは、オニャノコになったことってないっシュか?」

「いや、ないね。自分と違う性でのふるまいは、少し気恥ずかしいから」

「シュ?」


 ほえ、なぜでプか。先生が、結構マジな感じで「何言ってんの、このショタ?」って目で見てきたでチュ。

 このあとざまぁ団と戦うのに、コンビネーションに不安が残るでチュね。






「ひゃっはー! ざまぁ団の第38支部、英雄を倒して名をあげるぜー!」

「【幻覚】に翻弄されちまえー!」


 ザクザクザク。


「ひぃー! すんませんでしたー!」


 あ、楽勝でチた。だって、【幻覚】でカーテンを作ってたケド、その後ろにいるって言ってるようなモンでチュから。

 ほむ、これでしばらくは、あわっこ界に平和が訪れるでプね。





 そんな平和なある日のこと。

 ボクは、妖虎たんからメールをもらった。


“師匠! 俺はどうしたらいいッスか!?”


 ほえ?


(焦ってるでプね)

(あ! し、ししし師匠ー!)

(落ち着くでプよ、妖虎たん)


 なんとか妖虎たんのマシンガントークをなだめながら話を聞くと、どうも妖虎たんが、紳士とあわっこをプレイしたあとに事件が起きたみたい。


(お、俺! その相手に男ってことを言ったんス。そしたら、「お前男かよー!」ってメチャクチャ怒られたんスよ~!)

(ええー)


 そりは紳士の心が狭いでプ。






 ということで、ようじょアバターに入ってるHENTAI魔王たんに会いに来たでチュ。


「お前が言うななのジャー!」


 ありゃ、うっかり声が出てたでチュ。


「ワザとなのジャ……さすがネズミ、汚いノオ。十二支を決めるレースのさい、牛の背中に乗ってズルするぐらい汚いのジャ」


 それはお利口さんと言うでプ。


「して、ランペル。今日は何用ジャ?」

「んねえ、よっしーたん。妖虎たんから聞いたんでチュけど、中の人がオノコノコって話は、けっこー荒れてるみたいでチュね」

「おぉ、そのコトか。う~む、とっくに受け入れられとると思っとった。ワシもそうじゃからノォ」


 よっしーたんは緑の髪をカキカキした。


「ガワがオニャノコなら、適切なサービスさえあればOKジャろうにノォ……と、建前では言うのジャが」

「ほむ?」

「コレがまた、けっこーデリケートな問題でノォ。あわっこ紳士は、あくまで『内面も淑女』を求める人が、思ったより多かったらしいのジャ」

「正統派の1対1にこだわるんでチュね」


 アバターがオニャノコでも、ココロはオノコノコだと、それはオノコノコ2人になっちゃう。そんなの神聖なあわっこじゃないやい、プンスコ――そういうことでチュか。原理主義は大変でチュ。


「ワシらも客商売ジャ。紳士のニーズに、何も手を打たんのはマズイ」

「んでも、どうするツモリでチュか? いっぺん疑われてからだと、オニャノコって言っても、アヤしまれると思うでチュ。紳士が減るかもしれないでチュよ」

「う~む、それで消えるような紳士はなんともないが、店の子を誹謗中傷するのは敵わんノォ」

「掲示板とかでチュか?」

「うむ。アレコレ話題になっとるのジャ」


 おでこに手を当てたよっしーたんは、そばにいたクロエたんをチラ見した。

 クロエたんはペコリと一礼して、掲示板を見せてくれる。


「こちらです」

「あぃがとでプ」


 目を通してみた。






【あわっこは】男に男を相手させるビジネススレ12【HENTAIのすくつ】


「モモも悪役令嬢もみんな男ってことだww」

「あわっこ終了ww 自称幼女の変態ヤローがいる時点で気付けよww」

「ウホッ」

「悔しいです!w ファンやめます!w」

「(あわっこ)やらないか?」

「やめないか!ww」

「本スレ凸すんなよ? 絶対すんなよ?w」

「男の世界に、ようこそ……」

「理想郷が、泡と消えたなwww」

「あわっこ紳士w イタタタタww」

「リアルであわっこしてくれる女探せw あ、ムリかwwwww」






 ぷぇー、ヒドいでチュ。


 クロエたんが、メガネをクイッと上げた。


「店の子への心ない書き込みもそうですが、紳士でない方々が面白半分に書き込みをして、それにより紳士さま方が肩身の狭い思いをされておりますね」

「うにゅ~」


 それは困るでチュ。


「よっしーたん。ハジメっから、中の人がオニャノコかオノコノコか、言っておけば良かったでチュ。絶対そうすべきだったでチュよ」

「ん~、まぁノォ」


 ほえ? なんか歯切れが悪いでプね。

 クロエたんがボクを見た。


「すみません。言わないようにと勧めたのは、私です」

「いや、クロエ。最後はワシがOKを出したのジャ」

「けれど、それは鮎さんのためにと……」

「ワシが全面的に悪い」


 よっしーたんはお手上げのポーズを取った。ほむ、鮎たんに関係あるんでチュね。

 そのとき、お部屋の扉が開いた。


「失礼します」


 ほえ? ウワサの鮎たんでプ。


「よっしー支配人。私のために配慮してくださって、ありがとうございます。――ですが、こうなった以上は収まらないと思います。私が告白しない限りは」

「鮎……」


 よっしーたんは鮎たんの手を握った。


「大丈夫か、鮎? オレは分類なしでやれるぞ。これはお前だけの話じゃない。あとに続く者への道になるからな」


 おっと、よっしーたんの地が出たでチュ。よっしーたんも俺っ娘だったんでチュね。


 鮎たんは、しっかりと聞いたあと、ゆっくりと首を振った。


「なおさら、キチンと明かすべきだと思います。出来れば、動画で説明もしたいです」

「――そうか。かえって目立つ真似をさせてしまったな」

「いいえ。支配人のお心遣い、とても嬉しかったです」


 ボクは腹黒エルフたんにツツ~ッと近寄った。


「んねえ、クロエたん。もしかして鮎たんって……」

「はい。体は男性です」


 ――ああ、そういうコトでチたか。






 すぐに動画撮影が行われ、即日アップされた。


『みなさま、私は鮎と言います。本日は私の秘密をお話ししたいと思います。少々お時間をちょうだいいたします』


 鮎たんは深々と頭を下げた。


『私の出生時の肉体は、男でした。心の性は、女と自認しております。――でも、現実では耐えられるぐらいの違和感なんです。バレたことはありません。なるべく男の中に交じっても怪しくないように過ごしてきました。きっと私は、一生このことをヒミツにして生きていくんだろうなと、それが当たり前なんだと受け入れてました』


 ここまでを一気に喋った鮎たんは、ひと息ついた。


『転機が訪れたのは、今年の4月でした。――マホロバが、開始されたんです』


 鮎たんは胸に手を当てた。


『正直、とても悩みました。私は、果たしてマホロバをやらずに死んでいいのだろうかと。――気付けば、ヘッドギアを購入し、マホロバを【開始】しておりました』


 鮎たんは、砂浜をぐるりと見回した。


『自分が変わった時のこのビーチは……格別でした』


 マブしそうに海を見つめる鮎たん。ちょっぴり泣いてるでチュ。

 そこで【幻覚】は消え、あわっこにある会議室のひとつに戻る。


『その後、あわっこの募集を聞いて応募しました。もし合わないのであれば、スッパリやめようと思いました』


 けっこーなショーゲキ発言でプ。


『でも、意外に合っていたみたいです』


 鮎たん、ニッコリ。ふにゅ~、笑顔がステキでプ。


『私は、この世界でになることで、随分気持ちがラクになりました』


 およ?


『ここでようやく、真の自分になれたんです。むしろ現実こそ、そういうアバターを演じている感じですね』


 あっ……。

 分かるでプ。「真の自分」って感覚、メチャクチャ分かるでプ。

 鮎たんの切ない顔を見てると、ボクの胸もギュッとしめつけられるでチュ。


『初期メンバーに私がいることで、随分と吉原支配人やクロエさんにご迷惑をお掛けしました。最初から中の人を明かした方がいいというのは分かっていましたが、支配人らに甘えて伏せてもらうよう頼んだのは私です。これは、私の性別などの要素は一切関係ありません。私の弱さが生んだことです』


 ううん。この告白が出来る鮎たんは、スンゴク強いでチュ。


『今度、あわっこ吉原は、“ラビ庵ローズ”という館を作ります。これは、男性が入った女性の館ですね。現実の体が男性であればコチラという区分なので、私も移動します』


 ああ、それならそうなるでチュ。

 そんでもって……分けたくない気持ちも理解したでチュ。


『では、お時間をいただき、ありがとうございました』


 最後に鮎たんは、もう1度深くおじぎをした。


 ボクはパチパチと拍手してた。

 目から涙があふれてた。

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