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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第8日 8月10日
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第91話 作戦

「ね、姉さん、この人たち犯罪者ですよ!」佐久君は言った「大逆人じゃないですか!」

 しかし小泉さんはこともなげに答えた。

「知っているのですよ、彼らの動機も目的も」

「じゃ、じゃあいったいどうして。このままじゃあ僕たちも犯罪者だ!」

「さっくん、ジャーナリストというのはですよ、時には法に反してでも、真実を追い求めるものなのです。それが民衆の欲するものであるならなおさらなのです。そのためには反社会的な行為にも手を染めることがあるのです」

「だからマスゴミと呼ばれるんだよ!」彼は言った「もうこれ以上は協力しないから!」

「いえ、もう必要な情報はつかみました。これ以上あなたを巻き込みつもりはないので」みどりさんは言った。

「さて、そういうことなら祝杯なのです。待ってください、いいお酒があったはずなのです」

「いや、それより先に作戦を立てた方が……」私が言うと、みどりさんが遮った。

「すでに作戦は立てています」

「早っ」

「ええ、ですが一つだけ準備するものがあります。小泉さん、壊してもいい車はあったりしますか?」

 いや待てそんなものあるわけないだろう。そう思っていると小泉さんは少し考えたうえで答えたのだ。

「ええと、ふだん小生が使っている社用車ならいいのです、壊れても私のものではないので懐は痛くもかゆくもないのです。適当に盗まれたことにでもするのです」

「ありがとうございます」

 あっさりと小泉さんは返したが、しかしみどりさんも小泉さんもまったくもってド外道な発言に他ならない。他人のものだからと言って壊すのはいかがなものか。というか車を壊すことが前提の作戦とはなんだ。

「ところで、その車を使うということなんだけど、運転手がいるのでは……」

 私は恐る恐る尋ねた。するとみどりさんはこちらを向く。

「あなたの数少ない出番なのでは?」

「いやいやいや無理!」私は反論する「車が壊れるようなのってなんだか知らないけれど、そんなことをしたら怪我をしてしまうでしょ!」

「はぁ、そうですか。使えませんね」みどりさんはため息をついて言った。そこはかとなくイラっとした。

「ではあの子たちに頼むとしましょう」

「あの子たち?」

「ええ、あの二人なら運転くらいできるのではないですか」

 ああ、と私も納得した。二人ならまあなんとかできるだろう。

そしてみどりさんは私に口頭で作戦を説明し始めた。メモを作ってはあとで誰かに見つかっては困るというわけである。作戦内容は、なるほどなるほど、と思ったのも束の間、かなり無理のある襲撃作戦が出来上がっていた。

「いや、これはちょっと……」私は言った「逃げ出すことはできるんですか」

「そこは頑張るしかありません。いざとなれば摩利支天の呪法を授けます」

 そしてみどりさんは小泉さんに向き直った。

「これが作戦のすべてです。お判りいただけましたか?」

「いや、わかったような、わからないような、なのです。まあともかく、作戦が出来上がったのはいいことなのであります。祝杯をあげるのです」

 そう言うと小泉さんは台所へと消えていった。

 残された私たち二人を、佐久君は見つめていた。

「どうしたんですか、こっち見て」みどりさんは尋ねた。

「いや、どうしたもこうしたも、逃げたりしないのかなと思ったんです」彼は不思議そうに言った「いまの話を聞いた僕が警察に連絡するかもしれないのに」

「でもあなたはそんなことしないでしょう」みどりさんは答えた。

「なぜそう言える?」

「もし警察に連絡すれば、私たちをかくまったお姉さんも罪に問われる。そんなことは嫌なのでは? それに宮内省のサーバーをクラッキングしたのはあなたですし、自分から名乗り出るはずはないのです」

「そんなの、脅されたと言えば何とでも」

「我々が捕まれば協力したという事実はばらされるんですよ?」

「くっ」

 彼はそう呟いて押し黙った。

 そのとき小泉さんがコップをかかえてもどってきた。すでにコップには液体が注がれている。

「さあ、特製カクテルになるのです」

 そう言って我々の前にコップを置く。中身は透明な液体だ。

「さあ、かんぱーい、なのであります」

 そう言って小泉さんはコップの中身を飲み干した。私もならって口を付けた。確かに飲みやすい口当たりであり、ほのかに柑橘系の風味がある気がする。だがそのなかに、得体のしれない味が混ざっているのである。

 そして同時に直感した。これはアルコール度数が高い。

「あの、これはいったい何ですか」私は尋ねた。

「白酒のストロング○○割です」彼女は言った。「白酒が苦手なようなので、飲みやすくしたのであります」

「いや劇物だろそれ! みどりさんは白酒を飲むとよくないことが……」

「よくないこと?」

 そう言ったがもう遅かった。すでに彼女はコップを開けてしまっていたのだ。

 すでにここに来る前に飲んでいるわけである。そこに追い酒をした場合、彼女が酔っぱらってしまうのは一瞬のことなのである。

 すでにみどりさんは目がとろんとしてきていた。

「はじめしゃあん、このおしゃけ、おいしいでしゅねぇ」

 彼女はそう言いながら私に抱き着いてくる。さすがに人前でこれは恥ずかしい。

「いや、みどりさん、離れてください」

「やーだー、はにゃれない~」

 そう言いながら彼女は私の顔を引き寄せて唇を重ねてきた。ほとんど無理やり舌を根人混んでくる。

 いやいや人前だからそういうのは……と思いながら横を見ると小泉さんはキラキラした期待のまなざしでこちらを見ている。そして佐久君は完全にドン引きしている。

「やっぱり思った通りなのです、ラブホから出てきたのはそういうわけであったのでありますね」

「いやそれは誤解だから!」

「僕の部屋でそんなことおっぱじめるのやめてよ」佐久君は言った。

「さっくん、いい機会なのであります。アダルトビデオではなく本物を見る機会なのですよ」

「そんなの見たくない!」

「さあ、はじめしゃん、そろそろ……」

 そう言いながらみどりさんが私のズボンに手をかけようとしたとき、さすがにこれはまずいと思って渾身の力で彼女を引き離した。

 みどりさんは一瞬きょとんとすると、泣き始めた。

「うえ~ん、一人にしないでください、私は、私は……」

「女の子を泣かせるなんて悪い人なのです!」小泉さんが言う。

「いやこれは僕は悪くないでしょ!」

「さあさあ、そんなときはこれに限るのです」そう言って小泉さんはコップをみどりさんに差し出す。みどりさんはそれを一気に飲み干した。そして立ち上がろうとしたが立ち上がれず、その場に突っ伏した。

 おそるおそる近づいてみると、寝息を立てていた。

「……何を飲ませたんですか」

「白酒に決まっているのです。しかし、たった70%でこうなるとは、困ったものなのであります」

「いや70%は高いから……」

 とにもかくにも窮地は脱したわけであった。さすがにこの部屋にいては邪魔になるので、みどりさんを引きずるようにして隣の部屋に移すと、毛布を掛けた。

 わたしももはや疲れの限界が来ていた。日中歩き回って汗をかいていたがそんなことはどうでもよかった。私も彼女のそばに横たわると、すぐに眠りへと落ちたのであった。

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