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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第7日 8月9日 
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第84話 酷使

 斎部美嘉は疲れた顔で黒瀧寺の行宮より政庁に戻った。昨日に引き続いて今日も安徳天皇の魂を呼び出していた。これは憑代である主上自身にも負担となることであるが、それを呼び出す術者も心身をすり減らす作業なのである。

さらにその上、みどりさんが関東へ旅立ったことによって、結界を生成・維持するための人員が減った。他の僧侶や神官らは結界の維持をできても生成をすることは困難で、みどりさんが負担していた部分はすべて美嘉にかかっていた。即位式の朝にやってきた坂本太夫にも協力してもらってはいるものの、それでは十分とは言い難かった。その心身への負担は、丹生谷随一の霊力を有する彼女をもってしても、堪えがたいものだった。

「ほんまに人使いが荒いわ」

 彼女はそう呟きながら休憩室代わりにしている政庁の第2会議室のドアを開けた。中には青柳茅野や本田外記、それから千歌がいた。

「あら、神祇伯さん」茅野さんが気づいていった「どうしたんですか、だいぶお疲れの様子で……」

「あの近衛大将のせいや」美嘉は言った「薫はんはほんま無茶ばっかりいいよる。ウチが倒れたらどうするつもりなんや」

「それはそれは」

「そっちはどうなんや、宣伝作業はうまく行っとるんか?」

「それはもう!」茅野さんはそう言ってタブレットを見せた「こういった動画の再生数が伸びています」

 それは例のアニメーションに千歌が声を当てた動画であった。可愛らしいキャラクター「主上たん」が動き回りながら丹生谷王朝の正当性を訴えている。そして「東京政府を、ぶっこわす!」と締めくくるのである。

「これはこれは」美嘉は感心したように言った「昔の音声読み上げソフトと文字だけの動画とは大違いやな」

「ええ、動画は本田外記が、声は千歌さんがあててくれています、二人のおかげです」

「頑張った甲斐がありました」

「陛下のお役に立てているようで光栄ですわ」

「ついでに霊能者リクルートの広告も打ちましょうか?」茅野さんは言った「お疲れのようなので頭数を増やしたほうが。私も原稿を落としそうなときはアシスタントをお願いしてましたし」

それに本田外記が付け加えた「そうですよ、四国にはたくさん霊能者がいますよ。すぐれた教祖・宗祖も多く排出しています。空海、一遍上人、そして例のイタコみたいな……」

「それ以上言わんでいい」美嘉は本田外記の言葉を遮った「どっちみち集まらんと思うで」

「それはどうして――」

「目ぼしい霊能者やら呪術に長けた人らはあらかた文化庁と内務省がリクルートしてもうたらしい。小野寺はんの師匠とかいう香港人も文化庁に雇われたらしいわ」

「向こうもそれだけ必死ということですわ」千歌が言った「しかしこちらには正義があります。正義の前に彼らはひれ伏すのですわ!」

「主上たんのキャラが乗り移ったみたいで可愛い~」茅野さんが言った。

「そんな過激な口調でも話させとるんか、あれに」

「そうですよ、そのほうがウケがいいですからね」

「まあそっちはそっちで頑張っておくれやす、ウチはウチでなんとかしてみるわ。まあ広告は出すだけ出しといてくれなはれ」

「わかりました」

 さて、ここで休憩しようと思ったがここではゆっくりできそうにはないわけである。そう思った美嘉はどこかの神社の社務所でも借りようかと思った。十二権現がいいだろうか、それとも別の神社、自身の祖神を祀る大麻神社の分祠か……

 そんな事を考えつつ部屋を出たときであった。後ろから追いかけてくる足音があった。

 振り返るとそこにいたのは千歌であった。

「斎部さん」千歌は言った。

「なんや、そっちからウチに話しかけるんは珍しいな」美嘉は若干驚くように言った「なんや?」

「お兄様は、どうなりました」千歌は尋ねた「あなたなどに聞くのは大変心外ですが、しかし貴女ならご存知かと思いまして」

「ああ、二人か」美嘉は答えた「二人やったら無事関東に着いたみたいや」

「よかった」千歌は胸をなでおろすように言った。そして一呼吸置いて続けた「しかし驚きました、お兄様が貴女を信頼していたとは、全くの予想外ですわ」

「なんのことや」

「家宝にも等しい家系図を貴女などに預けていたのです。到底許されるべきことではないと思いますわ」

「まあそのおかげで色々分かったけどな」

「そうです、驚きましたわ。まさか私の中にまで、高貴な血が流れているとは知りませんでした」

「見直したか?」

「まさか、しかし感心はしました。しかしよくもまあ都合良くも宮内省病院の知り合いなどいたものですわ」

「それやったらツテがあったからな。昔、宮内省病院に務めとったとかいう人がおったからな……」

 そういった時、美嘉の携帯が鳴った。それは薫御前からだった。

「やれやれ、詳しい話はまた今度や。また呼び出しや」

 そう言うと美嘉は政庁を後にした。千歌は、そのブラックな酷使ぶりに流石に哀れみを感じつつ、会議室に戻っていった。

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