その10 オチたお嬢タマ
ボクと幼女たんのいた支配人室に、2組のオニャノコたちがやってきた。
1組目は、鮎たんとモーモーたんネ。
「モモさん……。私は、良かれと思って……」
「えぇ、えぇ。大丈夫よ、鮎ちゃん」
あやや。姫騎士たんってば、すっかりショゲてる。
もう1組は、悪役令嬢たんと理子ピンだった。
「理子さん……。だって、全部バレちゃったら、アタシの評判が……」
「アラ。『地に落ちた』とか言っちゃうワケ? 落ち着かせるのは心よ、アーちゃん。悪く考えすぎ」
うわ~お。さすがは吸血鬼のオネータマ。悪役令嬢たんも、タダの小娘でチュ。
よっしープロデューサーが、ほっぺをポリポリしてた。
「ワシも、つい、動画が面白くってノォ。鮎とアークヤの掛け合いを増やしたノジャが……、心労も増えとったノジャな」
しばらくして、2人とも落ち着いたみたい。
「アーちゃん。さっきは、ゴメンナサイ」
「ワタクシの方も……ううん、アタシこそ、ゴメン」
お嬢タマってば、カンゼンに演技をやめちゃったでプ。
「えっとね、鮎さん? こないだも言ったけど。アタシが演技するときは、少~しだけ、怖がるオヤクソクをお願いしたいかな~って」
「はい」
2人は抱き合った。んみゅ、良かったでチュ。
よっしーたんも頭を下げた。
「ワシも、演技にはチト入れ込んでしまうでノオ。何か問題があったら、受付でもワシでも、ドシドシ言ってほしいノジャ。ホレ、カワイイ幼女なら、コワくないじゃろ?」
「ブッブ~。よっしーたんは、魔王のオーラが出てるでチュ」
「にゃにを~、にゃにを~」
ちょっぴり笑いが起きたケド、オニャノコたちにとっては上司でプもんネ。鮎たんみたいなタイプの子ほど、言いづらかったと思うでプ。
お嬢タマが手を挙げた。
「ところで、ネズミさん? アナタが、ナゼこちらに?」
「あっ、私が呼んだんですよ、アーちゃん」
鮎たんの耳ヒレがピチピチしてた。
「打ち明けるとき、ランちゃんに相談したんです。それで、覚悟を決められて」
「そ~う。良かったわね~」
お嬢タマ、ニコニコ顔でボクと握手。
その直後。
(ア・ナ・タ・か~!)
「ぶにゃっ!?」
はぅ~、子ブタちゃんにニラまれたでチュ~!
鮎たんが、あわてて止めに入った。
「アーちゃん。ランちゃんにお願いしたのは私なの。ゴメンなさい」
「ん~ん、鮎たんにそそのかしたのはボクでチュ。コッチこそ、ゴメンでチュ」
2人で頭を下げあった。ペコペコ。
やりとりを見てたお嬢タマは、大きくため息をつく。
「まぁ、ワタクシも大人げなかったですわ。下等なネズミ相手に怒るなどね」
「てひひ……」
「品性が違いますもの、英雄サマとは」
げふーっ!
ハデにガクッときた。
「にゃ、にゃんでイキナリ、英雄の話にゃの……?」
「ア~ラ。トップと底辺を比べたダケですわよ?」
お嬢タマは扇子を広げた。
「並みいる敵を、次々なぎ倒し! 数多の人々を救いしマホロバの英雄! その名も、葦原英サマですわ~!」
「へ、へぇ~……」
「おそるべきは、その身体能力! 力強くも知的な猿のアバターということもあり、『孫悟空の生まれ変わりでは!?』ともウワサされてますわ~!」
う……うわ~ん! シッポがムズムズすリュ~!!
「まあ、アナタとは大違いですわね! オーホホホッ……!」
お嬢タマったら、ボクを落とすために、英雄の評価を上げちゃうの。ヨーシャなく!
みんなを見ると、よっしー魔王に理子ピン、それにモーモーたんまで、スッゴく楽しそ~に笑ってる。
「実はワタクシ、ホレておりますの。温かくも節度を保った心づかい! 浮いたウワサひとつない様が、かえって惹きつけられますわ~!」
きゃあ~! やーめーてー!
ボクが大弱りなせいか、お嬢タマは、ますます上機嫌!
「フフン! 低級なネズミでは、知らないのもムリないですわね。ですけど、それダケではなくってよ?」
えっ? ボクの精神力、もうガケっぷちなんだけど。
「なにを隠そう! ワタクシ、英雄サマから剣の手ほどきを受けていますのよ~!」
ブッフー!
初耳だケドー!?
「あぁ~、葦原さま! ワタクシの憧れの人! いつまでも、お慕いしておりますわ~!」
あ、あばばばば。
ギブ、アーーップ……!
幼女たんの両肩にすがった。
「よっしーたん……。もう、降参していいでチュか……?」
「おヌシは良くやった。後処理は任せておれ、プクク」
笑ってるでチュよ、魔王たん。んでも、あぃがと。
子ブタちゃんに、ヘロヘロと近寄った。
「んねぇ、お嬢タマ? それ、ボクなの」
「え?」
「だから、ボクが英雄にゃの」
キョトンとしてたけど、すぐに大笑いした。うん、だよねー。
んでも、意外なトコから助け船が。
「ランちゃんのこと、私は本当だと思う」
鮎たんは信じてくれた。うわお。
「なんとなく、強いとは思ってたけど。英雄様だったなんてね」
「あぃがとでプ」
アークヤお嬢タマは、鮎たんが信じるってゆーんで、ちょっと不安になったみたい。よっしーたんや理子ピンから、念話で聞いてる。
「えぇっ……!? ウ、ウソですわ!」
みるみる顔が青ざめてった。出荷前の子ブタちゃんみたいでチュ。
「ネ、ネズミさん!? アァァアア、アナタ、そんな大ウソで鮎さん達をオトしたのね!? ア、アタクシはオチなくってよ!」
「ふみゅ。なら、どーすれば信じるでチュか?」
「戦いなさい! 決闘よ!」
「いいよー」
ボクも、こんなハズカシー思いはハジメテでチュ。受けて立つでチュよ!
「おヌシら、面白いノオ」
よっしーたんが手を2回叩いた。
「ならば、闘技場に行くノジャ」
ほえ?
地下の闘技場は、武道館ぐらい広かったでチュ。
(んで、サッきゅん?)
悪魔たんをジト目で見る。
(なんでキミがいるんでチュか?)
(あははっ! そりゃ~もう、黒エルフさんに頼まれたからよ! 英雄様をヨロシクってね!)
(キミもジューブン黒いでプ)
(い~え~。まだまだ青いわよ~)
(カラダの色はね)
戦う以上は、サポートを万全にっていうのも分かるでチュ。
んでも、腹黒エルフたんは、ゼッタイ面白いから付けたでチュ。ぷぇー。
当のエルフたんは、会場から消えた主役たちのあとを引き継いで、「ナイショでお願いします」って口止めしてた。あれで仕事は出来るんでチュよね~。
ボクとお嬢タマは、フィールドの中央で向かい合った。
よっしー審判が、ボクら2人に目をやる。
「では、ルールを決めるかノォ。命のやりとりはダメじゃが、せっかくのゲーム世界じゃ。一発だけで勝ち負けを決めるのも、ヘンな話じゃろ?」
「でプね」
「そこで、どうジャ? 10点のダメージを先に与えた方が勝ち、というのは」
ライフは64点。それの4分の1よりも少ない点数でチュから、安全には配慮してるでチュね。
「ボクは、OKでチュ」
「アタクシも、良くってよ」
「では……始めるノジャ!」
すぐにお嬢タマが、レイピアを振るってきた。槍で止めてもよかったけど、試しに指を組んでみる。
「お嬢タマ、やめて~? うりゅうりゅ」
「うっ!? クッ……!」
およ、意外に効果あり。
「ちょ……ちょっと、ネズミさん? カ、カワイイ姿でアタクシにお願いとか、おやめなさい!」
「あ~、やっぱイイ人なんだね、アーちゃん♪」
「アダ名で呼ばないで!」
ツンツン突かれちった。武器はどれでも、1回ヒットすれば1点だから、これで2点ね。
「サァ、楽にして差し上げますわ!」
なおも突きにくるけど、もう見切ったからネ。【武具作成】で槍を出して、カキーンとクリティカルで止める。
「えっ!?」
そのままレイピアを狙って、弾き飛ばした。
「ま、まだまだ!」
お嬢タマの指先が茶色く光る。ギューンと浮き上がったから、【飛行】でチュね。
「ときに、ネズミさん。アナタ、飛ぶ魔法はありまして?」
「今日は持ってないでチュね」
「ならば、ワタクシの勝ちですわ!」
お嬢タマの指先が、もういっぺん茶色く光った。弾けた途端、地下なのに風が巻き起こる。
「アタクシの得意呪文、【つむじ風】ですわ~!」
ブワ~ッと風に巻かれて、2点のダメージをくらった。
「オーホホホッ! アナタはダメージを受けますが、ワタクシは風のイノシシ! これで回復するのですわ!」
あー、うん。そだねー。
お嬢タマの種族って、〈ブラストボア〉が正式な名前なの。魔法の効果範囲って、大体が半径10mだけど、今のはちょっぴり広かった。拡大したんだね。
「ボクも、【治癒】は持ってるよ? 早めに回復……と」
「あー。待て、おヌシ」
よっしーたんが呼び止めた。
「この試合では、【治癒】禁止な」
「後出しルールずるい! よっしーたん、キライ!」
「勝ったらゴホービじゃ♪」
「よっしーたん、だいしゅき」
ほむ、紳士ぱうわーを出すでチュ。むらむらと。
んーっと、さっき2点くらったから、今4点。【つむじ風】がデッキに4枚入ってるとして、全部くらうとキッカリ10点でチュね。
「オーッホホホ! 気付いたようね、ネズミさん!」
1秒ごとに風のダメージをくらう。
「その槍では届きませんわよ!?」
「でチュねー」
手をうしろにして、コッソリと白魔法を準備……ん、OK。
「ほい、【魔法霧散】」
「え」
「対象は【飛行】ね」
「いや~~~!」
15mの高さから落ちて、15点ダメージ。ほむ、またツマラヌものを落としてしまったでチュ。
「よっしーたん、ゴホービちょーだい」
「おヌシ、凶悪じゃノォ……。凶悪ネズミ取りと呼んでやる」
お嬢タマは、えぐえぐ泣いちゃった。
「ほ、本当に英雄様じゃないのよ、バカァ~! あ~ん、もうヤダ~!」
ミョ~にカワイく見えちったでチュ。
その後の動画は、人魚たんがナイトっぽくなってた。悪役令嬢たんが他のオニャノコに絡むと、サッと現れる感じネ。
『ア~ラ、人魚姫さん? 陸に上がったアナタが、アタクシの剣技に勝てまして?』
『ご心配なく。豚骨ラーメンとか好きですから』
『アタクシはイノシシよ!』
お~、絶好調でチュ。
その後のレイピアさばきも、明らかにお嬢タマより上手いし。本当に姫騎士さまでチュね。
動画も高評価みたいで、めでたしめでたしでチュ♪




