その12 鬼の目にも涙
「葦原しゃ~ん!」
ざまぁ団の討伐に行く前、子鬼きゅんに泣き付かれた。
「お、鬼六は……彼女と別れたっシュ……」
「それは、ご愁傷様だったね」
ヒック、ヒックと涙を流す黒鬼きゅん。ありゃりゃ、岩の先生が玉砕でちゅ。
パールたんが、ナイショ話をしてくれた。
(鬼六さんは、この姿を包み隠さず告げたんですって。そしたら、ドン引きされたみたいで)
(うわあ)
はにゃ~! 魂をさらけだして拒否されるとか、ボクにも大ダメージでチュ~!
やっぱり、心はヒミツにすべきでプね、チョホホ。
もみじたんが、頭の角をヨシヨシしてあげてた。
「きっとまた、いい人が見つかりますよ」
「もみじしゃんは優しいっシュね……ハッ! もしや、『いい人』って君のことっシュか!? つまり、遠回しのプロポーズ……!?」
「うふふ。ないです」
バッサリでプね、もみじたん。あ、パールたんも、そんなに大笑いしちゃダメでプよ? オノコノコは繊細なんでチュから。――ボクもね!
その後、ざまぁ団・第35支部を退治するときも、鬼六先生は深い哀しみを背負っていたでプ。
(ダイスが泣いているっシュ)
【三連撃】をくっつけて、ダイス3つを出せるようにした先生は、もみじたんにおねだりしてた。
(もみじお姉しゃん。鬼六に【祝福】するっシュ)
(えっ? それはいいですけど、結婚が出来なくなったのに、祝福とか……)
(呪文の【祝福】ぅうう! いいから撃ってぇええ!?)
キャラが壊れるほどの哀しみだったでチュ。
先生は、【パラメデス】を使ってダイス3つをコロコロ振りまくり、【祝福】の効果によって次々と6・6・6を出していったのでチた。――う~みゅ、これだけ万全にやれるなら、今回は先生だけで良かったでチュね。
ボクは、鬼六きゅんと拳をコツンと合わせた。
「頼もしかったよ、鬼六先生」
「ありがとうっシュ……」
天使のパールたんが、先生のアフロをポフポフしてあげてた。
「スゴかったですよ、鬼六さん! これにホレる女の子は、星の数ほどいますって!」
「しゅ~……星は届かないっシュ……。鬼六は、路傍の石になるっシュ……」
あうあう、本気の想いから立ち直るのは大変でプね。
――あ、もみじたんが動いた。
「鬼六さん。気分転換で発散されては如何です? 今まで行かなかった場所とか」
「――そうっシュね!」
おっ。復活でプ。
「もみじしゃん、ありがとうっシュ! 鬼六は、おにゃのこの店で気分転換するっシュよ~!」
先生は、シュタタ~っと去っていった。うんうん、先生らしさを取り戻せて、良かったでチュ。
――あれ? でも待って? おにゃのこの店って言ったら、「あわっこ」もそうでプよ?
ま、まさかねぇ~。あはは……。
「君がランペルしゃんっシュか!」
すぐに待合室で出会った。うぐぅ。
わざわざ30分も時間をおいたのに~!
「えっと、鬼六きゅんは、ココって初めて?」
「実は、2戦目っシュ! ついさっき、1戦済ませたっシュ!」
「あ、そ~にゃんだ……」
ちょうど再戦のタイミングだったみたい。げふー。
「シュシュ~。色んなお姉しゃんがいるって、受付のダークエルフしゃんが教えてくれたっシュ! スゴく丁寧だったし、こりゃ~繁盛するハズっシュ!」
「にゃはは……」
ショタに優しいクロエたんだもんネ。お目々パッチリの黒鬼きゅんなんか、お持ち帰り対象でプ。
「ランペルしゃん。ここって、お姉しゃんと2人いっぺんに戦える『ダブルス』もありなんでシュね」
「近々、『トリプル』も解禁するっぽいでチュよ」
「シュ? 詳しく」
おおう、さすが紳士。食いつきがスゴイでチュ。
「んっとネ? 今は常連さんに、お試しでやってもらってるみたいでチュ。へたっぴなオニャノコでも相手として選べるし、ボクも立体的プレイが出来て、大興奮してるでチュ」
そーにゃの。
なんと、よっしーたんの「ごほーび」って、コレの無料モニターだったの!
そりゃ~、来ちゃうよね? 来ちゃったです! あわっこ紳士だモン!
ここのオニャノコと、3人いっぺんに対戦出来ちゃうんだよ? 紳士はたくさんの新人さんと対決できるし、オニャノコのほうは選ばれる率が上がるし、イイコトづくめ!
「鬼六きゅんも、ゼッタイ気に入るでプよ」
「シュ~……小柄なネズミしゃんだと思ってたのに、オニャノコ3人を同時にとか、タフっシュね。先輩と呼ばせてもらうっシュ」
「はにゃ?」
深々と頭を下げられた。えぇ~。
「お……鬼六きゅんのほうが年上だと思うから、頭あげて~?」
「いやいや、ここではランペルしゃんが先輩っシュ。パイセンとして拝むっシュ」
手まで合わせてもらった。ほぇ~、先生からは、ボクこそ色々学んでるのに~。
うっ、そだそだ。先生ってば、スゴく注意深いし、ボロが出ないようにしないと。
そのとき、建物がハデに揺れた。
「ほえ、地震?」
「ランペル先輩。マホロバだと呪文だけっシュよ」
あ、そだねー。現実感がありすぎてつい忘れちゃう。それに、【地震】だとダメージ入るもんネ。
鬼六きゅんの目つきが、ギュンと鋭くなった。
「シュ~……これは、爆発魔法をぶつけた感じっシュ!」
先生が外に駆けだしてった。ボクもすぐに後を追う。
「クロエたん! 人を呼んで!」
「はい!」
ショタ2人のお話しとか、絶対見てたよね、うみゅ。そーゆー信頼はバッチリでプ。
建物は今もグラグラ揺れてる。先生の言うように、【爆発】とか【灼熱地獄】みたいな大呪文を何発もブツけてるんだネ。
つまり……何人もいるってコト!
表に出ると、先生の後ろ姿の向こうに、大勢の相手が見えた。
「鬼六が相手するっシュ!」
褐色の手からダイス3つを転がした。これでいつもは、1人を転がすのがオヤクソクね。
んでも、今の出目は1・1・1。
「シュ!?」
「へへっ、ざまぁ! 【パンドラ】様々だぜ!」
む? サイコロ封じの【パンドラ】!
確率系呪文の結果を最低にするフィールドだネ。【呪い】や【麻痺】なんかも封じちゃう。
「うひゃひゃ……! 【祝福】があっても1で固定だな、鬼六ちゃ~ん!」
「シュ~……」
先生が怯んだ途端、10人がかりで冷やかしてきた。
「最近フラれたんだよな~!」
「あ~、不幸のどん底じゃ~ん!」
「運が悪ぃ~!」
「【パンドラ】がなくても、1だけだったかもな~!」
先生はプルプル震えながらも、岩に変身した。
(ランペルしゃん……鬼六を、サポートしてほしいっシュ……)
(うみゅ! ボクも腕に覚えがあるでチュ! 助けるでチュよ!)
先生の心が泣いてるでプ。
一緒に戦わなきゃ……紳士の名折れでチュ!
「おいおい~! 手も足も出ないおチビちゃんに、ネズチビちゃんが仲間か~?」
「お似合いだぜ~!」
「そもそも【パラメデス】って、ターゲットに取るのが難しいんだろ~?」
「サイコロ修行も結婚も、ぜーんぶムダな努力だったな~!」
これはまた、相当なプンスコでプね。
ボクは【武具作成】で槍を出した。
すぐさま、近くにいた虎人の足を切りつける!
「なっ! このチビも強ぇぞ!」
「囲んで取り押さえろ!」
ターゲットを取らせないよう、ワザとデタラメに動く。
「クソが!」
熊人が、捨て身でボクを押さえに来たけど、問題なし。
(先輩に触るなっシュ!)
鬼六きゅん、怒りのタックル! 圧倒的なパワーで吹っ飛ばした。
「おっ、おい! みんなで付与しまくれ! それからガキどもをブッ叩くぞ!」
ふみゅ、たしかに。真っ先に呪文で固められてたら、キツかったでチュ。
でも、もはや問題なし!
(ランペルさま。お待たせしました)
あわっこの入り口から、クロエたんが護衛をいっぱい連れて出てきた。
「捕らえて下さい!」
いぇ~い、騎兵隊~。
敵は一転して逃げていった。えへへ、ざまぁ~。
どんな悪さを考えてても、正義の前にはムダになるんでチュ。ムン!
相手は半分ぐらい捕らえることが出来たでプ。
「お二人とも、ありがとうございました。あとは我々にお任せ下さい」
クロエたんと護衛さんたちが、さらに奥へと連行していった。魔王のよっし~たんと、みっちりOHANASHIでチュね、分かりまプ。
鬼六きゅんが、スッと拳を差し出してきた。無言でコツンと合わせる。
(ありがとっシュ、葦原しゃん)
(いや~……って、ブッフゥー!)
先生ェー!?
いま、「葦原」って言ったー!
ボク、それに答えちゃったー!
あわあわするボクに、鬼六きゅんが戸惑ってる。
(えっと……バレてないと思ってたっシュか?)
(ちょ、ちょっと待って……)
壁に手を当てて、スーハー深呼吸。――うみゅ、少し落ち着いた。
(先生ってば……いつ気付いたの?)
(待合室までの歩き方っシュ)
早すぎィ!
(体幹が恐ろしくシッカリしてたっシュ。あとは、足運びのクセで、99%確定っシュ)
(はにゃ~……)
さすが先生は格が違ったでプ。
(えっと……先生、バラしちゃっていいでプよ?)
(いやいや、しないっシュ。むしろ、英雄しゃんがキチンと息抜きしてるのか心配だったから、裏の顔があって安心したっシュ)
(ほえ? そうでチュか?)
(当たり前っシュ。マホロバで冒険者をやるには、並々ならぬ決意が必要っシュからね)
(あっ……)
そうだったでプ。恋人さんとサヨナラした原因でプ。
(先生は……アバターを見せて幻滅されたんでチたね)
(ん? それは誤解っシュ)
鬼六きゅんは、手をプイプイした。
(彼女は、受け止めてくれたっシュ。だけど、そんな危険な所へは、もう行かないでほしいって頼まれたっシュ)
はにゃ……あぅあぅ。
ボクは浅はかだったでプ。
(とても悩んだっシュ……。でも、助ける力があるのに、見て見ぬフリをするのは……出来なかったっシュ)
鬼六きゅんは白い歯を見せた。
(ずっとワガママを聞いてくれた彼女は……鬼六には、過ぎた人だったっシュ)
(先生……!)
鬼六きゅんの瞳に涙がにじむ。
思わずボクは、ひしっと抱きしめた。
(鬼六きゅん……)
(ランペル先輩……)
弱々しく笑う先生。
(えっと、抱かれるなら、オニャノコがいいッシュ……)
たはは……。
このあと2人とも、あわっこをプレイして大満足したのでチュた。




