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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第3日 8月5日
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第33話 帰還

更新が滞りまして申し訳ありません。

 ヘリコプターは再び丹生谷に着陸する――そうでなくてはいけない。二人の奇貨を携えて。

千歌はヘリの中で私を詰問し続けた。なぜ和田氏を拘束したのかと。この武装集団は何なのかと。私はその質問を無視し続けた。みどりさんがなだめようとしたが、その手を千歌ははねのける。

 ヘリが学校の校庭に着陸し、我々が降りたあとも千歌は不信な視線を送り続ける。同時に降りてきた和田氏は猿轡を噛まされ、手を後ろで縛られている。これから薫御前にムチで調教されるのだろうか、とすれば羨ましい……いや可哀想であるが。

 本田殿は彼を連れて立ち去ってしまった。みどりさんも彼に興味があるようで、あとで取り調べに加わるから連絡をよこすよう本田殿に告げていた。

 すると残るは、我が妹、水澤千歌の処遇である。

「お兄様!」千歌は叫んだ「一体どういうことですか。まさか、この勢力に加担しているのですか? この丹生谷などという逆賊に!」

「千歌、兄の話を聞いてくれ」私は言う「これは仕方ないことなんだ」

「仕方ないとはどういう意味ですか」彼女は憮然とするが、兄である私に言われては一旦引っ込めるしかない「しかしまあ、うかがいましょう」

「その前に確認しておきたい。丹生谷政府を、千歌は、どう思っているんだ?」

「天道に背く逆賊です」彼女は言った「反乱を起こすどころか、恐れ多くも天子様を僭称する。これを非道と言わずしてなんといいましょうか」

 まあなんというか、反乱軍、逆賊というのは一般的な受け止め方だろうし、東京政府もそう言っている。天皇を僭称する逆賊。そしてそれを討伐する正義の与党と自衛隊。素晴らしい構図だ。選挙にも使える。

「ですからきっと、四国に向かったお兄様も捕まってしまい、資金源のために臓器を売り飛ばされたりしてしまうのではないかと心配だったのです。それが、来てみるとなんですか、どうしてこの人らと、行動をともにしているのですか」

「それは順を追ってはなさないといけないが……」後ろから視線を感じ一瞬振り向く。みどりさんが、早く茶番を終わらせろと言ったようにこちらを睨んでいる。「要約すると、彼らは決して悪い人ではない。危害を加えたりしない。それをまず理解してほしい」

「本当にですか?」千歌は怪訝な顔をする「でも、ネットではいろいろおどろおどろしいことが書かれているのです。天皇を蔑ろにする丹生谷の連中は日本人ではない、実際は大陸から来た外患だ、捕まえた人を海外に売り飛ばそうとしている、某国の侵略拠点だ、などといったことです」そう言ってスマホを取り出した。SNSにアクセスし、普段フォローしている愛国主義的な方々のそういった書き込みを見せようとしたが、残念ながら結界のせいで電波は入っていない。千歌は「あれ? あれ?」とスマホをつっついたがどう仕様もない。仕方なく諦めそれを仕舞うと、「とにかく、ネットではそう言っているのです!」

 私は頭を抱えたくなった。政府の正式発表はもちろんそんな事は言っていない。先に紹介した某与党議員の妄言に過ぎない。それに尾ひれがついて、愛国主義的、国粋主義的な方々によってネット上で拡散されている様子である。

 そして、もともと「ネットで公民と歴史を勉強した」と豪語している妹である。元からある程度偏っているのはいいとして、それにこれが重なった。説得には時間がかかるだろう。

 そこでついにみどりさんがしびれを切らした。こちらに歩み寄り、千歌に話しかける。

「水澤千歌さん、でしたね」散々な言われような組織の重役としては、なんとも物腰柔らかな語りかけであろうか。流石宮様である。「お話の途中ですが、我々は場所を移動せねばなりません。はやく彼の尋問に合流しなくては」

 そこで千歌の顔色が変わった。

「あの方を、あの方をどうするんですか!?」

 みどりさんは一瞬その反応に驚いた。だが、すぐに続ける。「捕虜の尋問、であれば単純ですし安心できます。ですが、彼は軍人ではありません。国際法上は非正規兵です。しかもスパイ容疑もおそらくかけられている。あの検非違使別当のことです、彼が証言を拒むなら、即刻死刑でもおかしくありません」

「死刑!」千歌は卒倒しそうになりよろめく。が、なんとか踏みとどまった。そして怒りを顕にする「やはり極悪非道の逆賊ではないですか、あの方を死刑にするなんて」

「私も彼を死刑にさせるつもりはありません」

 へ? といった顔を千歌はする。

「貴女が彼を庇い立てしようとする理由は知りませんが、私も彼を知る者です。彼の本意を、なぜあのようなことをしていたのか、聞かねばなりません」

「でしたら!」千歌は叫ぶ「助けて下さいまし!」

「もちろんです」

 その時電話の着信音がなった。みどりさんのものである。彼女は懐から携帯電話(もちろん結界除けの護符が貼っている)を取り出すと、うんうんと頷いた。用件はすぐ終わった。

「やはりです」みどりさんは言う「検非違使別当は、彼を取り調べ、そして処遇をすぐにでも決めようとしています。先に脱走された以上、早く刑に処さなければ再び逃げられるという危惧からでしょう。急ぎましょう、彼女はすでに裁判の準備も始めています」

 砂利を踏みながら、彼女は国道脇に止めた車の方に歩き始める。千歌と、私も後を追う。

「待ってください、急ぐのはいいですが、取り調べの場所はどこですか。運転するのはどうせ僕でしょう」

 みどりさんは立ち止まった。そして私を見て言った。

「十二権現です。我々が、初めて彼と戦った、その場所です」


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