その15 心の宿
冒険者ギルドで、フクダさんがみんなの前に立った。
「前回、葦原のチームが、ナワを解く敵と戦った。なぜこういった事が出来たのか。それは、違法呪文の〖脱出〗を使ったからだな」
正規の呪文は350枚だが、どんどん新呪文を追加していけるシステムになっていたらしい。
違法呪文は、その仕組みを悪用したんだそうな。
摘発した呪文を実際に使ってみると、ナワが簡単にちぎれた。これでは最早、ナワでの拘束は不可能だろう。
もみじが手を挙げた。
「その、〖脱出〗を禁止することは出来ないんですか?」
「残念ながら、どこまでをいじっても問題ないかってのは、まだまだ手探り状態なんだ。現段階では、禁止させるにはシステムの根幹をいじる必要がある。すなわち、再起動も必要になるんだ。みんなの脳みそが入っている状態でな」
「じゃあ、その間だけみんなが出れば……」
「すぐ閉鎖だ」
「――そうですね」
それが出来たら、根本的解決である。
「問題は、それを嫌って、ずっと残る者がいることだな」
フクダさんは頭をかいた。
「さらに大問題なのは、うちの社長が、そういう奴らを好きだってことさ。そいつらのためにマホロバをやるのが前提だ。これは揺るがない。――冒険者のみんな、もし改めてこの方針がおかしいと思ったら、辞めてくれて構わない」
ほとんどの者が残った。
「ありがとう」
フクダさんは頭を下げたのち、鬼六先生を呼んだ。
「シュ~、縛ることなら鬼六にまかせるっシュ!」
あー、うん。お嬢タマに縛られたでチュよ、シッカリと。プンスコ&あぃがとでチュ。――って、ま~た集中が切れちったでチュ。
「シュシュ~。鬼六印のナワが千切られた以上、組み付いた拘束も解かれるのは時間の問題っシュ。そこで、こういった呪文を用意していたっシュ」
鬼六きゅんは、1つの呪文カードを見せた。
「〖拘留〗という呪文っシュ。本当は〖縛りプレイ〗って名前にしたかったっシュけど、チームのみんなに反対されたっシュ、ヨヨヨ……」
先生のシュミがよく分かるでチュー。
ボクはゆっくりと手を挙げた。
「どう使うのかな、先生?」
「いい質問っシュ、葦原しゃん! 白呪文で、1秒準備したら発動っシュ。術者がマホロバにいる限り、ダメージを与えることはおろか、呪文の使用もダメという徹底ぶりっシュよ」
「【終了】は?」
「それも呪文なんで、もちろん禁止っシュ」
「強いね」
これがあったら他の呪文は不要でプ。
んでも、鬼六きゅんはフルフルと首を振った。
「ただし、コレには『対象の相手が許可したら』って条件があるっシュ」
「なるほど」
ほむ、相手を弱らせて捕獲するんでチュね。
クセはあるでチュけど、冒険者が続けられそうで何よりでプ。
かくして、新体制が始まった。
鬼六先生の言うとおり、その後すぐに、〖脱出2〗って違法呪文が出てきた。組み付いてる状態でも、一瞬で引きはがせるヤツね。
「ざまぁ~! これで逃げられるぜ~!」
ほほぉ、それは残念だったでチュね。
ざまぁ団・第79支部の敵相手に槍を連続突き。ライフを適度に減らしてから降伏勧告。
「黙って従うか、それとも槍を食らい続けるか、どっちがいい?」
「うあぁ……し、従います~……」
ふむ。もし〖拘留〗がなかったら、大変だったでチュー。
「――てな事があったでチュよ、理子ピン」
「そうだったの。お疲れさま、坊や」
「てひひ」
あわっこで戦ったあと、理子ピンに耳をカリカリかいてもらってるの。うみゅ、ほどよいシゲキでチュ~。
んでも、なんか理子ピンってば、浮かない顔。
紳士としては解決したげるでチュ、ムン!
「なんか悩みがあるようだったら聞くでチュよ?」
「ありがとう、坊や。――そうね、もし寂しかったりツラかったりしたら、坊やの全部を知ってる子達を指名しに、あわっこへ来てちょうだい。なぐさめてあげるわ」
「あ~、またそんなコト言って、何度も来させようとしてるでチュ~」
「ウフフ」
うにゅ~、理子ピンってば吸血鬼のオネータマだから、英雄のボクからおカネをチューチュー吸おうとしてるでプよ? んまぁ、見事に引っ掛かってるでチュけど……。
「紳士だから、言われずとも来るでチュ」
「いい子ね、待ってるわ」
髪をナデナデしてくれた。えへへ。
ざまぁ団・第32支部は、ヤケクソになっていた敵が多かった。
「うぉおおお! 俺たちゃどこにも行き場なんてねえんだ!」
「くたばれクソがー!」
実力はさほどでもなかったが、だからこそだろう。破れかぶれになっている。
足を切っても反撃してくる。ナワも切られ、組み付きをしても解かれる。
「よっしゃー! 〖脱出2〗は強いぜー!!」
だが、ただ粘っているだけに過ぎない。
「お前達、大人しくするんだ」
「おぉ、英雄サマだぜ……へへっ……」
何度目かの説得後、敵が笑い出した。
「もしかして……ビビッてるのか?」
「――なに?」
「お~い、みんな~。英雄様ご一行は、ヘタレて殺しに来ねえぞ~?」
敵が口々に喝采を上げる。
ゲハラーヅが念話を飛ばしてきた。
(おい、マズいぞ、コイツら……)
たしかに、危険だった。
すでにもう、敵は瀕死だ。一撃与えたらロストする。
しかし、暴れ回る。
「やったぜー! じゃあ俺ら無敵じゃん!」
葦原にグサグサと槍を刺してくる。あえてかわさない。
(おい、葦原!)
(大丈夫だ。呪文だけ【中止呪文】をやってくれれば問題ない)
葦原のライフがみるみる減っていく。もう少しで瀕死だ。
(おい、葦原ー!)
(すまない。黙って見ていてくれ)
ゲハラーヅたちを制する。
敵はますます勢いづいてきた。
「ひゃっはー! やったぜ、俺たちが英雄殺しだー!」
「――お前達」
「はぁ? なんだ、ヘタレ?」
「もう一撃で僕は死ぬ。それでもトドメを刺しに来るのか?」
「当たり前じゃん! 英雄の首ゲーット!」
グサッ。
「え……?」
葦原の前の敵が倒れた。口を半開きにしたままの敵は、次第に薄れていき、通常の【終了】とは違う消え方で世界からロストしていった。
「十分な説得はした。その上で――もう一度問おう。抵抗を続けるか?」
「い、いいえ……」
ざまぁ団・第32支部はバラバラと武器を捨てた。
冒険者たちが次々と頭を下げてきた。
「すまねえ。手を汚させちまって……」
「俺らが代わりにやってやれば良かったな……」
「いや、大丈夫だ」
誰かがやるべきだったなら、葦原がやるべきだった。一部始終を【衛星球】に収めたから、説得も山ほどして、葦原も死ぬ寸前だったことが分かっている。
反撃をしたまでのことだ。
「それよりも、みんなは僕がやったほど自分を追い詰めないでほしい。あれは流石に危険だからね」
葦原がほほ笑むと、ようやくみんなも笑顔になった。
「だよな、ああいうヤツら相手に死んだら浮かばれねえぜ」
「まったくだ」
葦原は、いつものように別れの挨拶をし、【終了】した。
ボクはあわっこで吸血鬼たんを指名した。
「理子ピン……」
「あら、坊や。泣きそうな顔ね」
「理子ピン……!」
ボクはすぐさまあわっこを始めた。
◇
戦いが済んで、ボクは泣いた。
「ゴメン、理子ピン……。あ、あんなあわっこ、サイテーでチュ……」
「大丈夫よ。言ったでしょ、なぐさめてあげるって」
「――あっ」
そっか……。理子ピンはもう、縛れなくなったって聞いたときから、こんな日が来るのを予想してたんでチュね。
お姉タマは、いつも以上に優しくナデナデしてくれた。
「坊やは、色々な人を助ける力があるわ。だけど、それで何もかもを抱えこむ必要はないの」
「理子ピン……」
「あわっこをしなくてもいいの。時間外でも、話だけでもいいわ。英雄ちゃんの心が、少しでも軽くなれば」
「あぃがとでチュ……」
ちみっと延長して、理子ピンとお話しした。
「そうでチュ、食べ歩きはダメになっちったケド、ここでイチゴ大福を食べるでチュよ」
「いいわね、坊やも食べる?」
「はーい」
理子ピンおすすめのお店の品を、あわっこルームで注文。スグにイチゴ大福2個がアイテム欄に入る。
「いっただっきまーす」
みずみずしいイチゴの果汁と、あんこの甘味が口の中いっぱいに広がる。
「おいしいでチュ」
「良かったわ」
「理子ピンと一緒に食べてるからでチュね」
「あら、上手ね」
「てひひ……」
んでも、ホントにおいしいでチュ。
――うみゅ、落ち込むのはこれで終わり! 明日からはまた頑張るでチュよ、むん!




