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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第7日 8月9日 
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第80話 東京

 目が覚めたときにはすでに夕方だった。

 みどりさんは先に起きて服を着ていた。ちょうどギターケースに金剛杖を収納しているところであった。

「おはようございます。もうすぐ出かけます」みどりさんは言った。

 彼女は変装と称して髪の毛を金色に染めていた。そして黄色いレンズの色眼鏡を掛けている。こうすればギタリストかミュージシャンっぽく見えてギターを持っていても怪しくないだろうと彼女は言うのであるが、しかし清楚系のブラウスにはその格好はやや不釣り合いである気もした。その髪とメガネならもとのアヘ顔Tシャツでもサブカル系バンギャとしても通るかもしれない。まあともかく、花の都東京に住んでいたことがあるという彼女の感を信じるしかない。

「出かけると言いましたが」私も身じたくしながら尋ねた「場所はわかるんですか」

「さっき千秋さんに聞きました」

 そう言うと彼女はソファーの方を指差した。ソファーの上では千秋さんが横になりイビキをかいている。今日は休日で昼から酒を飲んでいたらしく、ビールやらストロング○○の空き缶が転がっていた。

「千秋さん」

 みどりさんが彼女を揺り動かす。彼女は眠たそうにあくびをして目を開けた。

「あ、おはよう、いや、おそようか。もう出かけるの?」

「はい、行ってきます。ありがとうございました」

「頑張ってきてね。あ、そうそう、雨が降ってるみたいだし、傘は持っていっていいよ。出先でビニール傘買っちゃうから、5本くらいあるはず」

 確かに言われたとおりだった。外からはしとしとと雨が降る音が聞こえる。玄関にはビニール傘が何本か転がっている。一人一本は傘がありそうだ。

 みどりさんは千秋さんの返事を聞くと、背中にギターケースを背負った。私もリュックサックを背負い、礼を言うと、マンションを後にしたのだった。


 マンションのすぐ前には内房線の駅がある。駅で23区内の某駅までの切符を買うと、来た電車に乗り込んだ。

 そして千葉駅で「こっちのほうがきっと早いです」と言いながらみどりさんは隣のホームの電車に乗り込んだ。残念ながらそれは総武本線の電車であり、結果東京駅に着いてから1キロほど乗り換えのため歩くこととなった。

「おかしいですね……この乗換えアプリではすぐ乗り換えられると書いてあるのに」

「みどりさん、本当に東京に住んでいたんですか……」

「失礼な、これでも大島に2年、そしてそれからは日野市に籍を置いていたのです。立派な東京都民です」

「そうですか……」私はそれ以上言わなかった。


 さて、東京駅で山手線に乗り換え、そこから何駅かで降りた。若者が行き交う流行の最先端の街である。たしかにここではみどりさんの格好など全く目立たない。

そして指定された店に入る。別にアンダーグラウンドな香りなどはない、通りから一本入ったところにあるしゃぶしゃぶ屋であった。予め言われていた名前を告げると、奥に通された。

通された部屋は個室であった。

「ここって、高い店ですよね。私、マナーとかわからないんですけど」みどりさんが私に耳打ちする。

「いや、僕も知らないよ」私は言った。

 みどりさんはしかし冷静であった。ポケットから人形を出すと、そっと放った。

「それは」とと問えば

「見張りの式神です」とのことであった。

 しかしおっかなびっくりなのは変わらない。びくびくしつつ待っていると、10分ほど経って、部屋のドアがノックされた。

「お連れ様がいらっしゃいました」

 女将さんの声がした。「ひゃい!」とみどりさんが答える。

 引き戸が引かれた。入ってきたのは、3名の男性――いずれも30-40代――であった。

 そのうち一人には私も見覚えがあった。私は思わず叫んだ。

「もしや、N先生ですか?」

 相手は、しーっと、言った。そして3人は、我々と向かい合うように腰を下ろしたのだ。


 会談の相手は3名。一人はN先生、すなわちN国会議員。N氏は野党議員で、右派として知られている若手議員である。私はy○utubeやT○itterでクソリプを送りまくっている関係であるが、相手は知っていてしーっと言ったのかは知らない。もちろん議員なので顔は知られていても不思議ではない。

 後の二人は顔を知らなかった。名前と所属を聞けば、一人はA氏、財務官僚だとのことだ。もうひとりはH氏、防衛省、と言っていたが言葉の端々からは自衛官だと感じられた。

 N議員は言った。

「あなた方が、丹生谷政権の特使だと聞きましたが」

「そのとおりです」みどりさんは答えた「紹介で伺いました」

「この集まりが、どういう会かご存知ですか?」

「いいえ」

「一言で言えば、維新を目指しています」

「維新、ですか」私は言った「そういう会派はありましたよね」

「いいえ、そんな生ぬるいものではありません。本当の革命を、目指す同志です」

N議員は言った。

「どういうことでしょうか」

「その前に、一杯いいですか。口を滑らかにしないとしゃべれない」

 そう言うとN議員は日本酒を煽った。

「ぷはぁ!」

 そう言って、おちょこを置いたN議員はすでに紅潮していた。

「さあて、何からお話しましょうか、おふたりとも」

 そう言って彼の両目は、私と、若干引いているみどりさんを眺めていたのであった。

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