その14 縛られた英雄と、自由な敵
そのあとは、鬼六きゅんがチームを見つくろって、違法なあわっこ店への潜入捜査を続けてた。あ、もちろん、色んなアバターにチェンジしてネ。
(ランペルしゃんは、英雄として活躍するっシュ)
(ボクも行かなくて大丈夫でチュか、先生?)
(シュ~、鬼六をナメてもらっちゃ困るっシュ。それに、ランペルしゃん? キミが戦い続けたら、あっという間にバレるっシュよ?)
うみゅ、さすが先生。よくご存じでチュ。
鬼六きゅんの場合、ダイスも振れるし接近戦も出来るし、多芸で万能だしネ。絶対ボクより向いてるでプ。
12月に入ってすぐ、ボクは英雄の姿で呼び出された。
「おお、来たか葦原」
影の運営、フクダさんだ。
「じつは今度な、『死なないマホロバ』をオープンするんだ」
リアルさを大幅に減らす代わりに、死亡もなくなるVRだという。
「フクダさん。それって、今までも出せた気がしますが」
「いやあ、反発が強かったからな」
大柄なフクダさんは、灰色の手をプイプイと振った。
「事故とはいえ、大量に脳死させちまったんだ。そりゃあ、一生背負うぜ。――だが、俺達が何をやっても反対される状況は、早く打破すべきと思っていた。安全なマホロバへの第一歩すら踏み出せんのはな」
軽く言ってるけど、メッチャ重いでプね。
「そこで今回は、『英雄がたくさんの子供を救っている』というのを、大々的に打ち出すことにした。大人の身勝手な都合で働かされている子供達。そんな彼らを安全に教育する場として、死なないマホロバをアピールするってワケだ」
「それって……僕達も利用してますよね?」
「だーから言っただろ、一生背負うもんだって。――これからのやり口も含めてな」
ほむ、人々の安全のために、腹黒く生きるんでプね。
そして、「マホロバ・ライト」が始まった。
英雄アバターも、テープカットにお呼ばれしてた。上手く切れて良かったでチュ。
「シュシュ~。細長いモノの扱いは任せるっシュ!」
黒鬼きゅんが、ダブルピースでチョキチョキしてみせた。
「何を隠そう、切れないナワから切りやすいテープまで、鬼六のチームが開発してるっシュからね!」
「へえ。てっきり運営さんが作ってると思ってたよ」
「シュ~、ぜ~んぶ鬼六チームのオーダーメイドっシュ~!」
ニコニコ顔で念話も送ってくる。
(ランペルしゃん。そういえば、ふろしきの包み方とか、ナワ結びとかって、あわっこのオニャノコに教えたげたら大好評だったっシュよ?)
(ほむ、先生も随分あわっこ紳士になってきたでプね)
(いや~、パイセンには負けるっシュ)
(そ、そうかにゃ? えへへ……)
頭をカキカキしながら念話を切った。
「ありがとう、鬼六先生」
「どういたしましてっシュ」
その後、エキジビションマッチとして、巨大な赤竜が出てきた。ドシン、ドシンと歩いてくるその巨体に、マホロバ初体験の人はお口をあんぐり。
あ、竜もお口開けたネ。
シュゴォー!
英雄に向かって炎を吐いてきたので、堂々と食らい続けた。そして「死亡」。
んでもって、すぐ隣にあった冒険者ギルドの館で復活したのち、もう一度外へ。今度は軽~く槍で倒す。
ドズウゥゥン……。
「おぉっ! スゲェー!」
「キャーッ、葦原さ~ん! こっち向いて~!」
観客の声援にこたえるように手を振った葦原は、一礼して【終了】したのだった。
「これで、ボクの式典参加はオシマイ、っと」
今度はネズミきゅんで~す。
――あ、じゃないや。ヤバいヤバい、まだお仕事残ってたでチュ~。
な~んか、英雄の仕事を終えて【終了】したら、今度は「あわっこ」ってルーティンだったからネ。どーもシックリこないでプ。
ヘッドギアを外すことなく、今度は「マホロバ・リアル」の方を【開始】する。
うみゅ、ボクは英雄でチュ。集中、集中。
「ケケッ。英雄様の凱旋だぜ」
冒険者ギルドの前で、馬人のゲハラーヅが出迎えてくれた。
「どうだった、葦原?」
「ああ、無事に死んできたよ」
「へぇーい、ご苦労様。――や~れやれ、安全性を訴えるために英雄を殺すとか、運営は鬼畜だよなー」
「ははは」
運営チームが、何百回も死んで確かめたという。
しかし、葦原が1度死んだほうが、話題になりやすいということで、デモンストレーションを頼まれたのである。
「おい、葦原。言っとくが、こっちはマジで脳死するからな。間違えないでくれよ?」
「大丈夫だよ、ゲハラーヅ。リアルさの度合いが違うからね」
「ほぉー、そんなに違うのか」
「入った瞬間に分かるよ」
おそらく、マホロバ・ライトが世界初のVRMMOであれば、一大センセーションを巻き起こしただろう。
しかし、それより遙かに格上のマホロバ・リアルが、すでに存在するのだ。
こちらと比べたら、ライトの方は、五感への刺激が明らかにダウンしていた。
一緒にライトに行っていたらしい冒険者たちも、続々と【開始】してくる。
「随分とチャチだったなあ」
「ああ、子供だましだったぜ」
「あわっこが出来ればそっちでもいいやと思ったんだが、あれじゃダメだ。爽快感がねえ」
ほむ、あわっこ紳士たちと同じ意見でチュ。一度こっちに慣れたら、ライトで済まそうって気にはならないでチュね。――って、集中が切れちったでチュ。
ゲハラーヅが牛人の肩を叩いた。
「ケケッ、あわっこは真剣勝負だもんな。死なずにやるとか、ムリだっつーの」
「ホントだな~。紳士はリアル御用達だぜ」
うにゅ~、お話に参加したい~!
んでも、英雄のイメージも守りたい~!
鬼六きゅんもパールたんも、今日はコッチにいないから、ナイショ話も出来にゃいし……あうぅ、王様の耳はロバの耳~!
「ん? 葦原、どうした?」
あ、やばっ。アヤしい動きがバレたでプ!
んでも、勝手に向こうが焦りだしたでチュね。
「す、すまねえ、葦原……。お前、あわっこ系のネタ、嫌いだったな」
「え?」
「ああー、いい。皆まで言うな」
ゲハラーヅは手で制した。
「申し訳ない。マジメな英雄に、紳士ネタは御法度だったぜ」
牛人もうなずく。
「そうだぜ、ゲハラーヅ? とくにお前、女性陣が最近キビしいからな。英雄様にこういうネタを振ったとかバレてみろ。猛バッシングだぞ?」
「うお、コエー」
おにゃのこが誰もいないと、す~ぐあわっこネタに走るオノコノコたちなのでチた。
あう~、話に混ざりたいけど、英雄のイメージを守るため! ガマンでチュ~!
そして……ざまぁ団を倒し終わったら、スグあわっこに行くでチュ。んみゅ!
ざまぁ団・第89支部は10人ほどいた。
んでも、スグに縛り上げた。
「よし、みんな。片付いたね」
「つくづくバケモンだな、葦原……」
えー、そりゃ直接攻撃したのはボクだけど、みんなのサポートのおかげだし。
あとは……そう。早く退治して、あわっこしたいから。
あわっこ、したいから!
ゲハラーヅが、手近な縛り上げた敵を踏んづけた。
「よし、それじゃあ【門】で運ぶか」
毎度のように続けてきた作業を、今日もすませて一件落着。
その、ハズだった。
ブチィ!
「なっ!?」
縛ったハズのナワが切れた。
それも、敵全員の。
「なにぃ!?」
驚いたゲハラーヅに、熊人の槍が深々と刺さる。
「ぐあぁ!」
派手に倒れ込むゲハラーヅ。それと対照的に、熊人はゆっくりと立ち上がる。
「ハッハ~、ざまぁ~!」
熊は雄叫びを上げた。
「よぉ、英雄! ナワじゃ俺達は縛れねえ! マホロバ・ライトの初日ィ!? 浮かれてンじゃねえぞ! テメーの伝説は最終日だぁっ!」
敵が勢いづくが、ちょっと待ってほしい。
もう、あわっこモードに入っていたんだ。
うきうきルンルンだったんだ。
魂は、怒っている。
あわっこ紳士の怒りを思い知れ~! プンスコ!!
ゲハラーヅと熊との間にすぐさま割って入り、熊の手足を切りつけた。行動不能にしたのち、素早く次の敵へ。そしてまた行動不能にしたら、次。
そうやって、槍の連続攻撃を絶え間なく行い、敵全員を瀕死の状態まで追い込んだ。
「え、英雄がブチ切れた……」
ちなみに、頭は意外と冷静で、他の冒険者の声もバッチリ聞こえてる。
「マジメな奴ほど、切れるとコワいな……」
「バカ、お前ら。拘束ぐらい手伝おうぜ」
【終了】させぬよう、冒険者たちは自身が組付いてナワの代わりとなる。最初期は、こうやって拘束していたから、元に戻ったといえよう。
――仕上げでチュ。
ゲハラーヅを突いた熊のノド元に、槍をピッタリとつける。
「ナワで縛られていた方が楽だったな」
「ウ、ウソだろ……!?」
「次にオカしな真似をしたら、僕も容赦しない。拘束出来ないからね」
「は、はいぃ~!」
敵は、涙を流しながら、小刻みにうなずいた。
冒険者ギルドへ帰るも、ナワで縛れない以上、ずっと組み付いておくしかない。生かさず殺さずを丁寧に調節しながら、なんとか敵全員のヒモづけを完了し、データ調査と永久追放の処分を終える頃には、2時間以上が経過していた。
うぎゅぎゅ~……。初めての事態に、みんな不安がってたから、ボクが残るのは当然でプ。時間を掛けることで、みんな安全に対処が出来たでプ。圧倒的に正しいでプ。
んでも……! ボクは、あわっこがしたかったんでプ……!
アンポンタンな敵たちは、さっきあんだけコワがってたのに、まーた調子に乗ってた。
「英雄サマは、がんじがらめに縛られて大変だな」
「その点、俺たちゃ自由だぜ」
えーい、ウルサイでチュ!
そして、よーやく念願のあわっこターイム!
「お嬢タマと、ワンコたんニャンコたんのトリプルで!」
クロエたんへの挨拶もそこそこに、さっそくお部屋に案内してもらう。
少しして、悪役令嬢たんたちが入ってきた。
「オーホホホ! わたくし、今日は武器ありで挑みますわよ~!」
「ほほぉ、望むトコロでチュ!」
今日のあわっこは燃えるでチュよ!
んでも、お嬢タマが取り出したナワを見て、ほほがヒクッとひきつった。
「ね、ねえ、お嬢タマ? それ、な~に?」
「もちろんナワですわ~! わたくし、とある方から教わりましてよ~!」
まさか……鬼六きゅん!?
すかさずワンコたんとニャンコたんがボクを押さえる。
「ネズミ様! ハンデをもらうワン!」
「だニャ!」
「う……うわ~ん!」
もう、ナワはこりごりでチュー!
◇
◇
◇
んでも……クセになりそーだったでチュ。うみゅ。




